820 :ひゅうが@夏風邪中:2014/07/02(水) 16:31:52

戦後夢幻会ネタSS――その1.11「三十七時間戦争 1951年 蛇足」


    ――1951(昭和21)年1月5日 極東 日本国首都 東京


「旭川の爆発は、第2管区総監部旭川司令部北方の物資集積所を狙ったものでした。
主力が現在は朝鮮半島の水原に移動しているため、あそこには留守部隊に加えて択捉島の米爆撃航空団向けの物資が集積されていました。
威力と残留放射線濃度からして、爆発は上空500メートルの空中爆発でしょう。」

淡々と報告が響いた。
終戦後に接収を受けた北海道の千歳基地は、米本土からの空輸ルート上にあることから現代でいえば「ハブ空港」的な役割を持っている。
(発足間もない国防空軍は錬成途上であるために西日本を除けばまだ輸送機部隊しか展開しておらず、依然として日本の空はアメリカ空軍の管制下にあった。)
ウラジオストクを拠点にするソ連太平洋艦隊への監視のために設けられたアメリカ海軍と空軍基地は、いずれもこの後方の補給所からの空輸によって物資を受け取り、そして出撃していく。
このうち旭川には、主として千島列島方面に向けて出発する物資群が蓄積されていた。
千歳に集約されなかった理由は簡単。
あまりにひっきりなしに飛んでくる輸送機の数に対応しきれなかったからだ。
ことに、択捉島に設けられたアメリカ空軍基地は昨年末のシベリア兵站基地への阻止攻撃に用いられており物資の消耗が激しい。
そのため、大忙しの千歳ではなく、かつては愛国飛行場といわれた旭川飛行場が一方面向けに使用されていたのである。
航空阻止任務を行う防空部隊はこれより北の稚内基地やそれこそ千歳基地に一任されており余裕があったこと、かつかつての北鎮師団用として整備が進んでいた設備がそのまま流用できたことも大きい。
だがそれが、「米軍主力が展開しておらず目標としやすい」ために狙われる理由となったのだった。

「施設はもちろん蒸発。爆心地となった飛行場施設から半径5キロ圏内は火の海となりました。旭川市の主要地域はもちろん、被害は神居村、江丹別村にも及んでいます。
犠牲者は、10万人を下ることはないでしょう。」

重苦しい沈黙が、「会合」の席に満ちていた。
それを知っていて、なお、柴田武雄大佐は報告を続けざるを得ない。

「続いて、函館でありますが、こちらは海面上爆発です。函館港旧弁天台場沖合において爆発が発生。
威力は旭川よりは減衰されましたが、それでも函館市の旧市街地から五稜郭方面にかけて多方面で火災が発生。こちらも犠牲者が10万人を下回ることはないと思われます。
いずれの場合においても、駐留部隊が丸ごと消滅していますので早急な救助活動は困難です。
この両者の被害によりまして、国鉄宗谷本線・函館本線・石北本線・富良野線をはじめ北海道の鉄道網は南北ともに寸断。
加えまして、青函連絡船航路も途絶状態にあります。
現在、海上艦船は室蘭および江差方面へと退避済みです。」

「米軍の状況は?」

「混乱しています。パットン元帥が東京にいたために表には出ていませんが、2被災地とも1000名以上は米軍部隊が駐留していましたから、これを米国への攻撃と考えるか否かでG2と民生局で大もめになっているとか。」

「どちらがどちらを主張しているのかについてはよく分かるからいいが、どちらが優勢か?」

「G2ですね。あとはG1です。特に択捉のルメイを怒らせた件がきいているようです。」

あの鬼畜か…
と、阿部俊雄(嶋田)中将は顔をしかめた。
戦後になりおおっぴらに活動できるようになったこの「夢幻会」においても、彼はその議長役を張らされていた。

821 :ひゅうが@夏風邪中:2014/07/02(水) 16:32:34

「ソ連軍の動きは?」

「こちらも混乱状態です。特に、平壌の人民義勇軍司令部からモスクワに向けての確認電と思われる文がひっきりなしに。」

「ということは、やはりスターリンの独断か。」

嶋田もとい、阿部は始末に負えないと首をふる。

「毒を盛られて頭がヘンになっていたという話は本当だったのかもしれんな。」

誰もが、疲れた表情をしていた。
緊急連絡を受け、この2日ほど彼らは寝ていなかった。
今も、近くの官邸では吉田首相らが泊りがけで情報を集めているはずであり、それを受けて彼ら「夢幻会」…世間一般では「吉田機関」といわれる人々へいつ諮問がかかるかもわからない。
そうした状況であるから、彼らはこの場に詰められるものは詰めていたのである。
阿部(嶋田)など、ここから官邸や市ヶ谷へ「出勤」している。

「失礼します!」

と、今日何度目かになる緊急報告を持った「伝令」が障子を破らんばかりの勢いで飛び込んできた。

「東大地震研の分析が出ました。
昨日3時頃にとらえられたソ連極東の地震波は、旭川のそれとほぼ一致しています。
また、つい先ほど、2時間ほど前にも同様の反応がありました。
ハバロフスク、ブエゴエスチェンスク、ペトロパブロフスク・カムチャッキーです。」

「――大規模爆発、か。」

下がっていい、と阿部は若い伝令に茶と菓子をふるまうようにこの料亭の仲居に告げてからそういった。
料亭というのは、ただ料理を食べたり踊りを見物する場ではない。
「すべてはバラの下にて(ス・ロセ)」
と同様、ここは秘密を順守する、「秘密の」場所なのだ。


「報復攻撃。なるほど2発目はそれが理由か。どいつもこいつもあれをポンポン使いやがって…!」

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最終更新:2014年07月09日 21:56