393 :yukikaze:2014/08/06(水) 18:39:00
空気を読まずに支援SS投下。
林さんの奮闘の理由について。

  戦後夢幻会ネタSS――「生き残った者の責務 1957年」

戦後夢幻会世界において、陸軍と海軍の扱いは明暗を分けた。
原則的に政治には介入せず、太平洋戦争時でもアメリカ相手に何度も決戦で勝利を収め続け、沖縄での『偉大なる敗北』と、樺太沖での居留民避難の奮戦から、国民から未だ絶大なる信頼を持たれた海軍に対し、政治的介入をし続けた挙句、遂には日本の領土を日清戦争以前にまで減らした陸軍は、徹底的に断罪されることになり、国民の信頼も地の底に落ちた。
それを示すように、海軍では中央で勤務していた者も比較的すんなり復帰できたのに対し、陸軍では
明確に終戦工作に関わっていた者以外は、中央にいた者の復帰は認められず(その後、一応緩和されたものの、極めて厳しいものであった)旧内務官僚出身者が、陸軍の主要ポストを牛耳ることになる。
当然のことながら、旧陸軍関係者は胸に黒い炎をともすことになるのだが、さしもの彼らもクーデターで事をひっくり返すのは無謀であるという点は理解しており(服部元大佐がクーデター未遂事件を起こし
て断罪されたことも大きかった)、余計に不満を貯め込むことになる。
そしてその不満の矢面に立つ者こそが、林敬三陸軍幕僚長(憂鬱東条憑依)であった。

「だから言っているだろ。現在の国防予算で15個師団編制など認められると思うのかね」
「しかし陸幕長。これだけの兵力がなければ本土防衛に支障をきたします」

言外に「これだから内務官僚は・・・」という感情がにじみ出ているのに対し、林は、内心舌打ちをしながら返答をする。

「士官と兵卒はどうするつもりだ。書類上の師団なんて役には立たんぞ」
「士官は旧軍士官学校卒の人間を優先的に入れ、兵は徴兵によって補充すれば・・・」
「馬鹿かね貴官は」

予想通りの回答に、林は馬鹿馬鹿しくなって回答を打ち切らせた。
旧軍の士官を入隊? 優秀な連中はみんな民間に行って、残っているのはよほど素行不良の物か、あるいは箸にも棒にもかからない者くらいだろう。
徴兵に至っては論外である。朝鮮戦争での防戦でようやく存続が許されている状況なのにそれをぶち壊しにするなんてできると思っているのだろうか。
右派で名が通っている大野次期首相ですら、有事法制や集団的自衛権での関連法案制定に慎重であるというのに、輪をかけて評判が悪い徴兵制復活など正気の沙汰ではない。

「いいかね。国家という物は国家戦略があって初めて軍事戦略があるのだ。その逆はない。
 貴官らは第一次大戦のドイツや、満州事変以降のわが国の失敗をもう一度繰り返すのかね」

言葉に詰まる作戦部の士官に対し、林はもう一度だけ心中溜息をついた。
やはり陸士卒の士官達はどこか歪なものがある。まあ艦隊決戦に未だ夢を見る海軍兵学校卒の面々も人の事は言えない訳だが。
国防軍士官学校の校長に、リベラルと常識人である堀元海軍中将を入れたのは正解だったな。
もっとも士官学校を巣立ったひな鳥たちが、第一線で活躍するのにはまだまだ時間はかかるが。

一時間後。
嫌味と当てこすりの会議は終わり、旧軍士官の恨みをさらに増やす代わりに、師団増設の案を潰した林は、高級な椅子に、心身ともに疲れ切った体をあずけながらぼやき声をあげていた。

「杉山さん・・・。あんた死ぬのが早すぎたよ。あんたが生きていればどれだけ楽だったか」

前世においては、東条とともに二人三脚で陸軍改革を行った盟友。
そしてこの世界では、生粋の戦車乗りとして縦横無尽に駆け巡り、最後は樺太で火事場泥棒を行ったソ連軍に対して、住民保護の為に絶望的なまでの奮戦を行い、部隊全滅と引き換えにソ連軍の進撃を遅らせ、米軍の到着を間に合わせた男。
アカの御用学者やマスコミは「戦闘停止命令を無視した愚行」「死ななくてもいい兵達を死なせた」と、大々的なキャンペーンを行ったが、それもパットンの「自国民を守るのは軍人の勤めである」という言葉によって『帝国陸軍の良心』として記憶されている。

「すまんなあ・・・未だにあんたの骨を拾う事も出来ん。少しはマシな陸軍を残すからそれで許してくれんか」

今は亡き盟友にそう語りつつ、林は職務に集中する。
生き残った者の責務を果たすために。

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最終更新:2021年04月05日 01:16