セイン クリオス

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セイン クリオス


カラヒラの神に祈るアサシン

ドレルのセイン クリオスは、Mass Effect2でシェパード チームのクルーとなる、非常に高い能力を備えた
アサシンである。彼は、ハナーの惑星カージェで生まれ、両親からアサシンになることを期待されて育ち、
ドレルを救ったハナーのために暗殺者となったセインは、大きな戦いの中に自ら飛び込んでいく。

シェパード チームとしてのセインは、ケプラル症候群で病にありながらも、コレクターとの戦いで見事に
その責任を果たし、連合と評議会からドレルとしての高い評価を受けるが、ケプラル症候群のために
治療生活を送ることになる。

シタデル襲撃事件の時、サラリアン評議員を守る途中でカイレンに刺され、重症を負ってしまう。
その後、再びウェルタ病院で治療を続けるが、シェパード少佐の見舞いも叶わず、セインは息子の
コルヤットに見取られながら、この世を去る。

アサシンとして、また、シェパード少佐の友人として最後の命を使うことができたセインが死ぬ間際に、
気がかりだったのは、シェパード少佐の業についてだった。自分よりも多くの敵を殺した少佐の罪悪感
のためにカラヒラの神に祈り、少しでも少佐の罪の心を軽くさせようとした。

彼は、ハナーの宗教観のために、アモンキラの神(戦いの神)、アラシュの神(母性と保護の女神)、
カラヒラの神(海と死後の世界の神)の3つを信じていたが、110億の同胞を失った哀しみと、最初の妻
への思いから、セインは特にカラヒラの神を強く信じるようになった。

アサシンの仕事は、戦争行為ではなく、暗殺行為で、たとえ任務といえども殺人には変わりない。
そのために、凶悪犯を敵を自らの手で葬り去りながらも、カラヒラの神に祈り、その罪を清めようとする。

肉体と精神の分離の考えは、さらに殺すことの正当性を助長する。例え重大な犯罪を犯した罪人であっても、
憎んでもいない者達を殺すことを正当化するために、その考えを都合のいい理由や言い訳にする。
例え凶悪犯を銃で撃ち殺したとしても、銃が撃ったのであって、自分でないとする主張は、都合がよ過ぎる。
セインは自分で犯罪者を処罰しながらも、アモンキラの神によって罰せられたという考えは飛躍している。
しかし、このような考えをもたなければ、アサシンという職業はおそらく続かない。

セインは、アサシンとして立派な最後を迎えたが、一人の男性としての人生は、決して明るく悔いのない
生き方とは言えなかった。一つは妻の死であり、二つめは息子を長く放置してアサシンにしてしまったこと。
セインは、アサシンとして生きることの辛さを味わい、ドレルとして生きる拠り所を求めた。

そんな彼への救いが、シェパード少佐との出会いであり、息子との和解だった。
女性シェパードの場合、彼女とロマンスになり、彼女のことを「シーハ」と、二人めの妻としてそう呼んだ。
彼の死後、少佐のマンションで追悼式を行った際、別れのメッセージが2階のモニターに映し出される。

セイン クリオスのエピソードは、コミック「ファウンデーション」の12番目として描かれている。
また、ラサことマヤ ブルックスが、運命の時を迎えようとしていた時期とも平行しても描かれている。

今回の、セイン クリオスのエピソードは、コミック「ファウンデーション12、13」に加えて、
Mass Effect 資料にあるイリカーのエピソードと、さらに、Mass Effect 資料のテラ ヴァシールの物語を加え、
さらに、Mass Effect 資料シタデルの物語をすべて追加しての、長編物語です。

風雲急を告げていたサーベラスのラザラス ステーションで、この話は始まる。




運命の日

計画の前

ラサ(マヤ ブルックス)は、ラサと名乗ることは今日限りとしたかった。
これまで、20年間、サーベラスの一員として生きてきたが、本名も使えず、偽りの人生を生きてきた。
今日でそれを終わりにできるはずだ、とそう思っていた。

ラサが脱出計画を進める中、ミランダとジェイコブは、本物のシェパードの回復を待つばかりとなり、
スタッフは全員、シェパードの容態の安定に仕事が集中する。

イルーシヴマンも、シェパードの回復が近いということで、ノルマンディーSR2がいつでも発進できるよう、
パイロットを用意して、ドックに係留して待ち構えていた。既に、これまでに多くの入植者達がコレクターに
よって拉致されていて、シェパードが早く回復して、任務に就いて欲しかった。

ラサの同僚であり、友人でもあったカイレンは、イルーシヴマンのラサに対する不信のために、
彼は少し動揺していた。20年近くも共に働いてきた彼女への思いは、いくら脳にインプラントを埋め込まれて
いるといっても、容易に消せるものではない。

カイレンは、マヤが連合の収容所に助けにこなければ、今の自分はないし、命もなかっただろう。
彼は、マヤに強い絆を感じ、姉や妹のようにも思っていた。

カイレンは、ラサが脱走するかもしれないという予感を感じて、ラザラス ステーションで
彼女にもう1度会おう、そう思って足を運んだ。


最後の仕事

ラサは、朝ベッドで目覚めると、すぐにシャワーを浴びて、朝食を食べ、コンソールを覗いて連絡が来て
いないか確認する。

ラサ「ジェイコブからだ。用心しろか…、でも、今日ばかりは用心してても無駄ね。やるしかないもの」
と、彼女は計画を実行に移す準備を始めた。

ジェイコブとミランダは、シェパードの回復に忙しく、ラサが今日、脱出するつもりとは知らないので、
彼女のことはすっかり失念していた。

ミランダとウィルソンは、スタッフと共にシェパードの容態安定に努めていて、時々、インプラント
と内臓器官の調整がうまくいかず、危ない状態になることもあるが、回復が近いことは間違いなかった。

ウィルソンは、シェパードが回復する頃、彼も自分の計画を実行するつもりでいた。
しかし彼は、ラサの脱走計画のことなど何1つ知らず、シェパードの傍を離れられないために、計画を
実行することはできないが、今日、これから起こるステーションの混乱は彼の責任にされてしまう。


ラサは、ステーションから脱出するために、自分が使うシャトルベイのA1滑走路にコディアックを準備していた。
そこは、リフトエレベータから一番近い位置にあるため、クローン シェパードのタンクを移動しやすい。
エレメントゼロや、宇宙食料など、多くの荷物を既にそこに用意しておいた。また、発進前にこれらを
スタッフに見られても、怪しまれることもない。

後は、監視カメラを別の映像に変えて、LOKIメックを起動させればいい。脱走計画は完璧だ。
シェパードの回復が近い今、脱走する絶好のタイミングは迫りつつあった。

だが、ラサには、サーベラス情報局員としての最後の仕事が残っていた。
特攻任務のクルーのファイル、セイン クリオスの報告書を仕上げること。脱走は、これを仕上げてからでも
遅くはない。

彼女は、これまで多くの特攻任務のファイルを整理してきたが、どのクルーも皆、ラサにとっては
一人一人、愛すべき存在だった。特に、セイン クリオスは、自分の心の壁を破って本音を吐き出させ、
自分のために祈りを捧げてくれた、自分を変えてくれた恩人だとも思っていた。

彼がいなければ、自分の人生を生きようなどと思わなかったかもしれない。そんな彼の報告書を、
これから読み直す。まだ、ドレルやハナーについてよく知らない彼女にとって、それは驚くべき
内容でもあった。




ドレルやハナーの歴史と、アサシンの由来

惑星ラカーナを荒廃させたドレルの滅亡

かつてドレルは、緑豊かな大自然に囲まれて、よりよい文化を発展して発達してきた、爬虫類型の類人猿種族だった。

しかし、CE1400年頃になると、工業化が始まり、山を削って森を伐採し、数々の大自然を破壊し続け、爆発的に増える
人口の前に、これらを止めることができなかった。
そのため、惑星は乾燥した岩と砂漠の広がる荒れ果てた大地が徐々に増え始めていった。

CE2000年頃、惑星ラカーナは荒廃の一途を辿り、110億のドレルを養うことは、もはや不可能になってしまった。
やがて、度重なる地殻変動と異常気象で、食料危機が訪れ、多くのドレル達は、僅かに残った海と小さな島を巡って
対立化し、お互いを滅ぼすための大きな戦争を起こし、殺し合いを始めた。

もはや、惑星ラカーナでは、飢え死にするか、戦って生き延びるか、そんな選択肢しかないような状況にある。

宇宙航行技術を持たなかったドレルは、滅亡の危機に瀕していたが、100年ほど前からハナーと交流を続けていた
一部の賢明なドレル達は、ハナーの故郷、惑星カージェに救難信号を送った。

救難信号を受け取ったハナーは、すぐに輸送船で救援に駆けつけたが、多くの地域で戦闘が続けられていたため、
北極の近くで待機していた、戦闘を行わないドレル達以外は救出することができない。また、その数は何万といる
ために、惑星ラカーナと惑星カージェの遠く離れた距離を、何往復もしなければ、とても運び出せないほどの大人数。

戦火はやがて大陸全土に広がって、救出が不可能になった時点で、輸送船は救出を断念した。
37万5千人のドレルだけが救われ、他の110億近いドレルは、自らが放った炎の中で、命を落としていった。

惑星ラカーナは、大規模な地殻変動を起こすと、大陸は徐々に陥没し、崩壊した都市と共に、文明は姿を消した。


残ったドレルの新たな希望

37万5000人のドレル達は、惑星カージェに避難することができたが、水の惑星に住むことになった彼らは、
今後ハナーと共に生きなければならなくなった。これまで築き上げてきたドレルの文化は失われたが、
ハナーの助けを得て、ドレルは、種族として生き延びるため、新たな未来を模索する。

水生生物のハナーは、地上で広く活動できるドレルに多くの期待をかけ、彼らをハナーの第二市民として迎えて
多くの権利を与え、ハナーを守る強い味方として、様々な役職に就かせることにした。

2186年時点では、ドレルの大半が軍事的な役割にまわされており、ハナー艦隊のクルーや惑星カージェの
自動防衛システムの管理、そして諜報活動や戦闘兵士など、多くにドレルの人員が割かれた。

ハナーの軍事的な役割とはまた別の、特務部隊の1つとして作られたのが、アサシンという役割で、
主に重要な犯罪者や凶悪犯、あるいは、ハナー政府にとって敵対性重要人物の暗殺を目的とした、
単独で行動する暗殺任務の役割が、特殊な訓練によって育成された数少ないドレルに与えられた。

セインの両親は、我が子が生まれた時からアサシンとして育てることを望み、そう教育した。

ハナーは、評議会の立場において、ヴォルスのように、大きな役割を与えられてはいなかった。
そのため、評議会に認められるため、特に、この特殊暗殺部隊の設置が必要となった。

評議員が部隊を送って犯罪者を逮捕させて、種族間の対立を生むよりも、ドレルのアサシンが
秘密裏に対処したほうが、遥かに都合がいい場合も多くある。

シタデル評議会が設立された頃に比べれば、犯罪率は非常に高くなり、評議会を脅かす存在は
多数あった。それらを1つ1つ潰すには、アサシンが最も適している。

2186年までにハナー政府が暗殺を指示した犯罪者は、サラリアン、バタリアン、クローガン、密輸業者の
アサリ、政府に恨みを持つ多くのトゥーリアン、そしてサーベラスなど、多岐に及ぶ。
中には、洗脳されたハナーまでいて、炎の中に飛び込むような、かなり危険な仕事も少なくなかった。

神々への祈り

ハナーには、 エンキンドラー プロセアン から授けられた知識と文化があり、ドレルも受け継いだ。

ドレルは、ハナーの宗教観を受け入れたが、多くの同胞を失った悲しみから、それぞれの神々を素直に
受け入れ、祈った。そうすることで、110億の同胞が救われるかもしれないと思った。
生き残ったドレル達が、その罪を償うことで、ドレルの浮かばれない魂への力となることを祈るのみだった。
ドレル達は、カラヒラの神に祈る。そして、死後に、再び彼らに会えることを祈り、安らぎを得ようとする。

2つの名前

ハナーは、ドレルに「フェイスネーム」と「ソウルネーム」の2つの名前を持たせることにした。
フェイスネームとは、いわば表向きの名前で、ソウルネームは、親しい間柄や密なる人物が使う秘密の名前。

だが、シタデル領域では、ソウルネームを使っていても、腕のいいテックスペシャリストにかかると、
ハナーの通信網がハックされて、すぐに名前が知られてしまうため、必ずしも秘密で匿名性が高いとは言い難く、
相手を欺いたとしても、見破られる可能性がある。

Mass Effect3において、ハナーの母星の防衛システムを破壊しようとしたハナー外交官もいたが、
彼はシェパード少佐とカスミ ゴトウによって阻止された。

発光信号コミュニケーション

ハナーは、ドレルとの会話のやり方を、目を点滅させて話す、発光信号コミュニケーションの
方法を用いたために、ドレルは全員、目にインプラントが埋め込まれている。

そのため、ドレルは全員、暗い赤色は認識できても、青の系統色が認識できない目になった。
赤外線センサーは視認できても、青い光は白い色に見えてしまうが、ドレルはそれでも問題ないという。

ハナーの歴史と文化

約5万年前、惑星カージェでは、他種族の攻撃は受けたものの、リーパーの来襲がなかったために、
カージェ ステーションの多くが無事だった。

当時、まだ水生生物だったハナーは、エンキンドラー プロセアンの保護下にあったために、
ハナーは、戦う力を何も持たなかった。

惑星カージェにいたエンキンドラー プロセアンは、他種族の攻撃から惑星カージェを守った後、
プロセアン帝国軍の窮状を救うため、リーパー艦隊との決戦に向ったために、彼らの大半は壊滅して、
一人も生き残ることができなかった。

プロセアン亡き後、一発でフリゲート艦を撃ち落せるほどの、大型粒子ビーム対艦砲を備えた、
海中要塞ヴォルガも、今では、小さな魚の棲む水族館に成り果ててしまった。
(関連:歴史:プロセアン宇宙開拓時代  ヴォルガ プロセアン

この後、ハナーは進化して水生生物から脱し、他種族と並ぶ種族になるよう、地上で立っていられる
補助装置を開発して地上での活動機会を得ると、星系の外に進出して、ドレルと100年の間交流を持った。

その後、ドレルの救難信号を受け取ったハナーの艦は直ちに彼らを救出し、何年もかかって大勢を惑星に
連れ帰ったが、ドレルが自滅していくのを止める手立てはなかった。

ドレルは、ハナーにとって欠かすことのできない生産力になり、多くの事業にも彼らの技術力が貢献する
ことになる。また、ハナーが銀河系で大半のシェアを誇るアルコールの生産は、ドレルの協力によって、
さらに拡大し、多くの種族が生産する酒類の生産に欠くことのできない存在となった。

また、ハナーはその水生生物としての体のために、産業用ロボットを多く開発することでも知られる。




セインの暗殺任務と科学者イリカー

セイン クリオスは、2146年に惑星カージェに生まれて、僅か6歳の時に、両親からアサシンとなるよう、
勧められて教育を受け、やがてアサシンの特殊訓練を受けるようになる。

ドレルは、人間とは違い、12歳にはもう立派な大人として扱われ、15歳が結婚適齢期といわれる。
決して寿命が短いわけではなく、爬虫類から進化した類人猿種族としては85歳という平均寿命をもつ。

セインは、12歳までには、十分アサシンとして一人前になっており、数少ないアサシン部隊の一人となった。
そして、12歳となったある日、一人の暗殺対象者をセインが仕留め、初めての責任を全うした。

ただ、その時セインは、一瞬の出来事に、暗殺したという実感が沸かず、祈ることもせずにその場を離れたとか。
( しばらく経って気持ちに揺らぎが出たセインは、次からは祈ろうと決め、気を取り直して、再び次の仕事に移る。

アサシンとしてはまだルーキーのセインに、再び暗殺指令が下る。
今回のターゲットは、かなり大物で、戦争犯罪者のサラリアン、フォイルという人物だった。

フォイルは、サラリアン評議会から指名手配を受けていたが、最近再び活動を始め、バタリアンの海賊や
トゥーリアンの傭兵部隊と関係して、ハナーの輸送船を破壊して略奪事件を起こした犯罪者で、
STGがフォイルの居場所を大方特定した結果、潜伏すると見られる惑星に、セインがいたため、彼に
暗殺指令が下された。

フォイルは、STGが捕まえにくるだろうということは、既に予見していた。なので、仲間にSTGの動きを
偵察させ、知らせていたために、STGはまったく動けなかった。
STGは、セインにサラリアンの技術的情報を流して、暗殺の成功を祈った。

