524 :ひゅうが:2016/07/05(火) 22:50:01

  艦こ○ 神崎島ネタSS――「接触」その3



「先導艦より信号。『前方ノ将旗ヲ掲ゲタル艦ガ旗艦「やまと」ナリ。』」

「返信。『先導ニ感謝ス。』」

駆逐艦「時雨」は、わずかに速度を緩めた。
が、前方を先導する謎の艦隊の駆逐艦「吹雪」は巧みに速度を上げつつ針路を変更した。

「いい腕だ。」

米内は思わずそう漏らした。
艦という巨大な物体は、針路を変更すると当然それまで進行していた方向向きの運動量が減少する。
学校の数学でよく習う運動ベクトルだけでなく、要は水の抵抗の問題だ。
そのために後続艦はわずかに速度を緩めるかして追突を防ぐのであるが、前をゆく「吹雪」はそれを見越して速度を上げながら針路を「時雨」に譲ったのだった。
しかも見苦しくない程度で。

これができるのは、水雷戦隊のように艦隊運動の訓練をしっかりやっている一流海軍の証拠なのである。

「前方艦、仮称「やまと」より信号。『ようこそ米内GF長官。かんざきとう連合艦隊は長官以下を歓迎す。』」

「情報はしっかり入っている、か。」

「先手を打たれてばかりですか。」

「気に入らぬとはいわないが、やはり薄気味悪いのが正直なところだな。」

参謀長は、ですな。と短くいった。

「横付けできるか?杉野艦長。」

「お任せください。」

一行は、あらためて、停泊状態である戦艦――彼らのいうところの「やまと」…おそらくは令制国からの「大和」――を子細に観察した。
先頭の「長門」型戦艦の拡大版らしき艦の後方に2隻が連なるこの大型艦は、やはり全長300メートルはあるようだった。
横幅は、広い。
これまでの七本脚マストを踏襲している長門型より二回りは広い甲板の上には、所狭しと対空砲か両用砲らしき砲塔と機銃が並んでいる。
機銃はわが海軍の25ミリではない。
これは、縦一列の単縦陣を形成する戦艦部隊だけでなくその左右を固める巡洋艦や駆逐艦たちと同様だ。

525 :ひゅうが:2016/07/05(火) 22:51:32
「戊式40ミリ…とは少し違うか。その発展型だな。」

まるでハリネズミのようだった。
甲板上から雛飾りのように高角砲と機銃が配置され、細身の天守閣のような塔型艦橋にはそれより小ぶりの機銃が飾り付けられるように配されていた。
病的なまでに空をにらんでいるようだ。

そして、艦橋後部のマストにはいくつものアンテナらしきもの林立している。
奇妙なことに、艦橋以外にはほとんど人気がない。

「でかいですな…」

そう、参謀長が漏らした。
確かに大きかった。
やはり10万トンに迫るか、それを上回っているだろう。

「舷梯がおろされています!」

「長官。あそこに直接つけます。」

「いいのかね?」

「我々は長官を再びお迎えするまであすこを離れるつもりはありませんので。」

杉野艦長は言葉に力を込めてそう言った。


舷梯とは、艦の側面から海水面上や埠頭などに向けて下ろされる乗降用の階段のことだった。
英語ではラッタルともいう。


米内をはじめ、GF首脳部を構成する面々は、15メートル近い高さを一息で登り切った。

「捧げぇ、銃!」

若い水兵たちが一斉に動作する。
制服は、やはり帝国海軍のそれとは違っていた。
ヒューという笛の音が波の音と溶け合う。

甲板の上には、兵士たちの列に加え、男女比半々程度の黒い正装をした士官たちがこちらを出迎えていた。
思わず米内は眉を少し動かす。
ネクタイを締めた姿の軍装は、数年前に来日したドイツ第三帝国海軍のそれに似ているように思えた。
国籍は…やはり見分けにくい。
東洋人のようにも見えるが、中には西洋人らしいものもいる。
髪の色も、様々だった。
さらに、年齢が若い。
どう見ても30代前である集団の階級章が「ベタ金」だったのだ。
つまりは将官。
世襲か。


