134 :ひゅうが:2016/07/25(月) 15:33:51

神崎島ネタSS――「連合航空艦隊・連合艦隊演習」その終




――1937(昭和12)年3月27日(演習3日目) 神崎島鎮守府「中央指揮所」


「GF第一艦隊、KF第一艦隊、第二演習海域に到達。」

「GF第六艦隊より報告。潜水艦隊による襲撃の効果を認めず。」

「KF第一艦隊、直俺機を発進させました。レーダー上でも捕捉。トラックナンバー313-12-60。以後KFF112と呼称します。」

「GF第一機動艦隊、KF第一航空艦隊と会同。輪形陣の形成を完了との報告。」

指揮所の上段に設けられた連合艦隊「臨時」司令部は、刻一刻と入る情報に記入するホワイトボードの増設を余儀なくされていた。
一目前方の戦況板を見ればわかるのだが、人員がそれについていくのがやっとなのだ。


「これが指揮能力の飽和か。」

「冗談どころじゃありませんね。長門の作戦室だとどうなっていたことやら。」

米内GF長官の苦笑に、内地から昨夜飛来したばかりの山本CAF(連合航空艦隊)司令長官は深刻に応じる。

「海図に書き込むだけ、頭の中で組み立てるだけだと…航空戦の速度についていけるかどうか。」

「それをこの島が語る世界の君らはやったらしいぞ。」

「ぞっとしますね。参謀が5人や6人では足りません。」

本気で山本は身震いしているようだった。
GFの参謀もCAFの参謀も、指揮所に常駐する管制官たちとああでもないこうでもないと怒鳴りあっている。
そんな中で、重要情報と思われるもののみが全館一斉送信としてスピーカーに流れるのだ。
だが、このような経路を通さずに参謀だけでこれをすべて処理したとしたら…
必ず、情報の処理に頭をとられて気付かぬことが増える。
ことに大艦隊同士が数日間もぶつかり合うことが想定される大規模海戦においては、時間がすぎるごとに対処能力は低下していくだろう。

山本は、いわゆる「史実」における栗田中将の気持ちがわかったような気がしていた。
それまではいささか偏見が混じっていたのだが。

「神崎君がいうには、この手の作業は女性の方が向いているらしいよ。男性が何から何まで指示を出そうとするのに対して女性は細かい作業のほか、できないことは他者に任せるから。」

「そういう風に断言できるものですか?」

「一般的な傾向というやつだ。女性は共感感覚に優れいているためにことに情報処理などのチームプレイに向いている。電話交換手などがその典型例だな。」

まぁそういわれれば、と山本は引き下がることにした。
この先輩は、その手の事に詳しいというのは容易に想像できたためだった。

「ならば、男性の存在意義は?」

「知らんよ。肉体的な頑健さとストレス――ああこれは精神的重圧のことだそうだ――耐性の強さは折り紙つきだが。まぁこの世に不必要なものは存在しないらしいから何かあるのだろうよ。」

「なんだか平塚女史の演説みたいですね。宗旨替えですか?」

山本はちょっと揶揄してみた。
彼が指揮すべき陸上航空隊はまだ現場に到達していないから、こうして無駄話ができる。
あるいは、女所帯のKF…神崎島連合艦隊に知らず感化されているのかもしれないが。

135 :ひゅうが:2016/07/25(月) 15:34:24
「いやなに。」

米内は笑ってごまかした。
実のところそれはモスクワ時代のある女性に対する過ぎ去った感傷なのだが、そんなことは山本にわかるはずもなかった。

「にしても、少し離れてみるとわかることも多いものだね。」

「その通り。こうして比較ができたことも僥倖でしょう。」

山本は、器用にコンソールをいじりながらある海域部分を表示する画面を拡大してみたり、表示モードを切り替えてみたりした。
元来がこういう新技術が好きなたちなのだ。

「GF司令部を陸上に上げろか。最初にいわれたときは怒号の嵐だったが。」

「ジェットランド沖ですでに萌芽はありましたからね。あの戦いで英国グランドフリートはビーティー巡洋戦艦部隊の奮戦にも関わらずドイツ大海艦隊主力の包囲に失敗しています。」

