414: 陣龍 :2017/03/15(水) 23:02:54

『終ワラヌ煉獄ノ夢ヨサヨウナラ  ~Good-by The Eternal Hell of a Dream~』


「すまないマスター…もう一杯頼む」

「ライリー…明日も仕事なんだろう?もうそろそろ止めた方が良いぞ」

「心配してくれてるのはありがたいが……俺はもう無職なんだ。今日だけは呑ませてくれ」

「なっ……ライリー、お前……」

「……八つ当たりかエスケープゴートかは知らんが……もう終わった事だ」


 アメリカ合衆国本土に存在する、探さなくても普通に何処の街にでもありそうなとあるバーでは、スーツを着た会社員風の男が一人飲んだくれていた。周囲には他の客は見えず、実質貸し切り状態である。


「…ここも、余り客が来なくなったな」

「不景気だからな…」

「……すまない、マスター。俺達が至らないばかりに、こんな事に……」

「ライリーの責任じゃない。……ステイツがこんな風になったのは、ライリー達の言葉を聞かなかったあのクソ野郎のせいだ。ライリーに責任なんか、有る訳が無い」


 そう言うマスターの言葉の端々では、祖国ステイツを永遠の煉獄へと引きずり込んだ男達…即ち、無知無関心かつ無責任極まりない行動で親愛なる同盟国である日本を追い詰めた上に、覇権国家としての行動も起こさなかったクリントン元大統領と国務省に対する、コールタールよりも黒く泥付いた怒りの感情を滲ませていた。




 本来であれば、適切な対応…つまりは『何があろうとも同盟国は守る』との明確な意思を示す為に日本駐留の第七艦隊を出撃される等の軍事的手段を取っていれば防げた可能性が極めて高かった『極東危機』。
初動も初手も完全に悪手だらけ、と言うよりもそもそも無造作に満州に手を突っ込んで『極東危機』が発生する根本的原因を作り出したアメリカ合衆国であったが、せめて共産中華軍と満州軍、南北朝鮮半島の軍事的対立に対して同じく軍事力を持って事態の収拾に当たっていれば、現在のステイツの苦境は緩和されていた筈だった。少なくとも関連企業や省庁の株と権威と威信が垂直急降下で暴落し、次のプレシデンテと政権が尻拭いと謝罪行脚で禿げ上がり、各国に償いの兵器供給や技術提供をするだけで済んだだろう。


「……完全に針の筵、と言う奴だな」

「ステイツはあれだけのことをしでかしたんだ……。ジャパニーズは絶対に許さんよ。寧ろ、出席を許可してくれるだけ、こっちは感謝する立場だ」


 バーの中に設置された少々古びたテレビでは、とあるニュースが流れていた。……『極東戦争』によって発生した日本国国防軍兵士の慰霊祭に、アメリカ合衆国の大使が、周囲の日本人全てから氷河期が生温く思えるだけの冷え切った視線の中、弔辞を述べている姿が。

415: 陣龍 :2017/03/15(水) 23:03:45



 ライリーは、アメリカ合衆国の役人だった。それなりの大学をそれなりの成績で卒業し、誇り有るアメリカ合衆国の国家を経営する歯車の一つとなり、そして趣味であるジョギング中に出会った女性と結婚し、子供も生まれた。正しく順風満帆とも言える生活に対して唐突に生まれた暗雲は、ライリーの人生を完全に崩壊させるに十分の物が有った。


 当時担当していた職場は、個人的志向か信条かそれとも組織体質なのか今となっては全く持って定かでは無いが、欧州方面が重視されているのは良いが代わりに妙に軽視と言うか、中途半端とでも言うか、適当な対応や人材が回されがちだった東アジア・太平洋局だった。ライリーの仕事は丁度当時ステイツと親密な関係であった筈の日本担当で有った。年齢やキャリア的に未だ若手扱いであった彼には、上司にベテランを置いた上でまだまだ経験を積む必要があると思われていたのかも知れない。その結果、我が故国の行動によって極東情勢が冗談抜きに爆発寸前で有る事を真っ先に知る事が出来たのは、彼にとって不幸だったかも
知れない。

