662 :ひゅうが:2016/07/13(水) 00:03:59
艦こ○ 神崎島ネタSS――「2月26日」その4



たとえばの話をしよう。
たとえば、天皇機関説が政治問題になったときは、自宅への投石に百人単位が動員できた。
たとえば、争議とあれば1000人以上の人間が暴徒となってぶつかりあった。
鉄砲玉はいくらでもいた。
そんな奴らを帝国陸軍も、そして政党も利用した。

その成れの果てがこの光景だった。



まず第一に、サイドカーをつぶすために日本では珍しいトラックが突っ込んできた。
続いて爆発。
これは労働争議の合間に盗み出されたダイナマイトのうちのいくらかが使用された。
発砲されたのはシカゴ・タイプライターと呼ばれるM1921トンプソン・マシンガン。
トラックに隠れていた鉄砲玉どもが発砲し、警護官が一瞬ひるむ。

「天誅ーっ!!」

絶叫が響く。
あわてふためく街道の警備の警察官たちが何かを叫ぶ中、道の左右からわいて出たような集団が抜刀突撃を開始する。
突撃を開始した男は、詰襟軍服だった。
階級章は、大佐。

その後ろに少尉と中尉、烈士の字を染め抜いた鉢巻姿の若者が続く。


停止した車の中で、長嶺喜一中佐が私費で仕立てたモーゼルの撃鉄を起こす。
警視庁警護課の警護員たちが身を盾にすべく待ちの態勢に入る。

だが、神崎提督はそれを目で制し、吹雪と大淀の方に視線を送った。
頷く二人。

「提督、いったい何を…」

言うが早いが、吹雪と大淀は足で車の扉を蹴破った。
扉が吹き飛ぶ。

「えっ?」

警護官の一人からそんな音が漏れた。
音は金属質。
彼女の足元には、いつの間にか分厚い鉄でできたような靴がはまっていた。

「お願い!あたってください!」

発砲するのにそれはないだろう…と誰もが思った。
その衝撃波は、誰もを圧倒していた。

突撃をかけた凶賊も。警護官たちも、そしてようやく態勢を整えていた街頭警備の巡査たちも。
そして、数瞬も経たずに土煙が上がり地響きが足元を揺らした。

見ると、「吹雪」の手にはハイカラな遊びであるボウリングのボール大の四角い物体が握られていた。
その中央からは長さ1尺ほどの筒が二本突出しており、その先端から白煙がたなびいていた。

「撃て撃て!!」

我に返ったのは、凶賊の方だった。
どこから持ち出したのか、小銃がトンプソンと共に向けられる。

「逃げろ!」

「いや。」

神崎提督の冷静そのものな声に、長嶺中佐が殺意すら感じさせる目を向けると、彼は静かにいった。

「吹雪の方が強い。」

663 :ひゅうが:2016/07/13(水) 00:04:30

50メートルもない距離から放たれた一斉射撃は、空中に出現した半透明の何かにあたり、火花を散らして弾き返された。

「提督。」

大淀だった。

「いや、大丈夫だろう。」

神崎はそう返した。頷いた大淀は手にしていた四角い物体を空中に放った。
と、何もなかったかのように「それ」は消える。
音もなく。
ようやく長嶺中佐は気付いた。彼女が持っていたものは、装甲車か戦車の主砲塔によく似ていた。
いや、軍艦の…

「皆さん!」

吹雪が叫んだ。

「撃ちますよ?」

その一言には、おそろしいほどの殺気が込められていた。
まるで数百人分の殺意を濃縮したかのような――

返答は、絶叫と一斉射撃。
薬きょうが落ちる音さえ聞こえるこの距離で、突撃をかけない凶賊は明らかに恐怖していた。
やがて、重い連射音とマズルフラッシュがあたりを圧する。
発生源は「吹雪」。

今度こそ凶賊は凍りついた。


「双方それまでぇ!」

唐突に絶叫があたりに響いた。
長嶺中佐は今頃気付いた。
ここは、もう日比谷公園の近くである。

「武器をおさめよ!御前である!」

馬上から告げたのは、特徴的な丸眼鏡の軍服姿の男――東条英機。
その背後には、数名の飾緒をさげた士官や随伴歩兵に守られた白馬。その馬上には軍服姿の人物。
東条がいちだんと声を張り上げる。

「国事犯ならず、大逆犯となる気か!控えよ!」

のちに昭和天皇と諡号される男性が、冷徹にその場を睥睨していた。

664 :ひゅうが:2016/07/13(水) 00:05:32
というわけで、さくっと一発。
残念!装甲車とかの出番は終わってしまった!

680 :ひゅうが:2016/07/13(水) 00:40:36
おっと。追加しときます。本日はこれにて。

【補遺】


――意外かもしれないが、昭和天皇は自ら電話をかけたことがある。
それも昨年。ちょうど一年前である。

2.26事件の渦中、状況確認のために麹町警察署にひかれたホットラインを通じて自ら状況を諮問したのだ。
ちょうど署長を警護するためのサイドカー担当の巡査が代理で電話に出て状況を言上したのだが、このときの一人称が「朕」であったことから巡査は震えたという。

このときも、宮内省を通じて昭和天皇は自ら状況を確認。
あらかじめ事態を予想して待機していた近衛師団および皇宮警察部隊を自ら率いて出陣されたのである。


泣いて止める侍従たちを振り切って馬上にのぼった昭和天皇の姿は、古の大王のようであったとも、また江戸城に在した将軍家のようであったともいわれる。

そしてこの動きは、蠢動しようとした者どもの動きを完全に封殺してのけた。

退役大佐橋本欣五郎を筆頭とした凶賊どもを制圧すべく「たまたま近くにいた」陸軍部隊や海軍陸戦隊部隊が現場に介入することもできず、一行は駆けつけた見物人どもの万歳の声に送られて宮城へと堂々と行進していったのである。



なお、この直後、数名の若手陸軍士官が「不始末を一命をもってお詫びする」として自決しているが、関連は不明である。
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最終更新:2023年11月05日 16:53