143 :ひゅうが:2016/07/16(土) 17:19:48
艦こ○ 神崎島ネタSS――「臨時戦訓検討会議」


――西暦1937(昭和12)年2月28日 海軍軍令部 臨時戦訓検討会議


「貴君らの敢闘に敬意を。」

伏見宮元帥海軍軍令部総長が静かに口を開いた。
それを神崎は「ありがとうございます」と受け取った。

対面には、軍令部を構成するエリートたちがずらりとならぶ。
いずれも、海兵という帝国大学を上回る狭き門を突破し、さらにその上で海軍大学校を出たハンモックナンバー(成績)上位者である。
対するこちらといえば、軍装に参謀飾緒をあしらった大淀。
同じく参謀として付き従う霧島。
機動部隊の参謀という役向きでやってきた瑞鶴(当初は赤城だったが、戦訓検討のため最後の機動部隊戦を戦い抜いた彼女を加賀が推薦した)。
ほか、水雷戦隊からは神通。技術部からは明石と夕張が参加。
基地航空隊や、実戦部隊指揮官として男性姿をとっている妖精さんが5,6名この場にやってきていた。
一昨日の第二次2.26事件を受けて、急きょ二式大艇改こと「晴空」で追加派遣されてきた神崎島鎮守府の首脳陣である。
男女比は一対一に近くなっている。
軍装(制服)も、神崎島側がブレザー型軍装にネクタイ姿であるのに対して、帝国側は詰襟。
いささか雰囲気も違っていた。


「君たちが提出してくれた諸記録は、正直にいえばたいへんな衝撃だった。」

伏見宮がいった。

「深海棲艦との全面戦争にあたって、帝国海軍敗北の記録と記憶を持つ船魂(ふなだま)が異界の島へ流れ着き、ついには勝利をおさめる。
講談小説のようだが、歴史とはそういうものだということを我々も知っている。」

「どちらも同じ人間が作るものです。それほどの違いもございますまい。」

違いない。と伏見宮が笑い、軍令部の人々の緊張も和らいだようだった。
要するに、軍令部の士官クラスは少しばかり気おされていたのだった。
無理もない。
先の欧州大戦に参加した軍人たちは、もうだいぶ高位になっている。
たとえば第二特務艦隊所属としてマルタ島へ派遣された者たちは、日本海海戦を戦った将帥に加え、若き山口多聞など。
当時の駐イタリア海軍武官が嶋田繁太郎であるなど、今の海軍の将帥はこの大戦の記憶を有する者たちと、その機会のなかった人々で構成されていた。
それ以下の人々は、実戦経験などない。
しいていえば満州事変や上海事変がそれにあたるが、それでもまた少数派であった。
要するに羨望である。
誰も認めたがらないだろうが。

「それで、我々が検討した敗因と君たちの考えをつきあわせ、もって帝国の軍備の将来を話し合いたいと思う。
なにしろ…君たちはこれからの建艦計画の…スポンサァというやつだからね。」

少し茶目っ気まじりに伏見宮がいった。
確かにスポンサーという表現は正しかった。

米内GF長官を通じて帝国海軍に約束した資源供給量は、海軍割り当て量をもってしても八八艦隊を建造してもなお余る。
燃料は日本の年間石油消費量を上回っていた。
日米資本で開発が決まった昭和油田(遼河油田)や北満州の康徳油田(大慶油田)とあわせれば、日本は念願の石油自給自足はおろか、石油輸出国へと変貌することになったのだ。
さらには、今回の訪問で空輸された秘密物資――20トンの金塊を実物資産として日銀の金庫におさめたことと定期供給を約束したことから為替も安定。
ここ数年間の狂乱する経済情勢は大きく落ち着きをみせていた。

バブル化の兆候もみられていたが、今はまさにそれが必要だった。

「まず第一に、味方がひとりもいない状況で周辺すべてを敵にした全面戦争を起こすべきでないということだ。」

「同意します。勝利にせよ敗北にせよ、予想条件を決めずにすべてをかけた総力戦に突入するのはいささか…」

144 :ひゅうが:2016/07/16(土) 17:20:19
身もふたもなかった。

「この点は政府に任せるが、海軍としても安易にあのような状況へ突撃するのは避けるべきと考えるのは間違っていないだろう。
『いくよ一発真珠湾』だったか。威勢だけでは戦争に負けたときに痛い目を見る。」

