616 :ひゅうが:2016/07/12(火) 22:01:37

艦こ○ 神崎島SS――「2月26日」その3



さくら会、という名の組織が歴史に登場するのは、1937年1月とわりと新しい。
思想の系譜としては、国家社会主義あるいは日本主義がその名にあたるだろう。
国家による経済統制、すなわち所有と経営の分離、政党の解体による党利党略を離れたところでの政策議論、軍組織の近代化というこの時代にはありふれた思想がその中核に据えられていた。
それほどまでに大正末期から昭和にかけての政争は腐臭を極めていたし、関東大震災に端を発する経済混乱は多くの中間所得層を貧民に転落させ、逆に貧富の格差はおそろしく拡大傾向にあった。
そんな中で、政治宣伝に長けたソヴィエトや、奇跡の復活を果たしつつあったナチスドイツへ熱い視線を送る者が多かったのもある意味当然であろう。
が、その是非は今ここで議論しない。
服や髪型と同様に、思想にもはやりすたりがあるものだからだ。

が、問題は、昨年の2.26事件によって自滅した観念主義的な軍部右派にかわって主流に躍り出た統制派といわれる国家革新主義の信徒たちに激しい逆風が吹いたことだった。
まず、奇妙な命令のもとで各地で皇道派統制派を問わずに将校たちが拘束され本土へ召喚された。
とりわけ関東軍は上層部と現場部隊首脳陣が入れ替えられたといわれるほどの人員が消えている。
彼らの所在は不明であり、まずこれが彼らを不安にさせた。

時を同じくして、唐突に出現した巨大な島が日本本土へ帰属することになったものの、そこへの干渉はことごとくが宮中よりはねのけられた。
若さ特有の激情を爆発させたものもいたが、そんなものは臨時に憲兵司令官へと転じた東条英機によって迅速に摘発されていった。
参謀本部などは、作戦部長である石原莞爾によって事実上の封鎖状態にある。

そもそものところでは彼らは強硬手段に出ることはないはずだった。
だが、奇妙なこの動きに呼応するかのように内務省特別高等警察が激しい動きを見せていたことから若い士官たちや、じっと息をひそめていたもののうちいくらかは確信に至る。
この動きの中心には、あの島がいると。


そもそも、と誰かがいった。

あの島はわが帝国にとっての天恵。
満蒙と違いソ連の脅威のない土地は、迅速な工業化によって内地の過剰人口を吸収できる適地でないか。

ならば、と誰かが応じる。
堕落した資本家どもに渡すのは愚の骨頂。
我々が有効活用すべきでないか。

いやまて、と誰かが制する。
皇道派のバカどものように暴発するわけにはいかぬ。我々はここ1か月あまりの暴挙を止め、国家の革新に再び努力せねばならぬ。

左様。とまた誰かがいった。
ここは探るべきだ。この動きは何だ。なぜ憲兵隊は石のように口が堅くなっているのか。
あの島がもつものは何か。巨大な艦隊がいるとは漏れてくるが。

ならばいいものがいる。との声。
しばし密談。
ではそうしよう。との声。
うむ。我々はスマァトにことを運ぶのだ。

散会。


しかし、その中の何名かから口伝いに情報がわたり、そしてそれを受けとった何者かは本国に報告を入れ始めた。

「ええ。ライヒに恥をかかせたからには報復が必要。御心配なく。どちらに転んだとしてもライヒには損はありません。
はい。上層部が丸ごと消えたあとの手下どもの無能具合をこの国は忘れていますからね。

はい。ではそのように。ラインハルト・ハイドリヒSD長官閣下。」

617 :ひゅうが:2016/07/12(火) 22:02:46
はい、というわけで投下。
糸は長いのだ(意味深)
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  • 2月26日

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最終更新:2023年11月05日 16:51