155 ：ひゅうが：2016/08/25(木) 19:03:22
神崎島ネタSS――「第二次上海事変」その16
――同 上海 市街地
「随伴歩兵へ。さっきと同じように側面掩護を。」
『カールグスタフはまだか？』
「バカスカ撃ちすぎだ佐藤！」
『ヒイ！』
『ボケッ！』
無線の向こうから「畜生いつか殺してやる」という声が聞こえた気がした。
もう死んでるだろうが。と突っ込もうかとも思ったが、バウアーはその欲求を無視することにした。
あいつらはふざけているようでなかなか死なない男たちだ。
大仰に弔辞を読んでいるところに平気で帰ってくるような空気を読まない阿呆ども。
なお、放っておいてもそのまま帰ってくるからどっちにせよあまり関係はない。
M24に随伴した日米の混成部隊は、市街地での火力支援を続けつつ、都市区画を奪い合う攻防を続けていた。
歴史あるバンドほどではないが、多くの建物が全壊・半壊を問わずに炎上している。
その中を、のちのドイツ軍式迷彩をつけた軍艦旗をつけた戦車がゆく――しかも実は米国生まれの――というのはかなりシュールな光景である。
石畳はすでに様々なものでかち割られ、街灯は嵐の後のヤシの木のように根元から折れ曲がっている。
手をあわせて哀願するような現地人たちは、まだ神経がマトモな米兵や陸戦隊に連れ添われて後方へ向かう。
が…
『畜生！また偽装だ！』
『撃て！撃ち返せ！！』
そうらまたきた。
戦場慣れしている彼ら陸戦隊員とは違い、米兵たちは便衣兵による攻撃に過剰反撃を続けていた。
「何度目かねー。」
「３０から先は数えてませんね。そのうちグッドモーニングベトナムとか歌い出しますよ。それかミ――」
「それいじょうはいけない。」
次元の壁を越えてやってきそうな著作権の鬼の出現フラグを折ったバウアーは、あらためてペリスコープごしに煙たなびく戦場を見渡した。
156 ：ひゅうが：2016/08/25(木) 19:04:03
普段なら「ご遺体」として尊ばれるべきものが散乱し、その前方では姿勢を低く、瞳になにがしかを宿らせた詰め襟に斜めベルトの男達がうごめく。
ドイツ式訓練を受けた精鋭、第89師（団）の兵士たちだ。
何人かとった捕虜からは、バウアーたちをみて「やはり夷荻を信じるんじゃなかった」とかえってペラペラと内情を話されたおかげで思いの外情報を集めることができた。
「大山中尉。念のためだけど投降と戦闘中止を重ねて呼びかけてみてくれる？」
『はっ。』
海軍陸戦隊 第一中隊長である大山勇夫中尉が、装甲車の車内から中国語でマイクを通じて呼びかける。
が。
「はい。その意思なしと。」
『前進ですね。』
「ここらあたりで租界外延部の突出部を解消しておきたいからね。」
バウアーは、アイパッチの下がうずくような感覚を覚えながらいった。
「崇徳女学院前あたりで分断できるでしょう。上空の制空権争いも決着しつつあるし。」
『わが軍が全金属製の機体を持っているのはともかく、それに引き込み脚の機体を持っていたとは知りませんでした。』
大山中尉の言葉の通り、空母「加賀」から復仇をこめて飛び立った機体は彼らの虎の子だった。
10機あまりの「試製零号艦上戦闘機」。
史実では零式艦上戦闘機といわれるはずだった機体である。
本来は20機以上を投入して一気に上海上空の制空権を握るはずだった名機のデビュー戦は、史実での運命を象徴するかのように硝煙にまみれたものとなった。
実のところ、この機体は厳密な意味では日本製ではない。
神崎島で「練習機」として使用されていたものだ。
なお、本土では53型を採用すべきかそれとも54型を採用すべきかで意見が真っ二つに分かれているという。
1000馬力級としては異常に軽量かつ空力特性のよい美しいフォルムをした銀色の戦闘機は、やはりその下で戦う者を釘付けにしていた。
だからだろう。
高高度を飛行しつつ、散発的な戦術爆撃機の襲撃に対する「火消し」を担うあまりに高速な戦闘機はそれほど目立たなかった。
神崎島からはるばる飛来した艦上戦闘機「烈風」。
第601航空隊仕様となったこの機体に打ち勝ちたいなら、究極のレシプロ機の一角であるベアキャットかサンダーボルトを持ってこなければならないだろう。
現在のところ、上海の前方で今まさに迎撃戦を展開している日米戦闘機隊が会敵したもの以外では大規模空襲は確認できていない。
神崎島本土の分析によれば、このほかにマーチンの重爆が２０機ほどあるというが…今は投入しないのか。
あるいは前線に配備していないのか。
「やっと引きましたね。」
「やってもやってもきりがないわー。いっそまとめてきてくれた方が。」
「あ。」
――また、フラグがたった。
157 ：ひゅうが：2016/08/25(木) 19:04:36
【あとがき】――もう一丁。
160 ：ひゅうが：2016/08/25(木) 19:09:10
おお…21型になっとる。失礼。
誤字修正
最終更新：2023年11月23日 13:31
