516 :ひゅうが:2016/07/18(月) 00:00:48
 艦こ○ 神崎島ネタSS――「その天命これ新たなり」



――1937(昭和12)年3月7日 竹芝桟橋


「ばんざーい!ばんざーい!!」

この方は、なんとおっかないのだ。
歓呼の声が響く中、神崎博之は笑顔であの御方と歓談していた。

「御苦労だったな。」

「もったいのうございます。」

すべてが前代未聞だった。
10日に及んだ帝国本土滞在は、「日神基本条規」と呼ばれる帝国と神崎島の関係の確認書類への署名によって終結した。
多々ある条文をその都度語ることはできないが、要約すれば以下のようになる。

  • 神崎島には道府県制は敷かず、暫定的に皇室御料地として扱う。

あまりに多くの資源を有し、軍備を有するために手の届かぬところにおいたという扱いだが、実態は多くの秘密を有する彼らを帝国政治の枠外に置くための方便だった。

  • 神崎島は行政組織として太宰府、軍事組織として鎮守府を設置する。

基本的に神崎島周辺海域の警備と防衛を専権事項とし、帝国防衛のために帝国陸海軍に「協力する」形となり、安易な軍事力の行使が相互に抑制された。
この条項の存在により、米国や英国、そして豪州などが警戒した巨大な2つの艦隊による太平洋の封鎖の懸念はひとまず払拭された。
第二次2.26事件という衝撃から神崎島の怒りをおしとどめるために帝国政府が大幅譲歩したとみられたのだ。
さらには彼らの戦力による干渉を気にして帝国軍の外征意欲が低下するとも。
まさに他人の不幸は蜜の味だった。

  • 神崎島は帝国臣民の福利増進のために協力を行う。

要するに、友好と技術協力以外のものを帝国は得られなかったと世界はみた。
だが、訳知り顔の者は、イングランドに対するスコットランドのように、艦隊をプールしておく「看板だけ別国家」を帝国は手に入れたともいう。
事実、米国内ではにわかに「両洋艦隊建造計画」が議論されはじめており、英国でも同様の動きが起こり始めていた。

517 :ひゅうが:2016/07/18(月) 00:01:20
ドイツは、英独海軍協定に基づく海軍再建計画を公表しており、これに触発されたソ連までもが「第二次五か年計画」の目玉として米国ギブス&コックス社に新型戦艦6隻の発注を行う事態に発展していた。
昨年締結されたばかりの第二次ロンドン海軍軍縮条約は実質的に死文化していたのである。


「これからも、よろしく頼むぞ。嶋田。」

「はい陛下… いえ、私の名は神崎ですが…」

「おお、そうだったな。すまぬ。」

海軍の大元帥軍服に身を包んだ昭和帝は、微笑まれた。

竹芝桟橋には、ひとめ離水を見守ろうという物見高い東京市民が集まり、思わぬ天皇陛下のお出ましに喉もはりさけよとばかりに万歳を絶叫し続けている。

と。

「おおお」

悲鳴ともとれぬ声が群衆から上がった。
陛下が、手を差し出されたのだ。
大淀 瑞鶴など、主だった艦娘たちも驚いている。
昨日参内した際に親しく懇談したのだが、現人神であらせられる陛下が臣民の前で握手を求めるなど、想像の外にあったのだ。

あるいは、ここで国民統合の象徴としての印象を確かにされようと思われたのかもしれぬ。
そして今このときは、誰にも止めることができぬ。
現に、宮中関係者は驚愕で顔を固まらせ、見送りに訪れた永野海相や米内GF長官なども必死で平静を装っている。

ええいままよ。
神崎は、脱帽の上手袋越しに手をとり、最敬礼の姿勢をとった。
後方で、艦娘たちと人間形態の妖精さんたちが一斉に敬礼の姿勢をとる。
と、写真機の音が響いた。
記者役として参加していた青葉だった。
これに触発されたかのように、外国通信社の海外特派員たちや国内の新聞各社の記者たちもはじかれたようにフラッシュをたきはじめた。

陛下が小声で言われた。

「実は、そちを暗殺しようという動きがあると聞いてな。」

「!?」

「この音にまぎれて排除されておるよ。大陸浪人というやつにはそれ専門の相手がいる。」

ちらと流し目をされる先を追うと…あれは、あの眉間の皺と丸眼鏡、そして渋面は…
甘粕、甘粕正彦!?
そしてその隣にいる紋付き姿の髭の老人は――玄洋社の頭山満。

なんということを。
動かしたのは…そうか。石原、石原莞爾か。

「これで命を救ったのは二度目か。」

茶目っ気たっぷりに昭和帝は言われた。

「恐れ入りましてございます。」

まんまと利用された神崎は、それでも清々しい心持ちで帽子をとり、そして挙手の礼をささげた。


――かくて維新はなった。誰もが想像もしなかった形で。

518 :ひゅうが:2016/07/18(月) 00:02:08
【あとがき】――これこそが、「昭和維新」への復讐。おそろしい御方よ…という話でした。

523 :ひゅうが:2016/07/18(月) 00:18:44
あと修正、「離陸」でなく「離水」でした。

526 :ひゅうが:2016/07/18(月) 00:28:10
なお、御年35歳であられる。

ちなみにこの場合の昭和維新への復讐とは、昭和維新を果たして君主専制体制で国家改革をと志した皇道派やその権威のもとで好き放題やろうとした統制派に対し…
「ならば憲法の許す限りにおいてやってやろう。ただし自由主義・民主主義路線で。それで足を引っ張る輩は許さない」という意図を示された形ですね。
天皇機関説を公式に否定してしまったことにより、実はもうひとつの枷を外してしまったというオチでした。

530 :ひゅうが:2016/07/18(月) 02:50:26
実はやり直されてるのはあのお方なのかもしれませんね。
描写はしませんが。

離陸を離水に修正

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最終更新:2023年11月12日 15:32