958 :ひゅうが:2016/07/24(日) 18:59:59
  神崎島ネタSS――「連合航空艦隊演習」その4



――1937(昭和12)年3月26日 小笠原諸島東方 連合艦隊「第一機動艦隊」


「おい。聞いたか?中攻隊(陸上攻撃機隊)の連中、昨日3回やって3回とも全滅らしいぜ。」

「本当か。連中口ほどにもないな。」

空母「加賀」の艦上で小気味いい笑い声が響く。
それから悪口につながらないのは、いかにガラが悪いこの「加賀」の飛行隊といえども、驚きの方が勝っているからだろうか。

「しかも最後は、うちが使っているような96式艦戦のみ。これには血気盛んな奴らもぐうの音も出なかったらしい。」

「やれやれ。やっぱり俺たちのお守りがいるわけか。」

「航続距離さえあればここまで近づく必要もなかったんだがなぁ…」

搭乗員たちがそんなことをいっているのを聞きながら、板倉光馬中尉は一緒に笑ってやった。
普段は鬼の甲板士官といわれる板倉は、その実こうした細やかな心遣いを忘れていない。
上がきちんと見ていれば、風紀というやつは自然と改善するものだからである。
事実、この頃の「加賀」の風紀は明らかな改善傾向にあった。

「今度は俺たちの番だ。このままじゃぁおさまらんからな。俺たちが守ってやらんと。」

そのために、「第一機動艦隊」はここにいる。
航続距離の短い96式艦戦を護衛につけるために父島の飛行場に移動したものとあわせ、第一機動艦隊の艦上戦闘機隊を中攻隊につけるためだ。
明日以降は陸攻をはじめとする攻撃機隊に対する艦隊の防空演習だったが、今日だけは艦隊の航空隊は彼らの味方をしなければならない。

「皆、無事で。」

階級が下の者にも、そして飛行長などの雲の上の存在に向けても、ひとしく板倉はいった。



――同日 午前5時 神崎島東方沖合


「第1梯団護衛機、戦闘に入りました!」

「いいぞ…陸をおがめなかった昨日と比べて格段の進歩だ。」

編隊から離れて飛行する攻撃機の機上で野中五郎中尉は舌なめずりした。

「しかし高高度飛行です。このままいけるかどうかは…」

「神崎島製の発動機は安定しているから大丈夫だろう。速度に関しては比べるべくもないが…」

細心の注意を払いつつ操縦を行い、いつもより余計強くなった轟音に肌を震わせながら野中は口ごもる。
いずれにせよ、現在の国産発動機ではこの芸当は不可能だっただろう。
品質のバラつきが大きく、高高度の編隊飛行をやれば落伍機が相次ぐのだ。

「阻止線、突破された模様!敵機は毎時350ノット以上で飛び回っています!」

「中尉!」

「予想をしていたとはいえ…これは…」

昨日は手加減されていたのだ、という感覚に、屈辱感よりも恐ろしさが先に立った。
よく考えてみれば、最新鋭機の発動機や燃料弾薬をポンと出してのけたのだからそれ以上をもっているのは当然と思われたのに。

「だが、その余裕もここまでだぜ…」

江戸っ子口調を思わず出しつつ、野中は思い切り口もとを釣り上げる。

「水面すれすれからの超低空侵攻。電波ってのは低空では遠くまで届かない。
今度こそ爆撃を成功させてやる!」

959 :ひゅうが:2016/07/24(日) 19:00:32
――同 神崎軍港


「艦載電探に反応!数は5!信じられない。どこに潜んで――」

「そんなことは後だ!邀撃機は?」

「すでに出払っています。今回は空母機動部隊は出さずに基地航空隊のみでの対応ですから…」

参謀妖精さんたちが泡を食う中、神崎は思い切り口もとを釣り上げた。
今彼が乗っているのは、戦艦「アイオワ」。
この艦隊の戦艦としては最新である元米国生まれの艦だった。
もちろん改修を加えられた結果、司令塔が艦橋の中央を貫くという前弩級艦以来の配置はもはやとられていない。
そのため、彼は露天艦橋で軍港から動き出そうとしている艦隊を見守っていた。

