620 :ひゅうが:2016/08/22(月) 23:35:33
艦こ○ 神崎島ネタSS――「第二次上海事変」その5



「作業の手順が複数個あって、その内破局に至るものがあるなら、誰かがそれを実行する」
――1949年5月27日 USAF Project MX-981における事例についての技術者のコメント




――西暦1937(昭和12)年7月2日 午前11時 南京 総統府


「何度いわれても変わらん。中止だ。」

中華民国臨時大総統(を名乗っている)張学良は、部下に対してそう断言した。

「といわれましても、軍事に関しては顧問団にすべて任せると仰ったのは総統ですよ!」

「それはそうだが、限度があるぞ!」

今回の作戦計画を承認したのは、張だった。
作戦目的は、上海の日本軍撃滅。
日本軍の悪癖として、一人や二人の人間が犠牲になっても軍事行動を起こさず、その後の事件でその怒りを噴出させるというものがある。
これを外から見れば、過剰反応を起こすか何か悪しき陰謀をたくらんで口実を探して中華を侵略するようにしか見えない。
となれば、国際社会の同情とことによれば支援を得つつ、日本が不当に占拠する利権を回収。
祖国の力を見せつけつつ東北部奪還を目指すという方針に対し容易に激発させることが可能だ。

そのためには、局限された場所における悲劇とそれに対する反撃という形がふさわしい。
ここで日本軍にドイツ式訓練を受けた新制軍が勝利できれば、意気消沈している中華民族の戦意高揚が期待できる。
東北部に傀儡国家をたて、国際社会から望んで孤立するという最悪の選択をした日本相手なら、どんなことをしても欧米はまず中華に耳を傾けるだろう。

そう考えた張は、対日戦の意志が薄い蒋介石を排除し、彼に作戦案をつっぱねられ続けていたドイツ軍事顧問団に局地対日戦の用意を命じたのだ。
そしてできあがった計画は――

まず第一に、絶え間ない日本軍への挑発をもって対日戦の機運を盛り上げる。
第二に、日本租界などで事件を起こし、過剰反応を生む。
第三に、これをもって日本の侵略との宣伝を欧米で行う。
第四に、まだ集結しきっていない日本軍を局地撃破。怒り狂った日本軍を陣地地帯に誘引し消耗戦に追い込む。
第五に、友好的な第三国の仲介と圧力で中華勝利で停戦する。この過程で大都市が破壊されればその被害をもって日本の悪辣さを宣伝する。

仮に長期戦となっても、時間がたつに従い、中華に同情的な国が増えていくだろう。
日露戦争と同じ構図である。

そしてこの計画に基づき、構築を完了していたヒンデンブルグ・ラインと呼ばれる縦深陣地帯と新式軍隊も訓練が完了していた。
彼らには及ばぬものの、さらに後方の蘇州などには20万が集結を完了。
予備兵力としてさらに50万以上が待機していた。
ここまでそろえておきながら、そして抗日戦の機運を盛り上げながらも蒋介石は投入をためらった。
そうこうしているうちに、満州では石油が発見され、あれよあれよといううちにその利権を餌にして英米による事実上の満州承認にまで至る。
もう待てない。
国共合作までお膳立てしたのに、故郷満州を日帝に渡す?
冗談じゃない!
もはや、同盟相手の中華ソヴィエトによる工作も待てない。あの日帝がスペイン金塊の行方を暴露してしまったがために今の欧州では彼らの工作が逆効果になる可能性が高いのだ。

「日本軍が展開するまで1週間はかかるという話ではなかったのか?」

「それについてはファルケンハウゼン閣下も誤算だったとのことです。しかしまだ挽回の目はあると。」

「空輸か。日帝め。なかなかやる。」

張は、まさか本当にやってのけるとは、と父の仇であるあの国への敵意を新たにした。

622 :ひゅうが:2016/08/22(月) 23:37:03
「だが、いくら手筈では『上海からの脱出完了寸前で動く』予定だったとはいえ、いくらなんでも猶予1時間はやりすぎだ。」

そう。今回の計画の中核は、日本軍による過剰反応による「挑発」と「偶発的戦闘」から市街戦を引き起こすことにある。
これにより戦闘力の高い日本軍を消耗させ、新式軍で押しつぶすつもりだったのだ。
そのために数々の準備をしたにも関わらず、速度に加えて時の運が日本軍の味方をしている。
引き揚げには最低でも数日はかかり、重装備をたずさえた日本軍第一派がやってくるまでは1週間はかかると彼らは想定していた。
そのため、この時間差を利用し上海に虎の子の15個師団を投入し、駐留日本軍を避難民にかかりきりにさせる…はずだったのだ。

