398 :ひゅうが:2016/07/11(月) 19:20:34
艦こ○ 神崎島ネタSS――「接触」その6



――西暦1937(昭和12)年1月20日


「この協定が、西太平洋上における平和を意味するものとなること、そして『四か国』がともに友好を深めあうことを願ってやみません。」

生真面目そうなクイーンズイングリッシュで述べられたスピーチに、拍手が響いた。
記者だという「青葉」や、急きょ艦隊から報道班経験を有する士官を記者にしたてた連中がフラッシュをたき、四人の提督が握手を交わす。

南方の太陽が提督たちを照らし、続いて「鎮守府」本庁舎の尖塔に島の旗である海色羅針旗とともに日の丸が掲げられた。
本庁舎前に急きょ設置された旗竿にはためく英国や米国海軍旗、そして帝国海軍の軍艦旗を見下ろすようにはためく姿に、式典に招かれた連合艦隊の士官や兵士たちが万歳三唱を叫ぶ。

この瞬間、神崎島とその管轄区域は法的に大日本帝国領土へと編入されたのだ。

現地政権として「鎮守府」は存続。
軍事協定として現地軍の司令官同士が「相互不可侵」と「相互承認」を交わすという変則的な形式がとられたのはひとえに彼らの軍事力があまりに強大であるためだった。

むろん、本土からは有形無形の要望が伝えられていた。
まずは、交渉と聞いて飛んできた外務省。
外務省の干渉にこの島を「海軍の利権」と認識した海軍省や軍令部。
そうはさせるかと口だけをはさむ陸軍参謀本部。
得点を狙う内務省。
何かの匂いにはしごく敏感な政治家たち。
そのいずれもが、抜け駆けをしたい若手であったり非主流派の老人たちであるあたり乾いた笑いしか出ないが、それも宮中から米内に全権委任が表明されたことで沈黙する。
適切な援護射撃は、鎮守府側が送ったシグナルに対して宮中が機敏に反応したことを意味している。

つまりは脈ありということだ。

「これからが大変だぞ…神崎提督。」

米内は少し意地悪そうに、離れた演壇で米英の提督たちと歓談する神崎に視線を送った。

「君らの提供した資料の内容に、帝国はおののいている。だがなぜかあったという君らの言葉を信じるなら、そのうち欲深いものは『もっと、もっと』と要求だけが肥大化しはじめるだろう。」

米英の艦隊司令部に属する人々は、神崎島側や我らがGFの首脳陣と歓談したり、神崎市から式典に招かれた人々とめいめい交歓している。
色とりどりのフルーツやケーキにかぶりつくものも多い。
何しろ交代の上陸とはいえ、三大生理欲求のひとつを満たすことができなかったのだ。
そのかわりに食欲を増進するのは実に人間的な反応であった。

「その前に…主上の懐に飛び込めるか。まったく不敬だが、それしか鎮守府存続の道はないぞ。もちろんそれに反対する者も多いだろう。」

領土欲や軍事的欲求に正直な連中などは国賊だの奸賊と罵るだろうし、当然与えられるべき利権をかっさらわれた者たちも不満を抱くだろう。

「それでもゆくというのか?神崎提督。
この閉塞感に満ちた灰色の祖国を救うために?」

米内のささやきは、まるで自分に言い聞かせるかのようだった。
周囲の気温が下がったようだった。

「ああ、そうか。」

米内は、ふと神崎提督の横に侍る「艦娘」の表情に気付いた。
そしてそれを見返す神崎の瞳も米内は見逃さなかった。

「自分でも何者かがわからぬ者がよって立つのは、自身と共にある者のためか。
要するに自分の家族のためにお前は大日本帝国を救うつもりなのか。」

なんという傲慢か。
万世一系の皇統を有する(ということになっている)東洋唯一の列強の、一億の未来はたったそれだけのために救われるのだ。
それもおそらくはただ「少し寝覚めが悪い」程度の気持ちで。

「だが気に入ったぞ。貴様ならどのようなことをしてでも家族を守るだろう。
祖国だ国士だというよりよほど信用できる。」

知ってか知らずか、つ、と神崎提督の目が米内を射抜いた。

「この未来は、俺のポケットには大きすぎるな。」

思わずくしゃみをした。



【接触 了】

402 :ひゅうが:2016/07/11(月) 19:35:35
彼が何をあきらめたのかはご想像にお任せしますw

タグ:

艦これ 神崎島
+ タグ編集
  • タグ:
  • 艦これ
  • 神崎島

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年11月05日 16:47