126 :ひゅうが:2016/08/19(金) 16:53:51

艦こ○ 神崎島ネタSS―――「第2次上海事変」承前



――1937(昭和12)年7月1日 神崎島 観音崎航空基地


『アルバトロス。こちら観音崎航空管制塔。ランウェイ(滑走路)045への着陸を許可します。
ようこそミセス・イアハート!
こんなときですがわが島は貴機を歓迎いたします。』

「ありがとうカンノンザキ・タワー。なにかあったのですか?」

『チャイナでクーデターが発生したようで、シャンハイがチャイニーズ・アーミーの包囲下に入りました。現在、航空隊が現地に急行して市民の脱出を急いでいます。』

「それは・・・ここからも飛行機は飛んだのですか?」

『ええもちろん。大型飛行艇でピストン輸送の予定です。…おっと、無駄口がすぎましたね。
長旅お疲れ様でした。
滑走路は見えますか?』

「ええ。フダラク・ベイの艦艇がライトアップしてくれているし、夜間誘導灯もきちんと確認できます。きれいな島ですね。ここは。」

『世界を旅した冒険飛行家にそういっていただけると嬉しいです。ニューヨークの摩天楼やパリの光には及ばないかもしれませんが、なかなかのものでしょう?』

「ええ。本当に。それでは、着陸態勢に入ります。侵入高度の指示は?」

『滑走路はあけてあります。貴機の通常通りでかまいません。』

「わかりました。高度500フィートからアプローチします。」

『了解しました。』

航空障害灯の赤い点滅する光や、ビル街の金色の光、町を行き交うヘッドライトの川の上を、1機の中型機が飛んでいた。
ロッキード・エレクトラ。
双発のエンジンを低翼の左右につけ、流線型の胴体の後部尾翼の左右から小さな垂直尾翼が2枚のびる独特の美しい形をした飛行機である。
中型旅客機として開発されたこの機体は、この時代の傑作飛行機として知られていた。
さらにはその素直な操縦特性から冒険飛行家たちは機体に燃料タンクを増設し、しばしば長距離を飛行している。

女流冒険飛行家であるアメリア・イアハートが乗るこの10E型もその例に漏れない。
通常は1100キロばかりであった航続距離は、これらの改造によって4500キロあまりに増大している。
彼女は、これを用いて太平洋を東回りで横断する旅の途上にある。

オークランドを出発した彼女は、ハワイ、ライン諸島、そしてニューギニアのラエを経由し、そこから日本領南洋諸島のトラック環礁を経由。
そしてこの神崎島へと至っていた。

当初は、赤道上を通る目的上、ラエから米領ハウランド島を経由するルートをとろうとしていたのだが、対日関係が比較的改善されたことや米側の要請にこたえた日本政府が電波誘導を請け負ったことから航路を変更。
今話題の神崎島からフィリピンを目指すルートがとられることになったのだった。
もちろんそれだけが理由ではない。

それは、コクピット上でまわされているフィルムカメラや電波感知機でもよくわかるだろう。

127 :ひゅうが:2016/08/19(金) 16:54:39

「とっている?」

コクピットの光の海の中で慎重に操縦桿を倒しながら、アメリア・イアハートは隣の機関士席へといった。
機関士兼航法士であるカナダ人のフレッド・ヌーナンがそこにはいるはずだった。
長距離飛行の連続であったことから彼らの顔には心地よい疲労感が漂っていた。

「ええ。依頼通りに。」

フレッドは忌々しそうに、コクピット横にとりつけられた機材の中でフィルムが回るのを確認しながらいった。

「難儀なものね・・・こんなことをしなければならないなんて。」

「しかたありませんよ。この依頼を受けなければ飛行許可を出さないという警告もありましたし。
しかしその分航法支援で援助が受けられました。」

「まぁ…そうね。」

領空などの概念の過渡期にある上、大恐慌から立ち直りつつあるアメリカにおいて、彼女の冒険飛行に対する干渉が排除しきれなかったことは、彼女たちの心にも少しばかり影をおとしていた。
搭載した最新の無線航法支援装置があまり役に立たずにヒヤリとしたときに、トラック環礁駐留の日本海軍航空隊の出迎えを受けたあとは特にそうである。
あのまま低層雲の中に突っ込んでいたらどうなっていたことやら。


「見られることは日本側も想定済み、と思いましょう。」

「ですね。それより、フィリピンの方はだいじょうぶでしょうか?」

先ほど入った情報は、これからフィリピン海をへて沖縄へ至る予定である彼女らと無関係ではあり得ない。

「チャイナとステイツは友好国だけど、警戒はしておくべきね。」

「では、やはりここでしっかりと休養をとりますか?」

もともと、合衆国大統領の親書を得たことから彼女はこの島で3泊ほどを過ごす予定でもあった。
その間に、機体のチェックや、役立たずであった電波誘導機材のアンテナ交換などを行い、あらためて出発するつもりだったのである。
この時代の飛行機ではよくあることである。気象状態によって足止めを食らうことは日常茶飯事だった。

「そうね。可能な限りの情報収集を要請されているから、それを理由にしましょう。」

「話によると、アインシュタイン博士一行も滞在許可をもぎとってこの島にだいぶ長くいるみたいですね。お会いできればいいのですが。」

「そうね。」

マンハッタン島のそれよりやや広い範囲を区画された都市の上を飛びながら、彼女はそうつぶやくにとどめた。
滑走路は目の前に近づいており、やるべきことが迫っていたからだった。
その間もカメラは回り続け、滑走路上に並ぶ輸送機らしい機体や、管制塔、そして何かよくわからないアンテナと思われる物体などを写し続けていた。

128 :ひゅうが:2016/08/19(金) 16:55:37
【あとがき】――渦中の場所にくだんの人がご到着しました。
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最終更新:2023年11月23日 13:19