108 :ひゅうが:2016/06/30(木) 22:37:03
艦こ○ 神崎島SS――「接触」


――昭和12年1月8日 太平洋 連合艦隊第1艦隊 第1戦隊旗艦 「長門」


「しかし、本当なのかね?正体不明の新島が出現したというならまだしも、そこから戦闘機の迎撃を受けたというのは?」

「間違いありません。でなければ、演習予定を繰り上げてまでGFにお呼びがかかりません。それに――」

「わかっているよ参謀長。由々しき事態だ。『日の丸をつけた未確認戦闘機が謎の島にいる』というのは、ね。」

連合艦隊司令長官 米内光政中将はそういって双眼鏡で彼方を見つめるしぐさをした。

「単葉引き込み脚の戦闘機。そんなものを持つ勢力が小笠原のすぐそばの島に居座っているか。」

「陸軍も大慌てでありました。」

「無理もない。昨年の2.26事件以来陸さんは神経を尖らせている。もしや、クーデターを起こすような連中がシナか…ことによるとソ連あたりに逃げ込んではいまいか、と。」

「まさか。と思いたいところですな。」

「連中の統制経済は『国家』社会主義だからな。陛下の問題を除けばむしろマルクス主義者のそれに近い。」

「気を付けてください。」

参謀長の岩下保太郎少将は声をひそめた。
彼は、親友の井上成美と同様に海軍内でも左派と呼ばれてにらまれる立場にある。

「構わんさ。君が心配するところのヒットラ総統のアカ嫌いにしても要は近親憎悪だ。」

共産主義などという理性が生んだ妖怪に国家主義をブレンドしたキメラだ、どんなことでもやってのけるだろうよ。と米内はいった。

「ま、それに加えて、比島でもアジア艦隊の無線通信量がにわかに活発化しているらしい。
どうやらかぎつけたな。」

「フィリピン海はグアム航路の通り道ですからね。圧倒的に神戸や横浜航路を通る我が国の船が多いとはいえ、それでも我々に遅れること数日で気付くあたり米国の目と耳は鋭敏であります。」

「ようやっと落ち着いたとはいえ、満州事変以来極東アジアはきな臭いからな。
わが軍港のすぐ沖合を潜水艦が偵察していても不思議はない。それに、かの島が本当にいわれる通りの規模なら、いち早く領有宣言を行えば我らの喉元にくさびを打ち込める。」

ちら、と米内は艦橋の中央部の海図台にならべられた写真に目をやる。
この戦艦「長門」の艦橋は、建造以来20年を経ているためにいささか古びてきている。
それでも連合艦隊所属艦艇300隻以上を統一指揮するために戦艦の中では設備は充実している方だった。

戦艦。巨大な大砲とそれに耐えられるだけの1万トン以上の装甲を身にまとった巨大ないくさ船。
排水量、すなわち全体重量で4万トンに達するこの巨竜の群れを持つ国家は太平洋を挟んでたった2つ。
それぞれが5億という巨大な人口と莫大な資源を有する中国大陸――より正確にいえばその周辺の海上交通路――を巡って係争する仲であるために、この大食らいの獣たちの休憩所を海上に持とうとする本能は日米ともに共通していた。

109 :ひゅうが:2016/06/30(木) 22:39:20
だからこそ、今日この日の8日前、小笠原諸島父島から何度目かの長距離試験飛行に出た試作大艇の増加試作機(のちに九七式大艇と呼ばれることになる)が見慣れない位置に見慣れない島影を見つけたとき、日本帝国海軍は真っ先に動いたのだった。

一者だけなら勘違いもあろう。
だが、漁船はもとより貨物船や客船からこの報告が入り、さらには再び飛行した九七式大艇が水平線上に巨大な陸塊を認め、それを迎撃に上がってきた「引き込み脚式の」単葉戦闘機が警告を発したことで疑念は確信に変わった。


「こちらカンザキトウチンジュフ所属機、か。日の丸をつけた機体にしては『あり得るはずがない』機体だな。」

「はい。わが帝国が持つ戦闘機はいずれも固定脚。実用化に成功しているのは…」

「英国、アメリカ。しかし太平洋への配備報告はない。ドイツは遠すぎる。しかし――」

「ソヴィエトは実用化している。I-16だ。だからこそ我々はここにいる。」

確かにその通りだった。
だからこそ、海軍は10日以降に予定されていた演習予定を強引に繰り上げ、連合艦隊第1艦隊をもって現地に急行する策をとったのだ。
兵機一本化などの明治以来の懸案に手をつけつつあった海相永野修身大将は、控えめに言っても優柔不断だった大角前海相とは違うところを見せることを望んでいたし、晩年を迎えていた軍令部総長伏見宮博恭元帥もこの「ごっつい」行動に賛意を示していた。

何しろ、この新島はまだ誰も領有宣言をしていないのだ。
急がない理由がない。
万が一にも日本に敵対的な勢力が、報告されたように大東島と父島を結ぶ線の中に領土を占めてしまえば、明治以来延々と拡張を続けられた帝国の防衛戦略は破綻をきたす。
万が一のときのために、世界最強の戦艦2隻と、その眷属たち2隻を動員した海軍の選択は、むしろ当然だったといえよう。


「艦橋へ報告!左前方水平線上に艦影見ゆ!」

「さすがだ。」

「何しろ長門ですからね。」

誇らしげにいった艦長であり、男爵でもある鮫島具重大佐に米内は苦笑でこたえた。

「見張り員、艦影は識別できるか?」

「お待ちを…えっ?」

「どうした?」

連合艦隊旗艦ゆえの厳しすぎる規律からはあり得ない当惑したような声。
それに対する叱責も含んだ諮問に、見張り員は見事にこたえた。

「前方の艦は、『長門型戦艦』です!!」

誰もが、言葉を失った。






【あとがき】――よくある接触風にやってみました。
日本本土から近い上に横須賀から一昼夜も飛ばせば到着するために一歩先にたどり着いた形ですね。

112 :ひゅうが:2016/06/30(木) 22:45:35 ありがとうございます。
似たようなパターンですので、なぜ接触にでっかいおふねを持っていったのか、日本の官僚組織にしてはやけに早い行動の理由をつけてみました。
ちなみに、海軍読みとして「カンザキトウ」鎮守府とし、地名は「カンザキジマ」とするようにしております。

115 :ひゅうが:2016/06/30(木) 22:51:19
おお…米内さんはまだ「中将」だw
お詫びして訂正します。

大将を中将に修正

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最終更新:2023年11月05日 16:39