740 :ひゅうが:2016/07/07(木) 17:25:53
艦こ○ 神崎島ネタSS――「接触」その4



「こんなものを見せて、我々に何をさせる気なのかね?我々はこんなものを見せられてはいそうですかと返す程度の無能ではないぞ。」

「さすがは俊英をうたわれた米内提督だ。話が早い。」

「というよりは君らが露骨すぎるのだ。君らが我が帝国に単純ならざる感情を持っていることは理解したよ。いやというほどね。」

米内光政は肩をすくめた。
ここで腹の探り合いをする気がないのは理解した。
映像の持つ魔術的な作用も。

「わが鎮守府は、今後約70年間の医学的・科学的成果を大日本帝国に提供する用意があります。
加えてわが鎮守府が実効支配する島嶼のうちいくつかを防衛目的で提供し、さらには本島から採掘される豊富な資源も。」

「具体的には?」

掛け金を釣り上げてきやがった。と米内はもとよりGF司令部の面々の表情が固まる。

「まずは年間40万バレルの製油済み重油・軽質油・高オクタン価ガソリン。
同じく年間30トンの金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデンなどのレアメタル各種年間3000トン程度。
高品質調整済み鋼材100万トンもおつけしましょう。もちろん無償で。」

さらりと挙げられた数字に今度こそ参謀どもが目を剥く。

「加えて、南鳥島北方、大東島東方、伊豆諸島西方の泊地。
ドイツ製のそれを桁で2つほど上回る精度の新品の工作機材、そして――わが神崎島鎮守府の保有する兵器類とその部品も。」

「…剛毅な話だ。」

それだけの物品を生産する能力があるということか?
しかし、本邦の石油消費量は現在のところ年間450万トン――多く見積もっても28万バレル。
そのすべてを賄ってのけるだけの石油を提供するという。
それはすなわち、帝国海軍のアキレス腱である石油問題が解決することを意味する。
さらには、帝国海軍が決戦海面として想定するフィリピン海から太平洋にかけての泊地まで。
そして、兵器類。
これは…今乗るこの巨大戦艦も、ということか。

「それで。そこまで大盤振る舞いしたのだ。何を望む?帝国臣民ならざる日本人。」

「大日本帝国への編入。」

ぴしゃりと神崎提督はいった。

「我々は、帝国陸海軍および帝国政府に大きな疑念を抱いておりますが、不忠や叛逆をたくらむようなことはいたしませぬ。
理由は、お分かりでしょう?」

「君らが、未来ないしは別の世界から来たというならそれも当然だろう。
一夜にして深い森林を有する巨大な島が出現するなど、尋常なことではない。」

そう。
彼らは、自分達が何者かという問いに答えていない。
ただ、巨大な島を前にして自らの力を見せ、映像を見せ、要求をしているのだ。
映像を信じるならば、だが。

しかし、この交換条件をみるところ、あの島に先に到達したのは彼らである。
でなければ資源採掘量を詳細に算定することも、製造能力をさらりと述べることはできまい。
あの島は彼らごと、唐突にこの世界に現れたというのが自然な解釈だろう。

「だが、よいのかな?
帝国へ編入されれば、君らはその帝国政府のもとに統治され、艦艇は我々帝国海軍のものとなる。
我々としてはもろ手を挙げて歓迎するが。」

741 :ひゅうが:2016/07/07(木) 17:26:32
「ええ。しかし帝国政府に島とそこに暮らすわが鎮守府の『市民』をあなた方のもとに引き渡すことはできない。」

「それが理由か。資源供給の。だが貴官は琉球処分を忘れたのか。朝鮮併合を忘れたのか。
わが帝国は国内政権を許さない。」

「承知しています。ですが戦争は避けるべきだ。」

「やってみようじゃないか。この島にはそれだけの価値があるのだろう?ならば帝国のものとする。」

「結構。ならばわが鎮守府の保有する戦艦17 空母24 航空機3000をもって帝国海軍を殲滅し、そのまま放置いたしましょう。わが鎮守府には帝国本土を統治する意思も能力もありませんからね。」

視線がぶつかる。

「帝国に属しはする。しかし安易には従いはしない気か。
どうやって?」

「畏れ多くも、畏きところに奏し奉る。」

「貴様!!」

憤怒の表情で米内は唾を飛ばす。

「外道が。見切ったぞ。貴様らはあの昭和維新を呼号したバカどもと何の変りもない。
何が不忠はしないだ。
貴様らこそ日本の禍。貴様らこそが罪悪だ。この米内、艦隊が全滅しようとも貴様らを滅ぼしつくし、もって宸襟を安んじ奉る。」