フォイルは、仲間と連絡を取り合っている時、セインは彼らの通信を傍受して、彼らの居場所を突き止めた。
彼らの隠れ家は、ハナーの病をを研究するバイオ科学研究所に隣接する、公園の近くの建物にあることが分かった。

そのバイオ科学研究所には、ドレルの若い女性科学者のイリカーがいて、彼女は丁度昼時、仕事の合間に公園に
出かけようとしていた。彼女は、まさかここで、運命の相手に巡り会えるとは思ってもみない。

イリカーの妨害

セインは、公園を上から見下ろせる、近くの高層ビルの一室の窓から、フォイルとその仲間が現れるのを待った。
サラリアンが開発した、彼の強力なスナイパーライフルは、有機生命体なら一発で仕留められるはずである。

女性科学者のイリカーは、公園をのんびり歩く、一人のサラリアンを見つけたが、彼は、何度も顔を左右に
きょろきょろと動かしていたいので、彼女は少し気になった。
彼女は、ハナーの病について研究していたので、いままでサラリアンには特に気にしてこなかったが、
今回は別の意味で気になった。

セインは、公園をゆっくり移動するフォイルを見つけた。だが、近くに人影がある。
あれは、間違いなく女性のドレルだ。頭の形が女性の形をしている。
それに、スコープから見えるその顔は、とても魅力的な美しい顔立ちをしていた。

彼は、ライフルを構えたまま、フォイルに照準を合わせようとするのだが、女性ドイルがサラリアンの方に
近づいて話をするのが見えた。
セインは、その女性ドイルがフォイルから離れるまで待つことにした。

イリカーは、気になるサラリアンに話し掛けた。

イリカー「あの、突然で驚くかもしれませんが、あなたの体の一部を頂けませんか? 研究に使いたいもので」
フォイル「私の体の一部だと? 何の研究に使うんだ?」
イリカー「ハナー特有の病です。まだ病の原因となるウィルスのワクチンができなくて、それでサラリアンの
DNAが役に立つかもしれないと思って。だめでしょうか?」
フォイル「それなら、待っていろ」と、彼は、耳の皮膚組織を上手に切り取って、イリカーに渡した。

セインは、じれったくなって、合わせた照準のまま、フォイルを撃とうかと、引き金に指を乗せた瞬間、
少し銃身がずれた。その時、公園にいたイリカーの目に、わずかに光が見えた。

イリカー「あら?」と、彼女はセインの方向を見ると、それは明らかにライフルだと分かった。
彼女は、きっと目の前のサラリアンが撃たれるに違いないと思い、彼に警告する。

イリカー「あなた、命を狙われていますよ! 違いますか?」
フォイル「な…何だって?」と、うろたえた。
イリカー「私の勤めるバイオ科学研究所が安全です。私についてきてください、早く!」
フォイル「私を狙うって、まさかSTGか?!」
彼は慌ててきょろきょろしていると、イリカーが彼の手を掴んで走り出した。

フォイル「あ、ちょっと、待ってくれ!」と言いつつも、体の軽い彼は、イリカーによって簡単に
運ばれていった。

フォイル「あんた力強いなぁ! 腕が折れる、痛い!」と言いつつ、研究施設へ向おうとする。

セイン「くそ、あのドレルは一体誰だ」と言いながらも、彼は、向う先がハナーの研究施設だと分かると、
高層ビルを降りて、そこへ走り出す。

フォイルの仲間である、トゥーリアンの傭兵スラッドは、待ち合わせの公園にフォイルがいないと気づくと、
彼は、女性ドイルと一緒に走っていくフォイルを見つけて、後を追った。

普段、フォイルがあんなに早く走った姿を見たことがないスラッドは、仕事でもああして速く走ればいいのに、
と密かに思った。

フォイルの暗殺

ハナーの病を研究するバイオ科学研究所。正式な名前は、モリアビデ ノードライム バイオ医療科学研究所という。
ゲートをくぐって入った玄関から、左の通路を真っ直ぐ行って突き当たりの部屋が、イリカーの研究室。

もちろん、ハナー研究所なので、敵を感知すると、自動的にスナイパーライフルで射撃するシステムを備えている。
ここの職員は、皆ドレルで、製薬会社のサラリアンが入ってくることは、年に何度かある。
ある男性のドレル研究員は、フォイルを見ても、イリカーと一緒にいたせいで、製薬会社の者だと思ってしまった。

イリカーは、フォイルを研究室に連れてきて、ソファーに座らせ、LOKIメックに客として接待させた。

LOKIメック「飲み物はいかがですか?」
フォイル「飲み物? そうだな。酒以外ならなんでもいいぞ」と言うと、LOKIメックは彼にソーダ水を手渡した。
彼は、以前に事件を起こしたとき、STGの偵察員が変装したバーテンに、毒の入った酒を飲まされ、酷い目に遭った
ことがある。あれ以来トラウマになっていた。

イリカー「あの、少しお待ちください。私は研究機器を止めてきますので」と、彼女は隣の研究室へ向い、
動かしていた、DNAを分析する研究機器の電源を止めようとしていたが、5分程かかるようだ。

セインは、イリカーの研究室を、通路からこっそり覗いていたが、一人のトゥーリアンが通路を歩いて
こっちにやってくる。彼はアーマーを着ていることから、あれは傭兵に違いない。

セインは、そのトゥーリアンをよく見ると、その人物も、フォイル同様に破壊工作をして事件を起こしていた
フォイルの仲間だと分かると、柱の後ろに隠れていて、彼が通り過ぎると、彼の背後にまわり、彼の首をゴキ!っと
ひねり、さらに背中にピストルで撃って彼を殺す。

研究室にいたフォイルは、通路で物音がしたので、立ち上がってその方向を見ると、いきなり背中に強い
痛みを感じたと思う間に、目の前が真っ暗になっていった。


イリカーとの出会い

セイン「ターゲット、沈黙。任務完了」
彼は、倒れたフォイルの傍で、カラヒラの神に祈り始める。

すると、隣の研究室から女性ドイルが現れて、「きゃあ!」と悲鳴を上げた。

セインは、彼女に近づいて「私はハナー特務部隊のアサシンだ。安心しろ」と言ってみたものの、
女性ドイルは、倒れているフォイルを見て、死んでいるのが分かると、「本当に? でも…この人、
悪い人には見えなかったけど…。」と、まだ信じきれない様子だった。

フォイルは、ニュースで顔が出ていたために、表皮をつけて変装していた。
セイン「これならどうだ?」と、彼は、表皮を剥いで、本当の顔を見せた。

イリカー「まあ! これはあの…ハナーの輸送船を破壊した…。」と驚く。
セイン「ああ、そうだ。やはりニュースで見ていたか。」と、彼はこの女性ドイルがフォイルの顔を知っていた
ことには驚いたかなかったが、この後、この女性ドイルが、もっと深い知識があることを知らされるのである。

イリカーはまだセインのことを疑っていて「アサシンである証明を見せて」と、毅然とした態度。
セインは、アサシンの証明となるカードを見せると、イリカーはそれを手にとってよく見た。
確かに、ハナー特務部隊所属と書いてあるし、ハナー艦隊のロゴもある。

イリカー「こんな証明書なんて、いくらでも偽造できるわ」と言ってそれを返した。

セイン「私は、ハナーのブラスト司令官とは友人だ。そして、彼の好きな酒は…イリカー リグランだ」
と言うと、イリカーは「ふふ…。あはは…あはははは。」と笑った。

セイン「なぜ笑う?」
イリカー「あなた、私の名前を言ったからよ。あはははは。確かに、イリカー リグランって飲み物は
あるけど、あれはお酒じゃないのよ。ハナー用の栄養ドリンクなの。あれは私が作ったの。分かる?」
彼女は、満面に笑みを浮かべて、勝ったような顔をしていた。

セイン「そ…そうだったのか。私は飲んだことがなくて。司令官はいつも上手い上手いと言っているもの
だから、つい酒かと思ってな…。これは恥をかいたな。あはははは」と、彼も笑った。

イリカー「まあ、でも、あなたがハナーの所属だってことはこれで証明されたわ。私の名は、さっき言った、
イリカー。ここでハナーの病を研究している科学者なの。まだ13歳だけど、よろしくね」と、セインと握手した。

セイン「私はセイン、セイン クリオスだ。生まれはカージェの…。」
イリカー「カージェの生まれなの、いいわね、私はこの平凡な惑星なのよ。羨ましいわ。あの惑星の生まれなら、
きっといい地位に就けることは間違いないわね。ま、私には運がなかったといえばそれまでね」

セイン「私は、地位とか名誉には、関心がない。美しい女性にはとても興味はあるがな…。」
彼女は、セインの態度に、とても好感を持つようになった。

セイン「今は仕事中なのか? この遺体を片付けたいのだが」
イリカー「ええ、そうね。私の研究室にこんなものがあったら邪魔だわ。ただ、DNAは役に立ちそうだけど…」
と言いつつ、犯罪者のDNAは欲しくはなかったので、焼却炉に、2つの遺体をリフトエレベータで運んだ。

こうして時間を費やしてしまったために、イリカーは就業時間が過ぎて、研究所を出ないといけない。
セインは、イリカーをお茶に誘って、彼女はそれを歓迎した。

付き合い始める二人

セインとイリカーは、共にハナー クリコールという、ドレルに必要な栄養が豊富に含まれる
フルーツジュースを飲みながら、いろいろな話をした。

イリカーは、ハナーの病について話し、セインは、評議会におけるドレルの立場について話す。
その後、二人の個人的なことを話し始めた。

セイン「あなたは、まだ独身か?」
イリカー「ええ、この頭を見れば分かるでしょ? まだ13歳だけど、もう体は立派な大人よ」
と、彼女は、自分の女性としての魅力をアピールした。

イリカーは、自分の頭はまだ子供を産んでないので若い頭の形だが、子供を産める体にはなったと
言いたかった。子供を産むと、頭の形が変化して、ドレルの男性は既婚者だと分かるのである。
もちろん、今のイリカーの頭の方が、ドレルの男性には魅力的に見える。

セイン「私も、実はまだ14歳で、独身だ。これまで、アサシンを2年していて、忙しく、まだ
誰とも付き合ったことはない。もしよければ…。その…。」
イリカー「私と付き合う?」と言って微笑む。

セイン「あ…ああ。いいかな?」
イリカー「ええ、いいわ。あなた、とってもかっこいいもの。それに、あなたの声はセクシーね。」
と、そう言って笑顔を見せた。
セイン「そう言われると恥ずかしい」と、彼は照れて、目がトロンとなってしまった。

イリカー「あはははは。あなたって正直ね。気に入ったわ。仕事が終わったら、今夜あたしの
家に来て頂戴よ。あたしの手料理を食べさせてあげる。いいでしょ?」と、言ってセインの手を握った。
セイン「ああ、わかった。是非」
彼は、顔がとても緩んでいたが、こんなことは人生で初めてだったので、嬉しくてたまらない。

二人は、夜、イリカーの家で食事をし、セインはそのままイリカーの家に宿泊した。

二人は、お互いに相性がピッタリだと感じていて、心は1つになろうとしていた。
イリカーの頭は、セインのことを求め始めて変化したのを、セインは見逃さない。

ドレルの女性は、恋に落ちると、髪の毛が、フワっと揺れ始める。セインは、とても嬉しかった。
まさか、こんな自分に、こんな美しいドレルの女性が、恋をしてくれるとは思いもよらず。

セインは彼女の気持ちに答え、イリカーと1つのベッドで過ごすのである。
もちろん、ドレルの愛情表現は、まだ初めてことで、二人とも、初々しい初体験を迎えた。



トゥーリアン評議員襲撃事件

2161年に起きたこの一連の襲撃事件は、シタデル評議会に大きな衝撃となった上に、銀河系を脅かす
重大な秘密が関係していたために、極秘扱いとされた重大事件の1つである。

ニュースとしては、襲撃事件のみが報道され、容疑者などの詳しい報道はC-Secによって秘密扱いとされた。

しかし、この襲撃事件を解決した、という報道ニュースがどこの惑星でも流れ、解決したドレルの二人の
名前が銀河系中に知れ渡ったことが、セインとイリカーの運命を大きく変える切っ掛けとなったのである。

(関連:Mass Effect 資料 セイン クリオス、イリカー クリオス)

シタデルでデート

2161年、セインが15歳で、イリカーが14歳の時だった。
二人はもう、いつか結婚をしようと誓い合っていたが、セインは、まだアサシンを続けたかった
ために、イリカーに結婚を延ばしてもらっていた。

そんなある日、お互いに十分時間が取れることになって、シタデルでしばらく休暇を過ごすことになった。
シルバーサンにある高級マンション街で、10日ほどの滞在を予定していたが、二人はいままでにたっぷり
稼いでいたので、この際、少し贅沢をして、買い物でもしよう、ということになった。

セインとイリカーは、シタデルの観光地を見物してまわるが、イリカーは、クローガン記念病院に興味があり
彼女はそこで、クローガンの病について、ドクターと長話をしてしまう。
セインは、惑星ラカーナで発生したケプラル症候群に掛かっていたために、ドクターから治療について、
とやかく言われ、イリカーがもっと居たいと言ったが、すぐにここを出た。

イリカー「ごめんなさいね、ドクターと見たらつい話が長くなっちゃって」
セイン「自分の病気をとやかく言われるのが嫌でね。買い物でもしようか」

セインとイリカーは、新居で必要なものがあれば、と思い、いろいろ買ってしまう。
イリカーは、やはり女性なので、女性用の化粧品を沢山買って、自宅へ送らせる。
セインは、特に、自分が普段使うオムニツールや、装備品をハナーの業者から買った程度だ。

二人は、少し歩き疲れて、コラズデンに足を運んだ。
アサリのダンサーを挟んで、テーブルに座る二人。
二人はここで、お酒を注文して飲みながら、アサリをじっと見つめる。

セインは、アサリの体について、他の種族の男性がこの体を魅力的というのが不思議に思っていた。
ドレルの女性のセックスアピールは、頭と胸にある。胸に関しては、アサリは完全に敗北していた。

セインは、他種族の男性が、アサリを見て嬉しそうにしているのを見ると、理解できなかった。
イリカー「アサリよりも男性のほうがいいの?」と、セインの視線を見てそう言った。

セイン「まさか、あれを見てみろ。男性は皆アサリの体をかじりついて見ている。不思議でならない。」
イリカー「まあ、私の魅力に比べたら、アサリはまだ子供に見えるでしょうけどね…。」と言って笑った。

セイン「ふふ…。ふふふ。まさにその通りだよ。だが、美しいと感じる気持ちは、種族によって大きな
差があるんだと、今初めて分かったよ。」
イリカー「人間から私を見たら、きっと美しいとは見られないのと同じね」
セイン「君は誰から見ても美しいに決まってる」
イリカー「あら、とても嬉しいわ。ありがとう。セイン」

しかし、人間のバーテン男性は、イリカーをじっと見つめていた。人間の目にも美しく見えるようだ。
まあ、ドレル人が二人もここに来る、というのが珍しかったのかもしれない。

アサリの匂いは、トゥーリアン男性やクローガン男性にとっては、魅力的な香りかもしれないが、
ドレルにとっては、花の香り程度にしか匂わなかった。お酒を飲んでも、その匂いはぷんぷん匂ってくる。

セインは、目の前で踊るアサリの胸元に、200クレジットのチップを入れると、彼女は「ありがとう」と言って
受け取った。
イリカーもチップを出そうとしたが、セインは、男性だけが払うものだと言ってやめさせた。

二人は、アサリダンサーの匂いでいっぱいのダンスバーを出ることにした。
イリカー「はあ、外の空気はいいわ」
セイン「ああ、まだ鼻に残ってるよ」

二人は、もう2度とこのコラズデンには来たくないと思った。

二人は、行政区へ向う。

セインは、大使館に立ち寄って、イリカーに、エルコー大使やヴォルス大使に会わせて、
ドレルに対する見解を聞く。

ヴォルス大使は、ドレルはハナーの召使だと表現し、エルコー大使は、ドレルは評議会を
守る大事な守り神だと表現した。

イリカー「まあ、どちらも正しいわね。私も立派なハナーの召使だし」
セイン「ふふ。まあ、私もそうだな」
また二人は笑う。

召使という表現は、確かに皮肉めいた言葉だが、それが真実だった。
ハナーに逆らうドレルは、殆どいなかった。ドレルは、ハナーによって、生活が保証されていたからである。

ヴォルス大使「だが、あんたは魅力的な女性だよ、イリカー。もし私が既婚でないなら、求婚したいところだよ」
イリカー「まあ、嬉しいわね。大使。ヴォルスに繁栄があらんことを」