脱線したな。と伏見宮は強引に話を戻す。
続いて――

海軍航空について。

「空母機動部隊の打撃力は絶大。しかし水上戦闘艦を完全に代替するには至らない。」

防御力については、大幅な改善ができます。と瑞鶴がいった。

「ミッドウェーのような事態は索敵能力と被害対策能力の獲得で大幅に低減できます。
ですが、それ以上、たとえば水上艦隊による殴り込み…これは同じく索敵能力で抑止できますが、潜水艦による雷撃などに対して機動部隊が脆弱であることは否めません。」

ゆえに――と彼女はいう。

「飛行甲板装甲化、あるいは間接防御力の強化が必要です。加えて電探の全面採用も。」

「それには完全に同意する。」

「護衛部隊は水上戦闘艦だけでなく、そちらで検討されていたような『直俺艦』――私たちの歴史での秋月型や防空巡洋艦摩耶のような艦が必要です。
水上戦闘能力を重視した艦は、水上艦隊に配してこそ威力を発揮するでしょう。
極論すれば、対空・対潜能力に特化した艦以外は基本的に機動部隊随伴艦としては不適です。」

「辛辣だな。」

「あくまで棲み分けとお考えください総長。瑞鶴(わたし)は、機動部隊が完全に封殺されて壊滅していく様子を好む趣味はありません。」

よろしい。艦長ポストが増えるのはよいことだ、と露悪的にいって伏見宮は次へと移る。

「水上戦闘艦隊は、対空・夜間戦闘能力が技術の進歩に比してあまりにも低すぎる。
とりわけ長期戦においては。」

「打撃力と砲自体の性能はむしろ列強水準でもトップクラスに位置しますから、小改良ですむでしょう。問題はおっしゃったような――電子作戦能力と継戦能力です。」

霧島だった。
第三次ソロモン海戦において格上の戦艦「ワシントン」を夜戦で相手にした艦の言葉は、その経歴を知るものに重く響く。
もっとも、深海棲艦戦役での戦歴はそれ以上だったが。

「日本海軍の作戦能力は高い。ですがその多くは優秀な乗組員に依存しています。
その消耗によって戦闘能力は低下し、やがて数に押し切られます。」

「数か…」

「はい。ですがこの点は改善可能です。私たちがおりますし、これから改善もできます。」

「問題は――やはり『誰にでも一定以上の性能を発揮できる』ということか。」

「簡単にいえば。砲の装塡機構、照準機構。広く言えば、居住性能まで。」

「帝国の軍用艦は性能第一。だがそれを運用する側への配慮が足りぬか。」

いいだろう。と伏見宮はいった。

以後も、深刻な応答は続いた。
伏見宮は、帝国海軍の軍政・軍令系統に大きな影響力を持つ。
計画中の「一号艦」に関する問題でもその影響力は発揮された。
山本五十六ら「航空派」の要求した航空隊増設を蹴り、新型戦艦の建造を押し進めたのは彼ら「艦隊派」だった。

だが、艦隊派も航空派も、いずれも間違っていた。
かの太平洋戦争において、機動部隊は航空機に押し切られ、艦隊は性能を発揮する暇もなく、「決戦」ならぬ局地戦の連続ですりつぶされた。
同時に、海上護衛能力の欠如は、残った艦隊はもとより日本本土を飢餓状態に追い込んだ。


「何もかも、君たち頼りか。
君たちの存在を知らなければどこの詐欺師かと警戒するところだが――」

帝国は頼らざるを得ない。
自ら対米戦を起こす意図は「今は」なくとも、破滅の淵を見せつけられたとあっては。

145 :ひゅうが:2016/07/16(土) 17:22:33
【あとがき】――幕間的なお話。
ずいずいとネキ以外にも喋ってもらおうと思ったけど延々とやると長すぎるのでここで切りました。
一応、安全保障の本質は「敵対し得る勢力が持つ能力」を基準にしてますから、それに海軍も悩んでいるということで。

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最終更新:2023年11月05日 17:01