345 :ひゅうが:2016/07/03(日) 20:06:56
艦こ○ 神崎島ネタSS――「接触」その2



「前方300(3万メートル)、長門型戦艦2、さらに後方、未知の大型戦艦2!
まだまだいます!」

「マストに挙がっているのは?!」

「軍艦旗を確認!…旭日旗です!」

「馬鹿な…」

「上空、単葉機複数!」

「こちらも戦闘機を出しましょう!鳳翔と龍驤にはこちらも単葉機があります!」

「『目標』艦隊より発光信号!」

「なんといっている?」

「『こちら・・・カンザキトウチンジュフ所属艦隊。ワレに敵意なし。GF長官殿との会同を求む。』」

長官!と声をかけられるまで米内光政は頭を回転させ続けていた。
軍艦旗だと?
彼らは帝国海軍の軍艦だということか?
いやそれにしても『海底軍艦』や『新戦艦高千穂』のように南洋の孤島で行方不明のわが海軍軍人が秘密の新型艦を作っていたというのか?
しかしそれにしては、多すぎる。
わが連合艦隊が保有する10隻の戦艦のうち、最新鋭の2隻に匹敵するくらいの大型戦艦2を保有し、こちらの知らぬ新型艦――見た目はネルソン級のような箱型艦橋をダンケルク級のような細身にしたような…
いや、なんだあの大きさは?!
長門型が重巡洋艦のような…

「返信。『了解した。そちらの敵意がない限り我らも敵意なし。なれど、艦隊各艦は本海域にとどまり、GF長官のみそちらへ乗り移りたし。』」

「は。」

「長官!」

幕僚たちを代表した岩下保太郎参謀長の声はほとんど悲鳴に近いものになっていた。

「認めるしかないだろうよ。あれは、列強なみの国家でなければ建造できないような大艦隊だ。虎穴に入らずんば虎児を得ずだよ。
水測。未知の新型艦の大きさは分かるか?」

「全長、少なくとも300メートル。横幅は45メートルを超えています。9万トンから10万トンと思われます!
申し訳ありません。長門型と思われた戦艦も、全長270メートル近く、こちらは最低でも5万トンを超えています…!」

「なっ…」

長門艦長 鮫島具重大佐が言葉を失う。
帝国海軍が保有する軍艦のうち最大のものは、航空母艦「赤城」。
全長250メートル、排水量4万トンあまりである。
これは、「世界最大の(巡洋)戦艦」である大英帝国の「フッド」よりひとまわり小さい。
だが、眼前の長門型と思われる艦橋を持つ戦艦はそれを超えているというのだ。

「目標艦より返信!『了解した。GF長官の来艦を歓迎す。』」

346 :ひゅうが:2016/07/03(日) 20:07:27 「ともあれ、向こうが積極的に敵対してくるわけではないのだ。会いにいってみよう。」

「長官。向こうが会いたいというなら会いにこさせるのが礼儀では?」

「あの巨大戦艦を横付けさせる気か?何かあって軍事衝突が起こったとしても、長門と陸奥を失うのは帝国にとり計り知れない損失だ。それよりは、僕一人の方が軽かろうよ。
乗っていくフネにはすまないがね。」

「そういうことなら、我々も同道します。参謀長ですから。」

「ありがとう。だが第1艦隊は即応する必要がある。皆がぞろぞろ行く必要はあるまい。
半分はここに残ってくれ。それに、駆逐艦は狭い。」

駆逐艦に乗られる気ですか?!と目を剥く部下たちに、米内は笑った。

「なに。もしも敵艦隊となった場合は、高速を発揮できる駆逐艦の方が生存の可能性は高かろう?それに、水練の下手な僕でも引っ張り上げられるだろうよ。」

「それはいい。自慢ではないですが私は泳ぎが得意です。長官をおぶって即座に敵旗艦から離れましょうぞ。お任せあれ。」

岩下参謀長がにかっと笑い、艦橋の雰囲気が和らいだ。

「近くにいる駆逐艦は?」

「第9駆逐隊の『時雨』がおります。」

「新鋭艦か。よかろう。それでいこう。『目標』艦へ返信!『こちらは駆逐艦に分乗してそちらへ乗り移る。案内されたし。』時雨へ横付けを命じろ。」

「はっ。」

「さて…あちらはどんなフネで案内でございとくるかな?」

米内はいたずらっこのような笑みを浮かべて再び双眼鏡を握った。
戦艦を派遣して武威を見せつけるか、それとも…

「目標艦隊に動きあり!距離200で完全に停止しました。」

「こちらも停止。後方の第一航空戦隊に直俺と索敵を命令。」

「は。」

「目標艦隊より駆逐艦1隻分派!こちらへ向かってきます!」

「どうやら礼儀正しい連中らしいな。こちらも分乗を急ごう。」



横付けしてきた「時雨」は、昨年就役したばかりの新鋭駆逐艦だった。
それだけでなく、白露型という新鋭艦であるがために2か月前の昭和11年大演習観艦式ではお召艦となった練習戦艦「比叡」の供奉艦として先導役を立派に勤め上げている。
操艦を誤れば大失態であるこの役目を務められることからも、就役間もない「時雨」の乗組員が熟練揃いであることがわかるだろう。
このときの乗組員配置は基本的に変わっていない。
実際のところ、12月1日付で艦長の異動は発令されてはいたが、洋上任務についていた各艦では即日異動とはいかずに今回の事態から発令が取り消されて今に至っているのであるが…