エルコー大使「驚き。大使が既婚だったとは、驚き」
ヴォルス大使「うるさい。俺が結婚していて何が悪い! お前こそ一生独身でいろ!」
エルコー大使「侮辱、無礼、失礼、馬鹿、聞き捨てならない。我、既婚者」
ヴォルス大使「ウソ言え! この前アサリに迫っていただろ! 俺は見たぞ!」
エルコー大使「異論。事実無根。無実。あれは酒の注文。求愛違う。」
ヴォルス大使「どうだか…。どうせ青い肌の子供が欲しかったクセに…。」

セインとイリカーは、二人の話にクスっと笑っていたが、邪魔になる思って退席することにした。
残念ながら、まだ人間の大使はこの時はおらず、4年後の2165年に、女性のアニタ ゴイル大使が就任する。

セインとイリカーは、最近の情報を聞くためにバーに立ち寄ったが、この時、近くにアサリが座っている
のにセインが気づいて、チラっと彼女を見た。そのアサリも、セインをチラっと見たが、そのまま
それで素通りした二人。

セインは、この女から、とても怪しい匂いを感じとっていた。間違いなく、犯罪に加担しているに違いないと。

ナサーナ ダンティアスは、セインから、ドレルなのに、アサリのジャスティカのような匂いを感じた。
彼女は、まさか24年後にこのドレルに殺されるとは、夢にも思わない。


謎の記号

セインとイリカーは、シタデルの治安に関して話をしているうち、C-Secを覗いてみようということになり、
C-Secに足を運ぼうとした。すると、C-Secのトゥーリアンが慌しく動き回っていることに気づき、何か
重大な事件が起こったと察しがつく。

セイン「何か起こったみたいだな」
イリカー「ええ、匂うわね」
セイン「行ってみるか? それともデートを続ける?」
イリカー「面白そうね、行ってみましょう」
セイン「おい…。事件は面白いものじゃないぞ…。」

イリカーは、先にC-Secに向って歩き出していた。
セインは慌ててついていく。

セインとイリカーは、C-Secの捜査官チェリックに会う。

チェリックは、既にセインと知り合いで、以前に何度か事件を解決したことで、チェリックはセインに
頭が上がらない。チェリックは、まだ新米だったので、捜査官としてはまだまだだった。

セイン「チェリック、どうした? 何事だ?」
チェリック「トゥーリアン評議員が、つい今しがた、何者かに狙われたらしい。評議員は銃で撃たれたが、
軽い怪我で済んでよかった。」

セイン「撃った犯人は?」
チェリック「シタデルタワーにいた評議員を撃ったのはサラリアンだが、目撃者によると、すぐに消えたそうだ。
まるで煙のように。今C-Secが探しているが、どこに逃げたか皆目分からん。」

チェリックは、パッドを見て、唸っていた。
セイン「何を見ているんだ?」
チェリック「襲撃犯が現場に落としたパッドだ。なぜか、評議員のそばにこれが置いてあった。わざと見える所にな」

セインも、イリカーも、わざわざ襲撃犯がパッドを落としていったことが事件の鍵となると、1つ頭に記憶した。

セイン「評議員を狙った襲撃犯なら、再び機会を狙うために、まだシタデルタワーに隠れているのでは?」

チェリック「そうだな。もし手が空いているなら、一緒に調べてみるか?」
彼は、今回は自分で解決したかったが、パッドに書かれている内容が、知らない記号で書かれてあったので、
お手上げだと感じていた。腕利きのアサシン、セインでも、これは分からないだろうと思っていた。

イリカーは、チェリックが見ていたパッドを、いきなり取り上げた。
チェリック「何をする?!」驚いてイリカーを見上げる。

◆パッドの内容

2024-9492-4053-4822


      4197

※数字は、いずれもハナーの記号で書かれてあるので、チェリックには読めない。

イリカー「あら、これって…あらら…。」と、一人でぶつぶつ言っている。
チェリック「君、その記号を知っているのか?」

セインは、イリカーをチェリックに紹介した。
チェリック「君の奥さんかい?」
セイン「まあ、そうだな。近々そうなる。」と言って、イリカーを見て微笑む。

イリカー「あのね、この上にある数字は、きっと座標ね。」
チェリック「何だって? これが数字って、どうして分かったんだ?」

イリカー「この記号は、ハナーやドレルの科学者が使う、ハナーの記号なのよ。あなた知らないの?」

チェリック「ああ、まったく知らない。ハナーが文字を書いているところを見たことがないもんでね。
ハナーはシタデルに何人も滞在しているが。ところで、今言った、その座標の数字を教えてくれるか?」

イリカーは、パッドに、それを訳した数字「2024-9492-4053-4822」を書いて渡した。
チェリック「ありがとう、イリカー。君がいてくれて本当に助かるよ。感謝する。何かお礼を考えるよ」

ハナーは、通常、文字を書いたりしない。握力はとても強いが、ペンは持てるが、書くことができない。
文字を記入する時は、多くの場合、コンソールに対して、点滅信号で行う。手では操作しない。
ハナーのコンソールの使う速度は、銀河系で最も速く、プログラミング技術が非常に優れている。

また、ハナーは水生生物だが、その体の性質のために、電気を通しやすく、コンソールに触れただけで、
コンソールが壊れる場合がある。ハナーは、地上では、立っているために、体に補助装置を付けているが、
それが電通の原因といわれいている。

イリカー「実はね、ハナーの使う記号は、 古代種族ヴォルガ が使っていた文字と同じなのよ。
あまり知られていないけどね。」

古代種族ヴォルガは、遥か以前から惑星カージェに住んでいた種族で、 ヴォルガ プロセアン の祖先でもあり、
エンキンドラー プロセアン の祖先でもある。
ヴォルガは、耳の尖ったエルフ(Dragon Ageに登場する)に似た種族で、約9万年前に昆虫型生物プロセアンと
交配したことで生まれたのが、類人猿種族プロセアンである。
(関連:Mass Effect 資料 エンキンドラー プロセアン、ヴォルガ プロセアン)

チェリックは、イリカーの言った数字を、銀河系座標と照らし合わせて、場所の特定を急ぐ。

イリカーは、パッドの下にある「4197」という文字がとても気になった。
上の4つの数字は、明らかに銀河系座標だと判別できたが、下の4つの数字は、一体…。

セインは、イリカーが科学者だということは承知していたが、ハナーの知識にそれほど詳しいとは知らず、
正直驚いていた。ふと、イリカーを見ると、彼女はペロっと舌を出して微笑む。

チェリックは、イリカーが言った数字を調べてみたが、どうやらバタリアンの領域である、
カイト ネスト(カイトの巣)の範囲内であると分かった。

そして、最後の「4197」が、その惑星の名前を示すものと思えたチェリック。

チェリック「カイト ネストに関しては、シタデル評議会もおそらく情報がないだろう。4197の場所が
どこにあるのか、見当もつかんな」

イリカー「カイト ネスト…。4197…。」彼女も、首をひねって考えるが、カイト ネストには、
そのような番号のついた惑星はない。よって、惑星の名前ではないと考えられる。

セイン「最近、ニュースでよくバタリアンと人間のことを聞くな。確か、人間のコロニーにバタリアンが
入って協力してると、何度も流れている」
イリカー「そうね、でも、中には海賊や奴隷商人のバタリアンがいて、人間を時々誘拐しているそうよ。
コロニーにいるバタリアンは関係ないって言ってるそうだけど」

この2161年当時は、まだバタリアンの大使館は存在していたが、海賊や奴隷商人を、バタリアン政府が容認して
放置していたために、シタデル評議会は、バタリアン政府に対し、強い警告を行っていた。

バタリアンの血には、 古代種族バルドア の血が流れているために、ある種族を拉致する、という行為は本能のような
ものだったが、人間ばかりを拉致するには、大きな理由があった。

チェリックの元に、C-Secの捜査員から通信が入った。
チェリック「何? 今度は人間が襲われただって?! 今すぐ行く!」

セイン「どうした?」
チェリック「さっきのサラリアンが人間を襲ったらしい。人間の男は意識不明のようだが、死んではいない。
セイン、休暇中すなまいが、手を貸してくれ。イリカー、君も。」

セイン「ああ、いいとも。イリカーもいいか?」
イリカー「ええ、いいわ。わくわくしてきちゃった」
チェリック「よし、じゃ、現場はシタデルタワーの中央だ。すぐに行こう」

3人は、急ぎシタデルタワーへ向う。

チェリックは、走りながら、他の捜査員を全員シタデルタワーへと急行するよう指示を出す。
そして、シタデルを出入りするあらゆる港を閉鎖させ、出港を禁じた。


謎のピストル

セインとイリカーは、チェリックについていくと、シタデルタワーの中央付近で、一人の男性の人間が
倒れているのが見える。周囲にC-Secの捜査員がいて、痕跡を調べている。

封鎖ラインの外側には、何事かと大勢の人だかりがあった。
その中には、サラリアンも何人かいて、じっとこの現場を見ていた。
捜査員は、もしかすると、襲撃犯がそのサラリアンの中に混じっているかもしれないと思い、じっと様子を
伺っていた。服は、誰もが一般の服で、傭兵らしきアーマーを着たものはいなかった。

チェリックが、その倒れている人間を見てみると、彼の顔にある傷は、斑点状に赤く腫れ上がっている。
これは明らかに、バタリアンが製造する銃でできる傷に似ている。
このため、襲撃犯にバタリアンも加わっていると推定される。

チェリックは、捜査員に合図すると、急ぎ手当てを始める。まだ息があるようで、おそらく、
毒によるもので、回復にはしばらく時間がかかると思われる。

捜査員がチェリックの傍に来て言った。
捜査員「目撃者の証言によりますと、この人間は、こちらのベンチに座って、パッドを見ていたそうです。
すると、傭兵らしきアーマーを来たサラリアンが、突然彼のパッドを取り上げて、彼の顔を銃で撃ったそうです。」

チェリック「なるほど。分かった」
捜査員はそれ以上言わず、また捜査に戻る。

チェリック「襲撃犯は、サラリアンだと言ったが、使われた銃は明らかにバタリアン製造のピストルに違いない。
あれは、相手を死なせるのではなく、衝撃を与えて数時間眠らせる時だけに使われる銃だ。トゥーリアン評議員
の傷も確認しておくべきだったな。」
彼は、すぐに捜査員に言って、トゥーリアン評議員の傷を確認させるよう命令した。

セインも、イリカーも、この襲撃事件は、どこかおかしいと感じていた。チェリックもそうだが、
評議員や人間を殺さなかったという点と、パッドにわざわざカイト ネストの座標を置いていったこと。
これは、明らかに襲撃犯がバタリアンによる犯行だと思わせようとしているかのようだ。

イリカーは、いまだに「4197」が気になっていた。
セイン「4197も気になるな。この銃と関係がありそうだが…。」
イリカー「銃…。4197…。はて…。」
セインは、4197という数字に心当たりがあったのだが、どうしても思い出せない。
彼は、アサシンをしているせいで、銃についてはとても詳しい。しかし、型番まではすべて記憶している
わけではないので、必死で思い出そうとしていた。

チェリックも4197を気にしていたが、今は、この人間を襲った襲撃犯を探す必要があると判断した。

チェリック「セインは向こう、イリカーは向こう側を調べてみてくれないか。何か証拠を残しているかもしれん」
セイン「了解した」
イリカー「了解、チェリック捜査官」

二人は、シタデルタワー中央の両側を中心に捜索する。二人とも、休暇ではあったが、この捜査が非常に重要に
思えてきて、シタデルで遊ぼうという気分にはなれなかった。

イリカーは、キーパーが仕事をしているのを見ると、キーパーのすぐ背後に立って、じっと観察した。

キーパーを見て、可愛いと思うかどうかは別としても、キーパーは、一体いつからシタデルで仕事をしているのか、
キーパーとは一体どこの種族なのか、イリカーはそれがとても気になって仕方がなかった。

イリカーは、キーパーを見ていると、ふと、キーパーの傍に、銃があるのが見えた。
丁度、色が重なって同化しているように見えたのは、柱ではなく、銃だと分かった。

イリカーは、チェリックとセインを呼んできた。

チェリックが、キーパーの傍にある銃を慎重に取り出すと、「何だ? この銃は。バタリアンの銃にしては、
まったく見覚えがないな」と言って、それをセインに見せた。

すると、セインはそれを手にとってよく見ると、ハッとして気づいた。
セイン「この銃は、エメラルドだ!」
イリカーもハッとした。「エメラルドですって?」彼女も心当たりがあるようだ。
チェリック「何? エメラルドだって? それはどこで作られてる?」

セイン「カイト ネストにある惑星キャマラだ。バタリアンが大多数を占める惑星だが、最近になって
人間が武器製造工場を作り、バタリアンが人間に頼んで、このエメラルドを作らせている。」

チェリック「人間に作らせてる?!」と言って、彼は、さっき倒れていた男性の人間を思い出す。
さっきの男性がこの銃を持っていたのかもしれないし、パッドを奪ったサラリアンがこの銃を置いて
いったのかもしれないし、チェリックはだんだん混乱してきた。

イリカーは、セインに「エメラルドのほかに、型番はついていなかった?」
セイン「それが…M…。M…。思い出せない。」
イリカー「もしかしたら、それって、M-4197じゃないの?」
セイン「おお! それだ! M-4197 エメラルドだ!」

チェリック「何だって?! 4197とは、型番のことだったのか…。しかし…。一体襲撃犯はどこに
属するグループなのか、見当もつかんな。まったく…。他に証拠はないのか…。」

チェリックは、捜査員に「カイト ネストにいるバタリアンの海賊や奴隷商人のグループを急ぎ割り出せ。」
と命じたが、C-Secが分かる範囲は限られている。カイト ネストはシタデル領域ではなく、データベースも
あの星系のことはあまり載っていないからである。

イリカーは、「4197」と「エメラルド」は、他に重要な意味があると、この時点ではっきりと分かった。
だが、これについては、もっと情報を集める必要があると感じて、言わなかった。

セインも、M-4197 エメラルドの銃が惑星キャマラで製造されていて、人間がそれを作っている
ということしか知らなかったので、イリカーがそれ以上の情報をまさか持っているとは予想していなかった。

セインも、日常的にアライアンス ニュースネットワークや、その他のニュースはよく聞いていたのに、
この事件に関しては、アサシンの彼も情報不足。他に詳しい者をつかまえて聞くしかなかった。

チェリックの元に、C-Secの捜査員が現れ、評議員達が会議室で呼んでいると伝えてきた。
チェリックは、すぐに行くと言うと、セインとイリカーに、評議員達に会ってくると言って彼は立ち去った。

C-Secの捜査員は、セインとイリカーに「ご協力感謝します。また事件に関連した証拠や、容疑者を発見
しましたら、是非、通信でお知らせください。緊急の場合は、警報ボタンを押せば、すぐ飛んで参ります」
と言って立ち去った。

セイン「イリカー、この行政区で最も信頼がおける情報ブローカーがいる。この件に関して、彼から何か
教えてもらうことにしよう」
イリカー「分かったわ。彼はどこにいるの?」
セイン「銀行だよ」
イリカー「へ?!」
セイン「行けばわかる。さ、行こう」

イリカーは「銀行って、まさかヴォルスと話すんじゃ…」と、内心驚いていた。

ヴォルスという種族は、シタデル評議会に加盟する際、クレジットの法律を策定して、銀行業務の一切を
任せれた経緯がある。そして、銀行にいるヴォルス、 バルラヴォン は、シタデル評議会も信頼を置く、
ヴォルスで、 シャドウブローカー とのつながりを持つヴォルスでもあった。

もちろん、評議員達は、ヴォルスがシャドウブローカーとつながっていることを知っているが、
情報網として利用するためである。そしてまた、 スペクターのテラ ヴァシール とも知り合いである。


エメラルドの発注者

セインとイリカーは、行政区の銀行に向うと、早速、ヴォルスのバルラヴォンに会う。

バルラヴォン「セイン、以前は世話になった、あの時は礼を言う」
セイン「こちらこそだ、バルラヴォン。元気でやってるか?」
バルラヴォン「クレジットの交換か? それとも情報か?」

セイン「察しがいいな、情報をもらいたい。M-4197 エメラルドという、バタリアン製の銃についてだが…。」
バルラヴォン「ああ、それなら知っている。その銃は、最近設立された傭兵部隊が使っていると聞いた」
セイン「最近設立された? どこの傭兵部隊だ?」
バルラヴォン「言う前に1つ言っておくが、奴らは、最近設立されたと言っても、危険な存在だぞ? バタリアン
の言いなりになるような奴らだからな。もしかすると、深入りして危ない目に遭うかも知れない」

イリカーは、バタリアンと聞いて、やはり思っていたある一団が、襲撃犯であるという確信が強くなってきた。
彼女は、今回のトゥーリアン評議員襲撃事件の全体像が見えていたが、それは途方もないシナリオだったので
まだ黙っていた。この手柄を、できれば、夫となるセインのものにしたかったからである。

