80 :ひゅうが:2016/08/25(木) 02:06:58

神崎島ネタSS――「第二次上海事変」その14





――同 東シナ海上 第1空母部隊(群)旗艦 航空母艦「サラトガ」


先ほどから数ダースもの罵声や後世で放送禁止用語といわれる言葉がブリッジには連続していた。
発生源は、第1空母部隊の指揮官である「ブル(猛牛)」ハルゼー少将だった。

「畜生!やってくれたなチ○ク!」

「群司令、詳報が入ってきました。」

「アジア艦隊司令部は、ヤーネル提督は大丈夫なのか!?」

司令官の激怒っぷりに恐れをなした伝令にかわって電文を受け取ったタワーズ艦長は、帽子を片手で直しつつ電文に目を落とした。
現地にいる日本海軍からの詳報である。

「アジア艦隊司令部に被害はなし。重巡『オーガスタ』は第一煙突基部におそらく220ポンド爆弾1発が命中。兵員3名が巻き込まれました。」

「戦死者が出たか。それで、他の被害艦は?」

「パナイ号は絶望的です。」

タワーズは言った。

「兵員、士官等59名に加えて、避難民約20名も巻き込まれました。現在の所生存者は確認できていません。」

またひとつ、お聞かせできない言葉が響いた。

「また、避難中だった揚陸艇も1隻が轟沈。こちらには避難民80名ほどが。
避難船上にも機銃掃射が行われ、甲板上の数十名がやられた模様です。」

「なんて奴らだ!非武装の民間人だぞ。」

仕草で同意しつつタワーズはさらに深刻な情報を伝えた。

「上海市街地に落とされた爆弾と一連のテロ――攻撃した主体は不明です――によって上海南停車場およびその前の広場に爆弾が落ちました。さらに上海随一の繁華街、大世界にも。これにより――」

「言わんでもわかる。そこには避難民であったり住民が鈴なりだったのだろう。」

「はい。目下確認できた遺体は300名ほど。現在同地は戦場になっていますのでそれに数倍する被害があるのは確実です。」

「ドイツ三十年戦争じゃないんだぞ。都市の中で戦争をやるなんて。」

確かにその通りだった。
中世末期から近世にかけて欧州では都市を巻き込んだ地獄のような戦争が続いた。
これにより、現在でいうオープンシティ、無防備都市宣言が生まれたほどにそれは欧米人にとってのトラウマであったのだ。
人口が3文の1に激減するような惨劇を見れば誰だってそうするだろう。

対して、中国大陸においては都市攻撃と市街戦は近年までありふれた事象だった。
日本においても会津戦争や北越戦争、そして箱館戦争などの戊辰戦争の戦闘ではいずれも都市の攻撃が行われている。
そこで何が起こったのかは「勝てば官軍」という言葉が象徴しているだろう。
日本が曲がりなりにも西洋式の軍紀や国際法を採用したのに対し、つい数ヶ月前まで内戦を繰り返していた中国大陸においてはその禁忌感が薄かったのだ。
責められるべきはこうした近年までの風潮であるのだが、そんなことは欧米にはわからない。

81 :ひゅうが:2016/08/25(木) 02:07:50
「それで、現地の状況は?わが艦載機隊はもうすぐ到着するが。」

「現在敵第2波の空襲および陸上部隊の攻撃のまっただ中です。
今のところ被害は確認できていません。」

「よし。」

アジア艦隊攻撃を受ける、の報に即座に戦闘機隊を発進させたハルゼーは、巧遅より拙速という言葉を体現する提督だといえた。

「戦闘機隊長に無線をつなげるか?」

「もちろんです。」

タワーズは、ブリッジの無線マイクを手渡した。
無線技術の遅れによりモールス信号に頼っていた日本艦と違い、米艦にはこうした無線電話設備がふんだんに設けられている。

「サッチ大尉。聞こえるか?ハルゼーだ。」

艦橋上のスピーカーから返答が帰ってくる。
VF12の臨時指揮官であるジョン・サッチ大尉だ。
彼はサンディエゴで教官をやっていたが、乞われてアジア艦隊派遣組としてこの艦に乗り組んでいた。

『聞こえます。サー。』

「俺たちの聞いたところでは、シャンハイはだいぶひどいことになっているらしい。」

『聞いています。爆撃による被害に加えて自国民も地上軍の攻撃対象だとか。』

「その通り。連中の邪悪な意図から我々は居留民はもとより現地の住民をも守らなければならない。
現地では生き残ったジャップの…いやジャパニーズのエア・キャリアーが戦闘機を上げているが数が足らん。」

ハルゼーは、情の深いがゆえに少し間をおいた。
意外かもしれないが彼はこの時代としてはかなりバランスのとれた感覚の持ち主である。
史実で有名なキル・ジャップスという台詞でも、「俺は奴らを尊敬する。尊敬しつつ殺せ!」と続ける。
つまりは半分くらいは演じるような形で彼はそう言っているのであった。
本当に人種差別主義者なら、差別語といえども話題にすることはない。

だからこそ、彼は今から赴くことになる場所の運命に思いをはせて彼はしばし沈黙したのだった。

「必ず、守ってやってくれ。以上だ。」

『お任せ下さい。サー!』

サッチ大尉の面長の顔が思い浮かぶような快活な声がマイクロフォンから響いた。
時計を見る。
いよいよ上海上空に達する時間帯だ。

82 :ひゅうが:2016/08/25(木) 02:08:55
【あとがき】――またも幕間的な一話です。

85 :ひゅうが:2016/08/25(木) 02:47:07
F3Fを投入ですね。
機種転換訓練完了直後です。
それに伴いサッチ大尉が教導のためにサラトガに配属され、ここに来ている形です。

87 :ひゅうが:2016/08/25(木) 03:29:00
あとちょこっと修正しとこう。
サラトガ配備航空隊なのでVF12ですね。

修正VF13をVF12に修正
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最終更新:2023年11月23日 13:31