 今現在ステイツや同盟国の日本がのっぴきならない状況に有ると正しく認識したライリーは、自身の持つあらゆる伝手を使って危機を訴えた。若輩者ならではの押紙破りも厭わない血気盛んな暴走行動を諫める上司も居たが、状況が完全に理解出来ていた彼に取って見ればそのような上司の妄言など聞いている暇は皆無だった。そして悲しい事に、彼や彼の同僚、一部の上司、そしてライリーの言葉によって動いた議員らが必死に上げ続けた警告や上申は、ホワイトハウスに巣食うクソッタレ売春野郎とバカ女二名に届く事は無かった。否、一応それらのレポートや声は届いてはいた。対応が【大統領声明による事態鎮静化の喚起】だけと言う余りにも余り過ぎる物だったが。


「……そうか。今日は【大統領】の命日だったか」

「ああ……。もしあの時、【大統領】が生きていてくれていたら、どうなっていたんだろうな……」


 ライリーが酒に酔った頭で思い出したくも無い過去を思い出していると、バーのテレビはまた新しいニュースを映し出す。【大統領】と彼等の尊敬の念を言葉に出させている人物は、当然ながらクリントン元大統領では無い。
アメリカ合衆国の黄金期を築き上げた英雄【ロバート・ケネディ】であった。


「FBIとCIAの合同捜査は……打ち切りか」

「病死と言う事で方を付けたみたいだな。……ここまで狙っていたかの如き【病死】等、捜査官たちも全然納得してはいないようだな」

416: 陣龍 :2017/03/15(水) 23:05:21
 クリントン大統領(当時)の余りにも甘い現状認識の前に完全に見切らざる負えなかったライリー達は、最早恥も外聞にも拘っている場合では無いとして、現在では立場上一民間人状態であった【ロバート・ケネディ】元大統領に協力を依頼。ロバートの想像を遥かに超える状況悪化にクリントン大統領への怒りが爆発して居る声を電話越しに聴きながら、ライリーはこれで如何にかなると漸く確信出来た。あの売春野郎も流石に英雄であるロバート・ケネディ元大統領の言葉を無視等出来ないし、そもそも議会の面々が英雄の言葉に逆らう筈も無かった。弾劾する時間も惜しい上、クリントン大統領の次が同類のゴアと言う状況を鑑みれば、【偉大なる英雄であり先達であるロバート・ケネディの助言の元、クリントン大統領がそれに従って書類に判を押し続ける】と言う形式を取るのが一番効率的かつ最速だった。……最も、肝心要であるロバート・ケネディが一も二も無く協力してくれる事を宣言してくれてから僅か3日後に、何の前触れも無く突然心臓発作で急死していなければ、の話だったが。



「……なあ、ライリー」

「何だ……マスター」

「……この国は……ステイツは、一体どうなるんだろうな……」

「……そんな事、分からんよ……誰にも。きっと神にだって、分からんだろうよ」



 ロバート・ケネディの急死後のステイツの動きは、相も変わらず緩慢だった。在日米軍が持つ第七艦隊も出撃命令が無ければ動くに動けず、黄金よりも遥かに貴重な時間を浪費し続けた結果、『極東危機』は『極東戦争』へと進化する、最悪の結末を迎えた。その間のクリントン大統領は、彼視点では起こり得る筈の無かった、偉大なるステイツの武威が欠片も通じなかった現実と全方位からのありとあらゆる罵倒、罵声の艦砲射撃の前に完全にレームダック化。満州に侵攻した共産中華軍100万が本気を出した満露連合軍の精鋭部隊によって戦史に残るキルレシオを叩き出す程に情け容赦なく一方的に蹂躙され、全弾迎撃されたとは言え核を搭載していたと思わしき弾道ミサイルで対日攻撃を実行した報復にロシアが対中華報復戦略核攻撃を決行する中、世界最大最強で、東西冷戦の勝者であった筈の唯一の超大国は、ただただ極東で巻き起こる戦争に対して事実上茫然と傍観しかしていなかった。その報いは、共産中華が全面降伏してより【在米日系企業の全業種全面撤退】と【日本、東南アジア、インド、中東丸ごとのロシアへの完全離反】から始まった。



「……久し振りの良いニュースだ。ステイツ国民の失業率が0.03ポイント回復したそうだぞ」

「そんなもの誤差だろう。第一就業出来ている人間でも、毎日食べる事に必死で、昔の様に娯楽にまで金を回せる余裕のある奴がどれだけいるか、分かったものじゃない」



 対日輸出で潤っていた農業、畜産業は、日本が輸入先を南米等別方面に完全に切り替えた事で大打撃を受けた。しかも同時期に牧畜業ではBSE問題が発生し、全世界的にアメリカ産牛肉の風評被害が覆い尽された。今では廃業した元農地や放牧地の荒廃、野生化して大量繁殖した牛による各種被害が社会問題化する規模にまでになっている。