セイン「その傭兵部隊は、バタリアンの手先なのか? 分かっているなら教えてくれ」
バルラヴォン「ま、いいだろう。もし命が狙われても、俺のせいじゃない。これだけは言っておく」
セイン「ああ、了解した」

バルラヴォン「その傭兵部隊の本拠地は、実はシャドウブローカーでもつかめていない。だが、俺の仲間が、
奴らの通信を傍受して得られた情報では、近々、バタリアンの海賊が人間のコロニーを襲う計画があって、
今言った銃、M-4197 エメラルドが、大量に製造されて、それがその襲撃に使われるということだ。」

セイン「なるほど…。人間に作らせておいて、人間のコロニーを襲うのか…。他に何かないか?」

バルラヴォン「そこにいる女性はお前の知り合いか?」
イリカー「私はセインの婚約者、イリカーと申します」と言って微笑む。
バルラヴォン「可愛い女性だ。お前にはもったいない。」と、またヴォルス大使のようなことを言う。
セイン「ああ、まったくだな」と言って、二人は笑う。

イリカーは、バルラヴォンに1つ質問をした。
イリカー「あの、すいません。バルラヴォンさん。さっき言った銃の名前についた4197っていう、
数字の意味は何かご存知ですか?」

バルラヴォン「4197は、それは数字じゃないよ。それは製造者か、それを発注した団体の番号に違いない。
俺の仲間が、そう言っていたのを覚えている。名前までは聞いていない。暗号だからな。」

イリカー「それだけ教えてもらえれば十分です。ありがとうございます」と、頭を下げた。
彼女は、自分の推理が正しいことが裏付けられたと分かり、安心した。
襲撃犯は誰なのか、この時点で確定した。

セイン「どうした? イリカー。何か分かったことでもあるのか?」
イリカー「ええ。1つ分かったことが」
バルラヴォン「俺も知りたい。是非教えてくれ」

イリカーは、周囲を見回して、人がいないことを確認した。
バルラヴォン「秘密なのか? いいだろう。センサーは切らせてもらったから大丈夫だ」

セインはイリカーを見て頷いた。

イリカー「私は、ハナーのバイオ科学研究所で働いてるのですが、ハナーの言葉ならすべて分かるのです。
エメラルドの番号、4197は、さっきあなたがおっしゃったように、銃を発注した団体の名前じゃないかと思うんです」

バルラヴォン「ほぉ、それで、その団体名は分かったのか?」
イリカー「ええ、今はっきりしました。でもその名前は、このシタデルでも、街中でニュースで何度も流れていますから。
言えばすぐ分かると思います。DAIG社です」

セインは、その名前を聞いて驚いた。彼が去年、暗殺した戦争犯罪者である、フォイルが関与していた会社の名前でもあった。
フォイルは、そのDAIG社の手先と目されていたが、証拠は1つもなかった。どおりで聞き覚えのある名前だと思った。

バルラヴォン「どうして、銃を発注したのがDAIG社だと分かったのだ?」
イリカー「簡単ですよ。4197は、ハナーの記号で書かれてありましたが、4がDで1がA」
セイン「9がIで」
バルラヴォン「7がGなのか…。」

イリカー「はい、そうです。DAIG社について、私はよく知っています。あなたもご存知なのでは?」
バルラヴォン「ははは。そうだ。君はとても賢いようだな。参ったよ。」と、苦笑い。

セイン「すまないが、私はDAIG社をよく知らないのだ。教えてくれるか」
彼は、フォイルばかりを追っていたせいで、DAIG社について情報を得る機会がなかった。フォイルはカイト ネストには
殆ど行っていなかったからである。

イリカー「DAIG社は、 ディタクール遺跡調査団体 の略なのです。最近ニュースでお馴染みの」
セイン「え? あの団体がDAIG社なのか?! それじゃ、古代遺跡を荒らし回ってるってニュースで話題の、奴らなのか…」

イリカー「ええ、そうです。M-4197 エメラルドという銃を発注したのがDAIG社で、おそらくこの遺跡調査団体も、
きっとカイト ネストにあるに違いありません。そしてそれがブルーサンズに渡って、人間のコロニーを襲わせようと
しているのでしょう。」

バルラヴォン「ああ、確かにDAIG社はカイト ネストあると聞いた。」
セイン「そこまで分かれば十分だ」
バルラヴォン「待て、その傭兵部隊の名前を聞いていかないのか?」
イリカー「ご存知なのですか?」
バルラヴォン「ああ。知ってるとも。ただ、居場所は俺も知らんのだ。こればかりは、評議員に相談するしかないな。
傭兵部隊の名前は、 ブルーサンズ だ」

セイン「ブルーサンズか…。初めて聞く名前だ」
バルラヴォン「当たり前だ。まだまともに仕事をしとらん。1回仕事を請けたが、ザイードとかいうリーダーは、何もせずに
撤退したとか言っていたぞ?」

イリカー「ありがとうございます、バルラヴォンさん。評議員さん達に相談してみます」
バルラヴォン「幸運を祈る、可愛い奥さん」

イリカーは、奥さんといわれて思わず赤面した。(とはいっても、ドレルは顔は赤くはならない)

早速、セインとイリカーは、再びシタデルタワーに戻ることにした。

バルラヴォンは、二人が去ると、すぐにシャドウブローカーのエージェントに連絡を取る。

バルラヴォン「M-4197 エメラルドの発注者が分かった。カイト ネストの惑星キャマラにあるDAIG社で、
奴らはブルーサンズを使って、何か危ないことをやらかそうとしている。テラ ヴァシールに連絡してくれ」

彼は、セインとイリカーが評議員に会う前に、先に戦争の火種を消そうとしたが、
この事件の裏には、もっと大きな影が動いていたことを、バルラヴォンが知り得ることは不可能だった。

襲撃事件の謎を解く

セインとイリカーは、シタデルタワーに戻ると、議場では、評議員達が会議をしている最中だった。

アサリ評議員「では、カイト ネストにいる襲撃犯は一体誰なのですか? バタリアンなのか、サラリアンなのか
それとも人間なのか…。」

チェリック「それは、まだなんとも言えません。現時点では、どのグループにも襲撃犯の可能性があり、目下、
特定を急いでいる最中で…。」と言いかけると、セインとイリカーが見えたので、二人にこちらに来るよう合図した。

チェリック「現在、この件の捜査に協力してもらっている二人が来たのでご紹介します。ハナーの特務部隊の
セイン クリオスと、ハナーのバイオ科学研究所で働いている科学者のイリカー クリオスです」

イリカーは、「イリカー クリオス」と言われて思わず赤面した。
セイン「もう結婚したことにするか?」と、二人で笑った。

アサリ評議員「お二人は、今回の襲撃事件で何か分かったことがありますか? あれば報告をお願いします」

サラリアン評議員「ドレルがここで報告するのは、評議会が設立されて以来、今回が初めてとなりますね」
と言って、議場を笑わせた。

セイン「私からご説明します。今、チェリック捜査官が持っている銃のエメラルドは、現場で発見され、
人間を撃った銃ですが、この銃を発注したのは、惑星キャマラにあるDAIG社です」

チェリック「何? それは本当か!」
トゥーリアン評議員「DAIG社か…。あれもカイト ネストだな…。」
サラリアン評議員「話を続けて」

セイン「その通り、このエメラルドは、DAIG社が発注して、惑星キャマラで、人間の会社で製造されています。
また、エメラルドは、最近設立された傭兵部隊である、ブルーサンズの手に渡っているそうです。そして、
情報によれば、そのブルーサンズは、バタリアンの依頼によって、人間のコロニーを襲撃する計画があるそうです。
これは確かな情報です」

チェリック「ブルーサンズか! 間違いないのだな! だとしたら、これはC-Secの管轄外だ。評議員の手に
委ねるしかない」

アサリ評議員「チェリック、ご苦労様でした。仕事に戻ってよろしい」

チェリックは、セインとイリカーに挨拶して、クレジットOSDカードをセインに渡して去っていった。
彼は、今回の襲撃事件の予算の全てをセインに渡した。

セインは、そのカードに書いてある金額を見て驚いた。「どうしてこんなにも…。」

イリカー「どうしたの?」
セイン「いや、結婚資金が入ったようだ」と言って微笑む。
イリカー「そうなの?」と、彼女も微笑む。

おそらく、セインがアサシンを10年しても、これほどの金額は1度にもらえないだろうという金額。

トゥーリアン評議員「ブルーサンズは、人間の傭兵部隊だ。今回、私を襲ったのはサラリアンだった
はずだが…。ブルーサンズにもサラリアンがいるということか?」

アサリ評議員「私も同じ疑問を抱きました。でもなぜトゥーリアン評議員を襲い、人間も襲ったのか。
それも疑問に思います」

実は、セインも、シタデルの襲撃犯については見当がついていなかった。ブルーサンズは人間の集まりだし、
シタデルに彼らはいない。イリカーが何か知っているに違いないと思い、彼女を見る。

イリカー「あの、1ついいでしょうか。」と、イリカーが手を挙げた。
サラリアン評議員「どうぞ、遠慮なく発言してください」

イリカー「私の推理では、トゥーリアン評議員を襲撃したのは、おそらく偽装だと思います」
アサリ評議員「偽装?」

イリカー「ええ、襲撃犯が本来の襲う相手は、きっと、トゥーリアン評議員ではなく、別の人に違いありません。
それを隠すために、わざと違う人を狙ったのだと思います。評議員を狙えば、必ず大きな騒ぎになる。その隙に、
別の人を襲って逃げる時間を稼ぐ。そして、おそらくブルーサンズに目を向けさせたのも罠。答えはやはり…。」

イリカーがそう言い掛けると、議場に緊急に連絡が入り、スペクターの テラ ヴァシール がここに訪れた。

トゥーリアン評議員「答えは…何だね? ドクター イリカー」
イリカー「答えは、間違いなく惑星ヴェラッシュです。この事件の黒幕がそこにいます。」

テラ ヴァシールが、イリカーの傍に立ち、発言した。「この女性の言う通り、惑星ヴェラッシュが
DAIG社の本拠地でした。彼らは、銀河系中の古代文明遺跡を荒らしまわり、何をしようとしているかを
調べたところ、やはり目的はシタデルへの攻撃でした。」

トゥーリアン評議員「何ってことだ!」
サラリアン評議員「そんな…まさか!」
アサリ評議員「信じられません!」

テラ ヴァシールは、チラっとイリカーを見る。この女性は、なぜヴェラッシュのことが分かったのか、疑問に
思ったからだ。もしかして、彼女はスペクターなのかと思ってしまった。

イリカー「なぜ惑星ヴェラッシュかと言いますと、M-4197 エメラルドのエメラルドとは、この銃がエメラルドを
用いて作られたのであり、エメラルドが大量に採れるのは、あの惑星だけだからです」

セインも、まったく知らない事実に驚いて「え?!」と声を上げた。

テラ ヴァシール「その通りです。DAIG社は、マスアクセラレータ兵器を密かに製造して、
シタデルを攻撃するつもりだったようです。その設計図のコピーをここに持ち出した人間がいましたが、
さきほど襲撃された人間がその男です。間違いありません。その設計図はここにあります。」

テラ ヴァシールは、オムニツールからその設計図を表示させて、シタデルを壊滅させるほどの
兵器であることが判明した。

アサリ評議員「何てことなの…。」
サラリアン評議員「DAIG社は、全員バタリアンなのですか? それとも…。」
トゥーリアン評議員「とんでもない重罪だぞ、これは」

テラ ヴァシール「いえ、それが…。」
イリカー「きっとサラリアンでしょう」言うと、周囲はどよめいた。

テラ ヴァシール「あなた、よく分かったわね。これは驚いた。あたしの報告書を読んだの?」
イリカー「いいえ、DAIG社の名前の意味を知っているからです。ディタクール遺跡調査団体」

アサリ評議員「え?! DAIG社は、ディタクール遺跡調査団体なのですか?」
サラリアン評議員「そういえば…。」
トゥーリアン評議員「ディタクール遺跡調査団体は、最近ニュースを騒がせているが、その意味とは何だね?」

セインは、この時のイリカーが、まるで腕利きのスペクターのように見えて、まぶしく見えた。
彼女の科学者としての分析能力の高さは彼もよく知っていたが、彼はとても驚いていた。

イリカー「この話は、ここでしていいかどうかは分かりませんが、一応お話しておきます」

アサリ評議員は、関係ない人々を、すべて議場から追い出して、ドアを閉鎖した。

テラ ヴァシール「私もディタクール遺跡調査団体について、もっと知りたいわね」
セイン「私もだ」
トゥーリアン評議員「どうぞ、続けて」

イリカー「私は、ハナーのバイオ科学研究所で働いていますが、プロセアンの歴史についても、彼らから
よく聞かされるのです。点滅信号でですが…。」

アサリ評議員「プロセアンですって?」
イリカー「ええ、そうです。プロセアンです。ディタクール遺跡調査団体のディタクールとは、
かつて、リーパーに洗脳されたプロセアンの従属種族だったのです。ご存知ありませんか?」

テラ ヴァシール「いいえ、まったく」
評議員は、3人とも首を横に振る。
セイン「話を続けて」

イリカー「ディタクールは、リーパーに洗脳されていたために、リーパーを銀河系に呼び込んで、
プロセアンを滅亡に追いやったそうです。私の同僚が教えてくれたのですが、サラリアン科学者の
一団が、バイパー ネビュラにあるディタクール遺跡を調査した後、ディタクール遺跡調査団体を設立した
とのことです。」

サラリアン評議員「もしかして、我々サラリアンの科学者達がディタクールの遺跡を調べていて、彼らも
洗脳されてしまったというわけですか?」

イリカー「その通りです。バイパー ネビュラには、リーパーの遺物が複数あることは、既に事実ですから」
テラ ヴァシール「何てことなの…。洗脳は私の専門外だわ…。」

セイン「リーパー…」彼は、リーパーについて、それほど知識がないために、洗脳についてもよく理解できない。
トゥーリアン評議員「となると、サラリアン科学者がリーパーに洗脳されて、シタデルを攻撃しようとしたのかね?」

イリカー「いえ、そうではありません」

アサリ評議員「どいういうことです?」
トゥーリアン評議員「惑星ヴェラッシュは、確かバタリアンの企業の多い惑星だったな?」
テラ ヴァシール「それじゃバタリアンが?」

イリカー「そうです。洗脳されたサラリアン達の団体である、DAIG社にM-4197 エメラルドを依頼させたのは、
きっとバタリアンの過激派に間違いありません。私の知る情報では、あのヴェラッシュには、デュラス一派という
過激派がいて、評議会を恨んでいるそうです。おそらく彼らが、洗脳されたサラリアン科学者を使って、
マスアクセラレータ兵器を作らせ、バタリアンをシタデルから排除しようとする評議会を攻撃しようとしたのだと思います」

セイン「エメラルドは、ブルーサンズを襲撃犯とするために用意されたものだったのか」
イリカーは頷いた。

イリカー「シタデル評議会が、今回の襲撃事件で、エメラルドを発見し、その銃はブルーサンズに渡っていると
知れると、人間を容疑者として疑うでしょう。パッドにあった座標はカイト ネストだったとしても、それは
ブルーサンズがわざとバタリアンだと見せかけるために仕組んだ罠だとも考えられる。つまり、2重の罠だったのです」

これで、謎は全て解けた。だが、バタリアンの本拠地、惑星ヴェラッシュを攻撃するのは、もはや、
評議会の3種族しかいない。

テラ ヴァシール「評議員、私に、惑星ヴェラッシュへの出動命令を!」
トゥーリアン評議員「いや、トゥーリアン艦隊をすぐにでも出動させる。スペクターは無用に願う」
アサリ評議員「ええ、ヴァシールにはご苦労でした。下がってよろしい」

テラ ヴァシール「はい、了解しました。」と言って、議場から去る前に、イリカーの前で小声で何かつぶやく。
「あなた、ドレルのくせに、大したものね。今にスペクター候補になれるわよ、きっと」と言って、皮肉めいた
笑顔を浮かべて立ち去った。

イリカーは、セインに謝った。せっかく手柄を夫に渡したかったが、テラ ヴァシールが来てしまった
ものだから、どうしても先にデュラス一派のことを言う必要があったからだ。

評議員達は、3人で顔を合わせると、話し合って頷いた。

サラリアン評議員「ドクター イリカー、セイン。二人ともご苦労様でした。休暇中のお二人に、襲撃事件の
調査に協力して頂いたことを、真に感謝しております。ドクター イリカー、あなたのその洞察力と知識に
深い感銘を受けました。あなた達二人に、シタデル市民権と居住権を与えると共にシタデル評議会への
オブザーバー資格を与えます。ですが、さきほどあなたが話した、リーパーに関する情報は一切他言無用に願います。
いいですね。」

