943 :ひゅうが:2016/07/14(木) 22:54:08

 艦こ○ 神崎島ネタSS――「艦政本部の憂鬱」


「これは…反則だろう…」

「なんだ…これは…戦艦だけで数十?」

「あの優男と女学生みたいなのは…こんな修羅場を潜り抜けてきたのか…」

新戦艦検討会議で、思わず漏らされた少壮佐官たちの声。
室内にはカラカラというフィルムを巻き取る音以外に、そんな声と映写機の映像だけが流れていた。

『オノレェ!』

『敵中枢棲姫に命中多数!』

『全艦に打電!「天佑を確信し全艦突撃せよ。われに続け!」』

『さすが提督ネ!Follow me!!』

映像の中はハワイによく似た幻の島、タイヤキ・ヘッド岬砲台は沈黙。
パルフェ・ハーバーに陣取る巨大な水上要塞がすさまじい砲火を吐き出す中、空を圧する超重爆撃機の大軍が必殺の20トン爆弾を次々に投下していく。
それを受け、すっきりした塔型艦橋を有する高速戦艦は、重巡洋艦なみの高速で単縦陣で波を蹴立てて湾内へ突入を開始していく。

後方では、行きがけの駄賃とばかりに叩き潰された、どうみても6万トンを超える見慣れぬ巨大戦艦が燃え盛り、それを特徴づける赤い色の光るストライプが入った船体上部を横転させ、深く穿たれた艦腹を幻の太陽のもとにさらしていた。

『全艦、弾種三式!対地制圧艦砲射撃、照準同調。
生き残りの敵機がくる前に「アイオワ」を救出するぞ!』



「もう戦艦を20は沈めているぞ…なのに…まだ…」

「なんて軍艦(ふね)どもだ!!」

映像は、軍艦が瞬時に少女の姿へ替り、手枷をされた金髪の同じく少女に肩を貸して「海上を走る」という非現実的な様子を映し出し、やがて終わった。

「お分かりいただけましたか?」

疲れたような声で、艦政本部からきた技術士官は言った。
司会を任されているからには、何も言わない艦政本部の上層部から面倒を押し付けられるに足る「何か」をやらかしたらしい。

「わが海軍は…いえ、我々には、今すぐあれだけのフネを作る技術力はありません!
だからこそ、あの島の協力が必要という結論は絶対なのです!」

悲鳴ともとれる言葉だった。
軍令部からは、そんなつもりでは――という無責任な言い訳が返ってくる。
だが、さまざまなものに打ちのめされた技術士官の言葉は止まらない。

「だいたい、3000人がかりで動かす大戦艦をたった一人で動かすなんて、どれだけの真空管のお化けが必要だと思うんです!」

「おい。誰だ要求項目に艦娘再現とかたわけたことを書いたのは!」

「やってみなければじゃない!相手は物理法則なんぞ捻じ曲げてしまう謎の存在なんだ!
理論すらわからないのに作れじゃはじまらない!」

このとき、艦政本部はブチ切れていた。
無茶ばかり言う軍令部に。
彼らは要求書だけ送れば技術はあとからついてくると思っているのではないか?
そんな怒りが彼らを突き動かしていた。


「いや…その…いえ、すみません。ですが…」

軍令部の福留という男がいった。

「あれくらいの大戦艦は、作れないことはないのですよね?」

「なるだけ自力で、という付記がなければね。
なにしろあの映像の送り主が実際に運用しているのですから。」

こいつも貧乏くじか。と技術士官は福留への舌鋒を緩めた。

おおかた、要求をまとめる段階になってちょっとした思いつきが付加されたのだろう。
これだから…
もっともわが艦政本部も、あの映像がなければ…

「なら、あれくらいのものが必要でしょう。」

「なぜ?」

「資料における『戦後』の米空母。米軍はいざとなればパナマ運河を無視する・」

「ドックは?」

「作ります。アテはあります。」

「なら、作れます。」

海軍技術中佐 牧野茂は断言した。

「軍縮条約がなければ、我々は大正時代に『1号艦』…いえ、大和を作っていました。
国家財政の破綻と引き換えに。
なら、材料費・建造技術・最新装備をすべて神崎島持ちにするというありえない好条件を提示された今ならば、10万トン戦艦も建造可能です。
運用上の不都合を無視すれば、いっそ50万トンでもできますよ?
もっともこれはタンカーなどに限られるでしょうが。」

944 :ひゅうが:2016/07/14(木) 22:54:45
――はじまりは、神崎島鎮守府との間で行われた演習映像の公開だった。
巨大な戦艦の姿に、海軍軍令部は瞠目する。
続いて、「太平洋戦争」の記録が渡された。
海軍上層部は恐慌状態に陥った。
やがて、このままではいけないという動きが各所に沸き起こる。
それはおおむねよい方向に作用したのだが、艦政本部と軍令部がようやく設計をまとめたばかりの新型戦艦はその数少ない例外にあたった。

要求項目は肥大化。数度の激しい文書上の罵り合いを経て、調整会議が催され、やがて彼らは開き直った。
無理なものは無理。できるところを頼ろう、と。

それはそうだろう。
20万トン級重雷装高速航空戦艦やら、20インチ砲搭載超大型戦艦が湧いて出てくるくらいに大量にぶつかりあった「深海棲艦との全面戦争」なんて黙示録じみた風景を見せられたのだから。

945 :ひゅうが:2016/07/14(木) 22:55:24
【あとがき】――というわけで、「やったね大和さん!さらに巨大化するよ!」。

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最終更新:2023年11月05日 16:59