「はじめまして。神崎島鎮守府提督と艦隊司令長官を兼ねております。神崎博之であります。米内光政連合艦隊司令長官閣下。お会いできて光栄です。」

見事な敬礼をした若い男性に、一同も答礼する。
なんだ、この男は。
米内は内心でうめき声を上げるのをこらえた。

雰囲気が一瞬で変わった。
どう見ても、歴戦の海の男の風格だ。
動作や声の端々から潮の香りがする。
只者ではない。

米内は、こんな立ち居振る舞いをする男をかつて知っていた。
その男は軍神と呼ばれていた。
だめだ。この男の前では下手な腹の探り合いなどしてはいけない。
思考能力の落ちた『彼』どころではない。

だから、にこやかに米内は返答することにした。

「米内です。歓迎痛み入ります。
神崎提督。さっそく提督にお聞きしたい。貴官らはいったい何者か?」

「日本人であります。」

「帝国臣民か?」

「否。日本国民であり、神崎島の住民であります。」

「どういうことか?」

「我々は、かつて陛下の臣であり、今再び馳せ参じたものであります。」

「かつて?」

「ええ。かつて。我々が過ごした時間はいささか混乱しております。」

「何をいっているのだ?」

「しかしこの中には、大日本帝国の消滅と国土の占領を経験した者もおります。
おそらく彼、彼女らほど、帝国陸海軍を愛し、しかし憎み、蔑んでいる者はおりますまい。
何しろ、あなたがたはあと8年で国を滅ぼすのですから。」

だが、相手はそれ以上の爆弾を投下した。

526 :ひゅうが:2016/07/05(火) 22:52:30
【あとがき】――さすかん!
とりあえずこんな感じでいいかな?


556 :ひゅうが:2016/07/05(火) 23:55:55
>>524-525 に追記。 かなーり不謹慎かつドきつい話となります。

「粗茶ですが。」

大淀と名乗った参謀らしい眼鏡姿の女性士官を先頭に、コーヒーが配られた。
艦尾にある公室では、白いテーブルクロスごしに向かい合って二つの海軍が対峙していた。

「それで、先ほど言ったことはいったい何の冗談なのかな?」

「冗談ではありません。…気をツケ!」

唐突に神崎提督が席を蹴って立ち上がり、大淀に目配せをする。
雑音の多い録音が流れ始め、巨大な黒板のような光沢のある物体が光りはじめた。


「・・・なん、だと?」

連合艦隊の参謀たちはもとより米内も立ち上がっていた。
そこには、「昭和20年8月15日」という文字に続いて、大日本帝国の軍人たちにとっては信じがたい四文字がならんでいた。

「玉音放送」。

呆然としつつも居住まいを正してしまうのは、宮仕えの性か、それともこの時代の人々に共通する教育の賜物か。

そして、その声は――押し殺したような感情をたたえた、米内のよく知る人物のものだった。
親補されたのはわずか2か月あまり前。
米内がその時のことを一生忘れまいとした栄光のとき。
そのとき言葉を交わす機会に恵まれた御方の声が、共同宣言の受諾を告げる。
残虐な新型爆弾。これ以上の抗戦。人類の文明を破却…
もとより尋常でない苦難を…

「耐へ難きを…耐へ、忍び難きを…忍び…」

映し出されていたのは、映像だった。
男たちと女たちが哭いている。
石造りの橋の前で。

そして、それに続いて、閃光が走る。
やがて、画面には火球が映し出された。
雲の大きさをみると…いったいなんだあの大きさは!?

キノコのような巨大な雲が立ち上り、画面が揺れる。

南の島の椰子林が爆風に揺れ、そして…

映像が白黒に変わり、昭和20年8月6日 広島、の文字。
続いてこちらは総天然色。同、8月9日、長崎、の文字。

一面の焼野原に、「東京」の文字が映し出された時に米内は鬼の形相で立ち上がっている自分に気が付いた。


「何が…何があったのだ!何が!!」

神崎博之はこの世のすべての邪悪を目に映しだしたようなにこやかな笑みを浮かべてこう返した。

「その言葉が聞きたかった。」

560 :ひゅうが:2016/07/06(水) 00:09:46
お分かりかと思いますが、映像自体は戦後の水爆実験のもの。
キャッスル・ブラボー作戦のものを参照させていただきました。
それにWW2のアレをあわせて「わかりやすく」したものです。完全に詐欺の手法ですね。

タグ:

艦これ 神崎島
+ タグ編集
  • タグ:
  • 艦これ
  • 神崎島

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年11月05日 16:41