 三菱と組んで多大な利益を得ていたボーイング社は『極東危機』の頃よりロビー活動等で必死に日本との関係を守ろうとしていたのだが、ボーイング社の努力も空しく日本航空産業からは【貴社は兎も角貴国が信じられない】と絶縁状が
突き付けられた。現在はどうにか業績を保っているが、何時まで持つのか知れたものでは無い。


 …自動車産業?ああ、ビッグ3なら海外市場を丸ごと日本企業に奪取された後、不景気で小さくなったステイツのパイを醜く奪い合い、喰い合った結果三社仲良く纏めて倒産したな。もうあいつらの車もロゴも一生見たくねぇ。


 …一番の被害者は軍だった。政治の愚行の結果、防衛ラインが半世紀以上逆戻りだ。しかも目の前の争乱に全くと言って良い程関与出来ずに日本を追い出された事による自責の念から、特に戦友を見捨てさせられた海軍の士気低下が甚だしい。…最近は、自殺者すら出た位だと言う。


 経済も政治的威信も完全に失墜した。長年血を流し続けた同盟国も目先の金を前にしてアッサリ捨てた様な無責任な国家の末路としては、まあふさわしい物だろう。これからステイツは、未来永劫世界から蔑視されたまま生きていくのだ。
誰だったかな、【今のアメリカは軍用銃を持ったチンピラ以下】と言ったのは。

417: 陣龍 :2017/03/15(水) 23:07:04


「……畜生」

―――こんな結末、誰も望んで居なかった。

「……畜生」

―――出来得る事なら、もし、もし出来得る事なら……

「……夢なら、良かったのに」

―――神様。……ステイツを、我が同盟国を……救ってくれ……












「……ライリー……ライリー…ねえ、大丈夫?ライリー」

「お父さん……大丈夫……?」

「……ん……んぁ…?!が、ちょっとゴフぅ?!」

「ちょっと、ライリー?貴方何してるのよ?」

「お父さん?どうしたの…?」


 目を覚まして数秒後、電流が流されたかの如くソファーから飛び跳ねて顔面を床に叩きつけた男一人と驚きながらも介抱する妻と娘。自身の夫、自分の父の奇行に母娘揃って顔を見合わせる中、当の本人は慌てた様子で自分の家族、そして周囲を確認しだす。


「今は……20XXじゃない……夢、だった……のか」

「悪い夢でも見ていたのかしら?こんなところで寝ると風邪引くわよ?」

「……大丈夫……?お父さん……?」


 腰に手を当てて呆れて居る妻と、幼いながらに自身の父を案ずる娘。【夢】の中では、不景気によって激増した銀行強盗に巻き込まれて、強盗に人間の盾と扱われた末に殺された大切な家族が、
今確かに目の前に居る。


「……あぁ。大丈夫だよ、ゾイ。ありがとう、アンナ」

「どういたしまして。……仕事、大変なんでしょ?チャイナが軍を動かしたって、テレビが言ってたわよ」

「まぁな。……すまない、暫くマトモに休暇を取れそうにない…」

「はい、お弁当。家の事は気にしないで、大丈夫だから。しっかりやって来てね」

「……お仕事……頑張って……!ゾイ……良い娘に……してる……から」


 皆まで言わずとも察してくれる上に、応援すらもしてくれる。【夢】で味わい続けた絶望と冷たさとは真逆の、希望と暖かみを感じさせてくれるには、十分だった。


「じゃあ、行ってくる」


 何時もの様に一言言って、出勤した男。彼は数十年の月日が経った後に、情報公開された資料や本人の日記等を元に『ロバート・ケネディと共に戦った、語られなかった影の英雄』として映画化される事になるのだが、当然ながらそうなる未来など流石に予想出来てるはずが無かった。本人曰く、自分は英雄などとは程遠い、探せばどこにでもいる一般人でしかない。との事なのだから。

419: 陣龍 :2017/03/15(水) 23:11:07
後書き:ナンダコレ(真顔)


……ウン、正直に言えば夜勤中の休憩時間に思い付いたのをそのままのテンションで書き殴った結果、こんな感じになりました。まあ実際【夢】なんて本当に脈略の無い物が多いですからねえ

実際にロバート・ケネディが急死したとしても早々機能停止する訳無いだろと自己突っ込み入りつつも出来てしまった以上取り敢えず投稿しました。いやでもホントナンダコレ(真顔)

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最終更新:2017年03月20日 10:35