381 :ゴブ推し:2016/10/09(日) 22:28:44
では投下します。
多分皆が期待している内容ではないと思いますが…。

大陸ナデシコネタ


彼は満足して眠りに就こうとしていた。
精力的に働き、思い描いていた夢の多くをほぼ達成し、手塩にかけた後継者たちがそれを継いで守り、より大きくしていく筈だ。

だからその人生に満足していた。

今もこうして自分の最後を看取る為に息子や孫たち、集まってくれた後継者達がいる事もそうだ。

だから彼は、安らかに息を引き取った。もう二度と目を覚ますことはない。


――――――――――――そう思っていた。



第一話(仮)―――気が付いたら…



「…―――カ、起きなさい。……うに着いたぞ。起きなさい…―――」
「…う」

肩を揺すられているのを覚えて薄っすらと目を覚ます。ぼんやりとした思考の所為か、いつ眠ったのか分からず、声の主が分からない。
妙に大柄な影に視線を向け―――

「ユリカ!」
「は…!」

優しげだった声は少し大きくなり、彼は驚いて目を覚ました。

「ああ、ごめんなユリカ、驚かせてしまって。でもユリカもいけないんだぞぉ。幾ら声を掛けても全然起きないんだからぁ」

パッチリと大きく目を見開いている所為で、驚かせたと思った大柄な人物が優しい声で…子供をあやすような声で彼に向けて言った。
一瞬、その人物…男性に何を言えばいいのか分からなかった彼だが……。

「ごめんなさい、お父様。お寝坊しちゃって」

何故かそう自然に言葉が出ていた。

「いや、いいんだユリカ、寝る子は育つって言うだろ。それだけ良く眠るって事はユリカが成長している証なんだから。だから眠たかった幾らでも寝てていいんだぞ」

先程までの注意はどこへ行ったのか、真逆な事を言う男性。

「いいえ、成長しているというのなら何時までもお寝坊な子ではいられません。お父様、行きましょう」

そう言って背を預けていた場所から立ち上がる。
彼はその場所をチラリと見ると、旅客機の客席のようだと思った。

「おお、ユリカは立派だなぁ。やっぱり日々成長しているんだなぁ」

声に見上げると、何故か男性は涙ぐんでいた。それに若干引きつつ彼は男性の手を取った。
困った顔を見せる添乗員さんに気付いたからだ。

と。

冷静に行動しているようだが、彼……否、彼女の思考は混乱していた。

(落ち着け、落ち着きなさい。辻…辻 政信! ユ…ユリカ、ユリカと呼ばれましたか私!? そしてこの今手を繋いでいる人は…あのカイゼル髭の男性は……という事は……此処はまさか!? いえ、こんなことが本当に……いや、二度あることは三度あると言いますし、しかしアニメの世界とは…)

混乱しながらも彼女……否、彼―――前世において大蔵省の魔王と呼ばれた辻 政信はなんとか思考を纏めようとする。

「おやぁ、元気ないな。やっぱりまだ眠かったんじゃないかぁ?」
「いえ、大丈夫です。お父様、初めての地球でちょっと緊張しているだけです」

優しげな眼とあやすような声を適当にあしらいながら状況を考える。

(初めての地球と言いましたか…私は。という事は火星で〝幼馴染の彼〟と別れて地球へ来た頃。そうなりますと私…ユリカは10歳ですね。この十年後に蜥蜴戦争が起こる訳ですが……)

空港と宇宙港を兼ねる施設を出て、黒塗りの高級車に乗り込んだ後も考え続ける。





ミスマル邸は由緒正しい日本家屋…いや、武家屋敷というものであった。
街を広く見渡せる丘の上にあり、広い敷地を持っている。これを見ると代々軍人の家系だというが、それだけでないように思える。

「……これが私の家」

無意識にそんな言葉が零れた。彼…彼女はその事を考える。親馬鹿のそうだぞぉ、すごいだろぉユリカ、という言葉にやはり適当に答えながら。

382 :ゴブ推し:2016/10/09(日) 22:30:27
(どうもこれはユリカの意識と統合が図られているようですね)

先程の言葉は、日本家屋は火星ではまず見ないもので、高級住宅街に住んでいたとはいえ、こうも広い邸宅に子供らしく驚いた為であるらしい。

(これを考えるに彼女の記憶も統合されているようですね。まだ完全ではないのでしょうが……それにしても―――)

―――それにしてもと思う。

パッチリした目、幼いながらもきれいな卵型を持つ頭部、白い肌、艶やかで長い黒髪……思わずニパッと笑い、白いワンピースの裾を左右にたくし上げて見る。可愛く頭を下げてみる。

「うんうん、まさに可憐、まさしくお嬢様と言った感じです」

姿見に映る己の姿を見て頷く彼女。
そこは、この邸宅で与えられた……自分の為に用意された私室だった。
お嬢様にこだわりのある彼としては、ユリカ嬢の容姿は合格満点だった。原作では色々と我儘な面が目立ち、余り性格に良い印象はなかったが、容姿はまさしく良家の令嬢というにふさわしい物だ。
彼はこれに将来性を期待した……が、

(とはいえ、淑女としての嗜みを身に着けるのは異論在りませんが、ミスマル家は代々が軍人。そしてユリカ…私は一人娘。幾ら娘に甘いから言ってその道を外れる事をあの父親…お父様が認めるか)

難しい物です…彼女は小さく呟いた。
ともかく、気になる事は多いが情報を集めつつ当分は無力な子供として過ごすしかないだろう。そう結論を下した。

そうして暫くは名門の子女らしく、様々な習い事をこなしながらニュースやネット漁る日々が続いた。

(まず驚いたのは日本が大陸化していた事ですね。その影響で私の知る歴史に異なる部分が多岐にあります。特筆すべきは第二次大戦で米国とほぼ痛み分けに終わり、日本の勢力圏と米国の勢力圏が冷戦構造になった事ですか?)