イリカー「了解しました。くれぐれも他言致しません」
セイン「評議員、感謝します」

セインとイリカーには、さらに報酬として、評議会から500万クレジットを授かり、バルラヴォンがこれを管理した。

シタデル評議会の法律では、リーパーに関する情報を外部に漏らすと、重罪になるからである。
アサリ評議員が、惑星セッシアにあるオラヴォレス遺跡について知った時、この法律を相談して決めた。
リーパーがいつか、銀河系を襲うことは十分、分かっていたことだが、情報が漏れると、それだけ危険が増すのである。
この法律は、リーパーとの紛争が始まる前まで適用された。

アサリ評議員「ではこれにて」
評議員達は、急ぎ、カイト ネストにある惑星ヴェラッシュへの対応を急いだ。

トゥーリアン艦隊と、サラリアン艦隊が合同で向かい、ヴェラッシュのDAIG社の施設を、全て攻撃し、
焼き払った。そにいたバタリアン科学者達や過激派集団も、全滅させ、抵抗できないほど叩きのめした。

それでも、過激派集団を一掃することはできず、デュラス一派の残党は、ヴェラッシュ以外にも存在していた。
セインとイリカーにとって、この過激派集団の存在が、後に暗い影を落とすことになる。

2161年に起きたこのトゥーリアン評議員襲撃事件は、リーパーに関する情報があったために、今後、
DAIG社や、ディタクール遺跡調査団体の報道も一切禁じられた。

惑星カーシャンにあるバタリアン政府は、デュラス一派との関係を一切否定したが、シタデル評議会は
それを信用しなかったために、バタリアン政府は評議会から強い制裁を受けることになった。
バタリアンがクレジットを交換することを禁止され、シタデル領域では取引ができなくなった。


危険なシタデル

セインとイリカーは、シタデル市民となった今、チェリックの紹介で、都心部にあるマンションを借りられる
ことになった。セインは、他の惑星に新居を考えていたのだが、こっちに住んでもいいかもしれない、とも思た。

セインとイリカーは、シタデルで正式に結婚した後、シルバーサンの高級マンションにしばらく滞在したが、
やはりシタデルは危険な街だと改めて気づかされた。

セインとイリカーの乗ったスカイカーが、何者かに襲撃され、大破してしまう。
C-Secに助けられて無事だったものの、襲ったのが、サラリアンの傭兵だったことから、きっと、ヴェラッシュの
DAIG社をつぶされた恨みから襲われたのだろうと思った。

アサシンへの復帰

セインとイリカーは、結局、シタデルを離れることにし、イリカーの研究施設のある街の近くに新居を構えて
暮らすことに決めた。

イリカーは、再びハナーの研究施設に通い始め、研究を続けたが、セインは彼女との子供ができるまでは、
アサシンを休むことにした。

二人は、しばらくここで過ごしながら、子供を設けるのである。
やがてコルヤットが生まれて、しばらくはここで家族3人の時間を過ごす。

セインは、妻のイリカーが、シタデルで見せたあの働きを、とても誇りに思っていた。
そして、いい妻を迎えて、とても幸せだと感じる。彼女のお陰で、多額のクレジットが手に入り、コルヤットの
未来はとても明るいものになるだろう…。そう思っていた。

しかしセインは、3人でいるのはとても幸せだったが、アサシンとしての自分がここにくすぶっていていいのか、
そう思えてくる。

イリカーは、夫のセインに、アサシンに戻ってもいいのよと、そう告げるのだが、セインは、息子のコルヤットの
ことを思うと、常に一緒にいてやりたかった。

もしアサシンを続けるとなると、また銀河系を飛び回らなくてはならない。家に1年以上戻らない可能性だってある。
それを考えると、彼の心は揺れに揺らいだ。

約2年後、セインは、イリカーの勧めによって、アサシンの仕事に戻る決意をする。

2163年、セインはついに、家を留守にして、再びアサシンの仕事を再開するため、惑星カージェへと向う。

この旅立ちが、セインの人生に、大きな暗い影を落とすことになろうとはまったく予期していなかった。



ゴダッド ガガロ傭兵団、連続爆破テロ事件

スキリアン強襲への道のり

2061年、人間の連合は、カロン マスリレイ発見以後、人類の支配領域拡大のために、エクソダスクラスター
の開発に着手し、エデン プライムやテラ ノヴァといったコロニーを建設し、協力を申し出たバタリアン事業家と
共に、数多くの事業を展開していった。

カイト ネストにある惑星キャマラは、バタリアンと人間が多くの事業を展開する惑星として知られていたが、
バタリアンのエダン ハダ博士はその中でも、最も有名な投資家であり、人間のエキソジェニ社に多額の出資をしていた。
惑星キャマラにある工場で働いていた多くは人間だったが、トゥーリアン評議員襲撃事件のために閉鎖された。
つまり、M-4197 エメラルドの製造はこれで終わり、以後、入手不可能になってしまった。元々相手を殺す道具では
ないために、いつか忘れ去られる運命だったのである。

2163年、惑星カーシャンにあるバタリアン政府は、シタデル領域で取引できなくなったため、人間と協力する方針を
打ち出す一方、カイト ネストで活動を続けていたバタリアン過激派集団は、DAIG社が壊滅させられたことを強く恨んで、
海賊や奴隷商人の活動をより活発にし、人間を誘拐して、人間とバタリアンとの共同事業の邪魔をしようと画策した。

これが、世に言うスキリアン強襲の始まりである。

バタリアン過激派集団は、デュラス一派が壊滅したことで、資金のある過激派集団はいなくなったが、それでもなお
多数の小規模な過激派集団が存在していた。いずれも、たいした武器を持たないギャング程度の少人数グループだったが、
インドリス恒星系で再起を図るデュラス一派の残党は、他のテロリストを集めて、ゴダッド ガガロ傭兵団を結成し、
惑星ヴェラッシュに集まって拠点を作り、人間を標的にした新たなテロを画策しようとする。

ゴダッド ガガロ傭兵団は、バタリアンの投資家から資金を集めると、強力な爆弾を大量に買い集めて、連続爆破テロ
を計画した。しかし、傭兵の中には、政府から送られてきたスパイがいたために、シャドウブローカーの知るところとなった。

シャドウブローカーのエージェントは、スペクターのテラ ヴァシールに連絡を取り、テロの情報を流す。
この時、シャドウブローカーに密かな企みがあることを、セインやイリカーには予期し得なかったのである。


テラ ノヴァの連続爆破テロ

2164年、アサシンのセイン クリオスは、意外にも、スペクターのテラ ヴァシールから仕事の依頼を請けた。
それは、ゴダッド ガガロ傭兵団のリーダーを暗殺するという仕事で、事は、そう難しくないように思えた。

テラ ヴァシールは、ゴダッド ガガロ傭兵団が、エクソダスクラスターにある惑星テラ ノヴァで、人間のコロニー
にある多数の工場を爆破するという情報を、シャドウブローカーのエージェントから知らされた。
この時、なぜか、シャドウブローカーは、セイン クリオスを同行させろと、指名してきたのである。

テラ ヴァシールは、なんとなく、シャドウブローカーがセインを欲しがっていると予感していたが、
まさかシャドウブローカーのエージェントにしようと思っていたとは、この時予想していなかった。
今回の連続爆破テロの裏に、そうした隠れた糸が、彼女にも少し見え隠れしていた。

テラ ノヴァは、今回だけでなく、後にバラクにも狙われるほど、バタリアンの標的になりやすいコロニーだ。
しかし、テラ ノヴァにある多くの企業には、バタリアンの投資家も資金を提供しており、人間にとっても、
バタリアン政府にとっても重要な拠点の1つだった。

ゴダッド ガガロ傭兵団は、政府と人間との間にくさびを入れるのが今回の狙いだったが、セインやテラ ヴァシール
にとっては、シタデル評議会を脅かすテロリスト集団を一掃する絶好の機会だった。

だが、ゴダッド ガガロ傭兵団のリーダー、ボイルズ ゴーマンは、外部と通信していた仲間を捕らえて吐かせると、
評議会がスペクター部隊をこちらに向わせていることを知った。また、その情報を誰が流したのが誰かも分かると、
彼は、この機会を逆に利用してやろうと企む。

セインとテラ ヴァシールのスペクター部隊は、ターゲットになっていた人間のコロニーに着くと、すぐに
ゴダッド ガガロ傭兵団が潜伏すると見られるアジトの情報を得る。だが、これはボイルズ ゴーマンが流した
情報で、実は人間の施設だった。

テラ ヴァシールは、スペクター部隊に人間のコロニーを護衛を命じて、セインには、ボイルズ ゴーマンの暗殺を依頼する。

テラ ヴァシール「あなた一人で大丈夫?」
セイン「ああ、俺一人の方がやりやすい。何かあれば連絡する」と、彼はテラ ヴァシールを連れずに、一人で、
ボイルズ ゴーマンがいると見られるアジトへと向う。

セインが向った施設は、人間の居住区画にあり、いるのは人間ばかりだ。

セイン「バタリアンは一人も見当たらない。おかしい…。」と、彼は嫌な予感がしてきた。
彼は、施設の屋上から忍び込み、内部をくまなく捜索したが、いるのは人間ばかりだ。これは誤った情報だと
分かると、すぐにテラ ヴァシールに連絡をいれた。

セイン「ヴァシール、これは罠だ。おそらくボイルズ ゴーマンは既にそっちに向っている。気をつけろ」
と警告したが、テラ ヴァシールが連絡を受けた直後に、コロニーの各地で爆弾が爆発し始めた。

スペクター部隊は、急ぎ人間を避難させるが、大勢の犠牲者が出ていた。
テラ ヴァシールは、急ぎボイルズ ゴーマンの居場所を探ろうとすると、バタリアン政府のスパイの傭兵が
彼女の元に来て、ボイルズ ゴーマンの居場所を教える。

テラ ヴァシールは、セインにその場所をセインに告げると、セインは再び、そこに向って移動を始めた。

テラ ヴァシールは、人間を避難させた後、彼女も後でそこに向かう予定だったが、彼女は、ゴダッド ガガロ傭兵団
の傭兵一人を途中で捕まえて、別の情報を得るのだった。

テラ ヴァシール「え?! それは本当なの?」
傭兵「ああ、確かだ。アサシンをそこにおびき寄せて、奴を捕まえると、ボイルズは言っていた。奴を人質に
して、評議会を脅かすとか…。」

テラ ヴァシールは、セインが危ないと知ると、すぐに現場へと向うが、彼女の前にゴダッド ガガロ傭兵団が
立ちはだかり、邪魔をする。
テラ ヴァシールは、スペクター部隊と共に、この多数の傭兵の相手をしなければならなかった。

セインは、ボイルズ ゴーマンが隠れているという、食料備蓄倉庫に潜入し、彼を探した。

セインは、食料備蓄倉庫のコンテナの上に立っていたボイルズ ゴーマンを見つけた。
彼は、スナイパーライフルを持っていなかったので、彼の傍に駆け寄って、頭に銃を突きつけた。

ボイルズ ゴーマン「おや、セイン クリオス。自ら私の元に来てくれるとはな。嬉しい限りだよ」
セイン「なぜ嬉しい。もうすぐここで死ぬというのに」彼は、引き金を引こうとしたが、突然、コンテナの蓋が
開いて、彼は中に落ちてしまった。

すぐにコンテナの蓋は閉じられ、セインは閉じ込められた。
セインは、まんまと罠にはまったことを不覚に思ったが、コンテナの蓋の開け方を、セインは知らないわけがない。
多少時間はかかっても、開けられるはずだった。しかし、セインの予想とは違い、コンテナは特殊な暗号によって
鍵がかけられていた上に、コンテナはボイルズによって、輸送船に乗せられてどこかへ行こうとしていた。

テラ ヴァシールは、セインが向った食料備蓄倉庫に着くと、スペクター部隊と共に彼を探すが、
もはや誰もいない。彼女は、セインに連絡を取ろうとしたが、なぜか通信がつながらない。
セインもヴァシールに助けを呼ぼうとしたが、同じくつながらない。

ボイルズは、傭兵の殆どをテラ ヴァシールの相手に向わせたために、自分一人で操縦しなければならなかった。
セインはコンテナの中にいて、酸素が薄くなってきた。絶体絶命のピンチ。しかし、ボイルズはヘマをやらかした。
彼は操縦経験が殆どない。

目的地は彼のアジトで合っていたが、輸送船のコース設定を、惑星の反対側に設定してしまったために、そのまま
地面に向って進み始める。ボイルズは慌ててシャトルに乗り込んでし、セインを置いて一人で逃げた。

テラ ヴァシールとスペクター部隊は、すぐに輸送船に乗り込んで、セインを救出したが、ボイルズ ゴーマンは
いなかった。

テラ ヴァシール「セイン、大丈夫? やっぱりあなた一人で行かせた私がいけなかったわね」
セイン「いや、俺の不手際だ。しかし、ボイルズは必ず俺の手でなんとかする。」と、彼は、オムニツールを
開くと、ボイルズのシャトルの位置が確認できた。

テラ ヴァシール「さっすが、セイン。やるわね。評議会のアサシンにしとくのはもったいないくらいよ」
と、彼を褒めたつもりだったが、セインは無表情だった。

セイン「ヴァシール、お前が送ってきた情報は一体誰からの情報だ? これはおそらく、わざと漏らした情報だ」
テラ ヴァシール「たしか、バタリアン政府のスパイだと彼は…。」と言って、ハッとした。

彼女は、シャドウブローカーの差し金があったことを予感した。この連続爆破テロの情報も、彼からだ。
政府のスパイというのも、あれはウソなのか。シャドウブローカーの者だとしたら…。
これは、セイン クリオスを捕まえるための企みだと今頃気づいた。

正確には、シャドウブローカーのエージェントが、政府のスパイを買収した、というのが真実だったが、
テラ ヴァシールが考えているうちに、セインはすぐにシャトルでボイルズ ゴーマンを追跡していった。

ボイルズ ゴーマンは、追跡されていないと分かると、テラ ノヴァにある自分の隠れ家に舞い戻り、
シャトルを着陸させようとした。

シャトルが着陸して、ドアを開けると、目の前には銃口があった。
銃声がして、ボイルズは腕と足に大きな痛みを感じる。

ボイルズ「セイン! くそ…。どうやって逃げ出したんだ!」
セイン「稚拙な罠だったな。ところで、死ぬ前に1つ聞くが、お前に俺の情報を流したのは誰だ?」
ボイルズ「シ…。シャドウ…。なんたらだ。」
セイン「シャドウブローカーか なるほど、分かった。さらばだ、ボイルズ」と言うと、ボイルズの心臓に向けて
一発撃つと、彼は2度と目を覚まさなくなった。

セインは、カラヒラの神に祈ると、スペクター部隊が護衛していた人間のコロニーへと戻る。

人間のコロニーでは、まだ爆弾の後片付けが、大勢の人間達によって行われていた。
爆弾の爆発で、600人あまりが犠牲になったが、50万人のコロニーの人間を救うことができた。

テラ ヴァシール「今回は、私があたなに迷惑を掛けたようで…。」
セイン「何、これも評議会の大事な任務だ。お前のせいじゃない。ただ、俺が少し鈍かっただけだ」と、彼は彼女を許した。

テラ ヴァシールは、イリカーが羨ましかった。ヴァシールはセインが好きだったので、セインをイリカーの元に
帰すのかと思うと、少し残念に思えてきた。

セイン「では、俺は評議会に報告に行く。」
テラ ヴァシール「あ、私も一緒にいくわ。シタデルまで一緒に行きましょう」

セイン「分かった。スペクターには従おう」と、彼は微笑んだ。
テラ ヴァシールは、彼が微笑むのを見て驚く。普段はあんなにポーカーフェイスなのに。そこが好きなんだけど、と、
彼女は少し嬉しくなって、スペクター部隊と共にシタデルへと帰還した。

シタデル評議会は、セインとテラ ヴァシールの報告を聞いて、ますますバタリアンへの制裁を強めることになり、
シタデル大使館は閉鎖され、シタデル評議会はバタリアン政府との関わりを一切絶つと発表した。



セインの悲しみ

アサシンへの芽生え

セインは、2165年から5年間、アサシンを続けながらも、なんとか時々コルヤットの面倒を見ようとしていたが、
2、3ヶ月家を出ては仕事に向かい、またしばらく家にいたと思えば、また2、3ヶ月仕事に行っていない日々が続いた。

コルヤットは、昼間はドレルの学校に通い、夜は母親のイリカーと一緒にいることが多かったが、父親が何をしているのか
どうしても気になった彼は、ある日、母親が見ていたコンソールを操作して、父親の行動記録を図らずも見てしまい、
びっくりする。

