841 :taka:2014/07/07(月) 15:18:18
1945年 沖縄 第七〇高地

「来るぞ、戦闘配備。対戦車班、照準器起こせ」

面積の3分の1が、焼け野原になった高地にキャタピラの音が迫ってくる。
あちこちに黒煙を登らせるM4中戦車と、その周りに倒れている米兵たち。
今日もそれらの仲間を増やすのか、逆に蹂躙され肉塊に変えられるのか。
思い出したように炸裂する支援の野砲弾に顔を顰めつつ、大尉は相手がこちらのキルゾーンにかかるのを待った。
丘を乗り越えてきたのは、十台のM4中型戦車。そして多数の随伴歩兵。
無線機で左翼、右翼の両方に展開してる高地守備隊からも戦車部隊が接近しているとの報告があった。
連中は先日の損害に懲りて、多数の戦車で一気に面押しする事にしたようだ。

「カトは射撃準備よし、との事です」
「了解した。連中が所定の位置まで進出したら、先頭車両と殿の奴を仕留めてくれと伝えろ」

縦列を組んだ戦車は、轟々と音を立て進撃してくる。
時折砲塔が旋回し、あちこちにある廃屋や小屋を榴弾で破壊していた。
よほど、歩兵の待ち伏せが怖いと見える。対戦車班はたこつぼに隠れているので無事だ、今のところは。
そして、戦車隊の列が半分以上所定の位置に入り込んだ所で……大尉は攻撃命令を出した。

「撃て!」

車体を簡易的な壕にダグインさせたカト車が、十糎対戦車砲を発射。
ベテランの射手が放った徹甲弾は、見事に先頭車両の正面装甲を貫通し大破。
間髪入れず装填した次弾を最後尾の火炎放射戦車に命中させ、巨大な火柱を上げさせた。

「対戦車班、前進開始。機関銃中隊は敵歩兵を排除せよ! 撃ち方開始」

火を吹く先頭車両から火だるまの戦車兵が絶叫を上げつつ飛び出すのを見ながら、大尉は攻撃を指示。
あちこちに擬装された機銃陣地から銃弾の雨が吐出され、戦車の周りに居た米兵たちをなぎ倒す。
ハッチから顔を出した車長は、たちまち飛んでくる狙撃兵の銃弾に慌てて頭を下げて車内に戻った。
迂闊に顔を出しすぎた車長は頭部に銃創を負い、たちまち戦闘不能に陥った。
歩兵の大半を撃ち倒され、前後の車両を撃破された為に動きに制限を貸せられたシャーマン戦車に、続々と忍び寄る影達。
彼らは戦車たちが屯している道路から50m~100mの位置で動きを止めると、2~3人毎に屈んだ状態で脇に担いでた筒のようなものを肩に担ぐ。
戦車はあちこちに闇雲に機銃を撃ったり、カト車のいる位置と思しき方向に砲撃を繰り返している。
彼らは落ち着いた仕草で照準器を覗き、激発装置の上にある発射ボタンを押し込んだ。
トンッと腹に響く音がいくつも重なり、道路の両脇から十数の対戦車弾頭が飛来した。
それらは砲塔の側面部、車体の側面部などに着弾しモンロー/ノイマン効果により装甲を焼ききる。
結果、十台の戦車の半分以上が一気に戦闘不能に陥り、戦車隊は事実上崩壊した。
残り2台はなんとか逃走しようとしたが、カト車に仕留められ、最後の一両は30mまで接近した17歳の少年兵に討ち取られた。

「カト車、陣地移動します」
「了解した。対戦車班は後方へ下がり補給を受けるように。機銃中隊は配置を変えろ。直ぐに野砲の返礼が来るぞ」

どうやら、左翼と右翼も撃退に成功したらしい。
大尉は深く息を吐くと、予備の無反動砲を担いだ対戦車班員達が続々と後退してくるのを見やった。
空になった筒を手にした少年兵が仲間たちに賞賛され照れているのが見えた。
少年兵が仕留めた戦車の黒煙が大きく沖縄の空を汚している。
遠くで、対地任務のサンダーボルトの爆音が鳴り響いていた。
この戦いは何時まで続くのか。あの、対戦車班の無反動砲が尽きるまでか?

「なぁに、今じゃ小銃の弾よりか、コイツの方が在庫に余裕がありますよ大尉殿」

無神経な対戦車班長の言葉を聞き、大尉は空を仰いだ。
第七〇高地、後に嘉数の戦いと呼ばれる血染めの丘の戦いはまだ半月程続く事になる。
対戦車班が損耗率7割を出して築いた戦車の墓場は、文字通り米軍の南進を血肉を持って遅らせたのだった……。

おわる

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最終更新:2014年10月27日 15:32