136 :ひゅうが:2016/08/19(金) 18:09:55
艦こ○ 神崎島ネタSS――「第二次上海事変」その1



――同 7月1日午前3時 上海 黄浦江岸

観音開きの扉が開き、跳ね橋のようになっている通行板が埠頭におりた。

大陸の河川らしく、「埠頭」があるこの「河港」は下手な漁港のそれよりも規模が大きかった。
停泊している船舶は、普段よりもやや少ない。
現地に生きる人々は、国民党軍の槍先はもっぱら日本人に向いていることを知っていたし、彼らとつながりのある人々は早々と脱出していた。
欧米人は関わり合いにならぬようにしており、日本総領事がどれだけ要請しても舟を出そうとはしなかった。
つまりは、ここにいたのは親国民党か中立勢力ばかりということになる。

そのため、陸戦隊も無茶を通せた。
出港用意を調えながらも日本人だけ乗船を拒否する船を退去させ、その位置に飛行艇を滑り込ませることができたのだ。
そして、その機首から、「戦車」がおりてゆく。

「すげぇ。戦車を空輸してるぞおい。」

海軍詫間航空隊が運用する97式大艇からおりたった陸戦隊員たちがぽかんと口をあけて見送る中、砲塔に海軍の旭日旗を描いた戦車9両と装甲車7両が隊列を作り、領事館前まで走り始める。
そして、埠頭では入れ替わりに、避難民が荷物を埠頭に置いたままで搭乗を開始した。

「手荷物はひとつまでです!それ以外は船便で輸送しますので、貴重品などを手元にまとめてください!」

「置いていく荷物はひとまとめに!番号札をお渡しします!」

「これから1日あたり7往復します!慌てず騒がず搭乗してください!」

「旅券は必ず手元にお願いします!」

詫間空の機体に便乗してきた内務省職員たちが声を張り上げる。
しかし手が足りないのか、搭乗員たちが列を整理し、荷物の分類を行う一幕もあった。


「なんとまぁ…力業だな。」

上海特別陸戦隊を率い、籠城戦の覚悟を固めていた大川内伝七少将は、先ほどまでの絶望感から解放された避難民の列を見守りながら少し呆れた声を出した。

「予想以上に中華民国軍の動きが早く、このようになってしまいました。」

海軍詫間航空隊の臨時指揮官である日辻常夫大尉は恐縮しながら頭を下げる。
その彼にしても、ここまで揃った飛行艇の数に半ば呆れていたのだが。

137 :ひゅうが:2016/08/19(金) 18:10:30
「それで、第3艦隊の到着予定は?」

「明日までに。東シナ海を全速でこちらへ向かっています。」

「河口は確保しているのだったな。」

「はい。空中挺身部隊――略して空挺部隊という落下傘部隊が確保したとのことです。」

「重火器は足りるのか?」

落下傘ときいて、大川内は眉をよせる。
兵士が持つレベルの火器では、機械化されている陸上部隊に対抗できるか疑問があるからだ。

「その点は大丈夫です。温水司令のあの化け物みたいな大艇から、歩兵砲すら落下傘で…」

「なんとまぁ…どれだけ積めるんだ、あの機体。」

挨拶もそこそこに、全幅75メートルの巨人機へと避難民を誘導する作業に戻った神崎島の若い指揮官は、時間を惜しむあまりにそのあたりを説明してくれなかったのだ。

「200トンは積める、と聞きました。詰め込むだけ詰め込んで500人は運べるそうです。」

なるほどなぁ。と大川内は少し納得する。
一度に1500人、7往復ができたとして1万人だ。そりゃぁ何とかなるといえるわけだ。

「司令。」

伝令が駆け寄ってきた。

「フランス領事館から、便乗させてくれと――」

「あとにしろ。なんだかんだとわが軍を矢面にたたせた上で、我々のためには船を出さなかったのだ。それくらいは覚悟しているだろう。」

予期していたらしい伝令はそのままきびすを返す。
この頃の共同租界において、日本人はそういう扱いだった。

「司令。戦車部隊です。」

「おう。うわさにきく97式か。これでだいぶ楽になるな。」

その時点まで、大川内は上機嫌ですらあった。
避難民の救出には目処が立った。空輸だけでなく、第3艦隊と高速輸送船がこちらへ向かっているのなら、脱出は容易である。
掠奪に任せる可能性が高かった租界内の資産の搬出もかなうだろう。
いや、もしかしたら租界から脱出したがっている居留民も点数稼ぎに保護できるかもしれぬ。
などと考えていたのだった。
だが、彼の頭を疑問と驚愕が埋めていくのにそう時間はかからなかった。


97式戦車――ということになっているM24-――から降り立った指揮官は、見事なストロベリーブロンドの髪をなびかせ…あ、こけた。
縞パンだ。

「神崎島海軍特別陸戦隊所属 エレン・フォン・バウアー中尉であります。これより貴隊の指揮下に入ります!」

のちに縞騎士と呼ばれることになるその妖精さんは、多くの例と同様に、元ネタの影響を受けていたのだった。

138 :ひゅうが:2016/08/19(金) 18:11:13
【あとがき】――縞騎士中隊(仮)あらわる。

155 :ひゅうが:2016/08/19(金) 19:07:33
おっと修正。
M24で。パーシングは重すぎる…


M26をM24に修正
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最終更新:2023年11月23日 13:19