403 :ひゅうが:2016/07/31(日) 21:38:49
艦こ○ 神崎島ネタSS――幕間「わが祖国」



――1937(昭和12)年5月1日 大英帝国 帝都ロンドン


祖国…祖国…

言葉が幾度も頭の中をリフレインする。

敗戦…廃墟からの出発…理想…逆コース…

歴史は時の流れを遡り、あるいは下り、出来事は相互の関係をもってまるで伏流水のようにあらわれては消える。

傾斜生産、経済再編成、そして日米安保条約…

あのトイレットロールというのは傑作だった。意気込みすぎて長文を書きすぎたのだろう。
当時の烙印をおされた我が国は、後ろ指を所与のものとして再出発を図らざるを得なかった。
そしてそれに乗り国家の再建を果たすために、国民の力を結集することに「戦後日本」は成功した。
新体制運動や国民的運動というやつが、結局は近衛公や軍部の自己満足と、目的とは逆に反発のみを残したのに対し、自由の中から生まれた自己組織化こそが国民を復興という目的のもとにひとつにしたのはなんという皮肉だろう。
自由と資本主義を注入された戦時体制の発展系が、最も成功した社会主義へ化けたのと同じく、これ以上に皮肉なことはあるまいに。


画面は、加古なにがしの重々しい音楽にのせて、南スラヴという名の国家のある大都市が砲火に破壊されていく様子を映し出している。
聞けば、その都市は数十年もたたない昔(今から40年以上あとだが)にオリンピックを開催したのだという。
そして、そこで展開されたのは――


駐英大使、吉田茂はいつもの通りのしかめっつらで、映写機(プロジェクター)のスイッチを切った。
彼の知るあらゆるそれよりも小型で、磁気円盤を用いたという記憶装置におさめられた記録を上映するという機械群は、彼に巨大な衝撃を幾度も与えていた。

「なんてことだ。」

口に出す。

「ああ、なんてことだ。」

畜生。これでは、あの金剛という美しい女性提督がいったように、自分がスコットランドのマクベス将軍のように荒野で邪悪な三人の魔女にあったようなものではないか。

「俺が、総理大臣だと?滅亡した大日本帝国のあとをついだ国家最大の政治家?」

野心など、沸くわけがないではないか。
山野を除く都市の55%を焦土に変えられ、国富の大半を焼尽したあとだ。
軍事力を最低限に保って経済再建に邁進し、それ以外のほぼすべてを切り捨てる。

404 :ひゅうが:2016/07/31(日) 21:39:22
彼が力を尽くした対中政策は無視一辺倒。
すべてを失った怒りを、その主因である軍に転嫁。
国民はそれに乗った。

「俺にどうしろというのだろう。」

彼の手に握られているのは、輸送されたばかりの「日本列島改造計画」の骨子。
満州で好き放題やった岸信介一派がまとめられた、ソ連の五か年計画も真っ青な超大規模公共投資事業。
ほとんど詐欺のような手段で膨張させた資金を、ほぼ未整備な日本本土の公共材への投資で発生させた膨大な需要に投入。
一気に経済規模を拡大させる。
…通常ならあり得ない手だった。

技術革新というのはある種博打に似たものがある。試行錯誤による莫大な無駄が、巨大なリターンを上回ってしまうことが多いのだ。

だが、今回は違う。いわばカンニングの産物として大量の新技術が神崎島からもたらされる。どういうわけか、あの島から運用ノウハウを知る人間までつけて。
なぜそれほど急ぐのか。
決まっている。どちらにせよ、日米対立に加えてその後は核兵器の完成による冷戦構造が構築されるからだ。
そのときまでに国力を一定以上に整備しなければ、あの世界の大躍進政策をやらかした中共のような無理を
しなければならぬ。
…はっきりいって、割に合わない仕事だ。
神崎島側の善意がなければ、この計画は成り立たない。

「くそ。ただの善意によって帝国を救う?」

そんなものに期待しなかったのが、近代の帝国の歴史だった。

「そんなものに頼り切ったら、日本は完全な神崎島の属国に転落する。
…好むと好まざるにかかわらず。」

そうはさせない。
速やかに独り立ちしなければならぬ。そして、「見てくれこの光景を」と胸を張れるようにならなければ。
ああなんてことだ。これは明治の先人たちが抱いた感覚じゃないか。
俺たちは、明治時代の人々の顔に泥を塗っていたのか。
畜生。こんなことを突きつけるなんて歴史の神はなんて――


吉田は、すでに帝国政府と神崎島が彼に期待した役割を毒つきながらこなしはじめていた。

405 :ひゅうが:2016/07/31(日) 21:40:04
【あとがき】――彼もまた傑物…ただし性格はまだ丸くなってなかったりするw

411 :ひゅうが:2016/07/31(日) 21:52:56
わかりやすい縮図

神崎島→GHQ
吉田さん→吉田さん

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最終更新:2023年11月15日 20:45