418 :名無しさん:2013/11/26(火) 18:32:09

前スレでネーデルさんちのサーベルタイガーネタSSを書いた者です。
酒飲んで寝ぼけ眼で書いたSSですが意外な反応がありましたので続きを書いてみました。
我ながら無理筋だとは思います。
転載していただけるならうれしいです。

419 :名無しさん:2013/11/26(火) 18:33:00

不屈の虎

「何故です!?何故!?」

その男――ネーデルランド王国陸軍の砲兵大尉の階級章をつけた男は、仏赤軍に見つかる危険性さえ無視して獅子吼する。

アルティス王立動物園。
1843年にアムステルダムに設立され、現在600種以上3000頭の動物を飼育する伝統ある動物園である。
その目玉は100年以上前に日本の江戸幕府より送られた剣牙虎だ。
否、目玉であった、と言うべきか。
フランス赤軍のオランダ占領、そしてフランス国家憲兵隊より「東西帝国主義の象徴たる剣牙虎の殺処分」が通達されて半日。
俄かに処刑場の空気を漂わせ始めたこの動物園では、その存在はもはや過去のモノとして語られようとしている。

「フランスは、共産主義で気が触れたあの愚か者どもは。このネーデルランドの独立を凌辱しただけに飽き足らず、王国が築き上げてきた伝統も!誇りも!貴国との長年に渡る友情の証さえも死滅させると宣言したのですよ!」

罵声じみた大尉の非難を浴びてなお、剣牙虎の飼育員――元剣虎兵である日本人の老人は半地下に位置する剣牙虎の飼育ゾーンで全てを諦めたかのように座り込んでいた。
剣牙虎の飼育知識を買われ、飼育員として勤務していただけのこの老人に出来ることはもはや何も残されていないのだ。

「・・・両陛下はドイツ帝国、および日英両政府の庇護下にあり、仔猫達もお連れ頂いている。ネーデルランドの伝統も、誇りも、君達との友情も決して消える事は無い」
「だからと言って黙って殺処分を見ているなど!それが貴方の誇りですか!名誉ですか!貴方はそれで満足なのですか!」
『満足なわけんだろうがぁ!?ガキがぁ舐めたこっ言うほいならん!』
「・・・!」
感情が高ぶったのか、祖国の方言で叫びだした老人に大尉は絶句する。
『おいも猫ば助けたかぁ・・・!親子揃って姫殿下にお見せしたかぁ・・・じゃっどん・・・じゃっどん・・・いけんすればよかぁ、なぁ・・・』

東洋より来た小柄な老人が剣牙虎の檻に取りすがって涙を流す。
よほど老人に懐いているのか、剣牙虎達が代わる代わる近づいて慰めるように喉を鳴らしている。
中には大尉を睨んで威嚇している剣牙虎もいた。

「・・・私に剣虎兵としての訓練を施してください」
その光景に大尉は姿勢を正し、決して最善ではない己の提案を口にした。
「銃火器を使用しない剣虎兵は市街地での作戦行動に向いているはずです」
何よりもオランダ人のレジスタンス活動の象徴として。


420 :名無しさん:2013/11/26(火) 18:34:50

「・・・どうやって猫をアカどもから逃がす」
助けたい剣牙虎をレジスタンス活動で危険に晒す、その矛盾に満ちた提案はそれでも元剣虎兵の老人の戦術的嗅覚に一縷の希望を臭わせた。
「処分前に餓死した事に、金を積めば下っ端を買収するのは簡単です・・・全てを助ける事は出来ませんが」

現実問題として剣牙虎達への餌の配給は滞っていた。餓死寸前の剣牙虎がいることも事実だ。

「活動中の餌はどうする?」
「連中が補給に使っている馬匹を」
「隠れ家は?」
「仏赤軍のお陰でオランダ中廃墟には困りません」
「最終的な目標は?暴れてそれで満足するのか?」
「王国解放、少なくともその精神の支えに・・・何より」

無謀なレジスタンス活動の結果、剣牙虎達は死ぬかもしれない。

「それでも、黙って共産主義者に処刑されるよりは、何倍も満足できる死に様です」
『――よか』

他の細かな理由付けより、その返答が一番気に入ったのか、初めて老人は笑みを浮かべる。
それは死を前にして獲物を見つけた、年老いた剣牙虎のようだった。

「お前に剣虎兵の全てを教えてやる」
ゆらりと立ち上がる老人の背に、生気が宿る。
頬を伝う涙は、止まっていた。

「よろしくお願いします教官殿!」
「教官殿はよせ、軍は辞めたからな・・・『師匠』でいい」
「はい!シショー!」

結果、王立動物園で飼育されていた剣牙虎12頭のうち4頭が生き延びる事に成功。
俄か仕立ての戦虎となり、フランス国家憲兵隊を主な目標としてフランス軍後方部隊への襲撃活動を開始する。

フランス赤軍の度重なる掃討作戦に剣牙虎は最終的にその数をたった1頭へと減らしたが、最後までフランス赤軍後方に出血を強要し続け、日英独連合軍によるアムステルダム解放作戦時には王宮の奪還に尽力し、オランダ王室の帰還を最初に出迎えることになる。

ヨハネス・ヘンドリック・フェルトマイヤー砲兵大尉。
ヨーロッパ最初で最後の剣虎兵。
敵味方より『ネーデルランド不屈の虎』と呼ばれ、フランス国家憲兵隊に死神として恐れられた男はこの瞬間誕生した。


終わり

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最終更新:2014年01月30日 22:43