972 :KY:2012/07/22(日) 10:36:43

銀河憂鬱伝説IFネタ『日銀同盟その2』

宇宙暦792(帝国暦483)年
銀河帝国side

銀河帝国は一昔前に銀河を三分していた勢力の内の二つを滅ぼし、事実上銀河を統一した。
最もそれは”一昔前の”という但し書きが付け加えられるが。
自由惑星同盟を称する反乱軍は衆愚政治の極みともいえる愚行によって滅び、それによって地理的、中立的価値を喪失したフェザーンの自治権を召し上げる形で事実上の併合をした。

ちなみにフェザーンに関しては黒幕の地球教が大日本帝国の出現以降動きが取れない状況だったので、これらの動きに一切干渉できなかった。
最もフェザーンの価値は喪失していたので、地球教もフェザーンにそれほど執着していなかったという理由もあった。

とはいえフェザーンはまだマシな方だ。
曲がりなりにも帝国の自治領であったし、帝国のフェザーンへの評価もこの時期はそれほど悪くなかったので、自治領主が穏便に辞職して、自治権を返上することでおおむね収まった。
これは当時の自治領主が原作のルビンスキーとは違って帝国に嫌われていなかった事が大きかっただろう。

その一方で、悲惨だったのは自由惑星同盟であった。
自業自得とはいえ彼らの愚行は、”衆愚政治の極み”と日本だけでなく門閥貴族たちからも侮蔑の対象となった上に、元々百数十年も戦争を続けていただけに恨みも相当買っており、占領統治に情け容赦という言葉はなかった。
門閥貴族の需要に応じて多くの旧同盟市民が農奴にされたり、軍人、政治家、官僚、企業家、マスコミなどから大量の処刑者がでた。(※1)

勿論、このような過酷な帝国の統治に反発した旧同盟人の多くはゲリラとなるが、帝国により惑星規模での徹底的な弾圧を受けた。
言うまでもないが、ゲリラ支援者の疑いをかけられて社会秩序維持局や帝国軍に処罰もしくは殲滅される旧同盟市民が続出し、一説によるとこの一連の騒動で旧同盟人に5億人にも及ぶ死傷者が発生したらしい。

「どうしてこうなった」

同盟市民は現状に絶望した。
自分たちは間違ってはいない。
なのに何故、悪の専制政治に屈しなければならないのだ。
結局、彼らは分かってはいない。
彼らの極めて偏った価値観が、このような事態を招いたのだと。

「あの忌々しい帝国主義者達が結託しやがって!」

銀河帝国と大日本帝国が日銀同盟を結んで自由惑星同盟に襲いかかった時、同盟は震撼した。
しかし、普通に考えればこれは当たり前のことである。
同盟と日本が敵対したために、敵の敵は味方という形で帝国と日本が接近してしまったのだ。
これは普通に考えると十分あり得ることであり、その程度の予想すら出来ず極端な強硬論を支持した同盟市民が悪い。
そして彼らにできることはもはや帝国に盲従するしかない。
自由と民主主義を主張するものは尽く社会秩序維持局と帝国軍に排除されるのだから。

973 :KY:2012/07/22(日) 10:37:47

銀河帝国、第三十七代皇帝ルードヴィッヒ一世は現状の報告を受けて憂鬱な気分となった。
反乱軍を滅亡させて、返す刀でフェザーンの自治権を召し上げて領土を大幅に拡張させた。
これはいい。
しかし、急激に拡張した勢力圏の統治によってかかる負担は彼の想像を絶していた。
とはいえこれでもマシな方であろう。

日本と反乱軍との間で急速に関係が悪化して、戦争となった時に帝国は動いた。
当時の帝国上層部は反乱軍の信じがたい愚行に唖然としながらも、それがもたらす結果を予測した。
向こう一年間は反乱軍は持つが、日本が強力極まりない要塞陣地の向こう側で大艦隊を整備すれば一気に形勢が変わる。(※2)
元々、国力が違いすぎるのだ。(※3)
このままでは五年とたたず、反乱軍は圧倒的な大日本帝国に踏みつぶされ、帝国は反乱軍を飲み込んだ日本と相対することになる。
ならば先んじて日本と手を組んで共に反乱軍を討伐して、利益を確保しておいたほうがいい。
それが帝国が日本と協調した理由であったが、日本側が旧反乱軍の利権や領土を求めず、反乱軍の人間諸共あっさりと帝国に譲ってくれたことで、想定以上の利益を得た。

