566 :ひゅうが:2016/06/26(日) 02:44:53
――神崎島に人類が到達したのは、日本列島からか、それとも南島から海上の道を黒潮に乗ってか、明らかにはなっていない。
神崎島の文献記録において最も信頼がおけるものは常世神宮の古記録であり、平安時代末期(隠岐本新古今和歌集の古写本が記録として存在していることからそれ以前には人類が確実に到達していたのは確実である)の「神前島志」によれば、日本神話の蛭子神が流した涙が砂となり島へと変じたという。
この一節には君が代にうたわれるような「さざれ石が巌となる」という伝説に通じるものがあるために、平安以前の古伝説を反映しているということ以上は確かな証拠は存在しない。
神崎島の特殊性、とりわけ人間を介した特別な処理を施していない物品の異常な風化や植生の代謝により、遺跡と呼べるものの特定がほぼ不可能である。
ために我々はこの古記録をたどってのみ神崎島の歴史をひもとくことができない。
同島の原住民とされる人類とは異なる知的生命体である「妖精」もまた本質的にはこの古記録に依存しており、両者は長い歴史の中で一体となっている。
だが、彼らの創世は「島志」においても「日瑠仔神の歌より生まる」以外は沈黙している。
そのため、我々はまずはこの「島志」の概略を語ることとしよう。


まず登場するのは、「島志」において蛭子の次に登場する速佐須良比売(ハヤサスラヒメ)である。
大祓祝詞において有名であるこの姫神は、外界から島に人を連れ来る役割を負っている。
島にはじめて人が到来したのは、大波で海へ流された崇神天皇の皇女 豊鍬入姫命(とよすきいりひめのみこと)であるという。
彼女は、伊勢神宮を伊勢の地に遷座させたことでしられる倭姫命(やまとひめのみこと)の前に天照大神をまつろうとして失敗したと記紀に記されている。
「このとき天津日嗣に巖をあわすなかれ」と此花咲夜姫(コノハナサクヤヒメ)が怒る描写が「島志」にあることから、この記録は太平洋側で繰り返される大地震と大津波が火山噴火と連動するイメージを持っており、「国記」などの古伝をつたえているものと考えられる。

そうして海へ流された命は、罪を流す神であるハヤサスラヒメによって常世へと流され、天克柱(あめのいけるもり)から流れ出る常世蜜(とこよのみつ)を飲んで不老不死を獲得したという。
だがその代償として島から出ることはかなわず、蛭子神をまつって神社を創建した。

これが常世神宮の開基であるという。


そして、続いてあらわれるのが弟橘姫。
日本武尊の妻として知られ、海に身を投じることで荒海をしずめて尊の渡海をたすけたといわれる姫である。
彼女もまた島へ流され、白鳥へ変じて常世へ渡ってきた尊との間に子を産む。
現在の常世神宮の神主はその家系であるという。
そして、「巖の命を求め悪神の類が神の眠りを妨げぬよう」に月読尊に願い出、常世とこの世を別った。
神の前にある島であり、また常世とこの世の境、すなわち「サキ」であることからこの島は「神崎島」と呼ばれるようになった…というのが「島志」の冒頭、いってみれば島の創世記であった。


まず注目できるのは、この創世記において、島の開祖とされる豊鍬入姫命が「罪の子」として扱われていることである。
彼女は紀国造の家系ではなく、実のところ此花咲耶姫の姉である巖長姫(イワナガヒメ)と崇神帝の娘だというのである。
よく知られているように、彼女と此花咲耶姫はともに天孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に嫁いだのだが、醜いために送り返され、そのために天孫の寿命が短くなったという。
しかしながら崇神帝との間で再び血がひとつとなった。
さらにはこれを知った皇太子(のちの垂仁天皇)が皇后へ迎えようとしたことから、此花咲耶姫と大山紙神の怒りを買って遠ざけられた、というのがこの神話の要点であろう。

さらには常世において、彼女は神へと変じ、不老不死を司る神となる。
そのために島には「流されてくる」ものをしかすめず、またそれを求めるものを拒むために「常世とこの世を分けた」のである。

この「排除され、流されたものを受け入れる」という構造はのちの「島志」における基本構造となっており、ここに古いマレビト信仰をみてとることができる。


蛇足ながら、常世神宮では蛭子とともにこの豊鍬入姫命をまつっており、彼女は今も神崎富士と呼ばれる島の最高峰周辺の深い森を行脚し、時折神宮に帰り来るという。
残念ながら我々はあうことがかなわなかった。


                      柳田國男「神崎島考」(1937年)抄より

567 :ひゅうが:2016/06/26(日) 02:52:52 ひとまず、考えているところまで。
いろいろ手を出し辛いネタをまとめてごった煮にしてみました。
欠史八代とかありますので、まぁ色々…ねw
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最終更新:2023年11月05日 17:04