だが、それを引き起こすはずだった特務機関による日本人拉致を待たず、日本人は南京でのクーデターを察知するや撤収を開始。
大量の飛行艇を動員して早くも1日で半数を脱出させたのだ。
避難民でごった返す埠頭において発生するはずだった「日本軍の火薬・化学兵器輸送船の爆発事故」は起こすまでもなく埠頭から搭載船が遠ざけられたことで空振りに終わった。
おまけに、命令を下した現地軍司令部は南京からの命令を疑い始めた。
直通電話回線先の日本人に簡単に感化されたのだ。

こちらの粛清のため、さらに1日が浪費された。
そうこうしている間に、上海には戦車が空輸されたという信じがたい情報が外電で入り始めた。
そして、張が命令を出す以前に、現地の「上海奪還軍」はあわてて計画通りに行動しはじめたのだ。
それを知った張は、中止を命じた。
これに対し、再考を願って部下は伝言役として総統府にやってきたというわけだった。


「遺憾ながら上海での決戦はこの情勢では西洋人の疑念を生みすぎる。ここはヒンデンブルグ線での消耗戦に引きずり込むしかないか。」

「それについては軍事顧問団も同様の考えのようです。なるほど――そういうことでしたか。」

うむ。と張は頷いた。

「しかし誰が勝手にあの火船から火薬を持ち出したんだ…帰ってきたらただではすまさんぞ。証拠は確実に消さねば。」

ここ数日寝不足であった張は、あたりちらしそうになって自制した。
こういうときこそ人間の器が問われる。と自分に言い聞かせつつ。

「ですね。しかしそうなると、戦果は海上艦に限られますね。」

そうだな。と応じたところで張は固まった。

「待て。『海上艦』といったか?」

「はい。」

不思議そうに部下は返す。

「上海での決戦を断念した場合の目標は遅滞防御です。そのために空軍機による空爆を…」

「馬鹿者!なぜそれを早く言わない!」

多少なりとも国際社会の理解のある張は蒼白になりながら叫んだ。

623 :ひゅうが:2016/08/22(月) 23:37:40
「報告が確かならあそこには西洋人の避難民もいるはずだ。それを区別してわが空軍機は空爆をできるのか?そしてもし間違って租界警備に出てきた列強の艦艇がいれば…」

「し、しかし作戦目標の追求のために独断専行するのは兵学の基本で――」

やる。鳴り物入りで上海突入を図っていた士気の高い新式軍は、「上海奪取のための時間稼ぎのために」海上艦空襲が作戦に含まれていればそれを実施する。
蒋介石による非効率的なまでの中央集権による軍事統制から、ドイツ式の兵学をフルに発揮する機会に恵まれた彼らは…
そして作戦中止を命じられ、勲功を立て損なったと思っている一部は…
やらないはずがない。

「空軍基地に連絡だ!急げ!」


このとき、すなわち西暦1937年7月2日午前11時07分。
上海「奪還」軍の命を受けた周至柔空軍司令官は、上海沖の敵艦隊に対する航空攻撃をすでに数時間前に下命。
浙江省杭州北方の筧橋や安徽省広徳から、すでに攻撃隊が飛び立っていた。
機体は、旧式化したノースロップ・ガンマ爆撃機に加え、中独合作によって供与されたユンカースJu52 合計20機および、欠陥機としてだぶついていたハインケルHe111A爆撃機10機。
さらには対艦攻撃の切り札としてユンカースJu87A「スツーカ」が15機。
いずれも、4月以降に供与されたばかりの最新の爆撃機である。
2ヶ月足らずの訓練にも関わらずもともと腕利きのパイロットにこれを任せたことから彼らの士気は高かった。

そして皮肉なことに同時刻、アメリカ海軍アジア艦隊主力および、大英帝国海軍中国戦隊および第5巡洋艦戦隊が到着する。

この時点で、現地に展開していた空母「加賀」には神崎島製の対空電探は装備されていない。
ドック入り中の空母「赤城」が優先され、さらにこのとき対空警戒を行うはずだった大艇は台湾に向かって出発していたばかりだった。
そして政治的事情により、アメリカ艦隊との合流を要請された戦艦部隊はこのとき電探の探知圏外に位置していた。

――そして…

624 :ひゅうが:2016/08/22(月) 23:38:15
【あとがき】――ヒャッハー。

656 :ひゅうが:2016/08/23(火) 00:37:34
あと修正しとこう。
英艦隊は「第5巡洋艦戦隊」で。

第8戦隊を第5巡洋艦戦隊に修正
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最終更新:2023年11月23日 13:23