335: ひゅうが :2017/02/28(火) 03:09:05

――神崎島ネタSS 元帥の憂鬱



――1937(昭和12)年9月20日 上海


「またか!」

そろそろこのデスクももたないな…
そんなことを思いながら、ドワイト・アイゼンハワー大佐は正面の自信過剰な男が垂れ流す怒りを受け流していた。
拳を避けることができないマホガニーの領事執務机よりははるかにマシ、と自分に言い聞かせつつ。

「今月に入って襲撃は17度!わが民間人への襲撃、殺戮にいたっては数えきれないくらいだ!
領事連中は?!」

「相変わらず、防衛要請をよこすだけです。」

「二言目には日本軍は…というのだろう!」

このやりとりも数えきれないな。とアイゼンハワーはつとめて鉄面皮で飛んでくる唾を気にしないようにした。

わが陸軍がシャンハイに地歩を記して3か月あまり。
展開している兵力は当初の4万あまりから、2万ほどに減少している。
ルーズベルト政権は、今年中にこれを1万程度に縮小すると表明しているものの、それがなされたときに何が起こるのかアイゼンハワーは考えたくもなかった。

目の前の男――上海派遣軍総司令官 ダグラス・マッカーサー元帥もそれがわかっているのだろう。
そして、この黄色い大地の住人たちも。

あの第二次上海事変から1か月あまりにわたった徹底的な掃討作戦は、無数の同士討ちや誤認をはらみつつ終了した。
だが、それがもたらしたのは何だろうか?
決まっている。
怨恨だ。

ただでさえ、アヘン戦争以来傲慢極まりない欧米勢力やその尻馬に乗った東夷の蛮族への恨みをつのらせ、それが満州事変以後本格化した反日宣伝で爆発的に増幅しているのだ。
それを、航空機による軍艦撃沈という史上初の成果を引っさげた上海総攻撃で爆発させたところの中華の民はさらなる暴力で叩き潰されていた。

おまけに、上海に投入された兵力はフィリピン・コモンウェルス軍。
アメリカによる植民地支配を受ける東洋人と現地白人の混成集団だ。
彼らにしてみれば、「東夷の日帝を追いだしたのに、そこへしゃしゃり出てきた悪の植民地帝国主義者」なのだ。
それが、中国人の区別をつけられず便衣兵化した兵隊たちを狩出していったものだからたまらない。
これまでは東夷の日本人が座っていた中華に近い場所にいる怨敵の座に、わが陸軍がついたのも当然であろう…

そんな、正誤ともに含んだ理解をアイゼンハワーはしていた。

実際、海外特派員やメディア経由で「虐殺」やら「テロを阻止できない事実」をさんざん非難されては神経も参る。
これまで満州事変以後の日本を好きにいっていたものの一員であるという事実は彼をはじめ、派兵された特に米本土出身の士官や兵たちを苛んでいた。

336: ひゅうが :2017/02/28(火) 03:09:37

「敵は、人海に紛れて無差別的なハラスメント攻撃を仕掛けてきております。」

アイゼンハワーはいった。

「もはや国民党軍か、共産党軍か、それともどこぞの軍閥かはわかりませんが、武威を示すことはできないのでしょうか?」

「わかっていっているだろう。」

マッカーサーは、すでに自明のことを指摘されたことで冷静になり、軽くアイゼンハワーから目をそらした。
傲慢に見えるが、これが彼なりの謝罪なのだ。

「それはできない。忌々しい『政令線』があるからな!」

旧日本領事館を転用した司令部の壁にかけられた上海周辺の地図をマッカーサーは睨みつけた。
上海市街地から20キロほど先には、直線的に引かれた赤線が描かれている。
合衆国政府から通達された、進撃限界、それを示した「政令線」である。
中華民国首都南京や国際社会への配慮を示す必要から、派遣軍はこれ以上先への侵攻を禁止されていた。
明らかにそこには、完全装備の国民革命軍がおり、そこに少なからぬ「民間人」が出入りしているというのに。

悪夢だった。
つまり、上海の平和を回復するために乗り込んできた派遣軍は、手と足を縛られたままで戦わざるを得ないのだ。
それを明らかに知っていて、下手人たちはイヤガラセを続けている。
耐え切れなくなって自分達が撤収するのを彼らは待っているのだ。

「あれさえなければ、あの国民革命軍とやらを武装解除して襲撃の根をもとから絶つことができるものを…」

「そしてわが軍は無害に見えるチャイナの人々からの悪罵と国際社会の非難を浴びるのですな…」

マッカーサーは、何もいわずパイプに葉をつめはじめた。
どうしようもないのだ。
すでに、この上海という「突破口」からチャイナへ進出した米国企業は両手の指では数えきれない。
彼らは、すでに独占の気配をみせつつあるドイツ国や、再開した国共内戦のもう片方とがっちり組んでいるソ連への対抗上、互いにドルの額を競ってこの大地へばらまいていた。
一部では技術をばらまくことすらはじまっている。
そうしないと、中華民国政府はドイツの方を向いてしまうからだった。


「まるで、たちのわるいゲイシャに入れあげるみたいですな。わが国は。」

「そのゲイシャも裸足で逃げ出すような悪女だよ。まったく付け上がりやがって!」

アイゼンハワーは肯定も否定もしなかった。

337: ひゅうが :2017/02/28(火) 03:11:21
【あとがき】――欧米なんてこわくない。だってパネー号も沈めることができたし。

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最終更新:2023年12月10日 18:16