しかし、その後処理が非常に面倒だった。
なまじ20億人のフェザーン人に加えて、130億人もの反乱軍を取り込んだ為に共和主義の撲滅に社会秩序維持局はてんてこ舞いの忙しさ。
新領土では共和主義者によるテロが横行して、各地の門閥貴族の領地でも反乱軍出身の農奴が暴動を起こしている。

とどめに反乱軍のあまりの愚行ぶりに議会政治というものが受け入れられる土壌は吹き飛んてしまった。
帝国と内郭連合双方で暴走した民主主義や衆愚政治の危険性が声高に主張されているのだ。
改革を進めて、いずれは議会政治を採用しようと考えていた彼にとって事実上改革の頓挫を意味していた。
開明派ともいうべき者達は、今回の一件で一気に勢力を衰退しており、現状で無理に改革をしようとしても誰もついてこない。

唯一の救いは、帝国が国策として反乱軍のあまりの醜態を宣伝したことで、新領土以外の地域の平民達の間で共和主義がある程度下火になったことだろう。
そんな若き皇帝は先日日本から提案された一件の事を考えていた。

「リヒテンラーデ、そちは日本の思惑はなんだと思う?」
「おそらく余計な軍事緊張を避けて、ペルセウス腕の開発を優先するつもりではないでしょうか」
「やはり、そうか」
と皇帝はしばし考え込む。

現在、反乱軍対策として日本との間で結ばれていた日銀同盟は反乱軍の鎮圧をもって終了しており、現在では相互不可侵条約を結びお互いに大使館を置く程度の交流に留まっていた。
ならば今回の軍縮条約は問題はないかもしれない。(※4)
そもそも帝国と日本では国力が違う。
日本は帝国の10倍の艦隊を簡単に揃えることができるので、彼らと軍拡競争をするなど愚行に過ぎない。(※5)
そんな事をすれば帝国が財政破綻してしまうのは目に見えている。
今は無茶な軍拡よりも内政に力を注ぐべきである。
特にフェザーンと新領土の統治は余談を許さない状況なのだ。
そう考えればこの提案は悪くない。

こうして、銀河帝国はフェザーンにおいて、大日本帝国との間でフェザーン軍縮条約を結ぶことになった。



※1:この処刑を知った夢幻会メンバーが「血のローラーの再現かよ」と発言したという噂がある。

※2:実際に大日本帝国はその桁違いの国力と生産力で、僅か半年で100万隻の艦艇を建造して開戦一年以内に戦力化に成功している。
これには銀河帝国も戦慄したらしい。

※3:当時の大日本帝国と自由惑星同盟の国力比は、史実太平洋戦争時のアメリカ合衆国と大日本帝国の国力比よりも遥かに酷く、10倍どころが100倍以上だった。

※4:フェザーン軍縮条約の内容は、日銀双方が正規艦隊18個艦隊体制とし、独立艦隊や警備艦隊などを含めた総軍艦数の上限を100万隻に制限するというものだった。

※5:当時の大日本帝国はその気になれば、100万隻どころか2000万隻でも運用できた。

974 :KY:2012/07/22(日) 10:39:18

宇宙暦792(帝国暦483)年
大日本帝国side

「それでは、フェザーン軍縮条約の成功を祝って乾杯!」
「「「乾杯!」」」

夢幻会会合において辻達は祝杯をあげた。

「いや~、これで国内開発に力を注げますね」
「まったくだ」

日銀の軍縮条約は国力比から見れば日本が不利に思われるだろう。
しかし、戦争が終わり、必要もないのに無闇に軍部の力が肥大化するのは軍国主義に陥って自滅した史実大日本帝国や地球統合政府の例を見るまでもなく、大変危険な事だった。
だからこそ辻は軍の力を押さえて、シビリアンコントロールに力を入れていた。

