454 :フライルーの人:2013/08/23(金) 15:32:44
牛刀論争

さて、今晩のN●Kスペシャルでは皇暦2010年代前半から、改修を重ねつつも四半世紀近く最強KMFの名をほしいままにした
フリーダム、その建造決定過程におけるある事件を見ていくことにしたいと思います。

世界に類を見ない第九世代機:フリーダム、その就役までには幾多の難関が待ち受けていました。
技術的要因はもちろんあったが、むしろ予算及び政治的要因、外交環境の方が本機建造にあたっては障害度が高かったと言われるほどです。
その代表的事件が、これから取り上げる牛刀論争です。


発端-外交環境-

 そもそもの発端は、シーランド危機~第二次欧州解放戦争の結果、「列強としての」EUの没落が決定的となったことに有ります。
これにより、日本-ブリタニア-ユーロブリタニア陣営によるアーシアンリングが完成しました。
 即ち、太平洋の両岸である日本列島とブリタニア大陸のみであった支配領域・商業圏が、ユーロブリタニアの欧州復帰により
ブリタニア大陸を中心として世界最大級の海洋である太平洋及び大西洋の両岸に日本・ユーロブリタニアという両翼を持ち、
準同盟国・友好国である東南アジア諸国及び中華連邦、そしてそれらの国々を囲うインド洋を経由して地中海に至る
アジアとヨーロッパをつなぐ海のシルクロードを復活させ、人類領域の大半を支配し、地球規模の経済覇権を握るほどに拡大した、ということです。
 このことは表面的には世界平和の到来-古臭い言葉で言えば天下統一の達成-として特に日本・ブリタニアの庶民の間で歓迎されました。
無論実態は異なり、欧州の復興統治及びEU残党とのゲリラ戦や、残存ロシア、南アフリカでそれぞれEU正統政権を名乗る国々との緊張状態は
続いているし、清と残存ロシアのEU(通称ロシアンEU)の領土紛争はいつ再燃してもおかしくない状態でありました。
しかし、いずれも日本(少なくとも本土都市部)からは遠い上に、日本は当事者ではない、という状況が日本の庶民層の危機意識を薄めていたのです(※)。
この傾向は、戦後数年して日本軍および、日本製兵器と同等の能力を持つ兵器を装備したブリタニア・ユーロブリタニア各軍の
圧倒的としか言い用のない戦果が明らかになるにつれてより強くなることとなります。

※:各種EU系勢力との戦いはユーロブリタニアの仕事であり、もし紛争が再発しても簡単に鎮圧できる、と考えられていた。
  また、清を巡る紛争については、樺太領有権を独立当初の会議以降取り下げていたことや、欧州での戦争展開を見た清が
  敵(EU)の敵(ユーロブリタニア)は味方理論もあって、EU以外の各国と協調路線を取ろうとしていた-高亥など現実派上層部が日本に接触し、
  中華連邦及びEUとの仲介を依頼、中華とは双方国境付近の兵力削減について一定の合意を見ていた-こともあり、国内での関心が急速に薄れていた。

455 :フライルーの人:2013/08/23(金) 15:34:06

発生-予算折衝-

 こうした国際情勢の中、第九世代機建造予算をめぐって本論争は勃発しました。
元々、第九世代機については研究・開発から建造まで複数年度に渡ることを見越して特別会計が措置されており、
欧州での戦争勃発にともない研究開発予算が増額され、戦争末期には第八世代機での実証試験までこぎつけていました。
つまり、丁度(あるいはようやく)建造が可能になった、という時点において大蔵省と陸軍(及び倉崎)に見解の相違が発生してしまったのです。
これは、研究開発の経過と実証試験において新たに発見/追加された要素により膨らんだ建造費をそのまま以前の計画に割増して要求、
軍縮によって退役する旧式機を補完するためにも計画通りの就役を目指す陸軍と、
戦中に増額した軍事費削減の一環として建造ペースのスローダウンを求め、従来予算からの削減を求める大蔵省、
という省庁四天王(※)同士の抗争となり、次官級折衝でも決着がつかない、という調整に優れた日本官僚組織においては異例の事態となりました。
なお、双方の言い分を乱暴にまとめてしまえば、
陸「計画通りに出来ないと他の軍備への影響があるし、ブリタニアとの約束が有るから予算増やしてほしい」
蔵「戦中散々予算つけたのだから我慢するべき。また第7世代でしばらくは十分だから後回しでよいだろう」
ということになります。

