822 :ひゅうが:2016/08/02(火) 22:00:03

艦こ○ 神崎島ネタSS――「三匹(+1)がゆく! in Britain」その6(intermission)



――風立ちぬ いざ、生きめやも

ポール・ヴァレリー(堀辰雄 訳)



――1937(昭和12)年5月12日 大英帝国 帝都ロンドン 全景

その日はイギリスの国民すべてが祝賀ムード一色に染まった。
大ロンドン(シティ以外のいわゆるロンドン都市圏)市街地には多くのユニオン・ジャックが翻っている。
少数ではあったが海外領土と植民地の旗も。
そこはまるで博覧会会場だった。
陳列品は大英帝国が成し遂げたあらゆる事柄。
平和・発展、そして支配。それに付属する悲喜こもごも。
要約すれば大英帝国という存在そのものがそこには凝縮されていた。
世界の5分の2の陸地を直接的・間接的に支配下におくというのはそういうことだった。

ウェストミンスター憲章を経て建前上は植民地諸国や自治領と本国は同等となったが、いまだに経済的・軍事的な意味で本国とそれ以外の違いは大きい。
それが当然だった時代は過ぎ去りつつあったが、今だけはかつてあった偉大なる大帝国の残照がすべてに優先された。
何より、それを国民は欲していたのだから。

そのため、馬車に送られた歓呼の声はいっそう大きなものだった。
先王であり、美男子として知られたエドワード8世に向けられたよりも。
誰もが期待したのだ。たとえ――彼が、ひどい吃音症でありどもりの王子と呼ばれていたとしても。
(もっとも、戴冠前に彼は吃音症を豪州人の専門家の手により克服しつつあったのだが)

明るい話題もあった。
新王としてジョージ6世を名乗ることになったかつてのヨーク公は、少なくとも家庭的な意味ではまったくの幸福だった。
夫婦の間には二人の王女。そして彼はまだ若い。
王の代理として出席した各地のイベントでも、連れ立って出かける姿がよく見られ、概ね評判もよい。
何より、夏の避暑地でバカ騒ぎをする「現代的な」先王よりはマシというものだった。


「王に神の祝福があらんことを!国王陛下万歳。」

カンタベリー大主教の言葉と共に、聖エドワート王冠を授けられたジョージ6世に向かって臣民が歓呼をささげ、ついで列席の中でも序列第一位に位置する大日本帝国の皇弟、
秩父宮雍仁親王が敬意を表した。
それに続き、廷臣たちが次々に膝を折る。
すでに法的に王位は継承されていたが、満天下にそれが示されることとなったのだ。

「国王陛下万歳。」

その末席に神崎提督もいた。
特別な計らいといっていい。
扱いは大英帝国自治領のそれより上。出席した外国元首の代役以下ではあるが、首相クラスとほぼ同格だった。
軍装は、蝶ネクタイの礼装。
自衛隊の夜会服というとわかりやすいかもしれない。

聖ジョージの椅子に坐した王は、堂々としているというよりは凛としていた。
望んでついた王位ではなかったが、それでも責任を全うする。男とはかくあれかしという見本のような姿だった。

繰り返される万歳の言葉。

その中にあって王と、それに近しい立場――王族や皇族など――の人々はまるで彼が総長をつとめる騎士団の一員であるように見えた。

823 :ひゅうが:2016/08/02(火) 22:00:42

「ジョージ6世…大英帝国最後の『皇帝』。その治世は大英帝国の凋落の時代に位置づけられる。」

歴史は語る。
王の即位から2年を経て第二次世界大戦が勃発。
終戦からわずか7年で王は去った。
だが、彼は何よりその誠実さにおいて国民の大いなる信頼を獲得したという。
過渡期の王。それがジョージ6世だった。



「格好いいな。」

利根がいった。
戴冠式の様子は、はじめてラジオで生中継された。
ニュース映像にその一部始終が残されたこれは初の戴冠式だった。

「ああ。格好いい。」

神崎もいった。

「あれが王。あれこそが王。」

「提督は?」

「私は王じゃない。」

だが、王たろうとした者のことは知っている。

「だから、ここにいる。」

「ああ、だから見捨てられないのデスね。」

この世界を。どんなひどい目にあっても。

「もう少し見ていたくなったのさ。」

「懲りない人ね。」

足柄が、ついで金剛と利根が笑った。




――某所にて

「はい。成功します。軍事的には負けることがあり得ぬ戦いです。我々は上海を取り戻すのです。謀略はソヴィエトの専売特許ではありません。」

824 :ひゅうが:2016/08/02(火) 22:01:47
【あとがき】――ちょっとフラグをたててみた。
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最終更新:2023年11月15日 20:43