799 :ひゅうが:2016/07/29(金) 15:30:16

神崎島ネタSS――幕間「偽預言者はかく語りき」



――西暦1937(昭和12)年4月15日 神崎島


「お世話になります。皆さん。」

にこやかに挨拶する白髪の老人。彼とにこやかに握手しつつ、神崎はこんな時期にこんな厄介ごとを持ち込んできた目の前の老人の老獪さに辟易していた。

男の名をアルバート・アインシュタイン。
プリンストン高等研究所の所長にして、相対性理論の生みの親である物理学の天才である。
ナチスドイツの迫害から逃れてアメリカ市民権を取得していた彼は、特に希望してこの神崎島に立っていた。
数名の記者――と思われる人物――や助手たちと共に。

「この島の謎は、世界中の科学者をワクワクさせることでしょう。」

「我々には自明のことなのですけれどもね。」

「ですので、ぜひともあらゆる科学者にこの島をひらいていただければありがたい。」

ダメだ。こいつ。
神崎は思った。
学者らしく、オッペンハイマーがかかったような病にとりつかれている。
要するに好奇心がすべてに勝っているのだ。

そうでもなければ、東北帝国大学に個人的な私信を送ることで訪問を要請し、黙殺しようとした帝国政府を無視し、あろうことかヘレン・ケラーと同じ船に乗って来日するなどという手段をとろうとは思わないだろう。
…そして、この動きを間違いなくアメリカ政府が利用している。
記者といわれる人間は妙に背筋がしっかりしているし、来訪の際にはその支援を名目にフィリピンのアジア艦隊の一部調査船派遣の打診があったのだ。
それだけでなく、飛行艇までもが格安でチャーターされ、測量を行うつもりだったらしい。

これに対して帝国政府がとれた手段は限られていた。
ゾルゲ事件のような軍国主義とソヴィエトの陰謀から国際社会への復帰という道半ばにある外務省は、その弱みからただの御用聞きと化さざるを得なかったし、気をよくしたらしい科学者たちが調査団に加わると言い出していたためだった。
皇室御料地ということから、帝国政府に間接的に請願という形で出された要望は、これによって世界中の注目を浴びることになってしまったのだ。

どちらにしても合衆国政府としては利がある。
未知の陸地や海上の測量ができるし、拒否されればそれを思い切り宣伝して日本の足を引っ張れる。
まったくいやらしい圧力のかけ方だった。
そしてそれをやったのがこの老人だというから、神崎の心証も悪くなるというものだった。

「それはできません。」

「なぜですか?」

ファインマンという名の助手が、さも世界市民を代表したかのような顔でわって入った。

「この島が抱える歴史は、それほど軽いものではないからです。」

「秘密は秘匿するものではなく、世界万民のために共有されるべきではありませんか?」

ああ。これだ。
この楽観と傲慢。これこそ、第二次大戦を経て失われてしまった科学万能主義だ。
ただ悪意を持つわけではない。
21世紀のマスメディアが持っている絶対的な正義感――あるいは独善がこの頃の科学者を支配しているだけなのだ。
彼等なら、鼻歌交じりに原子の火に手を突っ込み、ヒトラーに対抗するためと称して結局は好奇心にしたがってマンハッタン計画に勇んで参加するだろう。
あそこは21世紀の某検索大手の本社のような…科学者の楽園だったのだから。

800 :ひゅうが:2016/07/29(金) 15:31:14
考えが極めて危険な―まるでドイツにはびこる自称理性崇拝者のカルトどものような―方向に脱線しかけて神崎はかぶりをふった。

「『この門をくぐる者、すべての希望を捨てよ』」

「ダンテですか。しかし――」

どっちみち、ある程度は公開することにしていた。
この島が過ごした「三つ」の歴史を除いて。
明らかにスパイをするつもりの記者たちは、高等弁務官府さしまわしの車で「ご案内」しよう。
だが――
こうして虎口に飛び込んできた怖いもの知らずの科学者には、原罪を自覚してもらおう。
そう。
あの手紙に署名などされなければ、おそらくは帝国の利益にも、そして長門やプリンツ・オイゲンのためにもなることだろう。


「そこまでおっしゃるならわかりました。ですが、あなた方がどこぞの侍女のように好奇心に負けて取り返しのつかないことをすることのないことを祈りますよ。」

こちらへ。と神崎は、鎮守府に隣接した特別資料館――実態は21世紀にかけての『史実』こと第一世界線のあらゆる記録を集積したデータベース――へいざなった。
マイクロフィルムにさりげなく外観をおさめつつついてこようとする記者たちは、陸戦隊妖精さん(等身大)に阻まれた。

「報道の自由!」「官憲横暴!」

ああ、捨て台詞はいつも同じか。
ゾルゲ事件以来みられる目が厳しくなった日本本土と違い、新聞記者は各国において聖職者と同義。
いやむしろ、学者にして君主であられる陛下が異常なのか。

そんなことを考えつつ、神崎は、自分が共犯者を求める犯罪者になったような暗い気分で資料館に入った。


「こ、これは…」

「凄い。これはまさか、テレビジョンですか?」

「液体結晶の導電を利用して描き出す形のテレビジョンです。画素サイズは300万以上。肉眼がとらえることのできる精細さ以上ですので、これに投影されるのはもうひとつの現実といえるかもしれませんね。」

この館と作り上げた妖精さんは、おそらく押井ファンだったに違いない。
まんまイノ○ンスの択捉島にある某洋館の光景だ。
ご丁寧にヤコブ・グリムの記述に従って指をさす球体関節人形まで…
いや、これはたぶん秋雲あたりの仕業だろう。
この間、メガネばりの大演説をぶっていたし。…どうもうちの艦娘たちのキャラがわからん。

あ。ディスクオルゴールが鳴りだした。
じゃ、始めるか。
どうせ自分も、この島以外が滅んでも屁でもない。
ただちょっと寝覚めが悪いだけだ。それを知っていて、あの弧状列島の君主は彼らを受け入れた。
その一宿一飯の恩は、重い。
対して、この興味本位で首を突っ込んできた学者どもにはまったく心が動かない。
ならば、1900年ばかり前にゴルゴダの丘にのぼった登山家の御同類よろしく、せいぜい予言してやることにしよう。

この天と地の間で…人類しか犯さない大罪の片棒をかつぐという運命を。
もっとも自分は聖者じゃないからその罪をかたがわりしてやるつもりもないが。



――そのときの神崎博之提督は、まるでサタンのようだったとのちにファインマン博士は語ることになる。

801 :ひゅうが:2016/07/29(金) 15:32:38
【あとがき】

秋雲「ノリノリだったねー。楽しかった?」
神崎「やめて!SEKKYOUしてるその映像を大画面で流さないで!!」

なお、…あとで悶絶した模様。

804 :ひゅうが:2016/07/29(金) 16:09:17
といっても内容は映画大会みたいなものですので、ありきたりなものですよ…
はしゃいできてみればとんでもないパンドラの箱をあけてしまいましたとさ。で要約できますw

なんで神崎さん乗ってないん?という説明回でしたので。
あと記者さん(笑)は軍港内部の写真をとろうとしたり、森の中の軍事施設という偽情報に入り込もうとしたり、あと博物館で資料ゲットを狙ったりといろいろやりました。
でも残念ながら、この島、軍事独裁国家なのよねw

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最終更新:2023年11月15日 20:44