※:大日本帝国において特に権限の強い大蔵・海軍・陸軍・内務の4省を指す俗語。
  近年ではやや強引に海軍・陸軍に加えて空軍をひとまとめにし、大蔵・軍部・内務・通産、とする場合もある。


拡大-牛刀割鶏-

 ことここにいたり枢木首相は辻元蔵相及び嶋田元首相らに調停を依頼(※)した、との風説が流れました。
しかし、これが第二の発火点となり野党各党及びマスコミ各社が政府内意志不統一を追求(を大義名分とした政局活動)し、
それぞれの思惑に従って大蔵省ないし陸軍省を好き勝手に批判はじめる、という一大事件となったのです。
予算案自体は枢木首相直々の仲裁もあって、建造ペースは若干低下させるが、予算は従来通りとする(つまり新規要素で増加した分だけ建造ペースが落ちる)、
ただし、量産化・コストダウン化研究予算も別枠でつけ、最終的な建造予算縮減を狙うという妥協案が国会に提出されることとなります。
(なお、実際の予算としては計画予算を100として陸軍案145、大蔵省案70、最終案100+量産化研究予算20、となり、当年度分に限ってみれば陸軍の勝利ともとれる)
ですが、反政府急進派野党の公民党などが大蔵省案の建造ペースダウンですら過剰として、「牛刀割鶏」をスローガンに今まで反対運動をしていた
他野党と共同で建造中止のための予算案修正動議を提出しました。
なお、このスローガンについては公民党代表剣氏が、同党が最初に反対を表明した時の記者会見において、
「最早欧州は早晩ひとつになることが明らかであり、近在で領土紛争を抱える友邦大清連邦も我が国の仲介によって、
 平和を達成しつつ有り、大清連邦を攻撃しうるロシアンEUの在シベリア駐留兵力も大清連邦にとって脅威ではない現状、
 第九世代機などという夢想の産物に貴重な税金をつぎ込むなど浪費以外の何物でもありません!
 万が一、ロシアンEUが我が国や友邦に攻撃を仕掛けてきたとしても現状の軍備で迎撃してすら、鎧袖一触、過剰防衛にしか
 ならないというのにこの上更なる高性能機の配備など、まさに「牛刀をもって鶏を割く」の極地ではないでしょうか!」
と述べたことに基いています。

※:事実、現役夢幻会内部における調整が付かず、両氏のみならず、東條元陸相、阿部元内相などにも声をかけ、
  特別会合を開いていた。なお、本命は抗争中の両省に影響力の大きい辻・東條氏であり、嶋田・阿部両氏は一歩引いた立場に居た模様。

456 :フライルーの人:2013/08/23(金) 15:34:52
決着-牛刀演説-

 これに対し、両院で過半数を握る政府与党は基本的には静観の構えでした。
もっとも、政府部内での調整さえ済んでしまえば、多数派である与党案の成立に問題はない、として党議拘束に反抗するような
ひねくれ者が出ないよう改めて根回しをするぐらいしかすることがない、という事情もあったのですが。
ただし、一部マスコミに踊らされた国民を沈めるためにも、剣氏の会見に匹敵するインパクトを与える必要がある、として
本会議において首相演説が特別に用意されました。世に言う「牛刀演説」です。