「しかし、もやは原作が影も形もありませんね」
「ああ、金髪が学校を卒業する前に同盟が滅亡するとはどこの仮想戦記だよ(笑)」
「金髪が武勲をたてて出世する機会を潰したと思えば悪くないでしょう」
「それはそうだな」

あの戦争の天才が帝国軍を率いて日本に挑んでくるという事態は避けられた。
元々、夢幻会は金髪が原作通りに病没するまで待つという戦略をとっていたことからも彼らがいかに原作主人公を恐れていたのかがうかがえる。

「主人公といえばヤン・ウェンリーは?」
「例の血のローラーで処刑されたらしい」

帝国の粛正は政治家、官僚、軍人、企業家、マスコミに及び多くの処刑者が出た。
まあ、同盟マスコミもといマスゴミは史実日本マスコミよりも酷かったから”帝国のゴミ掃除”と夢幻会では言われた。(※6)
ちなみに当時のヤンは一介の退役佐官に過ぎず、それほど軍高官であるというわけではなかったが、エルファシルの英雄と呼ばれて無駄に知名度が高かった事が災いして目を付けられたらしい。(※7)

「まあ、これで難民爆弾はなんとかなるでしょうね」
「軍拡競争を押さえることができれば、帝国も国内の統制に専念できるだろう」

夢幻会は銀河帝国を際限ない軍拡競争に引きずり込んで自滅させ、その後経済的に属国にすることもプランとして考えていた。
しかし、同盟の愚行により戦略の変更を余儀なくされた。
現状で400億人近くにまで膨れ上がった帝国が破綻すれば、日本に難民が押し寄せてくる危険があった。
だから軍縮条約によって軍事費を抑えて帝国が潰れないようにしたのだ。
つまり帝国は400億人を統制させるために活かされることになったワケである。

「難民といえば、帝国の圧政に耐えかねてサジタリウス回廊に押し寄せてくる旧同盟人の難民船が今でも後を絶えないらしいな。全部警告して追い返すか、警告を無視すれば撃沈するかしているが」
「そのことだが、それを旧同盟市民が批判しているらしいぞ」
「馬鹿馬鹿しい。あんな連中を受け入れられるわけがないだろう。そんなことをすれば国内で同盟再興を叫んで反乱でも起こすのが目に見えている」
「まったくだ。それに世論も認めないだろう」

ちなみにトリューニヒト・ノートを突き付けられた時、日本国内にいた同盟の官僚、軍人、マスコミなどは国外追放にされた。
例外としてはリューネブルクなどの時勢を見極めて早期に日本に亡命を希望して受け入れられた者だけだった。
リューネブルクは原作でも同盟に失望して帝国に亡命していることから同盟に義理立てしないという判断から受け入れられていた。
だがそれは例外に過ぎず、日本国内での同盟人の評判は最悪だ。
特に天皇制と華族制の廃止を要求したことから国民だけでなく、皇族と華族を完全に敵に回しており、朝敵呼ばわりされている。

「後は条約に基づいて旧式艦を中心にいくらかの艦艇を処分すればいいだろう」
「そういえば帝国が廃棄予定の艦艇の購入を申し込んできましたよ。勿論、丁重にお断りしましたがね」
「まあ、当然だな」

現在の日本の仮想敵国は銀河帝国である。
なので折角日銀で軍事技術に格差がある状況になったというのに、その優位をわざわざ捨てる必要などないので国内の技術流出には注意していた。
夢幻会は帝国と無闇に対立するつもりはないが、それでも有事に備えなければならないのだ。

かくして銀河帝国と内郭連合は緩やかな交流を交えながら、数十年後に銀河帝国が制度限界に達して崩壊するまで、銀河は太平の世を迎えることになる。



※6:同盟のマスコミは過剰なまでに報道の自由を主張して日本国内でも問題を起こしており、夢幻会から嫌われていた。

※7:ヤン・ウェンリーは無謀極まりない対日戦争に反対して辞表を出して抗議していた。

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最終更新:2013年08月26日 18:25