父親が家にいない理由がようやく分かったコルヤットは、4歳の頃から、父親がしているアサシンについて学ぶようになった。
息子が父親の仕事を知っていると気づいたイリカーは、父親は銀河系の平和のために戦っているんだと言って息子を説得する。

この時はまだ、コルヤットはハナーの宗教観を学んでいた途中で、アサシンという職業については、まだ理解が及ばなかった。
精神と肉体の分離、エンキンドラーと神々、死後の世界と魂など、彼は、アサシンという仕事がただの暗殺任務ではないことを知り、
イリカーに、いずれ大きくなったらアサシンになると告げる。


シャドウブローカーの勧誘を断る

シャドウブローカーは、1年前にセインの捕獲に失敗したものの、その機会を狙っていた。しかし、シャドウブローカーに思わぬ
敵が現れたために、セインの勧誘は延期されてしまう。サーベラスが、シャドウブローカーの部下を捕獲し、これを利用しようと
したため、シャドウブローカーもサーベラスのエージェントを捕まえて利用しようとした。こうした駆け引きが何年も続くことになる。

2170年、シタデルにいたセインは、バルラヴォンを通じて、シャドウブローカーからエージェントになってみないかと勧誘されたが、
彼はその誘いを断り、シャドウブローカーの怒りを買ってしまう。

結局、これがセインの残りの人生に、大きな哀しみをもたらすことにつながる。


妻と息子

2171年

セインは、コルヤットが10歳になることから、イリカーと相談すると、外の世界を勉強させるために、
シタデルに住まわせてみようかと考えた。そこで、コルヤットを連れて、C-Secで彼に学ばせようとした。
しかし、コルヤットはC-Secよりも、アサシンになりたいと言い出したことに、セインは驚きを隠せない。

セイン「イリカー、お前はコルヤットが知っていることを隠していたのか?」
イリカー「ええ、ごめんなさい。もうだいぶ前から、一人で学んでいたみたいなのよ」

セイン「アサシンになることは、私は認めない。イリカー、ハナーの研究室にコルヤットを連れて行き、
科学者になるよう勧めてくれないか」
イリカー「ええ、そうするわ。科学者なら、あなたみたいに体に銃弾を何発も浴びて、家に帰ってくるような
ことはないものね」

セイン「ああ、すまない。いつもお前には心配をかけるが、これもアサシンの業だ。許してくれ。」
イリカー「いいのよ、あなたが無事でいてくれれば。私はコルヤットをしっかり面倒見るから」

セイン「実は、イリカー。また明日からしばらく出掛ける。また長くなりそうだ。」
イリカー「また? つい10日前に戻ったばかりじゃないの。もっと長い間休みなさいよ。たまには私とも
一緒に旅行してくれてもいいと思うんだけどな」

セイン「ああ、じゃ、次に家に戻ったら、3人でどこか旅をしよう。イリウムがいいかな?」
イリカー「いいわね。イリウム大好きよ。あと、セッシアにも行ってみたい。あそこには、重要な
オラヴォレスの遺跡があるってハナーから教えてもらったんだもの」

セイン「おい、また極秘情報を仕入れてきたのか? 危ないことには手を出すなって何度も…。」
イリカー「私達はアサリ評議員から、いつでもセッシア遊びに来ていいって言われてるじゃないの。
それに、アサリの美女がいっぱいいるって噂だし、ね?」
セイン「そうだな、分かった。イリウムにも、セッシアにも、今度戻ったら行こう。約束だ」

セインは、この翌日、イリカーとコルヤットと別れると、再び危険な仕事へと旅立つ。

2160年代から続くスキリアン強襲は、いまだ治まらない。
人間のコロニーが次々と攻撃されている今、セインは、評議会から、バタリアンの海賊や奴隷商人を
動かすリーダーの排除を要請され、銀河系各地に向わなければならなかった。

シャドウブローカーの勧誘を断ったセインに、大きな闇が迫ろうとしていることを、セインも、イリカーも、
コルヤットも予期することはできなかった。

シャドウブローカーと通じているテラ ヴァシールさえも、セインが罠にかかるとは予想しないことだった。


妻を失う

2171年、初頭。

2160年代から続くスキリアン強襲は、なおも激化し、多くの人間達を拉致して連れ去り、奴隷にしていた。
バタリアンの海賊達は、人間を奴隷とすることで、人間への憎しみを晴らそうとしていた。

コロニー出身のシェパード少佐は、2170年にアティカン トラヴァースで、奴隷商人の襲撃を受けたが、連合によって
救助される。また、サブジェクト ゼロのジャックは、自ら奴隷商人に乗り込むが、彼女は奴隷商人のリーダーと
親密な関係になると、その後奴隷船を乗っ取って、逆にギャングになってしまった。

そんな中、セインはバタリアンの横暴を止めるべく、バタリアン傭兵団と奴隷商人のアジトを強襲して、これらを壊滅させ、
奴隷となった人間達を大勢解放した。

シャドウブローカーは、セインがエージェントになると言わせる為に、セインの家族に関する情報を
エクストラネットワークに流した。セインの妻と子供がどこに住んでいるか、情報が外部に知れ渡る。

スペクターのテラ ヴァシールは、評議会の命令によって、バタリアンの傭兵に支援物資を送る供給ルートを攻撃して、
かなりの成果を上げていたが、彼女は、スペクター部隊の部下から、セインの情報が流れていると聞き、彼に連絡する。

セインは、イリカーとコルヤットのことが心配になり、急ぎ、自宅へとシャトルを飛ばす。
彼は、自宅にいたコルヤットに説明して、叔父と叔母の元にしばらく滞在しなければならないと説得し、連れて出る。

さらにセインは、叔父と叔母の家を厳重に護衛するよう、連合のサンダース少尉に依頼する。
サンダース少尉は、シタデル評議会のアサシンのためなら、と意気込んで、20人あまりの部隊を連れて、
厳重に家の周辺を固めた。ここに重要な人物がいると知らせるようなものだったが、仕方がない。

セインは、急いでイリカーのバイオ科学研究所へ向い、無事を確認しようとしたが、彼女は自宅へ帰宅した後だった。
とても嫌な予感がしたセインは、急ぎ自宅へと戻る。

セインは、家の前に着いた時、既に家に何かあったと感じる。
彼は、家の玄関に向ってゆっくり歩き、玄関のドアを開けようとした。だが、ドアは何かに引っかかって開きそうにない。

セインは足元を見ると、腕が見えていた。彼は、それが妻の体だとすぐに分かると、急いで彼女の体を引き寄せて、
抱きかかえたが、既にイリカーは、息絶えていた。

復讐の始まり

セインは、イリカーの死に、強い哀しみと怒りを覚える。

セインは、妻のために、カラヒラの神へ祈ろうとしたが、とても平静でいる気分にはなれず、彼女を置いたまま、
すぐにバタリアンの傭兵団のアジトへと向かい、一人一人暗殺していった。

セインは、イリカーを殺したバタリアンが誰かを探すというよりは、もはやバタリアン全員が彼の怒りの対象となって
彼に殺されるといった状況になった。

セインの家を訪れたテラ ヴァシールは、イリカーが死んでいるのを発見すると、彼女の遺体を収容して、
シタデルにある共同墓地に移送した。

以前、イリカーに手柄を持っていかれたテラ ヴァシールだったが、イリカーのようなエージェントがいれば
きっと彼女といい仕事ができたのに、と彼女の死を悼んでいた。

セインは、バタリアンの傭兵団を暗殺していくうち、彼らが残した通信記録を見た。

セインの妻、イリカーは自宅に戻ろうとしている。狙うのは今だ。

受信者 スティーブ ケイ

これを見たセインは、スティーブ ケイを追って、彼の足取りを辿り、シタデル、イリウム、オメガと、
彼を探してまわった。

セインは、どうしてもスティーブ ケイの情報が欲しくて、アリア ティロークの元を訪れた。

アリア「私に一体何のようだ? 評議会お抱えのアサシンよ」と、彼をこう呼んだ。
セイン「私は、ハナー艦隊の特務部隊のアサシンに過ぎない。実は、スティーブ ケイという男を捜している。
もし心当たりがあれば教えてもらいたい」

すると、隣にいたバタリアンの男が、顔をピクっとしたのを、セインは見逃さなかった。
アリアは、彼を見ると、目で合図する。

そのバタリアンは、どこかへ行って、また戻ってきて、アリアにパッドを渡した。
アリア「セイン、お前は、シャドウブローカーからとても買われているようだな。だが、彼らに歯向かった
お前に非があるとは思わないか? 私がお前なら、決して逆らわないがな」と言って微笑する。

セインは、黙ったまま動かない。
アリア「悔しいのは分かるが、これを見ろ。スティーブ ケイの居場所が書いてある。随分近い所に、
奴は隠れているじゃないか。」と言って、また部下のバタリアンに目くばせする。

セインが見ていたパッドには、スティーブ ケイの居場所が書かれてあり、オメガの下層にある居住区域
のエリアにそのポイントがあるが、オメガに詳しくないセインには、これではとても分かりずらかった。

アリアは部下に目配せして「お前がセインを案内してやれ」と言って、そのバタリアンに、スティーブ ケイ
がいる区画まで案内させた。


スティーブ ケイを追跡する長い旅

セインは、タロンの領域近くの下層区域で、スティーブ ケイを発見した。

ここで鼠をみすみす逃す手はないと思ったが、こういう時、普段なら、冷静に出口を塞いで、確実に
ターゲットを暗殺できたはずだ。しかし、ケイは、仲間のタロンの兵士を周囲に配置しており、
酒を飲んで、カードをやっていた彼を、セインは逃してしまう。

ケイは、タロンの兵士に護衛されながら、タクシーで別の区画に移動する。
セインも、アリアの部下と共に追跡するが、巻かれてしまって、見失ってしまう。

セインは、アリアの部下に礼を言って別れ、彼一人でスティーブ ケイを追跡する、長い長い旅が始まる
のである。

スティーブ ケイがオメガに滞在する間、セインはじっと機会を伺っていた。
ケイは、セインが追っていると気づいていなかったのに、のらりくらりと、居場所を変えて、セインの
目をくらますように移動を続けた。

セインは、妻を殺したケイを殺すことは、今までで最も難しい仕事となった。

オメガで追跡すること2年。シタデルでも1年。イリウムで2年かかって、やっとスティーブ ケイを
発見したが、この時ばかりは、彼も逃げ場はなかった。

ケイは、バリアフロンティアとの取引で失敗し、大損した。そこで、騙したアサリを殴ってしまったのである。
彼は、イリウム警察に捕まって拘留室に入れられた。

セインは、評議会のアサシンの特権によって、イリウム警察の拘留所に入ることができた。
そこで、セインはスティーブ ケイに面会し、いろいろと事情を聞くことにした。

セイン「私が誰か、お前には分かるか?」
ケイ「確か…。取引相手のドレルだったか? いや…シルタ財団の窓口に居た係員だったような…。」
と、彼はまったくセインを覚えていないようだ。

セイン「私を知らないなら、なぜ5年間も各地を転々と逃げ回っていたのだ?」
ケイ「逃げ回ってなどいない。私は、ちゃんと傭兵としての仕事をした上で、遊んでいただけだ。」
と、セインには言い訳に聞こえるが、ウソではないと、顔を見て分かった。

セインは、カラヒラの神に祈り始める。
ケイは、彼の祈りをしばらく聞いていたが、眠くなったのか、欠伸をする。

セイン「少し待っていろ」と言い、イリウム警察のアサリに、一言つぶやくと、彼女驚いたが、
それでも納得して、ケイとセインを、1つの独房に入れた。

ケイは、なぜセインと一緒に独房に入れられたのか不思議に思っていたが、すぐに分かる。
セイン「私の妻は、お前によって殺された。何の罪もない彼女は、お前に殺される理由は1つもない」
と、静かに話す。

ケイ「そ…。そそそそんな…。仕事にいちいち罪も積み木もあったものか!」と騒ぎたてる。
セイン「積み木? そうだな…。私の罪も、積み木のように1つ1つ積み重なって、今では大海の
海の如くだ。ここでもう1つ罪が増えても、さして変わらない」

ケイ「か…。かか看守! ここを出してくれ! 看守!」と、彼は叫ぶ、イリウム警察のアサリは
黙ってそれをじっと見ていた。

セインは、彼の頭を掴むと、口を開けさせ、持っていた毒薬を1つ、ポイっと放り込んだ。
そして再び祈り始める。

ケイ「な…。なな何だ今のは…。」
彼は、2、3分は平静でいられたが、次第に苦しみだして、口から泡を吹き出し、やがて、
床に転がってのたうち回りながら、静かに動かなくなった。

セインは、イリウム警察のアサリに礼を言って拘留所を出ると、彼は少し放心状態のまま歩いていた。

イリウムの美しい夕日を見ていると、あの、自分の自宅から見える夕日にそっくりだ。
ふと、突然、息子のことが心配になってきた。

セイン「コルヤット…。」
彼は、5年間、息子のことをすっかり忘れていた。哀しみが、そうさせたのかもしれない。
彼は、急いでコルヤットのいる叔父と叔母の家に向う。

新たな決意

2176年の暮れ。
セインは、叔父と叔母の家に着くと、コルヤットに会おうとした。
しかし、コルヤットは家におらず、とっくの昔にアサシンになるため、ここを出たという。

セインは、ハナーの特務部隊を訓練する施設へと向う。
10年前に設立された、アサシン養成アカデミーでは、コルヤットは既に卒業してアサシンとなっていて、
ここにはもういなかった。

セインは、コルヤットをあちこち探し回ったが、どうしても彼を見つけられない。
彼は、5年ぶりに自宅に帰ると、コルヤットが幼い頃使っていた部屋に入り、昔のことを思い出していた。

セイン「コルヤット…。今どこにいるんだ」
コルヤットが大事にしていた縫いぐるみを抱えて、それを持ったままリビングに座り込む。

セイン「すべて…。俺がアサシンになったことがいけないのだな…。許してくれ、コルヤット」
と、彼は涙を流して、許しを請う。

すると、心に声が聞こえてくる。

イリカー「セイン、コルヤットは大丈夫よ、大丈夫。彼は自分の道を歩むわ。だから、あなたは
あなたの道を歩んで。私は、いつもあなたを見ているから、ね。あなたを必要としている人達が
大勢いるの。早く行ってあげて。」

セイン「イリカー!」
彼は、海辺の方から声が聞こえてきたと思い、窓際に駆け寄って、窓を開けて外を見た。
すると、目の前の海辺に、突然映像が見え始めた。

見たことのない連合の人間と他種族の兵士、人を拉致するコレクターに、そして巨大なリーパー。
そこには、自分も映っていて、戦っている映像がはっきりと見えた。
彼は、これから自分が為さねばならない仕事が、そこにあるとはっきり見えた。

セインは、ハっと吾に帰ると、アサシンとして、再び敵と戦う決心を固め、再び家を出て行った。

彼は、この日以降、ハナーの特務部隊を離れて、フリーのアサシンとして活動を始めることにした。
そして、まだ見ぬ成長したコルヤットに会えることを願って、銀河系の闇と戦う日々が始まるのである。



ここからはラザラス ステーション。
2185年。



マヤ ブルックスの脱走

マヤとしての出発

ラサは、脱走計画も忘れるほど、長い間セイン クリオスの報告書を読んだり直したりしていたが、
セインの人生にあまりに没頭し過ぎて、今日は一体何をする日だったか忘れてしまうほどだった。

ラサ「シェパードがこれを読んだら、セインにすごく同情するわね、きっと」と、言いつつ、
セイン クリオスのファイルをOSDに入れて、コンソールを閉じた。

もう、このコンソールには用事がないので、データは全て処分済みだった。
彼女は、いちいち消すのが面倒なので、データノードごと消去して、空っぽにして、新品同様にした。

ラサ「これでよし。今日でこの部屋ともおさらばね」

ラサは、20年間使ってきた自室を見回し、シャワールームでジェイコブと抱き合った日々を思い出す。
ジェイコブに「ラサ」と言われることはもうないだろう。

ラサは「私は、今からマヤ ブルックスよ。マヤ、今日はぬからないで、しっかりやってね」と、鏡に映った
自分にそう言った。

マヤは、この部屋を出る前に、窓の外を見た。
窓の外には、巨大な恒星が見える。いつもあれを見ながら生きてきたが、今日であれも見納めだ。
赤く燃えるあの恒星のように、自分も再び燃えるような人生が始まると期待して、ドアを開けて、自室を出た。


クローン シェパードのタンク

ラザラス ステーションでは、シェパードの回復のために、スタッフは皆そっちに集中していた。

クローン シェパードのことを気にするスタッフはもはや誰も居ない。
イルーシヴマンさえも、万が一の予備の身体として作ったクローンのことも、すっかり忘れて、
シェパードを迎える準備に忙しかった。

