275 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:39:37
※ 実験作兼メタ話。グロ注意です。




 神崎島ネタSS――閑話 「悪夢」


こんな夢をみた


――西暦1945(昭和20)年8月6日 午前8時15分


ゆるさない。

「どうしたんですか?何があったんですか?!」

私は、周囲を走り出す人々に次々に声をかけたが、返答はなかった。
頭を奇妙な頭巾のようなもので覆い、(奇妙なことに)都会であると思われる場所にもんぺ姿の女性しかいない状況。
男性も、着ているものはやたらとカーキ色であったり質の悪そうなものが多い。
背広姿の人間など数えるほどだ。

遠くから、消防車のサイレンのような音が響いてくる。

「空襲警報は解除になったはずじゃなかったのか?」

「知らんよ!1機や2機の偵察機の侵入は日常茶飯事だ。」

「いよいよこの町にも来るのか?」

まるで聞こえていないかのように男どもが小走りでかけていく。
悪い意味でその動きには慣れが感じられた。
私は、通りの真ん中に立ち尽くした。
底が抜けたような青空、瀬戸内海のはるか向こうの山々からは入道雲が立ち上り、街路樹からはセミの声が聞こえてくる。
通りの真ん中では、中学生くらいの少年たちがクワをふるう手をとめて空を見上げていた。

ゆるさない。我々を見殺しにした奴らを。

立て看板には、建物疎開の文字。
そして、空には飛行機雲。
ゆるやかに旋回している。
そしてあれは…落下傘?

そして、私は閃光を直視してしまった。

ゆるさない。ゆるさない。おのれ。おのれ。

空中に出現した太陽が、人を黒い炭に変えてそれすらも炎上させるのを私はみた。
まるでオーブンの中に人間を放り込んだような地獄が数秒続き、続いてプレス機が横から殴りつけてきたような衝撃が私をおそった。

ゆるさない。ゆるさない。なぜ。なぜ。

今や声は合唱に変わっていった。
生きながら亡者に変えられてしまった人々のうめき声、嘆き声を背後に、私はそれについて答えようとし――

「鬼になりたいのか?!」

首根っこを引っ掴まれ、引き戻された。

276 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:40:30

――客観時間 1937(昭和12)年7月3日 神崎島 帝国高等弁務官府


「お目覚めですか?」

「あ…ああ。」

帝国海軍中将 堀悌吉は全身にいやな汗をかいている自分を自覚し、ついで椅子に座っている自分を自覚した。
目の前で微笑しているのは…そう。駆逐艦早霜。
夕雲型駆逐艦の1艦。
レイテ沖海戦において戦没したという。長いつややかな黒髪で顔の半分を隠した、物静かな女性だった。

「少し…夢をみていた。」

「の、ようですね。ふふ。」

早霜は幽かにわらった。
彼女の常のことだが、このときの堀には、妙にそれが気に障ってしまった。

「何がおかしいんだ。」

言ったところで、堀は少し後悔した。
どう考えても八つ当たりである。
この高等弁務官府によくきいている冷房にあてられたのかもしれない。
本土には限られた場所にしかないこの冷房に、近頃のスタッフは頼り切りだった。

「いえ。あなた方も『呼ばれる』ことがあるのだな、と。」

「呼ばれる?」

堀は、眉間にしわをよせて尋ねた。
そこに、彼女らしからぬ深淵がたゆたっているのを、このときの堀は敏感に感じながらも深入りしていた。
もっともこれはあとで気付いたことだったのだが。

「怨念が、ここにおんねん。ふふ…」

「真面目にこたえてくれ。」

シュールなギャグに、かえって堀の声の温度は下がった。

「真面目にこたえていますよ。堀提督。」

早霜は、嘲るように首を傾げ、そしていった。

「今の日本の国教――ということになっている神道では、もろもろの罪穢れは水にのせてながされいろいろな神の持ち回りで清められ、最後はハヤサスラヒメという名の神が持つ頃には消えてなくなりますよね。」

堀は頷いた。
この時代、こうした神話の話は国民学校あたりで教えられる。
いくら慣習だから国教でないといっても、それがいわゆる国家神道というものの実態だった。

「なら――私たちの持つ記憶の歴史、昭和20年8月16日がくるとともに生まれながらの民主主義者になった人たちがそれまでため込んだ感情は、どこへいったのかしら?」

堀は、理解し、恐怖した。
軍艦の持つ魂がここにくる、そのためには憑代が必要だ。

「国家総力戦、それまで作り上げた歴史や文化のすべてをかけて神がかり的な一億総特攻に身を焦がした半身は?」

277 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:43:47
堀の脳裏に、神崎島の「島志」といわれる記録がよみがえる。

「なら…この島は…」

「ふふ…怨念が、おんねん。」

堀は返答につまった。
本土よりも早くなきはじめた蝉の声だけが、執務室の堀と早霜の間に流れる。
時計を見る。
8時15分。

「陛下は、ご存知か。」

「ふふ。強く、強くなれば、変わるの?」

問いかけのような言葉。
鎮守府。
その言葉の通り、この島は…何かを鎮める場なのかもしれない。

「なんて、ね。」

早霜は、ふっと表情を緩めた。

「少し、からかいすぎたかしら。」

ふふっと、今度は向日葵のように笑った早霜は、手に持った書類の説明をはじめた。
堀は、ようやくのことで悪夢から目覚めたような心地になった。

いや、実はまださめていないのかもしれない。

…神崎島それ自体が巨大な祟り神であり、それを鎮めるためにこの鎮守府の人々が動いているなどという妄想じみた悪夢からは。

堀は背筋が寒くなるのをこらえながら、上海からパールハーバーへ向けて急きょ航空輸送することになった欧米人の子弟の移送手順について熱心に調整をはじめた。
そして早霜も、夜のバーカウンター上のそれと同様の熱心さでそれにこたえていた。



――どこかで誰かが微笑した。

278 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:44:55
【あとがき】――ちょっとホラーテイストを混ぜてみました。
実験作なので、一発ネタ的な感じです。

280 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:52:13
一発ネタですのでちょっと毒を色々と…
寒気を感じていただければ幸いであります。

283 :ひゅうが:2016/09/10(土) 16:56:32
あとここでちょっとこわい話をひとつ。
――この作品、なんでこんなのになったのか筆者にもわからないんです。

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最終更新:2023年12月10日 18:06