316: ひゅうが :2017/01/08(日) 07:19:14

艦こ○ 神崎島ネタSS――幕間「台風一過」



――昭和12(1937)年8月15日 太平洋 海上


うねりがある。
海上は一昨日までこの海域を通過していた大型台風の影響が残っているが、空はからりと晴れ上がっていた。
今頃本土では大きな被害を受けているのだろうが、事前の警告もあって気象庁はほぼ正確なルート予測に従って各地に警報を発令している。
何もしなかった場合に比べれば被害は少なくなるだろう。
これまでは気象観測船や各地の気圧計頼りであったこうした気象観測は、今年に入って急速に正確さを増していた。
理由は簡単。
あの島の存在である。
台風が北上する針路は、だいたいのところでフィリピン海から大東諸島方面を「逆つの字」のように日本列島へ迫るルートがほとんどだ。
そのど真ん中に、巨大な島と最先端の観測網が位置してしまったのだから、収拾できる情報もおのずから増大するというものだった。

おかげで、こんなことができる。

連合艦隊司令長官 米内光政大将は、内心の喜びを隠しつつ、戦艦「長門」艦上で双眼鏡を握っていた。

「目標、左舷、距離300。敵速25ノット」

「こちらにあわせてくれているようですな。」

「頭をおさえにかかられないだけマシさ。あちらには金剛型とアイオワ級がいる。」

正確には金剛型と言うには極めて疑いのある代物だ。いわば、魔改造の産物。
そうでなければ、52口径36センチ砲3連装4基を有する速力32ノットの高速戦艦は形容できまい。
その総合性能たるや、先に挙げたアイオワ級戦艦のそれにも匹敵する。
こちらは砲戦能力の強化に伴って速力が若干低下してはいるが、重量が2割増しのSHS(大重量徹甲弾)を安定して運用できるためにその価値はいささかも衰えていない。
散布界がやや広いとはいっても、それを補って余りある高性能レーダーがあるからだった。

だが、こちらも負けていないと米内は思っていた。
改装が完了したばかりの金剛型戦艦は砲撃力こそあちらに劣るものの、その乗組員は歴戦の強者揃い。
本来の決戦戦力と位置づけられる第2艦隊の重巡洋艦部隊と、第1、第3水雷戦隊が丸ごと「彼ら」の高速戦艦部隊をおさえにかかっているからだ。

「さて、諸君。」

米内はにこやかにいった。

「ここまでの『状況』は我々がやや有利に展開している。台風からの退避という僥倖をついて南から神崎島に接近したわが艦隊は、機動部隊の脅威から逃れることに成功した。」

そう。あの恐るべき機動部隊だ。
最近は噴式機まで運用するようになった2隻の超大型装甲空母(あれが翔鶴型?排水量が倍近くになってるじゃないか頭は大丈夫か?)、それに準じた1隻の装甲空母、さらに大小の空母群。
その総合戦力は、「史実」の日本本土決戦時に想定された米機動部隊に匹敵する。
これを封じることができただけで僥倖というものだった。

「そして、わが機動部隊は…まぁ半日耐久してみせるといっている」

攻守を逆にし、神崎島の航空基地に展開した陸海軍戦闘機部隊による迎撃圏の中で挑発行動を行っている機動部隊は、そのすべてが史実における零式艦上戦闘機64型で機体が統一されていた。

「この半日の間に、我々は勝負を決める。」

参謀長をはじめとする人々は力強く頷いた。

「全艦、砲雷撃戦用意!『第6艦隊』に下命、『痛いのを食らわせてやれ』!」

今回の大演習では、神崎島艦隊側がいわゆる漸減作戦における侵攻側である。
そのため、彼女らは律儀なことに隻数すら想定状況にあわせて行動していた。
ゆえに――

317: ひゅうが :2017/01/08(日) 07:19:53

「潜水艦隊、魚雷発射完了!との報告!」

「全弾撃ちつくせ。いくら決戦部隊といえど、試製FaT魚雷の群れを相手にするのだから。」

米内は、ぺろりと唇をなめた。
その所作は、男の色気に満ちている。

「相応の対処をとらねば戦艦の1隻や2隻くらいは食える。」

海中に展開した大小の潜水艦、その数なんと52隻。
彼らは、搭載魚雷をここで撃ち尽くす予定だった。
合計で500本以上の魚雷。しかもそのすべてが、神崎島から提供されたばかりの誘導魚雷である。

案の定、同航戦を挑む目標艦隊の隊列が乱れ始めている。
直掩の駆逐艦隊が離れた。
模擬弾であるから水柱こそ上がらないものの、戦闘旗がおりるものもあらわれる。

「よし。全艦取り舵90!機関全速!」

さぁ、長門君。
簡単には勝たせてやらんぞ?



――この前後10日ほどで行われた大演習は、日本海軍が築き上げてきた漸減邀撃作戦を限りなく実戦に近い環境で試してみることがその主眼とされた。
これを受け、神崎島鎮守府艦隊はわざわざマーシャル諸島方面から攻め上がるルートをとり仮想敵国たる米軍の航路を真似たのだが…
机上演習における段階で、すでに連合艦隊は南洋諸島を放棄。
攻略作戦にかかることもなくフィリピン方面からも姿を消していた。
これを受けて、実働演習海域は神崎島前面となり、この日を迎えていたのだった。

米海軍の作戦計画における「艦隊決戦」は、小笠原前面とされたのだ。
そして、この海域に米内長官は多数の潜水艦を潜ませていた。

…だが、連合艦隊はここまでやって勝ちきれなかった。
ネルソン・タッチの再現を試みる連合艦隊は、敵役をつとめる神崎島鎮守府主力戦艦部隊の砲撃によって数を次々に減らし、滅茶苦茶な殴り合いを演じている中で…航空機の接敵を受ける。
敵側として想定されたフィリピンの米アジア艦隊役をつとめる機動部隊だった。
その頃には、必死の阻止戦を展開する味方高速戦艦部隊が突破され、連合艦隊主力は包囲下に置かれる。

この結果は、まさか台風を利用するとは考えもしていなかった神崎島側とともに、軍令部にも大きな衝撃をもって迎えられることになったのであった。

318: ひゅうが :2017/01/08(日) 07:22:54
【あとがき】
リハビリ作。
長門「マリアナ沖海戦で空母戦の前に戦艦部隊を突っ込ませるとは…いい勉強になりました。」
今回は艦娘さん側が指揮演習として参加しました。ただ米内さんたちの方が一枚上手だった模様。
なお、想定される敵は米艦隊のため、大和型みたいな頭のおかしい戦艦は不参加の模様。

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最終更新:2017年02月09日 21:15