マヤは、平常を装っていたが、緊張しつつ、クローン シェパードの研究室に足を運ぶ。
監視カメラが彼女を捉えたが、警備員はなんとも思わず見過ごした。

研究室の中の、クローン シェパードのラボに入るマヤ。

マヤは、クローン シェパードのタンクのロックを解除して、ステーシスが続いていることを確認する。
マヤ「状態は良好。電力は問題なし。あ、でも、電源をつないでないと48時間以内に切れちゃうんだ。」

コディアックにある電源で、なんとか持たせることにしたマヤは、クローン シェパードのタンクを搬送用
コンテナに移して、リフトエレベータに移動させる。

マヤ「これでよし」
あとは、リフトエレベータから、自動的に上層にあるシャトルベイまで移動して、貨物として置かれる。
ここまでくれば、あとはトラクターでタンクをコディアックに載せるだけでいい。

マヤは、研究施設から出ると、今度は監視カメラを細工するために、警備ターミナル向う。

カイレンとの別れ

警備ターミナルに向う途中、通路を曲がったところで、マヤは、いきなりカイレンに会った。

彼女は当然驚いたが、顔には出さず、「カイレン、久しぶりね、こんなところで会うなんて」
と、少し微笑しながら言った。

カイレンは、いつもの調子でぶっきらぼうだったが、彼女の様子がいつもの同じなのを見て、少し安心した。
カイレンは、人に同情することは滅多にないが、ラサには特別だった。

カイレン「ラサ…。どこへ行こうとしているんだ?」と聞いた。
マヤ「ミランダのところよ。どうしてそんなこと聞くの?」

カイレン「ラサ、お前がサーベラスを抜けるという噂を耳にしたからだ。違うか?」
マヤ「えっと…。誰から聞いたの? 確かに20年もいれば、抜ける日も来るかもしれないけどね」
と、さらっと誤魔化した。

カイレン「ラサ、イルーシヴマンは、裏切った者を容赦しない。いくらお前でもな。イルーシヴマンは
以前はお前を高く買っていたが、今のお前には価値がないと言っていたのを、耳に挟んだんだ」

マヤ「私を心配してくれてるの? だったら嬉しいけど、もしかして私を殺そうと?」
と、少し怯えた表情を見せた。

カイレンは、無表情のままマヤを見つめて言った。「ラサ、お前には、多くの恩がある。20年前は、
俺を収容施設から出してくれたし、命を何度も救ってくれた。今日は、その1つでも返させてくれ。」

マヤ「カイレン…。」マヤは、カイレンがそんなことを言う人間だとは思ってもいなかったので、
1つお願いをすることにした。

マヤ「それじゃ、お言葉に甘えて…。実は、シャトルベイにあるコディアック、一番左のA1のとこ。
そこに貨物がいっぱい置いてあるの。それをコディアックに移しておいてくれないかしら?」

カイレン「そんなことか、いいだろう。やっておく。他にはないか?」
マヤ「ええ、それだけしてくれれば、後はあたしがなんとかやるわ。ありがとう、カイレン」

カイレン「ラサ、くれぐれも気をつけろ。死ぬんじゃないぞ。いいな」と、彼はマヤの肩に手を乗せて、
マヤとの最後の別れを告げた。

カイレンは、無表情のまま、シャトルベイへと向っていった。
マヤは、彼の最後の姿を目に焼き付ける。

マヤ「ありがとう、カイレン…。」

マヤは、カイレンの後姿を見送った後、ミランダの部屋に立ち寄って、セインのOSDを机の上に置いた。

マヤ「これで、特攻任務のファイルは全て完了!」
そしてため息をついて思った。このファイルを作るのに、どれだけ長い時間がかかったかと。
これを、本物のシェパード少佐が上手く使ってくれることを祈るばかりだった。

マヤはミランダの部屋を出ると、次は警備ターミナルへと向う。


混乱するラザラス ステーション

ミランダとウィルソンは、もう間もなく回復するであろう、シェパードの様子を見守っていた。
ジェイコブは、隣の部屋で、スタッフと共に彼女の容態をモニターしていた。

ただ、一時的にシェパードの容態が不安定になるようで、まだまだ緊張が続いていた。

マヤは、警備ターミナルに入ると、監視カメラを見ていた警備員達には、薬でしばらく眠ってもらうことにした。
そして、彼らをロッカーに入れて閉じ込める。ただ、薬は1時間くらいで切れるので、いずれ自力で這い出て
しまうだろう。

ステーションにある監視カメラ全てを、実験施設にあるパイジャックの映像に切り替える。

マヤ「ふふ、パイジャックもこうして見れば、可愛いもんだわ。居てくれてありがと」と、彼女は
画面に向って手を振った。


マヤは、今度は、ラザラス ステーションの中央に位置するメック兵器室に向う。

LOKIメックが100体以上あり、ヘビーメックも3体ある。この安全プロトコルを解除して、認識プロトコルを
変更してしまえば、サーベラスであろうと敵と認識される。
この状態で一度起動すれば、破壊するか、電力が無くなるまで戦闘を続けることになる。

マヤ「人間はすべて敵…。ふふふ、いい感じ」と微笑む。

ウィルソンも、実は同じことをしようとしていたのだが、マヤがやってしまうので、彼の手間は省けることになる。

マヤは、LOKIメックをすべて起動させ、モードを戦闘に設定し、行動をアクティヴにした。
大きな音を立てて動き出すLOKIメック達。但し、フロアに整列したLOKIメック達は、まだそこで止まったままだ。

マヤ「敵を作ればいいんでしょう? さあ、今からラザラス ステーションにいる全員が敵よ」
と、彼女はミランダやジェイコブまでもが攻撃されると分かっていたが、なんとかなる、と言い聞かせながら、
メック兵器室のドアの入り口立つ。

彼女は、メック兵器室の扉を開けたまま、部屋を出て、そこからメック管理コンソールを銃で撃つと、非常警報が
鳴り出して、LOKIメック達が動き始める。

非常警報「非常警報! 非常警報! ステーションにエネミーを感知しました。これより防衛システムを
起動します」と、VIの非常警報がそう言い始めた。

ラザラス ステーション内の全階層で、この非常警報が聞こえるはずだ。
監視カメラは、パイジャックを映していたので、LOKIメックの映像は一切映らない。
つまり、LOKIメックがどこから攻撃してくるか、スタッフには分からない。

非常警報が鳴り出したせいで、メック兵器室はドアが閉鎖され、もう誰もLOKIメックを停止させることはできない。

マヤは、急ぎシャトルベイへと急ぐ。
彼女は、ミランダとジェイコブが、本物のシェパード少佐を連れて、無事にここから脱出してくれることを
祈るばかりだった。

非常警報「非常警報! ステーション内にエネミーを感知しました! これよりエネミー排除を開始します」
LOKIメック達は、隊列を組んだまま、フロアから通路に出て、敵を探し始める。


ステーションの他の階層では、スタッフや、警備員達が慌ててLOKIメックの状態を調べようとするが、監視カメラには
パイジャックが映っているし、メックのコンソールはエラーを起こして操作できないし、もう混乱状態にあった。

警備員は、放送を流して、スタッフ全員に、ステーションからの退避を勧告する。

警備員「スタッフは全員、速やかにB1シャトルベイへ向え! 直ちにステーションを脱出しろ!」
と、強い口調で叫ぶ。

B1シャトルベイには、シャトルが多数待機していて、そこに集まったスタッフを乗せて、次々脱出していく。

ラザラス プロジェクトに関わったスタッフは、今では数十名が残るのみだったが、彼らは他の研究部署に
移動になり、この後、生き残る研究員と、サーベラスから離脱する研究員とに分かれるのである。

シェパード回復のためのスタッフは、ミランダ、ジェイコブ、ウィルソンの3人だけだ。

サーベラスの警備員は、3人を守るために、LOKIメックと応戦しようとしていた。
しかし、ヘビーメックが起動したことで、警備員は対応に苦慮する。

ミランダとジェイコブとウィルソン

シェパードの容態を、ずっと見守っていた、ミランダとジェイコブ。
ウィルソンは隣の部屋でモニターを見ている。

ミランダ「一体何があったのか、ジェイコブ、見てきてくれない?」
ジェイコブ「ああ、分かった。ここを頼む」

彼は、このラザラス ステーションにエネミーがいるというのはおかしいと思い、コンソールをいろいろ
いじってみたが、LOKIメックの操作は、明らかに高い権限を持つ者によるものだとはっきり分かった。

ジェイコブは、高い権限を持つ者、それは自分と、ミランダ、そしてウィルソンしかいないはずだと思った。

ジェイコブは、ウィルソンを疑って、隣のモニターを見ていたウィルソンを見た。

ジェイコブ「ウィルソン、メック兵器室に入ったか?」
ウィルソン「ずっと朝からここにいたさ! 行けるわけないだろ!」と、言い訳した。
本当は、彼もあそこに入って、LOKIメックを動かそうと計画していたのだが、先にやられてしまって自分も驚いていた。

ジェイコブ「じゃあ、誰がやったんだろう?」と首をひねった。
しかし、すぐにピンときた。

ジェイコブ「ラサ…。彼女がやったんじゃないのか?」と思い、すぐにラサの自室へ向う。

マヤの部屋。

ジェイコブ「ラサ!」と、彼女を探してみたが、どこにもいない。
彼は、ラサがこの混乱を起こした張本人だと確信した。
すぐに、ミランダの元に戻る。

シェパードを見守るミランダは、傍でずっとついていた。今は容態は安定していて、問題ない。

ジェイコブ「ミランダ! やはりラサがいない!」と、慌ててミランダに言うが、ミランダは、ラサが
脱走を計画していたというのはなんとなく分かっていたことだったので、あまり驚かないが、LOKIメックを
動かそうとするとは信じられなかった。

ミランダは、メックが敵を探してうろうろしているいる状況下で、シェパードをこのままにしておくと危険だ。
すぐに回復させる必要を感じていた。

ウィルソンがそこに来て「ミランダ、シェパードを連れて、シャトルで脱出しろ!」と、彼はミランダに叫ぶ。

ミランダはウィルソンを疑っていた。この2,3日、彼がメック兵器室に出入りするのを見ていたし、
メック兵器室のマスターコードを持っているのは彼一人だ。

ラサの場合は、ここのところずっと、特攻任務のファイルを整理するのに忙しかったから、そんな真似はできないと、
ミランダは感じていた。

ミランダ「ジェイコブ! シェパードを回復させるの。いますぐ!」
ジェイコブ「今すぐだって? まだもう少しかかるよ」
ミランダ「メックがここに来たらどうするのよ!」
ジェイコブ「分かった。LOKIメックが来ないように封鎖してくる。」と、彼は、急ぎ向う。

ミランダは、ウィルソンがメックを動かしたのだと思い、彼を疑い始めた。ステーションの破壊工作をしたのだと。
おかげで、今すぐシェパードを回復させなければならない。

ミランダは、シェパードにつないでいた生命安定装置を外し、インプラントをモニターするコードも外して、
シェパードが自立的に動ける状態にした。

あとは、ミランダが外から声を掛け、自分で目覚めてもらうしかなかった。
ミランダ「シェパード、私はあなたに掛けるわ。必ず目覚めて、いいわね。」と、彼女はシェパードの頬にキスした。

シェパードは、頬に何かが触れる気がして、意識が戻り始めようとしていた。
まさに、「眠れる森の美女」といったところだが、シェパードが男であろうと、女であろうと、ミランダの強い
熱意によって目覚めたことは間違いない。

ミランダは、急ぎコントロール ルームへと向う。そこからシェパードに指示を出して、シャトルベイへと向わせるためだ。
コントロール ルームはシャトルベイの隣に位置する。


マヤの脱出

マヤは、スタッフにかち合わないように、遠回りをしてシャトルベイに来たために、やや時間がかかったが、
丁度、最後のスタッフが、B1シャトルベイから出るところだった。

スタッフが、マヤに声をかける。「ラサ! この便に乗るか?」と聞く。
マヤ「私はまだすることがあるの! 先に行って頂戴!」
スタッフ「分かった。お前も急いで退避しろよ!」

マヤは、ミランダとジェイコブに会えなかったのは残念だとは思ったが、後ろのラボを振り返って、
一言「ジェイコブ…。」とつぶやいた。

そんなジェイコブは、マヤを追って、シャトルベイに来た。
いきなり目の前に現れたジェイコブに驚いたマヤだが、また会えたことが嬉しかった。

二人は、抱き合い、キスをして、しばらくじっとしていたが、向き直る。

ジェイコブ「ラサ、今までありがとう。ここで君を見送るよ。イルーシヴマンから逃げられればいいが」
マヤ「ええ、そうね。でも心配しないで。必ず協力者を見つけて、イルーシヴマンを振り切ってやるから」
と言ってウィンクして見せた。

ジェイコブ「分かった。君がそこまで言うなら。ところで、LOKIメックを動かしたのは、まさか
君じゃないだろうね?」と、質問した。

マヤ「え? あの…それは…」と焦ったが、ジェイコブは「いや、気にしないでくれ。僕の勘違いだ」
と、それ以上聞かなかった。

今となっては、彼女がやろうと、ウィルソンがやろうともはやどっちでもよかった。
ただ、どちらがやったにせよ、事前に知っておけばよかったと思うばかりだった。

マヤ「ジェイコブ、シェパードを守らないと!、さ、早く」と、彼を促す。

ジェイコブ「そうだな。それじゃ、ラサ、またどこかで会おう。いつかきっと…。」
と、彼は、ラサに手を振りながら、最後の別れを告げた。

マヤは、コディアックを発進させると、ラザラス ステーションを出て、シタデルへと向った。

シェパードの復活

シェパードのベッド。
周囲には、まだ非常警報が鳴っている。放送で、ミランダがシェパードに向って、「起きて!」と
何度も叫んでいる。

シェパードは、外に聞こえるやかましい音でようやく目覚めたが、状況を理解するのに時間を要した。

ミランダ「シェパード! 起きて! ステーションが攻撃されてるの! 早く!」

シェパードは、声の主が誰かも分からないのに、自分に向って指示をする声。

まだ、シェパードの頭にある記憶は、2年前のままで、ノルマンディーSR1が撃破された直後のことが一瞬蘇る。

シェパードは、オメガ ネビュラの惑星アルチェラ近くで、謎の艦に攻撃されて…。と、かなり思い出してきた。
だが、その回想は、ミランダの声で掻き消された。

ミランダ「シェパード! 近くにある銃を取って、メックと戦って! 急いで!」
シェパードは、急ぎ指示に従う。

2年ぶりに体を動かすというのに、関節は特に硬くも痛くもない。
シェパードは、以前のように動けると分かると、LOKIメックを破壊しながら、ミランダの言う通り、
シャトルベイのある上へと急ぐ。

シェパードは、LOKIメックに足止めされているジェイコブと出会う。
ジェイコブは、2年間の説明を彼にするが、やはり、一度死んだシェパードに、現在の状況を全て納得して
もらうのには、まだまだ時間がかかるようだった。


(Mass Effect2へと続く)


マヤとクローン シェパードの出発点

カスミ ゴトウ

マヤは、コディアックの貨物室に積んだクローン シェパードのステーシス解除を急ぐ
必要があった。一応、コディアックの電力をつないでいるといっても、2日しか持たない。

マヤは、ラザラス ステーションを出る前に会う約束をしていた人物がいる。
特攻任務のファイル作成の時によく知る人物。カスミ ゴトウだ。

彼女は、シタデルで会ってもいいと言ってくれたので、彼女には港ですぐに会えた。
ただ、広告塔に向ってパスワードを入れなければならなかった。

マヤ「沈黙は金なり」
カスミ「マヤ、こっちよ」
マヤ「もう…。そこにいるなら最初から言ってよね。恥ずかしい真似させるんだから」

カスミ「実は、私も必要な情報があるのよ。協力した後で頂くとするわ」
マヤ「ええ、私に提供できるデータなら何なりと」

マヤは、過去20年分のデータが満載しているオムニツールを左腕に持っている。
これが壊れたら、それでお仕舞いではあるが、OSDに入らないくらい多い量だった。

マヤは、カスミにクローン シェパードのタンクを見せようと、コディアックの貨物のドアを
開けようとしている。

カスミ「どうしてサーベラスを辞めたの?」

マヤ「一身上の都合よ。っていうか、イルーシヴマンとそりが合わなくなったのよ。20年間も
サーベラスに仕えたのに、特攻任務のクルーを全員集めたら、もう用無しだって言われちゃったみたい」

