48 :ひゅうが:2016/07/30(土) 17:25:23

艦こ○ 神崎島ネタSS――「三匹がゆく! in Britain」その2




――1937(昭和12)年4月20日 地中海 マルタ島


「帝国第二特務艦隊の英霊に、敬礼!」

黒い正装に身を包んだ艦娘と、人間形態の妖精たちが一斉に動きをあわせる。
と同時に、イタリアやフランス、そして訪問先の大英帝国から飛んできた記者たちがフラッシュをたたいた。

地中海、マルタ島。

この地の海は、いまだ欧州大戦(Great War)と呼ばれる第一次世界大戦における激戦地である。
アドリア海の入り口にあたるオトラント海峡を挟み、同盟国側にたったオーストリア・ハンガリー帝国海軍やドイツ海軍と、協商国側にたった英伊仏の各国海軍は死闘を展開した。
といっても華々しい大海戦ではない。
現ハンガリー王国摂政のホルティ提督のような少数の例外を除き、その大半は海上護衛戦だったのだ。
大英帝国の心臓であるインドから送られてくるほとんど無尽蔵の兵士たちは、スエズ運河を通ってフランスの前線に送られる。
ならば、それを阻止すべくUボートが猛威を振るうのは当然だった。

この激戦地に投入されたのが、日英同盟に基づき参戦した帝国海軍第二特務艦隊。
彼らは、つたない護衛ながらも、何よりもその献身によって輸送船団の盾となった。
あるときは、輸送船に向かう魚雷にその身をさらし、またあるときは前半艦首を喪失しながらも護衛を全うした。

その勇戦ぶりは当時の語り草となり、司令長官をはじめ、第二特務艦隊は地中海諸国の勲章を総なめにする勢いで感謝をささげられたのだった。

それから20年。
太平洋の海上に出現した小ムー大陸、あるいはアトランティスは、「もうひとつの日本」として欧州に認知されつつこの地に降り立った。
大戦後を生きる人々にとっても、この懐かしい記憶を訪問に重ね合わせる者は多かったことだろう。
事実、記者に向かって当時の思い出を語る現地の人々も多い。


「利根艦長!お写真お願いします!」

「カンザキジマのキングはアラブのようにハーレムを作っている好色王ですよね!」

「婦人団体が女性参政権獲得のために支援をお願いしにきていると――」

「ハイスクール・ガールみたいに見えますが、あなたの年齢を!」

が、記者は英国的表現をするならば礼儀作法を学習中の人々で構成されているようだった。
正直、反応に困るものが多かった。
どこも記者というのはこういうものか。

「アイランズ特使!あなたは英国難破船の子孫とのことですが…」

「ジャップだけでなく欧米系が多数いるなら、英連邦へ帰属すべき――」

「人種差別に反対し、人種融和をなしとげるべきという人種改良論について――」

「優生学的にみて――」

うん、なんというカオス。と金剛は思った。
時分を生んだサーストン卿はそれほどのものではなかったが、人種差別的な思考というのはこの時代にまだ色濃い。
あの日本帝国ですらも。

「皆さん、一度に喋られては困ってしまいますわ。」

淑女の笑みとともに、完ぺきなキングス・イングリッシュを操ってのけた金剛に、記者たちの目がそろって自分の方を向く。
その段階で金剛は自分の口出しが奏功したことを理解した。
よかった。
これで、ブチ切れ寸前の足柄も一息つけるだろう。
まったく、彼女は自分の美貌に無頓着で困る。
あと足柄。
なぜ驚愕の目でこちらを見るのだ。

「まず質問は名を名乗ってからひとりずつお願いいただけませんかしら?
英国紳士というのは女性のエスコートが得意とお聞きしておりますわ。」

微笑。
その中に嘲弄の意が含まれていることに気付ける記者は少ない。
それに気づくことができた少数派は居住まいを正し、残る大半はオリエンタルスマイルに感化されるというまことに男らしい理由で口を閉じた。

49 :ひゅうが:2016/07/30(土) 17:26:01
「ではそこの方?」

「タイム紙のウィリアムズです。コンゴウ少将。今回の来欧の目的は?」

「知っての通り、大英帝国の御招待にあずかりましたので国王陛下の戴冠式に代表として出席いたします。」

「それだけではないでしょう。こうして示威行動のためにわざわざスペイン沖を通る航路を――」

「荒野で三人の老婆にあわれたようですわね。」

にっこり。
こいつは、この頃の知識人に多いタイプの人物だ。
内戦中のスペイン金塊がモスクワへただ同然で送られたことが暴露されたソヴィエトはスペイン内戦についてだいぶ神経をとがらせているらしい。

「スエズ運河を通らずケープタウンを回るルートを、仮にも帝国軍艦が通るのは、いささか縁起が悪いでしょう?」

言外に、バカかという意思をこめる。
スエズを通らずに英国へ来いということだろうか。
モスクワの敵意を自分の敵意と勘違いしているらしい。

「次。」

「サンライフ紙のデップです。」

怒りで顔をゆがめる隠れ共産主義者を無視し、さらりと大衆紙にかわる。

「コンゴウ艦長。あなたは既婚者ですか?」

「ごらんになる?」

礼装に付属した左手の手袋をとってみせる。
なぜかシャッターがパチパチ切られた。

「お若いのに。王の御手付きとはお気の毒です。」

「あら。コーカソイドの方々のように成熟が早いと大変でしょうに。御親切にどうも。」

苦笑する記者。
どうやら英国流のユーモアだったらしい。
さすがは大衆紙。妙なプライドがないらしい。

「それで、御夫君はどのような?」

「国家機密です。」

笑ってやる。
東洋人をさげすむくせに、女性には妙な幻想を持っているらしい欧州人にはそれだけで十分だった。
おそらく明日か明後日の大衆紙には、書くのにはばかられる文言と、妙なイラストで邪悪な太平洋の島の王の話が載るのだろう。


「のう、足柄。」

「なに?利根。」

「欧州はこわいところじゃな…金剛がああなってしまうとは…」

「提督がおっしゃっていたわ…あれが英国面ってやつね。こわいわ。戸締りしとこ。」

そこ!うるさい!!

51 :ひゅうが:2016/07/30(土) 17:27:52
【あとがき】――太平洋の島国の酋長からきた使節なんてこんな扱いです(だいたい史実)
まして、かわいそうなチャイナを侵略しているらしい軍事国家にへこへこ頭を下げて併合を回避した国には。

57 :ひゅうが:2016/07/30(土) 18:02:18
なお、彼女、セイロン島入港時に大量の茶葉を買い込んでおり、おかげで足柄さんはスエズを抜けるまでその1で書いたようなストレスを…
なので、どこかの並行世界でブッキーに見せたような気遣いを見せたのがこの姿w

ちなみに「荒野で三人の老婆に」――は、シェイクスピアの「マクベス」ネタです。
アメリカ的にいえば「変な野望燃やして妙なこと言うんじゃねぇよ。破滅したいの?」
早熟云々は、同じく「テンペスト」ネタ。
こちらは「島の住人を揶揄するなよ、変なことしたら破滅するぞ」。
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最終更新:2023年11月15日 20:40