「実に結構。その頑迷さをもって貴官らが日本を滅ぼしたことを確認できた。
かかってこられよ。」

GFの参謀どもが立ち上がる。

対して、神崎提督側は男女の士官たちが鋭い目でGF側を睨みつける。


対峙すること1分余。
米内は鬼の形相を崩さぬままに問う。

「問おう。貴様何者だ。」

「ある日本人の亡霊。」

「問おう。貴様ら、何者だ。」

「太平洋戦争において奮戦し、その悉くが水底へ斃れた『軍艦の英霊』たち。」

「問おう。亡者ごときが何をなす。」

「再びの護国。此度は国を焼かれ、国民に塗炭を舐めさせぬよう。」

「問おう。なぜ帝国に叛す。」

「再び国を焼かぬため。」

「問おう。――ならば何を護る?」

「1億の民を背に立ったある御方と彼の愛した民を。」

742 :ひゅうが:2016/07/07(木) 17:27:09

その言葉に、米内は苦いものを飲み込んだような表情を面に出した。

ゆっくりと、座る。

「帝国では…役者不足か。」

「負けた、と言いたくないがために国を滅ぼすような自尊心のみ肥大化した組織を信用するのは難しいでしょう。誰でも。」

「そう。そうだな。たとえその中には廃墟から国を新たに作り直した傑物たちがいるとしても『僕』なら色目で見るだろう。」

やっと理解に達したか、という表情でこちらを見る神崎提督側の面々に、米内は疲れたような目を向ける。

「軍艦の英霊、か。信じられぬが、突拍子もないことを言うからにはその証があるのだろう。」

「はい。たとえば…陸奥などは米内長官の秘密を知っていたりも…」

「なるほどな。検証はあとに任せるとして、君らはあくまで君らの体制を守りつつ帝国を護るつもりか。
そのためには何でも利用する。」

「防衛には協力しましょう。しかし、使い潰されるのは御免です。」

743 :ひゅうが:2016/07/07(木) 17:28:05
ゆえに…と神崎提督はいった。


「帝都東京において、わが神崎島の『政権を維持したままでの』日本領編入を願い奉りたく。」

「帷幄上奏か。少し違うが。」

帝国憲法によると、軍の統帥権は天皇のみが持っている。
実態はその行使にあたって陸海軍と政府による曖昧な文民統制がとられている国民軍なのであるが、それでも連合艦隊司令長官にも上奏を行う権利があった。

「そうでなければ、握りつぶされてしまいます。」

「よろしい。」

米内はいった。

「すべては検証を待ってからだが、今ここでは君の要求を容れよう。
どちらにせよ、新島発見報告は満天下に宣言する必要があるからな。」

「ご配慮、有難く。ついては、国際水路機関にこれを提出していただきたく。」

神崎提督が目配せすると、彼の横に座る女性士官が鞄から黒い筒を取り出す。

「測量済みの神崎島地図と水路図です。歴史的経緯などについてはこちらに…」

「はじめから計画通りか。抜け目のないことだ。」


――1937(昭和12)年1月8日 午前11時30分。
連合艦隊司令長官米内光政名義で全周波数帯に対し「新島発見」の宣言が発せられる。
「なお、最低数万の島民は日本人」との但し書きと即刻編入の許可を求める米内からの電文を受けた広田内閣は国土への編入を即日閣議決定。

開催中の帝国議会においてこれを公表するとともに、国際放送においてこれを諸外国に通知した。
同日、米国の定期航空航路に属するチャイナクリッパー水上機が神崎島を視認。
アメリカ本土に報告を上げていたが、迅速な対応により日本側はこれに十数時間先んじることに成功する。

帝国議会では万歳三唱によって新領土の編入が祝われ、早くも新領土の開発計画が議題に上がり始めた。
だが、これと同じ日、帝都東京にたどり着いた水上機から大量のフィルムが運び出されたことや、そのフィルムある官庁へと向かったことに気付いたものはごく少数だった。

これを受け取った人物の名を、鈴木貫太郎。
彼は、走り書きのような文章を一瞥すると、麹町の海軍予備役大将 百武三郎に電話をかけた。

744 :ひゅうが:2016/07/07(木) 17:29:43
【あとがき】――以上です。書いていて地雷原でタップダンスしているような気分になりました。
重いネタは嫌いな人も多いみたいですので、この辺で止めておくべきかな…

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最終更新:2023年11月05日 16:43