612 :ひゅうが:2016/07/23(土) 22:25:50
  艦こ○ 神崎島ネタSS――「連合航空艦隊演習」



――1937(昭和12)年3月25日午前5時 館山基地


「搭乗員整列!」

白みはじめた空のもと暖気運転をする双発機の群れ。その前で、飛行服に身を包んだ男たちが姿勢を正す。

「連合『航空』艦隊司令長官 山本五十六中将に、敬礼!」

「諸君。いよいよ諸君の日頃の訓練の成果を見せる時がきた。航空艦隊の編成と統合指揮の開始から日が浅いとはいえ、何事にも最初はある。
はじめにいっておくが、仮想敵役をつとめる神崎島航空総軍は手ごわい。」

いやはや。ここで「航空」がついていなければ諸手を挙げて賛成したいのだが…と思いながら、山本五十六は搭乗員たちに訓示をはじめた。

「彼らは電波の目で空を監視しており、戦闘機隊をはるか数百海里彼方から諸君の前に誘導してくるだろう。
わが海軍が手にした初の本格的陸上攻撃機といえど、苦戦は止むを得まい。」

そこで言葉を切る。
いや、負けて当然か。とも思う。
何しろ、実戦指揮官としてはそれなりという評価をされた山本はその教育手腕が極めて高いという評価を受けてこの新設された「連合航空艦隊」を任されていたのだから。
鼻が天狗になっているという陸上攻撃機隊を叩きのめし、その後の戦闘機隊との仲の修復を行う。
この困難な任務のため、人望が厚い彼が抜擢されたのである。

「諸君。演習では思う存分負けても構わない。
なぜなら演習では捲土重来の機会はいくらでもある。だが実戦ではそうはいかない。
そのためには、わが海軍は支援を惜しまない。」

今の言葉で少々むっとしてくれただろう。と山本は思う。
「第一・第二航空艦隊」の発足と、これに各地の戦闘機隊を統合指揮する「連合航空艦隊」の発足からまだ3週間もたっていない。
その間の猛訓練を経て、彼らは自信を深めているだろう。
ことに、消耗し尽くす勢いで部品を使いつくし、神崎島製の高品質発動機に換装した後は性能の向上もあって96式陸上攻撃機は無敵と考える者も多いはずだ。
あの資料を閲覧して以来、熱心な戦闘機擁護論者へと華麗な転身を遂げる前の源田君のように。
ゆえに、その精鋭を潰す。
翌日は護衛戦闘機つきでの攻撃を行い、違いを熟知させるのだ。


「だが、諸君はそれでは物足りないだろう。ならば、勝ってきてほしい。」

山本は、不満が顔に出るのを見計らって言葉を繋いだ。

「これより5日間は、実弾を使わないだけの『戦争』である! あわせて行われる神崎島航空総軍による教導出撃は、畏れ多くも陛下も大きな関心をお持ちとのことである!」

語気を強める。
搭乗員たちの顔が紅潮する。

「諸君の奮戦に期待する!」

「応!!」

荒くれ者の搭乗員たち、合計1000余名が気勢を上げた。

「かかれ!」

第一航空艦隊司令をつとめる桑原虎雄少将の掛け声のもと、搭乗員たちは機体へ乗り込んでいった。
山本は敬礼でそれを見送る。
第一航空艦隊を構成するのは、日本の主として北半分に配置されていた96式陸上攻撃機120機あまり。
主として木更津海軍航空隊や横浜海軍航空隊、館山海軍航空隊、大湊海軍航空隊によって構成されている。
文字通り、機材更新を理由に根こそぎ動員したものといってもいい。

613 :ひゅうが:2016/07/23(土) 22:26:26
今頃は、厚木基地に集結した第二航空艦隊(設立されたばかりの鹿屋海軍航空隊や佐世保海軍航空隊、佐伯海軍航空隊などによって構成)でも同様の航空隊が動き出していることだろう。

「よろしいのですか?あんなに率直にいって。」

連合航空艦隊参謀長を拝命した酒巻宗孝中佐が問いかける。
彼は、空母「加賀」飛行長をつとめたこともあるベテラン搭乗員でもある。

「嘘はつくものじゃない。すぐにバレるからね。正直に苦境をいってこそ部下はついてくる。今回はやりすぎなくらいがいいからね。」

それは山本の信念だった。
元来、山本は情の人である。
そのために実戦部隊指揮官として疑問符をつけられながらも彼を必要とした「史実」を山本はある意味で信頼していた。
実戦で前線視察を行うとまずい――山本の死因的に――が、今の段階ではまさにそれが必要だと彼は信じていたのだ。

