256 :taka:2014/07/25(金) 12:37:09
前スレのジョークネタ


沖縄陸軍病院

丈夫なコンクリートで内壁を固めた横穴壕の1つから、一人の少女が出てきた
彼女は入り口脇にある水道で手についた血糊や膿を流すと、フウと息を吐いて手ぬぐいで顔を拭った
少女はひめゆり学徒隊と呼ばれる学徒動員された女学生の一人だった
この施設の半分を地下に隠蔽した病院施設で看護要員として働いている
少女は憂鬱だった。日に日に病院に運び込まれる軍人は多くなる一方
半月前までは随分と遠かった砲声や銃声が、今でははっきりと聞こえる
いや、夜に外に出て首里の方をみれば、絶えず光が轟いているのが見える

あそこは、地獄だ

付き添いで外に出ていた軍医が呟いていた
他にも守備の兵士や出入りする兵隊たちのうわさ話が聞こえる
「首里の防衛線は持つのか」「あそこを抜かれたらもう後は南部しかないぞ」
「患者はどうする」「健常者の退避すら困難なんだぞ」「それは……わかるが」
「それに南部まで後退させても医療品が足りん」「本土の指導でアレほど、備蓄しておいたのにか」
「ああ、それだけ凄まじい戦いだというのだ」「……万が一の処置は?」「司令部の指導の通りだ」

不吉な言葉が混ざることが多くなった会話に耐え切れず、少女は壕の外に出たのだ
日暮れが近いのかあちこちで炭火を使って炊飯と調理が行われている
炭は便利だ。焚き火でうっかり食事をつくろうとすれば観測機に見つかりたちまち空爆か砲撃が飛んでくる
そう調理班が言っていたのを思い出し、彼女の足は思わず調理場に向かっていた
はじめは凄惨な医療行為やら血や膿の臭いで食欲が失せていたが、人間慣れるものである
空腹と疲れで注意が散漫だったのだろう。少女は誰かにぶつかってしまった
思わず尻もちをつきそうになったが、相手が支えてくれて無様を見せずにすんだ

「ご、ごめんなさい!」

とっさに謝ったが、相手は朗らかな口調で許してくれた
そして、安堵とともに相手を見上げた少女はぽかんと口を開けてしまった

相手は、数日前に血みどろになってこの病院に運び込まれてきた兵隊だったからだ
何でも北部で戦っていた兵隊さんの一人で、敵中突破をして南部に伝令へ来た人だとか
彼の世話をした少女は、その負傷の酷さを知っている
緑色の軍服の半分が真っ赤に染まるほどの負傷だったのだ
軍医は彼に最低限の治療を施した後、容態が変わったら呼びなさいとだけ言って去っていた
つまり、軍医から助からないとみなされていた酷さだった
翌日に配置が変更されて彼の担当から外された少女だったが、
もう助からないと思った相手が何事もなく立っているのを見て驚愕を抑えられなかった

彼は血染めのままの軍服の上に軍装を付け、米軍の自動小銃を手にして「お世話になった。ありがとう」と言った
少女がなんとか「怪我は大丈夫なんですか?」と聞いたところ、頭を掻きながら彼はこういった

「何、病院で数日寝て(意識不明)過ごしたら傷が治ってた。
 動ける位には治ったので司令部に残りの報告と挨拶をして北部に戻るよ」

なにせ、報告の途中で卒倒してしまったからね、そう言うと男は少女に別れを告げ病院から去っていった
少女は、知り合いの友達に声をかけられるまでその後姿を見送っていた


戦線が首里で終戦を迎えたため、少女たちは無事に戦後を迎えた
あの少女があの日見送った人外の如き兵士の正体を知るのは……更に数年後の事である

やおい

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最終更新:2014年10月27日 15:20