防空戦闘指揮はもとより、実際の艦隊指揮も中央指揮所では可能だ。
だが、きょう以降は彼はそれをする気がなかった。
米内GF長官以下が陸上司令部からの艦隊指揮演習を行うのとは対照的に、彼は現場での指揮を行うつもりだったのだ。
なにしろこもってばかりだとかつての深海戦役の大半と同じく待ちに徹する身となってしまう。
艦娘を戦わせているという意識が強い神崎としては、士気を考えるまでもなくこうした感覚の維持は大切であると考えていたのだった。

「アイオワ。いけるかい?」

「もっちろん!対空戦闘は任せて!」

全身アメリカンな感じの戦闘服を弾ませ(どことはいわない)、アイオワがピースサインをする。

「元祖ボフォース40ミリと5インチ砲の速射を抜けられるとは思わないことネ!」

「はは。期待しているよ。だが――」

神崎は、思わず歴戦の艦娘がぞくりとするような戦意(あるいは殺気)に満ちた笑顔を浮かべて言った。

「この時期の帝国海軍中攻隊をあまり侮りすぎないことだよ。」


『艦橋へ!不明機は5機で確定。高度は…測定不能!』

「What ?!」

「そうだ。そうでなくては。」

奴らめ。数百キロも海を這ってレーダーをかいくぐりやがった!

960 :ひゅうが:2016/07/24(日) 19:01:04
「アイオワ?」

『あ…Aye Sir!Open fire!!』

工事現場のような連続音とともに、対空火器がうなりを上げる。

「さぁて。みせてもらおうか。海軍中攻隊の練度とやらを!」

あ…フラグたったかな?



――同 神崎軍港 沖合

「すげぇ。なんて火力密度だ!」

「3番機被弾!落伍しました!」

「海に落ちちゃいないだろうな?」

「大丈夫です!」

「ようし。目標は将旗のあがっているあのバタくさい艦橋の奴だ!」

「了解!」

さぁて神崎提督。俺たちが魚雷を抱いていないからって舐めるなよ?

「反跳爆撃用意!」

「反跳爆撃、ヨーソロー!」

これが野中たちの切り札だった。
海軍中攻隊は遊んでいたわけではないのだ。
魚雷ならば、陸攻の運動性は極端に低下する。
この頃の中攻は爆弾を胴体に外付けして運んでいる上、重量が500キロもあるからだった。
だが、野中は小型爆弾を複数というほとんど威力ののぞめない武装であえて突入を図った。

案の定、弾幕射撃は水面すれすれだけでなく、上空にも炸裂している。
爆撃前に急速上昇すると読んでいるからだ。

「2番機落伍!」

「かまうな!いくぞ!」

「距離200…180…」

距離の読み上げがはじまる。
今や鎮守府要塞までもが彼らを撃ちすえつつあった。

「160…150!」

「撃(て)ぇっ!」

野中は、操縦桿をやや上向かせ、前甲板すれすれにつけた。
艦橋上では、あわてる軍人たち。防空指揮所には…おやおや。
野中の動体視力は彼をとらえた。
彼――神崎提督は、こちらに向けて敬礼をささげていた。

「キザなやろうだ。ねーちゃんを侍らせやがって。だが、そのクソ度胸は気に入ったぜ!!」

海軍入隊以来、矯正につとめた江戸言葉で野中は大笑いした。
胴体側面が染料でピンク色に染まっているのが少々しまらないが、彼は自らの成功を確信していた。


報告――白軍旗艦に投弾に成功。命中3発を確認す。0512

961 :ひゅうが:2016/07/24(日) 19:01:36
【あとがき】――野中一家(予定)爆誕。

971 :ひゅうが:2016/07/24(日) 19:25:14
アイオワは悔しがってますね。
しかし史実大戦末期に比較してよくやった方です。
ミズーリやフランクリン的な意味でも。

974 :名無しさん:2016/07/24(日) 19:32:33
あれ?
アイオワってMk33 3inch砲とか言う鬼畜対空砲積んでないのか。

976 :ひゅうが:2016/07/24(日) 19:36:30
積んでますよ。
ですが…ほとんど海面スレスレを突っ込んでこられたらなかなか当たらないw
水柱で侵入を妨害してもいいのですけど、今回は演習なので。

わずかな距離にも関わらず2機叩き落としているあたり、彼女の練度が偲ばれます。
なお、投下されたのは…60キロ爆弾(泣)
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最終更新:2023年11月12日 15:41