「それにほら。海軍じゅう、それに陸さんも来ている。」

山本は、同じく天幕に集まった人々をちらと見た。
海相 永野修身大将を筆頭にして、現役復帰したばかりの軍令部総長 山梨勝之進大将、教育本部の大西瀧治郎、そしてある意味航空界の名物である源田実もいる。
珍しいことに、井上成美までもがやってきていた。
陸軍からは、作戦部長石原莞爾を筆頭に、東条英機、安田武雄、今村均などが観戦に訪れている。
陸海軍の統合指揮機関として常設が想定される大本営(名前はまた別になる予定)の準備のため、ここしばらくは陸海軍ともに演習に人をよく派遣するようになっていた。

「威勢ばかりで勝てれば世話はないからね。」

「なるほど。」

苦い表情になった山本に何かを感じ取ったらしい酒巻はそれいじょう追求しなかった。

「長官。神崎島とつながっています!」

従卒が特設野戦電話機を持って駆け寄ってきた。
これもまた神崎島から提供されたもので、向こうでは「特省無線」と呼ばれる代物らしい。
今は、長い滑走路の各所間の連絡に加え、陸戦隊間の連絡でも使用されはじめていた。

「山本です。本日から5日間、よろしくお願いします。」

『神崎です。こちらこそよろしく。米内長官以下はすでに陸上司令部に入られました。』

「了解です。こちらも指揮所が完成していればよかったのですが…」

『きちんとしたものを完成させるのは最初が重要でありますからね。今度はぜひわが島で防空戦の指揮をご覧くだされば。』

「ははは。3日後を楽しみにしていますよ。」

山本は、敬意を込めて、電話の向こうにいる歴戦の大提督にいった。
深海戦役の勝者というのは、山本にとっていささかの嫉妬とそれ以上の敬意をこめられるに値していた。

『失礼…堀中将から伝言です。「たらふく土産を送る」とのことです。』

「楽しみにしていると伝えてください。」

山本は、彼が主導して現役復帰させた未来の連合艦隊司令長官にして友人からの言葉に目を細め、やがて事務的な連絡に移った。
民間航空路を閉鎖して設けられた特設演習空域の確認。侵入経路は伝えない。
そして未確認機の侵入に対する対処方針などなど。
そして3日目以降の防空戦の指揮に関する符牒などなど。

「では、戦場で。」

『ええ。戦場で。』

山本が言い終わるとともに、エンジンの声がいちだんと高くなる。

「帽振れー!!」

整備員や幕僚たちが喉も張り裂けよとばかりに絶叫し、略帽を頭の上でぶんぶん振った。
制帽の者たちは頭の上でくるくると回す。

山本もそれにならった。
96式陸上攻撃機や、数合わせで投入される95式陸上攻撃機がエンジン音を轟かせて滑走路を疾走し、そして離陸する。

「参ったな。」

山本は苦笑する。

「こんなものが負けると想像できなくなってしまうじゃないか。」


上空へ舞い上がった攻撃隊は、指定空域で旋回しつつ編隊を組み始める。
目標は、神崎島。
多くの観衆と、少なからぬスパイたちも見守る中、のちの世に語り継がれる大航空演習はこうして開始されたのであった。

614 :ひゅうが:2016/07/23(土) 22:29:05
【あとがき】――というわけで、宿題をこなしました。
史実では日華事変勃発とともに「連合航空隊」が設立されていますが、史実に前倒しして航空艦隊が設置。
陸軍における航空総軍に対応するものとして、連合航空艦隊が設置されたという形です。
実際の可動機を動員しての大演習ですが、部品代や燃料代はみんな神崎島持ちw

618 :ひゅうが:2016/07/23(土) 22:43:03
それどころかオクタン価120のハイオクガソリンに潤滑油、21世紀標準のパッキンと高品質プラグつきです。
そりゃ、陸攻隊は「これで勝つる!」と思うでしょう。
ちなみに三菱からも本庄技師と堀越技師が視察に赴いております。
陸海軍省でも、主要な面々が神崎島から持ち込まれたテレビジョン機材(ちなみに有線)で観戦中な模様。
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最終更新:2023年11月12日 15:39