68 :名無しさん:2013/03/03(日) 04:54:07
では投下。


ネタSS「前夜祭」


「諸君、この忙しい中よく集まってくれた。では、今から会合を始めるとしよう」

窓のない質素な部屋。その中央に置かれた円卓を囲む人々のうち、もっとも上座側に座る人物が、
本日この部屋に彼らが集ってから初めて、沈黙を破って発言した。どちらかと言えば貧相な体躯。
神経質なまでに七三に分けた髪。何より目を引く特徴的なちょび髭。――「第三帝国世界(注1
)」においてはドイツ第三帝国初代総統を勤め上げ、大往生した男…皆さんご存知、アドルフ・
ヒトラーである。

円卓には彼の盟友ベニート・ムッソリーニを始め、シュペーア、ゲッベルス、バルボなどあの
「第三帝国世界」で枢軸同盟を率いた面々が揃っている。

「まず、状況の再確認からだ。現在大清連邦とやらは、シベリアとの国境線上に着々と大軍を集結
させつつある。シュペーア、頼む」

呼ばれたシュペーアがすぐに国境付近の衛星写真を数枚、卓上に並べる。先月から数日前までのものだ。

「先月まではほとんど目に見える兆候は無かった…ここまで焦るところを見るとやはり、例の高麗の
KMFの技術元は奴らかな?」

いつに無く鋭い目つきになるドゥーチェ。禿頭がぎらりと照明を反射する。

「でしょうな。大方、密かに開発・生産して奇襲効果を狙ったんでしょうが…秘密がバレたからには
これ以上行動を遅らせても無駄だと判断したんでしょう。…だが、今攻めたからといって成功すると
思うのが大間違いだ。そう簡単に連中の思い通りにはさせませんよ」

それを受けて、バルボが傲然と言い放つ。そう、彼ら――「E.U.(ユーロ・ユニバース)枢軸会議」は、
先日中華連邦から清が独立してすぐのころからこの状況を予期し、E.U.首脳陣にその旨を伝えたうえで、
防戦計画も用意してあったのだ。

基本戦略は、かつての世界で彼ら(特にドイツ勢)の不倶戴天の敵だったスラヴ人のそれの焼き直し。
すなわち、広大な縦深を利用して焦土戦術を取りながら後退しつつ、反撃用の兵力を用意する。
そして冬将軍の来援を待ち、敵が弱ったところで大規模な反抗に打って出るのだ。現在彼らは、
その反撃用の兵力を準備する、さらにその前段階の準備を行っていた。すなわち兵器開発と組織の
健全化、そして民意の糾合…つまり、E.U.に「反攻前に崩壊しないための」基礎体力をつけ直させて
いるところなのだ。

だが、ここにきて大きく予定が狂っていた。劣等たる黄色人種の中でも「進化した突然変異種」が
日本人なら「劣化した突然変異種」、劣等中の劣等と言うべき朝鮮人(高麗人)の愚行が玉突き式に
コトに関わる全ての勢力の行動を強引に早めてしまったのだ。

69 :名無しさん:2013/03/03(日) 04:55:13
本来ならば清が軍事的冒険に出てくるのはもっと後、短くても数年後の想定だった。だからこそ
それまでにこの国の内憂をできる限り取り除き、万一相手が動いても後顧の憂い無く、万全の体制で
迎え撃てる体制を構築し、あわよくば相手に行動自体を断念させるのが彼らの目的だった。だが、
清の動きが早まったことでこの構想は半ば破棄せざるを得なかった。

「…あと1年遅ければ、シュペーアの組織改革やゲッベルスの宣伝が効果を現してくるのだが…」

ヒトラーの言葉に「申し訳ありません、お役に立てず…」と二人がそれぞれ謝るのを彼は手で制する。

「いや、いい。起きてしまったことは君たちの責任ではない。さし当たって今の議題は、現状の戦力で
奴らにどう対応するかだ…モーデルはもう向こうに送ってあるか?」

この問いにシュペーアが答える。

「裏から手を回してシベリアの有力部隊に配属しました。ああ、それからルーデル、ヴィットマン
のようなエース連中はまとめて向こうに送ってあります」

「なるほど、それは心強い。…ポルシェ博士のKMFはどうだ?」

なおも答えようとするシュペーアをバルボが遮る。

「出来るかどうかもわからんものをアテにしてどうするんですか。あれを待つぐらいなら、日本か
ブリタニア辺りから技術者を引き抜いた方がマシなぐらいだ。それよりはむしろ例のフンメルの
改造型(注2)や、既存の航空戦力の増強を優先してほしいですな」

二、三の問答を挟んで、増派する戦力の内訳が決まる。と言っても、彼らがいまだE.U.の実権を
直接には掌握していない以上、これらがすぐに実現できるわけではなかったが。

まだまだ議論すべきことはいくらでもあった。

「最大の障害は、例の地上戦艦だな」

「ですが、あれには対空砲がありません。爆撃でなんとかなるかと」

「補給に世論制御に…ええいやることが多すぎる!糞、表立って動けないことがこんなに重荷だとは」

「そのあたり前の世界の『ムゲンカイ』とやらは凄かったんだよな…つくづく連中は突然変異だ」

円卓を囲む男たちの会話は夜通し続いた。
まるで、戦争という一大祭典の前夜祭ででもあるかのように…



注1:読者のわれわれから見ての「憂鬱本編世界」を指す。

注2:以前ネタに上がっていた、「火力増強・四脚化」型を想定。


…つづかない?

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最終更新:2013年03月07日 21:58