984 :taka:2015/01/20(火) 02:59:17
後付というかつじつま合わせのお話


雲霞の如く、押し寄せてくる機影の群れ
F4Uコルセアが機銃を乱射し、SB2Cヘルダイバー爆撃機が唸りを上げて急降下する
TBF/TBMアベンジャー雷撃機が海面スレスレに接近し魚雷を放つ

それらを引き受けているのは、座礁した1隻の巨艦だった

「右40、仰角四十度、撃てー!!」

三連装の機銃が唸りを上げて、群がってくる敵機に必死の抵抗を行う
敵戦艦との死闘で大幅に対空能力が落ちていたが、それでも銃座は生きていた
それらの生き残りが、空を舞う敵機へと向けられている
湾内で決死の攻撃を行っている、残存艦隊へと振り分けられないように
この艦で、彼らの攻撃を少しでも長引かせるために

もはや、艦は動けない。操艦の天才が載っていても、動けないのでは回避しようがない
急降下爆撃も、雷撃も回避できない。ひたすら対空攻撃で阻止するしか無い
そしてそれらの過半は既に破壊されていた
結果は、すでにでていた。だが、彼らはそれでも戦った
残存艦隊の盾として、沖縄の盾として
その大和に、近くに居た米軍の艦船までが近寄ってきた
辛うじて残っていた高角砲が、それらに対応する
ああ、ここで主砲が撃てれば、どれだけ戦えるものか

「敵駆逐艦、命中!」
「よし、撃て、撃てぇ!!」

高角砲弾が命中した駆逐艦が火を吹きながらも魚雷を投射する
その魚雷の横をアベンジャーが投下した魚雷が競うように突き進んでいく
大和の両舷には無数の水柱が上がり、時折強烈な爆発音が響いた
水柱に紛れて脱落する銃座もあり、その攻撃の苛烈さを示した

「魚雷をすべて撃ちこめ! 大和、大和、この化け物め!!」

多大な損害を受けて湾から逃れていく米船団を守る護衛艦からも砲撃が加わる
まるで火山の如く噴煙を艦全体から噴き上げながら
それでも、大和からの砲撃と銃撃は止まらない
急降下したヘルダイバーのパイロットが、投弾直後に銃撃を受けて機体から火を噴きつつ絶叫した

「沈め、沈め、この化け物がぁー!!」

水面下では、座礁と無数に命中した魚雷で凄まじい浸水と崩壊が始まっていた
多重の隔壁と堅固な水密区画を持ってしても、これらの破滅は止められなかった
船体の下層に居た機関兵は魚雷の爆発と船体の破壊、圧潰するのではないかと思える程の水流に飲まれ死んでいった
機関兵達が死守していた動力も機関室の全滅と共に落ち、大和の抵抗はとうとう途絶えた
船体上の構造物も徹底的に破壊され、その容姿は陸軍士官を持ってして「美しい」と言われた大和の姿はもはや残ってなかった……

米軍の攻撃隊が搭載していた爆弾と魚雷が尽き、護衛艦が湾から撤退した頃黒雲に包まれた大和が姿を現した
それでも暫くの間、米軍機は寄って集って大和に銃撃を繰り返したという
艦爆などは、後部の機銃すら大和に向かって撃ちこんでいた。まるで、不死身の猛獣を殺しきると言わんばかりに……

それからしばらくして、湾内にスコールが降り注いだ
黒煙と硝煙に満たされた空が拭い去られる
その眼下には、破壊し尽くされた大和が佇んでいた……

雨水に濡れた銃座の一つで、人影が動いた

「う、ちだ。大丈夫、か?」
「ああ、生きてる……かぁ、目が、イテェ」

それでも、彼らは、生き延びていた

終わり

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最終更新:2015年01月22日 13:20