532 :ひゅうが:2016/07/12(火) 17:22:57
艦こ○ 神崎島ネタSS――「2月26日」その1
「わざわざ2月26にしなくともよかったのではないですか?」
「いえ、先方がこの日にちが空いているといっていましたからね。」
「提督を囮にするようで気が進まないのは私も同じよ。」
「私たちの中で交渉ごとが得意なのは、元外交官の妖精さんのほかはお前くらいしかいないからな。
私はご覧の通りだし…大和は、なんというか箱入り娘だ。」
「むぅ!」
「それに、守り切れるだろう?大淀。お前なら。」
「ええ。もちろん。」
「うわぁ…なんてドヤ顔…わ、私だって!初期艦の誇りにかけてお守りします!」
「私の決め台詞をとらないでください!」
――1937(昭和12)年某日 神崎島にて
――1937(昭和12)年2月26日 三浦半島 観音崎沖上空3000メートル
「予定通りなら間もなく見えてくるはずだ。」
『本当にくるんですかね?そんな時間通りに。』
無線の向こう側からは、部下であり腐れ縁の赤松貞明空曹長の軽口が聞こえてくる。
試験配備されたばかりの航空無線電話機からは、鼻をすする彼の息遣いまでもが明瞭に感じ取れた。
このバカが。昨日はあれほど外出するなといっておいたのに、また女遊びで腹を冷やしやがったな。
「来るといったら来るのだろう。どうやってかは知らんが、飛行艇であることには違いはない。」
言っておきながら、柴田武雄少佐は96式艦上戦闘機の操縦席で顔をしかめた。
横須賀航空隊に属する彼らの機体は、伊豆大島上空で「彼ら」を待ち受けていた。
もちろん戦闘が目的ではない。
海軍上層部直々に指名された「エスコート」がその任務だった。
『少佐ぁ。神崎島ってのは女も軍人やってるそうですな。ここはひとつ…』
「馬鹿者。同じ帝国臣民といっても相手は1000年からそこら大海の中に隔絶されていたおとぎ話のような存在だ。
怒らせたら切り捨て御免な旧時代のようなことになるかもしらんぞ。」
『うへぇ。それは困りますな。』
まったく…と毒つきながら、柴田は高度3000の薄い空気を絹のマフラーで温めながら吸い込む。
彼の元従兵であったこの赤松は、Gに耐えにくい体質である柴田を空の上では若輩扱いするきらいがある。
それは、彼が開発した旋回戦法により赤松に空戦で勝利してからも変わっていない。
守るべき上官として彼なりに親切をしているのは分かるが、どうもこの女にもてる男は不真面目に聞こえてしまうから困る。
2週間前に装備されたばかりの空中電話機が装備されてからは、この部下の軽口が明らかに増えたことも、柴田の呆れようを深くしていた。
まったく子供のようだった。
533 :ひゅうが:2016/07/12(火) 17:23:49
柴田は、飛行眼鏡の中で目を細めながら、周囲を見渡す。
と、「上の方から」降下してくる機体があることに気付く。
「おいおい。あれは…」
『でけぇ!この距離でこれは…いったい何メートルあるんだ?』
「しかも速いぞ。」
全幅は70メートル以上あった。
銀色のジュラルミンむき出しの機体が高度1万程度から降下し、まっすぐ彼らの方向へ向かってくる。
速度は…相対速度からすると270ノットは出ているじゃないか…
「っと…仕事をこなさなければな。」
柴田は無線機のつまみを握り、指定された周波数にあわせた。
「こちら、帝国海軍横須賀航空隊。貴機の所属、目的を知らされたし。」
高めのアルトボイスが返ってくる。
『こちら神崎島鎮守府所属 大型輸送飛行艇「蒼空」 無線符牒「ハマナ」。
我々は鎮守府提督を帝都東京まで送迎中です。』
「了解した『ハマナ』。これより貴機を誘導する。ようこそ日本へ。」
ちょっと変だろうか。と柴田は思った。
何より相手は同じく日本人であるらしいのに、ようこそ日本へはないだろう。
『ひゅー!』
「赤松!失礼しました『ハマナ』。」
無線の向こうの女性はくすくす笑っている。
「構いませんよ。それより赤松というと…もしや赤松貞明さんですか?」
『俺も有名になったものですな少佐!』
「頼むから黙っておいてくれ…この通信は横須賀でも聞いているんだぞ…
ハマナ。少し速度を落として浦賀水道から竹芝桟橋に向かってください。」
『了解しました。エスコートをお願いいたします。』
「お任せを。」
ゆるやかに旋回して柴田は機体を「蒼空」の横につけた。
近くで見るとより大きさが際立つ。
全長は60メートルあるだろうか。
飛行艇らしく高翼配置の銀翼の上では、8発のエンジンが回転していた。
制式化されたばかりの97式大艇と違い、翼に向けた支柱などはない。
総二階建ての機体は機首の部分、操縦室の部分だけが三階建てであるようだった。
そして、速度はかなり速い。
250ノット…毎時450キロは出しているだろうか。
当然、速度を上げて追いつこうとする96式艦上戦闘機は置いて行かれる。
ややあって速度を落とした「蒼空」は、200ノット(毎時374キロ)近辺で再び巡航をはじめる。
「本当に、とんでもないな。」
神崎島から帰ってきた艦隊の乗組員から聞いた話を耳に唾をつけて聞いていた柴田だったが、目の前で空を飛ぶ巨体を見ればそんなことは言っていられなくなる。
「羽田管制塔へ。こちらは海軍横須賀航空隊。現在浦賀水道上空に入った。」
感慨はともあれ、柴田にはこれから陸上と連絡をとりつつ機体を誘導するという仕事が待っている。
それも…
「陛下への賓客を運ぶ大事な役目か。武者震いがするな。」
『聞こえてますぜ。少佐。』
534 :ひゅうが:2016/07/12(火) 17:28:15
【あとがき】――続けてみた。いつまで続くかわからないけど(滝汗)
ちなみに機体は、川西K-200大艇。ガスタービンエンジン6発(こちらではターボプロップを採用)搭載する巨大飛行艇です。
史実では計画のみでしたが。
外観はこんな感じ(ターボプロップ版)
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535 :ひゅうが:2016/07/12(火) 17:33:46
おっと。ターボプロップ型だから、エンジン配置だけこんな感じかな?
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最終更新:2023年11月05日 16:50