(100年前の月での独立戦争はやはり内ゲバの果てに連合との融和派が勝利して、経済植民地の状態が続いてますね。不当という物ではないようですが……しかし、ならば何のための独立運動だったのか? 仮に連合の介入があったのだとしても血を流した者達はほんと報われませんね)

(昨今では……私達が火星を出立した同日にユートピアコロニーの宇宙港でテロが起きてますね。これはやはり天河夫妻はネルガルに暗殺されたとみるべきでしょうか?)

最後のその事件を考えると、どこか悲しい思いが胸に去来するのが感じられた。

「…アキト」

そう無意識に幼馴染の彼の名前が零れ落ち、部屋のデスクの上にある写真立てに目が移る。
辻 政信としての意識強くあるようなのだが、どうしてもこの写真立てを片付ける事も、捨てることも出来なかった。
彼としてもまた、そんな彼女の意思を尊重すべきだと思った。乗っ取ってしまったという罪悪感がそうさせているのかも知れない。

383 :ゴブ推し:2016/10/09(日) 22:31:23



軍人として忙しい身である筈なのだが、ユリカの父…ミスマル・コウイチロウは必ず週に三度は娘と朝食と夕食を共にしていた。
大事な一人娘、妻の忘れ形見との団欒を大事にしたいのであろう。
ユリカもまた、その父親の愛情をよく理解していた。
そんな父と共にする夕食時の事だ。

「ユリカ、そろそろ学校に行ってもらおうと思う」
「…学校ですか、お父様」
「うん、地球での生活にも慣れたようだし、編入手続きも済んでいる。どうかな?」

僅かにユリカは考える仕草を見せる……が、それはフリだ。子供らしく戸惑い、悩んでいるように見せかけているのだ。
そんな彼女の様子を微笑ましげに見て、コウイチロウは何の疑問も持たない。何しろ中身は大蔵省の魔王様なのだ。ちょっとやそっとの事で演技しているなど見破れる訳がない。

「分かりました、お父様。学校へ行きたいと思います」
「おお、では来週の月曜日から通う事にしようか」
「はい。お父様。楽しみです!」

無難に答えて無邪気に喜んでみせる自分の姿を見て、嬉しそうにする父の姿。
その彼の顔を見て、悪くないことかもしれません、と彼女こと彼は思った。
ミスマル・ユリカとして生きる事、親バカな父を持つこと、この新しい世界で生きる事、何もかもが新鮮に思えて、楽しくあった。


そして、学校へ。
校長と担任の先生との挨拶を終えて父が別れる際、何度も何度も大丈夫か、大丈夫か、何かあったら必ず父に言うんだぞ、と念を押すようにして言う親バカに、これまたユリカも何度も何度も、大丈夫ですお父様、と繰り返すことになった。
その繰り返す言葉に納得して手を離したかと思うと、コウイチロウは担任の女性教諭の手を握ってユリカを! ユリカを何卒お願い致します! とやはり何度も言って顔を引きつらせる女性教諭を困らせた。

が―――何とか父は仕事に行き、ユリカは担任の案内を受けて自分がこれから勉学に励む教室の前に立つ事が出来た。

「じゃあちょっと待っていてねミスマルさん」

そう言って教室に入っていった教師の呼び声が掛かるまで廊下で待ち、

「入ってきてミスマルさん」

との声に、彼女は教室に続く扉を開ける。
そこで彼女は気付いた。つまらなさ気に教室の窓を見る同じ歳の少年。教師に促されて行った挨拶の時に合った視線。

「じゃあ、ミスマルさん。〝アカツキ〟君の隣があなたの席ね」
「はい。分かりました」

頷いて彼の隣の席に座って……やはり、と。自分に向ける視線、眼を見て気付いたものに確信を得た。
向こうは気付いていないし、多分〝まだ〟なのだろう。だけど―――

「よろしくね、アカツキ君」

そう満面の笑顔で彼に挨拶した。
その時が来るのを楽しみにして、そして気付かれるまではせいぜい自分が思い描く理想のお嬢様の姿で彼の傍にいて、驚かせてやろうと、内面で浮かぶ黒い笑みを隠し、

―――お久しぶりです。嶋田さん

と、心の内でもう一つの挨拶をした。

385 :ゴブ推し:2016/10/09(日) 22:32:55
以上です。
突発的に思いついたネタですから本当に続きは考えてません。
もし大陸SEEDの次がナデシコで決まりならこの続きを書くかもしれません。

あとTS注意を入れるのを忘れてました。不快にさせてしまった方には申し訳ない所です。

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最終更新:2016年10月17日 20:58