105 :ひゅうが:2016/07/21(木) 07:48:40
艦こ○ 神崎島ネタSS――「陸軍機械化ことはじめ」




――1937(昭和12)年3月20日 帝都東京 北の丸


「いや、問題があるわけじゃないんだが…」

近衛師団に所属するある大尉は引きつった顔で目の前にならぶ物体の群れを見つめていた。

「昨日の今日でこれだけの数がくるというのは正直引くぞ…」

「しかたがありませんよ大尉殿。」

隊つきの軍曹がこちらも苦笑しつつ応じた。

「何しろ皆運転なんぞしたことはありません。この間の三長官会議でぶち上げられた陸軍総機械化構想なんてものを実現するにはこの車両が必要になるんです。」

まぁ、そりゃそうかなぁ。と少尉は思った。
彼の目の前でエンジンの音をたてているのは、はるかな未来で「軽トラック」といわれることになるはずの車両だった。
ざっと合計30両。

「地方人向け車の方が運転が楽というのは…」

「そりゃ理屈じゃそうですからね。今度くるらしい新型戦車とかもクラッチはついていますから。
まぁただこの車が贅沢なことには同意しますよ。」

大尉は、ちらと視線を転じる。
国防色に塗られたトラックの背後には、御殿場での試験の結果満場一致で導入が決まったという乗用車両がならんでいる。
こちらは、史実ならあと3年先に生まれるはずの「ジープ」。
基本的に駐屯地周辺での使用が予定される軽トラックと違い、戦場での使用を前提とした頑丈な車両だった。
こちらはいわゆるマニュアル式。
この時代のほぼすべての車両と同じ方式である。

「ま。これくらいしないと免許なんてとろうと思わんか…」

大尉は肩をすくめた。
この時代の運転免許取得者は、21世紀における航空免許取得者なみの特殊技能だった。
いきなりとれといわれてはいそうですかと取得できるなら苦労はしない。
士官連中なら誰かに運転させた車に乗るくらいだし、兵士は…
まぁそういうことだった。
だいいち、教習所のようなところ自体がほとんどない。

「それで大尉。」

軍曹は、新兵どもがわいわい騒ぎながらがっくんがっくんいう軽トラックの様子を前にしながら、まるで203高地を前にした第7師団の軍曹であるかのような表情でいった。

「いつ発進させるんです?大尉の番ですが。」

「言うな。今やってる。」



以上の喜劇的な光景は、この頃の各地の陸軍駐屯地で繰り広げられた相似形だった。
この前後、帝国陸軍は未来の戦場に対応するために「陸軍機械化5か年計画」を策定。
帝国陸軍を重要インフラ工事に動員する前提で、軍の機械化に集中投資を行うことに決していた。
「資料」における未来の戦場に対処するために、それは当然の選択だったのだが…
ここで大きな問題が発覚する。
自動車化を進めようにも、その前提となる運転免許保持者が限られる上、国産自動車では国内移動ですら物理的に困難であったのだ。
主として工作精度や、国内インフラの貧弱性に起因する問題だったのだが、問題はこれを改善しようとする「所得倍増計画」における鍵となるのがほかならぬ陸軍だったことだった。
動こうにも動けない。
卵が先か鶏が先かという八方ふさがりに、陸軍ははたと気づく。

「史実ではどうだったのだろう」

と。
こうしてはるか南方の神崎島へ向けて要望書が空輸される。
それを受け取った山下奉文は、開き直って鎮守府側の支援をあおぐことに決めた。
そうして送られてきたのが軽トラックとジープだった。
要は、免許取得者を増加させつつ、悪路でもある程度進めるだけの堅牢で高性能、かつメンテナンスが容易な車両を配備することからはじめようというのだった。
数か月以内に、運転免許取得者を最低でも3倍に増加させ、これを繰り返しつつインフラ工事への機材投入に備えさせる。
民間での活躍を考慮すれば、免許取得者は徴兵組の兵士が望ましい。

こうして、各地の駐屯地では新兵たちが運転の勉強に励むことになる。

この動きは思わぬ副作用を生んだ。
軍隊という組織ではとりわけ上下関係において陰湿な事件が多発するものである。
だが、運転免許という飴がぶらさげられたことで、新兵たちが威張りくさった一等兵連中に精神的に簡単に屈しなくなったのだ。
こうなると、上の階級のものたちも黙っていない。
簡単にいってしまえば、免許取得ブームの到来である。

そして、初心者の無茶な運転にも、21世紀に至るまで営々と改良され続けた軽トラックはみごとに答えた。
やがて、徴兵終了のときを迎えた兵士たちは、全国で推進されはじめた「日本列島改造」における初期の貴重な人員として初期の高度経済成長期に備えることになるのである。

106 :ひゅうが:2016/07/21(木) 07:50:45
【あとがき】――トラックドライバーが増えるよ!やったね弾丸鉄道計画ちゃん!!

109 :ひゅうが:2016/07/21(木) 07:56:00
しまった…
「あったよ!弾丸鉄道計画の需要にあうだけの数のトラックが!」にしとこう。

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最終更新:2023年11月12日 15:36