「さて、本予算案に含まれる陸軍要求の第九世代機建造予算について、先に質問いただいた公民党の剣くんをはじめ世間の一部では
 「牛刀をもって鶏を割く」ようなものであり不要だ、とする声が有ることは承知しております。
 しかし、私は、日本帝国首相として、陛下の赤子と軍を預かる者として、本機の建造は必要不可欠のものと信じております。
 なぜならば、-先の喩えを借りるなら-鶏がいつまでも鶏であるとは限らないからです。
 隣国清を見ていただきたい。最初は第五世代KMFの劣化コピーを作るのがやっとであった彼の国が、今では純正第五世代機
 と言ってよい夏侯を配備しているではないですか。
 斯様に、技術の進歩とは速いものです。であれば、昨日の鶏が今日の牛になり、明日の虎にならないと誰が保証するのでしょうか。
 相手を鶏であると決めつけ歩みを止めた(※)結果、シベリア紛争の敗北をきっかけに自壊していったEUの轍を踏むわけには行きません。
 故に、常に牛刀を必要なときに必要なだけ用意し、たとえ相手が虎となろうとも打ち倒せるよう、備えるべきなのです。
 ソレが国を預かる者の責務であると思っております。
 今日牛刀に思えようとも、明日の虎に備えるために必要であるなら、揃えることをためらってはなりません。
 また、第九世代機はその性格上大量生産に向きません。これでは必要な数を揃えることが出来ない恐れがあります。
 故に、建造は慎重に行いつつ、量産化に向けた研究も同時にすすめるよう指示し、本案の通りの予算を措置いたしました。
 無論、戦争が終わった以上軍縮は必要ですので、旧式機を中心とした退役・規模縮小はすすめるべきでしょうし、実際縮小しています。
 ですがあえて言いましょう、牛刀がどうした、と。
 たとえ鶏しか居なくても、鶏しか殺せないもので満足するのではなく虎をも殺せる用意をすべきであり、
 どちらかを捨てねばならないのなら鶏しか殺せないものから捨てるべきだ、と。
 それが我が国と国民の皆様、引いては世界の安全保障に寄与すると信じています。
 それが、超大国と呼ばれるようになった我が国の責務だと信じています。
 以上です。ご静聴ありがとうございました。」

この挑発的な演説は、それはそれでまた論争を呼びましたが、これまでの騒ぎと比較すれば小規模におさまりました。
また、結果的に国民に安全保障について考えさせる契機になった、という事を鑑みれば枢木政権の狙い通りだった、と言えるでしょう。
こうして、世界最強のKMF:フリーダムはその就役への第一歩を踏み出したのです。

それでは、最後に当時放送された「牛刀演説」の映像を見ながら本日はお別れとしたいと思います。

457 :フライルーの人:2013/08/23(金) 15:38:36
※なお、EUにおいては、アレクサンダが開発されるなど、相応の努力は行われていたが、
 この演説では強調するためかあえて無視されている。
 一説には、第七世代「相当」など誤差のウチ、とみなしている、との見解もあるが
 支持するものは少ない。

458 :フライルーの人:2013/08/23(金) 15:43:05
以上です。

493 :フライルーの人
大蔵省は何故予算を削減したいのか

ここらへんちょっと説明不足でしたね、すいません。
基本的にアメリカに数倍するお金持ちの日本といえど、予算は有限です。
そしてアメリカに数倍する規模の先進国、ということは国内人件費等もそれなりにお高くなってる
=国内メーカーで生産するKMF等最先端兵器もそれなりにお高い(夢幻会の規制で史実ほどブラック企業もはびこってないでしょうし)
という前提があります。
そして、今回の話が戦後の軍縮機運が世界的に有る状況、という背景が有ります。
で、辻さんの後継者(量産型辻ーん)たちは考えたわけです。
1.戦中他の省庁の予算に増額がない中軍部の予算を増額していた以上、省庁間パワーバランス的にも、
 軍部の予算増額は出来ない
 =我慢してもらった他の省庁に今度はちゃんと軍にも我慢してもらった、という予算配分者としての公平性アピールが必要
 (→最大で初期計画通りだからまずは予算を減らす方向ででふっかけておこう)
2.かといって戦争で活躍した軍のポストや現有装備を減らす訳にはいかない
3.一機しか建造されないため、ポストにも大きな影響のない第九世代機なら、多少就役が遅れてもいいだろう
 (削減できる予算が大きい割にポストや仕事が減らない)
4.それに、戦中の研究開発で主な特許等は抑えているから経済的に一番重要な収益は確保済み
5.日本周辺に配備され得る同盟国以外のKMFはもっとも強くて第七世代相当程度のアレクサンダ。
 なら、現有装備で十分のはずだし、そうなるよう必要なだけの予算は措置してきた。
6.今後もずっと金満国家でいられる保証はないのだから、新型機・新技術を看板にすれば満額予算が通る、
 と思われかねない前例を作る訳にはいかない。

大体こんな理由で予算削減派が大蔵省内の主流になってました。

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最終更新:2013年09月15日 18:36