793 :ひゅうが:2016/07/19(火) 15:59:57
艦こ○ 神崎島ネタSS――幕間「ファウストゥス」
――1937(昭和12)年3月12日 アメリカ合衆国 ニュージャージー州
「みてください博士。この年輪を。」
ある学生がそれを持ってきたとき、老人は当初つまらなそうにそれを見るだけだった。
「こんなに年輪がすっきりしていないスギの木はあるでしょうか。」
「しかし君。淡くではあるがこのようにはっきり年輪はあるではないかね。」
「ところが博士。この顕微鏡写真をみてください。」
老人は二枚の写真を見比べた。
開発中の電子顕微鏡写真だった。
「ごらんのように、これは…年輪ではありません。いうなれば日輪です。
それが疎になるか密になるかは、一日の長さに対応しています。」
「こんな速度で成長する木があったのか。それは興味深いね。」
「博士、それだけじゃぁないんですよ。」
リチャード・P・ファインマンという名の学生は好奇心という名の光を瞳に輝かせて老人にいった。
「これは、同じ島でとれた杉材です。」
「どういうことだね。これには年輪がある。」
「そうなんです。こちらは建物の近くに生えていたものです。
先ほど渡したものは、薪材として提供されたものです。」
ファインマンは、突然訪ねてきた理由の核心に至る情報を目の前の老人に開示した。
「それを持ってきたのは、例の『小ムー大陸』にいった艦隊の水兵です。
彼の言葉が正しければ、現地に到達するまでに艦底には『数か月分相当のフジツボやカキが底についた』とのことです。たった4日間なのに。」
「若いの。それは――」
まるで違う時間が中では流れていたようじゃないか。と老人はいった。
「そう!そうなんですよ。しかし中に入った人間には異常はない。
せいぜい、海の上で幾度も昼と夜がきたような奇妙な天候に遭遇したようなものです。」
「昼と夜?それは――」
「時間が相対的に変化していると思いませんか?」
ありえない…重力で時空間は曲がるし、たとえば光速に近い宇宙船があるとすれば船内時間と通常空間の時間は流れ方が違う。
だが、この木材はそんなことなどなしに違う時間を生きたことを示していた。
そして老人はそういったことにとても詳しかった。
「その島は、オガサワラとリュウキュウの間にあるのだったね。」
「お詳しいですね。」
「いやなに。私は日本に行く船の上でノーベル賞受賞のしらせを受け取ったのだ。
もう15年も昔になるかな…」
老人は懐かしそうに目を細めた。
「時間が一次元でなく二次元的に流れる島か。面白い。ぜひ調査にいってみたいものだ。」
「くだんの島はエンペラーの領地として立ち入りが規制されたらしいですよ。なんでも原住民は巨大な艦隊を持っているとかで。」
「なにもやましいことをするわけじゃない。要請するだけならタダだよ。」
「海軍が喜びますね。彼らはあそこの海図を今喉から手が出るほどほしがっていますから。」
ファインマンが笑った。
「いやいや。そういうことをついでにやるというのは…いや、これは拒否されたときの最終手段としておこうか。」
アルバート・アインシュタイン博士は、学者特有の好奇心がむくむくと首をもたげてくるのを感じながら、手元のデスクから封筒と便箋を取り出した。
794 :ひゅうが:2016/07/19(火) 16:01:07
【あとがき】――あの人が神崎島に興味を持ったようです。拒否したらたぶん船に乗って調査にきますw
最終更新:2023年11月12日 15:35