「まして、片方だけで300隻に迫る艦艇と1000を超える航空機が飛び交う広大な太平洋をおいてをや、か。」

「そういえば、なぜ神崎提督は逆に旗艦に乗って海に出ているのですかね?少々話もしてみたかったのですが。」

「ああ、彼いわく『潮気が失われるのがいや』だそうだよ。こうして統括指揮をするにしても現場の状況を見ておかないと致命的な時間差が生まれるそうだ。」

米内の説明の前半で呆れたようになった山本は、後半で大いに驚いたようだった。

「なるほど。海に出ずっぱりな我々からは思いつかないわけですね。さすが。」

「なんだ?ファンにでもなったのか?」

「まぁ…この島がいくら特別製といってもあの戦いを潜り抜けるだけ、敬意にはあたいすると思います。」

「それをいったら『先人たちの苦労が生み出した戦闘教義(ドクトリン)の賜物』といわれたよ。元が技術屋らしいからあちらはあちらでこちらを尊敬しているらしい。」

いや、照れますな。と山本がいったところで全館一斉送信がスピーカーに入った。

「CAF航空攻撃隊第一波、接敵!」

メインモニターでは赤い三角印が艦隊を示す台形印に重なり、補助画面の輪形陣を組む各艦艇に向かっていくつもの小集団が殺到していく。

「さぁて、修羅場がはじまるぞ…」


――米内がいった通り、GF(連合艦隊)とCAF(連合航空艦隊)司令部は、艦隊防空戦という情報の奔流にこれから6時間以上翻弄され続けることになる。
前日と前々日に行われた演習では起こらなかった水上艦隊と航空部隊の連携、そしてそれらの統合管理に司令部の人員が音を上げてしまったのだ。
最後には、物見遊山で神崎島にやってきた海軍省や果ては陸軍の人員が飛び入りで補助し、ようやく航空戦をまとめきったのだった。

同様に、翌28日から行われた日本本土防空演習でも陸軍航空総軍はその通信・指揮能力が飽和。
横須賀鎮守府の機能だけでなく、急きょ軍令部や参謀本部から助っ人が飛び入りをしなければ事態を掌握することすら不可能な惨状を呈した。

さらに、高度1万を巡航する神崎島鎮守府所属の重陸上攻撃機「雷山」(史実のキ91)や、少数参加した夜間爆撃担当の超重攻撃機「富嶽」(史実のTu-95の大型化版)は、体当たりを試みたり強引に演習に参加した新型高射砲の命中を除いて、帝都に見立てた横須賀市街や厚木基地に悠々と到達。
観戦する陸海軍将帥の悲鳴や虚脱状態の参謀たちのもとに、模擬弾を降らせていた。
実戦なら、1000トン以上の爆弾が降り注いでくるところだった。
この事実に、もはや陸海軍は己のメンツをかなぐり捨てて軍組織や装備の近代化へひた走る決意を固める。
そのためになら、皇軍が土木工事など…と見栄を張る贅沢など犬に食わせろ、が合言葉となった。
彼らは、少なくとも現在は現実主義者だったからである。

――こうして、思わぬ陸海軍の賛同を得て、2.26事件の直接の引き金となった昭和11年度予算案をはるかに上回る規模で特別会計からの付け替えが多用された昭和12年度予算案はギリギリ可決成立をみる。
その目的として「高度国防国家の完成」を掲げた廣田内閣は、その裏で約束されたケインズ経済上の暴走を開始したのである。

136 :ひゅうが:2016/07/25(月) 15:37:05
【あとがき】――帝国議会のグダグダ描写もさっくりカット。
鳩○さんとか鈴○さんとか、あと予備役将校の皆さんの軍機軍機の嵐とか、そんなの見てもしょうがないしw
というわけで、やっとこさ「高度成長、はじめました」ができます。あー長かった。
…あいかわらず艦○れのかの字も出てこないな(泣)

137 :霧の咆哮:2016/07/25(月) 15:55:21 乙

この指揮能力の艦上の限界と言うか、情報飽和で一杯一杯になるつーのは史実通りでいいのか?
陸自は半分土建屋みたいな仕事が多いが、当時は違ったのか

138 :ひゅうが:2016/07/25(月) 16:01:16
そもそも飽和になるほどの情報を集められず想像で動いたというのが正解ですね。
例としてはミッドウェー。
一戦場とはいえ同様の飽和状態の例としては、第三次ソロモン海戦が挙げられるでしょう。
最も典型的なのは、情報の伝達もあわせてレイテ沖海戦かなぁ…

あとこの頃から陸軍は土建屋っぽかったですが、それをインフラ整備などに投入することはまったく考えてませんでした。
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最終更新:2023年11月12日 15:43