347 :ひゅうが:2016/07/03(日) 20:08:20
「杉野艦長。よろしく頼むよ。」

「はっ!」

艤装委員長から艦長へ横滑りした杉野修一少佐が緊張した面持ちで敬礼をする。
彼は、軍神広瀬中佐の逸話で有名な杉野孫七兵曹長の長男である。
彼ならば、大きな責任感をもって上官を連れ帰ろうと努力することだろう。

「目標艦、相変わらず10ノットを維持しつつこちらに接近。主砲は俯角をとっています。」

「ますます礼儀正しいですね。」

「というより、気を使っているのだろうな。…艦名は、フブキ…吹雪か。」

「わが特型とよく似ていますがやはり違いますね。見慣れない魚の骨のようなものや機銃がやけに増設されていますし、主砲は…」

「砲塔が丸みを帯びている。船体規模も大きい。あの簪のようなものは…そうか。電波探信儀か。」

「電波探信儀というと、航空機対策のために研究されているという?」

「確かな。」

米内は言葉を濁した。
この頃、平時の駆逐艦はその艦側面にカタカナで艦名を記している。
それゆえに向かってくる艦の名前がわかったのだが、彼らがよく知る吹雪型駆逐艦とは艦様が一変していたのだった。
主砲は、高角砲に近い構造の円形の砲塔に。艦中央部の魚雷発射管も三連装からさらに大型化している。
そして何より、艦全体が大型化した上にその艦橋トップには、簪のような物体が設けられていたのだ。

米内もよくは知らないものの、陸軍などは極東ソ連軍が保有する2000機ともいわれる戦略爆撃機を警戒して陸上に電波で敵機をとらえる警戒機を導入したという。

それを受けて海軍でも開発すべきとの話が上がりつつあったのだが…

「見張り員の技量は闇夜の提灯に勝る、か。」

「長官?」

いや。と米内は首を振る。
航空畑の草鹿龍之介中佐が提案したからだからだろう。
その意見ははねのけられてしまったことを米内は知っていた。
彼の友人でもある山本五十六海軍次官がボヤいていたのを又聞きしただけであるから米内としてもよく知っているわけではないのだが。

ソ連、というところで米内の胸がずきりと痛んだ。


「目標艦、フブキより信号!接舷を求む!」

「許可したまえ。念のためだが、陸戦隊員も待機させておくように。」

そう命じたところで、米内は妙なことに気が付いた。

「人影が…妙に少ないな。」


甲板に出ている人影は…

「女…?!」

慌てて艦橋に双眼鏡を向ける。
艦橋の中には、複数名の男女と思しき集団がいたが、その中央にいるのは、田舎の女学校に通うような少女であったのだ。

艦橋はもとより、「時雨」全体に動揺が走り始めた。
それでもきちんと接舷準備をはじめるのはこの頃「訓練に限界なし」として猛訓練を課した成果であろう。
やがて、接舷用の舷梯が渡されると、「彼女」は現れた。

「はじめまして!神崎鎮守府所属駆逐艦 吹雪艦長…神崎吹雪であります!
米内光政長官を艦隊旗艦にご案内する任務を仰せつかり参上しました!」

ぽかーんと口を開ける乗組員たちの中で、反射的に答礼できたのは士官クラス以上だけだった。

「案内御苦労。宜しく頼む。神崎艦長。」

一瞬表情がゆるみかけた相手方の艦長はすぐに「はっ!」と答礼し、細かな説明をはじめた。

手順自体は、海軍軍人にとってはありふれたものだった。
それに、吹雪と名乗ったどう見ても少女と思われる艦長はよくみれば外洋の波で揺れる駆逐艦の艦橋でなんでもないことのようにバランスをとっている。
どうやら、ただの悪戯という説は否定しなければならないようだった。

「さてさて、行く先は竜宮城かはたまた…」

348 :ひゅうが:2016/07/03(日) 20:10:29
【あとがき】――というわけでブッキーに案内をお願いしました。
彼女の姿は現代の海自礼装相当。なので、パンツ!パンツです!はしません。
あと駆逐艦でありますから、海上の何もないところでずっこけることも…

353 :ひゅうが:2016/07/03(日) 20:25:27
あと修正事項

赤城の全長→250mでした。お詫びして訂正します。

270mを250mに修正

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最終更新:2016年08月07日 16:16