カスミ「あら、そうなの。特攻任務って、何なの?」

マヤ「そのうち、本物のシェパード少佐に会えばわかるわ。さ、こっちのシェパードの方を手伝って
ちょうだい。」と、カスミにタンクを見せた。

カスミ「ステーシスを正常に解除すればいいわけね。任せて。でも、それには道具が必要ね」
マヤ「分かったわ。どこに行けば手に入るの?」
カスミ「私についてきて」
マヤ「了解! ボス!」
カスミ「ふふ、もう…。マヤったら」

マヤとカスミは、シタデルにある、民間の施設、ヘリオス マーケットに向った。そこは、数々の
民間企業が、テック商品を売り出しているマーケットで、様々な器機が手に入るのだ。
ただ、カスミはクレジットを払って買うつもりは毛頭なかったが。

カスミは、マーケットのエリアにある数々の企業の展示品から、必要だと思ったものを拝借してきて
マヤの元に集めてくる。もちろん、これを元の場所に返却するつもりはない。

カスミの腕にあるジャミング装置は、セキュリティ装置を無効にできて、とても便利だ。
マヤは、カスミを盗賊のリーダーにしておくのはもったいないと感じた。


シルタ財団のビルで目覚めたクローン シェパード

マヤは、以前サーベラスにいた頃の恩義をかさに取って、シルタ財団のオーナーに、ビルのフロア26階を
丸々借り切ることに成功した。

カスミは、クローン シェパードのステーシスを、5分程度で解除できたが、タンクの扉を開いても、
シェパードはまだ目を瞑って寝ているように思えた。

マヤは、シェパードに顔を近づけて「シェパード、起きて、シェパード」と、呼んでみた。
なかなか起きないので、シェパードにキスすると、突然シェパードは目を開いて目覚めた。

シェパードは、目の前に、知らない女がいると分かると、マヤを突き飛ばした。
シェパード「お前は…誰だ! う…。体が…。」

シェパードが動くには、まだまだリハビリが必要だと分かったマヤ。

カスミ「このシェパードは、どのくらい知識があるのかしら」

マヤは、シェパードにいろいろ話し掛けたが、シェパードは、知らぬ存ぜぬで、知識がまるでないようだった。

マヤは、クローン シェパードをどうやったら、シェパード少佐のように強くなるのか考え込んだ。
無表情のこのクローン シェパードは、まるで白紙の頭を持つドローンのようだった。

そこで、カスミの提案で、企業から拝借してきたVIシェルのホリックに、シェパードと対話してもらって
お勉強してもらうことにした。

しかし、クローン シェパードはVIホリックに向って「行かなければ」とつぶやく。
マヤ「え?! 今何て言ったの?」
カスミ「行かなければって言ったわね」
VIホリック「行かなければ…という言葉は、本物のシェパード少佐がよく言う言葉の1つです」と、説明した。

マヤ「ああ、なるほどね」
カスミ「やはり本物のシェパードのクローンなのね。納得よ」

マヤ「でも、行かなければ、だけじゃだめね。もっともっと勉強してもらわなきゃ。戦いについてとか。」

マヤは、VIホリックにいろいろと命令して、クローン シェパードに教えるメニューを組んだ。
「これでよし。後はVIホリックに任せましょう。さて、私達は…。」

カスミ「マヤ、それはそうと、私の頼み、覚えてるかしら?」
マヤ「ええ、そうだったわ。先にそちらを済ませましょうか」

カスミ「ドノヴァンホックっていう武器密輸業者のデータが欲しいのよ。前に調べたんだけど、もっと情報が
欲しいの。彼がパスワード変えちゃって、もうアクセスできなくなったのよ。ね、お願い。」

マヤ「ええ、いいわ。ドノヴァンホックの関連企業のデータもあるから、どうぞ、これをもっていって」
と、サーベラスが調べ上げた最新のデータを、カスミのオムニツールにコピーして移し変えた。

カスミ「ええ、いいわね。よくこれだけの情報が手に入ったわね。これなら、ドノヴァンホックの屋敷に
また忍び込んで、グレイボックスを回収できるわ。本物のシェパード少佐に協力してもらってね」
彼女は、とても嬉しそうだった。

マヤ「役に立てて嬉しいわ。カスミ。本物のシェパード少佐によろしく言っておいてね」

カスミ「こちらこそ、あなたに協力できて嬉しいわ。それに、私を本物のシェパード少佐に巡り合わせてくれたことを
心から感謝してるわ。もしまた困ったことがあったら、本物のシェパード少佐の方に連絡を入れてね。それじゃ、また!」

マヤは、カスミに手を振った。
もう、マヤがカスミに会うことは、ないだろう。

マヤは、カスミが去った後、別な人物に会う必要があった。
それは、元サーベラスの者でもなく、シャドウブローカーのエージェントでもない。

マヤ「ジャセン中佐、会えるかしら。生きていればいいんだけど」

ローランド ジャセン中佐は、スキリアン強襲で一躍有名になった連合士官で、連合第5艦隊のハケット提督の推薦によって
ジャセン中佐は情報局主任に就任した。
彼は、連合のコロニーを襲うバタリアンの海賊や奴隷商人の行動を、いち早くテラ ヴァシールに伝え、迅速な対応で
シタデル評議会から勲章までもらった連合の誇るべき連合士官である。

マヤは、クローン シェパードが賢くなった暁には、このジャセン中佐の助けを借りて、少しでも本物のシェパード少佐
に近づければ、と思っていた。

既にシタデルは夜だったが、マヤは、高級マンション街にある、ジャセン中佐の家を訪ねた。


ローランド ジャセン中佐

マヤは、ジャセン中佐とは、サーベラス時代に親しくしていたので、夜でも気兼ねなく訪問できたし、
歓迎の挨拶も受けた。

マヤが以前怪我をした時、テラ ヴァシールにやられたと彼に話したことがあって、それが切っ掛けで、
ジャセン中佐とテラ ヴァシールは会うようになり、やがて共に仕事をするようになった経緯があった。

ジャセン中佐は、マヤに恩義があるわけだが、女性としても、彼はマヤを気に入っていた。
もう若くはないマヤだったが、既に40歳後半のジャセン中佐は、彼女ともっと親しくなりたいとも思っていた。

そんなマヤが、自分を訪ねてきてくれて、それも、フリーになって訪問してくれたことをとても歓迎した。

ジャセン中佐「サーベラスを辞めたのは本当か、それはよかった。前から辞めろと再三言ってきたことが
効いたかな?」と、笑う。

マヤ「でも中佐、サーベラスにいた私も十分役に立ったでしょ? スキリアン強襲では、連合のために
いろいろ情報を出したんだから」

ジャセン中佐「今の私があるのは、君の協力があったればこそだよ。まさか、君があんなにバタリアンの情報に
通じているとは思わなかったものでね。お陰で、今やシタデル評議会で発言できる立場だよ。」

マヤ「シタデル評議会で? それはすごい」

ジャセン中佐「ふふ、君でも驚くかね。驚くと言えば、シェパード少佐が2年前に亡くなってから、
うちの情報局員が、実はシェパード少佐はどこかで生きているって話を私にしたんだよ。君は
何か知っていることがあるのではないかね? 私の元に訪ねてきた理由ももしかして…。」

マヤ「ふふ、察しがいいですね。実は、シェパード少佐は私が匿ってるんですよ。でも、記憶喪失に
なってて、できたら記憶が戻るよう、協力して欲しいんですよ。お願いできませんでしょうか?」

ジャセン中佐「やはり本当だったんだな?! しかしなぜ君が…。まさか、誘拐してきたのかい?」

マヤ「まさか。元々、シェパード少佐の遺体はシャドウブローカーが持ってたんですけどね、
シャドウブローカーを裏切ったエージェントが、サーベラスに引き渡してくれたんですよ」

ジャセン中佐「マジかね?!」
マヤ「マジですよ。ふふふ」

ジャセン中佐「いや、少し信じがたい話しだが、その記憶喪失のシェパード少佐はいまどこに?」

マヤ「シルタ財団の26階にいます。もしお暇なら、明日の昼間、是非訪ねて来てください」
ジャセン中佐「シルタ財団?! すぐ隣のエリアじゃないか。そんな近くにいたなんて…。」

マヤ「できれば、お早めにお願いします。中佐の力が、銀河系の未来に掛かってるんですから!」
と、彼女は、クローン シェパードのことは一切黙って、本物のシェパード少佐だと彼に信じ込ませ
ようとした。

ジャセン中佐「よし、では、私に任せておきたまえ。明日必ず行くから。」と、彼はマヤと握手する。


マヤの誤算

2185年。シルタ財団ビル26階。

ローランド ジャセン中佐は、翌日からクローン シェパードの、知識回復のためのリハビリを担当して
くれることになったのだが、実際は、マヤの予想した通りにはならなかった。

マヤ、ジャセン中佐、クローン シェパードは、それぞれソファーに座って話し合っていた。
VIホリックに飲み物を持ってこらせて、ゆったりと話し合うつもりだった。

ジャセン中佐は、クローン シェパードを本物のシェパード少佐だと思い込んで、様々な話をした。
連合に関する多くの話、サレン アルティリウスを追っていた時の話、ノルマンディーSR1の話、
連合第5艦隊の話など、連合に関する話題をいっぱい話して、記憶喪失を治そうと努力した。

しかし、ジャセン中佐は、このシェパードから出てくる言葉は、とても連合兵士とは思えない。
連合を批判し、人間についても他種族に劣ると批判し、連合は、まるで老人の集まりだと言った。
さらに、評議会の評議員は、バカの集まりに過ぎないと言って、ジャセン中佐を怒らせた。

ジャセン中佐「マヤ、これはどうやら偽者のシェパードのようだな。まるで、異星人のようだ」
マヤ「あうう…。でも、これが本物のシェパード少佐なんですよ! シタデルをソヴリン襲撃から救った!」

ジャセン中佐「いいや、違うな。ソヴリンにいっそ支配されたほうがよかったと、さっきこのシェパードは
言ったぞ!。これがシェパードであるはずがない」

クローン シェパードは、ソファーに座ったまま、ジャセン中佐に向って言った。
「中佐、私がシェパード少佐だと、なぜ思えない?」

ジャセン中佐「君は、ソヴリンを撃退したシェパード少佐ではない。連合の英雄でも何でもない、
ただの記憶喪失患者だ! 偽者だ! 君の記憶を元に戻すことなんて不可能だ!」と叫んで立ち上がると、
彼は、不愉快な顔色を隠そうともせず、彼はクローン シェパードを睨みつけ、そのままフロアを出て行こうとした。

クローン シェパードは、怒ったのか、マヤが持っていた銃で、ジャセン中佐を背後から撃ってしまった。

マヤ「シェパード…。」彼女は何が起こったのか、一瞬判断に困ったが、床に倒れているジャセン中佐を
抱き起こすと、既に虫の息だった。メディジェルを使おうとしたが、シェパードがもう一発撃ちこんで、
彼の息の根を止めた。

マヤのシェパード

クローン シェパードは、銃をマヤに渡すと、「マヤ、お前は私の味方か? 敵か?」と問う。
マヤ「もちろん、あなたについていくわよ。私には、あなたしかいないんだから」

マヤは、焦りながらも、クローン シェパードの心が少し不安に思えてきた。

クローン シェパード「本当か? なら、証明して見せろ」と言う。
マヤは、クローン シェパードに近づいて、自分の唇で唇を塞ぎ、長くキスをした。

クローン シェパードは、キスをしたのはこれが初めてで、マヤと気持ちがまだ通わない。
しかし、今のクローン シェパードにとって、頼れるのはマヤしかいなかった。
まだ、心は冷たいままのシェパードだったが、タンクにいた頃、いつも自分に話しかけてくれた
マヤと一緒なら、自分の人生を作れるかもしれない、そう思った。

クローン シェパード「分かった。お前の心をもらう。私の心もお前にやろう。だが決して裏切るな」
マヤ「ええ、シェパード。絶対に裏切らないわ。約束する」と、再びシェパードにキスするが、
彼女のその言葉は、目の前の、強い生命力に満ち溢れたシェパードに対してだった。


マヤとクローン シェパードは、このシルタ財団の限られたエリアで、10日間、過ごすことになるが、
その後の半年間は、シタデルの資料博物館に入ることが可能になる。

ジャセン中佐の権限を使って、シタデルアーカイブに入ったマヤとクローン シェパードは、
そこで、シタデルに関する様々な歴史を見ることができたが、シェパードにとっては、まるで
単なる空想の世界のようで、実感がまるでない。

本物のシェパード少佐の歴史も見てみたが、何一つ、他人事としか思えない。英雄的行為といわれて
いたが、クローン シェパードにはそうは思えなかった。そして、こんなことを学んでも無意味だと
言い出す始末。

マヤは、クローン シェパードが、やはりクローンでしかないと分かると、本物のシェパード少佐に
近づけようとすることは諦めた。その代わり、本物のシェパード少佐の人生奪うことにする。

ただ、マヤには少し不安があった。クローン シェパードと話すうち、不安な顔をすることが
多いことに気づく。昔、クローンを作っている時、試験管の前でサーベラスの科学者達が言っていた。
クローンは生まれても、テロメアが短く、精神不安症を抱える可能性が高いと。

マヤは、クローン シェパードに安らぎを与える必要があると思い、シェパードをベッドの上に
連れていって、そこで心を通わせようと裸で抱き合い、肌を重ね合わせてみたが、人間としての
シェパードが目覚めるのは、まだまだだと感じた。

そんなマヤの気持ちを理解し始めたクローン シェパードは、マヤの期待に応えようと思うようになり、
やがて心に炎がともり始める。

マヤは、この資料博物館のエリアの一角で、シェパードと一緒に暮らしながら、本物のシェパード少佐
の人生を奪う計画を練る。二人は、外の世界がどうなっているかお構いなく、自分達の計画にひたすら
没頭していた。オメガ4リレイを抜けて、コレクターを倒しに行こうとしていた本物のシェパード少佐の
ことなど、考えにも及ばない二人だった。

ジャセン中佐の持つ情報局主任の権限は、彼が死んでいると記録されていなかったために、いつまでも
使うことができたが、その権限を使って、連合に関する多くの極秘情報が引き出せた。

その中に、不名誉除隊になった元連合兵士が、ある民間警備会社を作ったことが記録されていた。
CAT6と呼ばれる傭兵部隊が、マヤとクローン シェパードの計画に欠かせないと分かると、早速
彼らに連絡をつけて、シタデルアーカイブに紛れ込ませ、資料博物館を完全に占領させた。

クローン シェパードは、CAT6に号令をかけ、本物のシェパード少佐の人生を奪う計画を話して聞かせる。
マヤは、CAT6がこのシェパードを信用するよう、多くの手を使った。シェパードの能力が高いと
証明して見せるために、シェパードとCAT6を戦わせて打ち負かし、CAT6を驚かせた。

CAT6の協力は得られたが、本物のシェパード少佐はまだ銀河系外のどこかにいて、連絡を取る術はない。
マヤは、ノルマンディーSR2が建造されていた頃から、艦をよく知っていたので、連合に連絡を入れて、
艦の修理が必要になるように仕向けた。

2186年、リーパーとの紛争が始まった。銀河はリーパーの来襲によって、どこの星系も生存の危機にあり、
シタデルも安全とはいえなかったが、マヤとクローン シェパードにとって、これは絶好の機会だった。
リーパーが地球を破壊しようと、シタデルが危なくなろうと、元々人生の無かったシェパードが、
誰からもクローンと呼ばれることなく、生きられる人生が始められるのだから。

やがて、船外休暇の命令が下ったノルマンディーSR2は、シタデルの港に停泊する。
本物のシェパード少佐をはじめ、クルーが全員降りてくる。

マヤ「あれが本物のシェパード少佐よ」
クローン シェパード「本当に私とそっくりだな」
マヤ「それじゃ、シェパード。手はず通り進めましょう」
クローン シェパード「さあ、私の人生を取り戻しにいこう」

マヤも、自分の人生を作りにいこうと思い、情報局員の姿になると、シェパードのマンションにメールを送った。
こうして、シェパードとシェパードのドラマが幕を開ける。


シタデル:前編へと続く。


コミック「ファウンデーション12、13(最終回)」
Mass Effect 資料「マヤ ブルックス」
Mass Effect 資料「セイン クリオス」
Mass Effect 資料「イリカー クリオス」
Mass Effect 資料「テラ ヴァシール」
Mass Effect 資料「スキリアン強襲」
Mass Effect 資料「ハナーとドレル」
Mass Effect 資料「エンキンドラー プロセアン」
Mass Effect 資料「ヴォルガ プロセアン」
Mass Effect 資料「シタデル」

この項目「セイン クリオス」の物語は、上記の資料の内容をつなぎ合わせて作られた物語で、
ゲーム本編とは直接関係ありません。また、Mass Effect 資料は非売品の英語資料です。

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