923: 名無しさん :2017/03/21(火) 17:11:13
タイトルは「ある民主党員の愉悦」で。



”頼む……誰かステイツを救ってくれ……」

スクリーンの中で一人の老人がそう呻いて映画は終わり、音楽と共にエンディングクレジットが流れ始めた所で席を立った。

架空のアメリカが同盟国に対する義務を果たさなかったが故に失墜していく姿を一人の元在日米軍軍人の生涯を通して描写していく物語だったが、まあ、注ぎ込まれた制作予算に制作スタッフ、出演俳優に見合う良作ではあった。

「これでまたクリントン夫妻とその友人方への嫌悪感が搔き立てられるという訳だ、何とも嘆かわしい風潮だ」
わざとらしい、私、うんざりしてます、という台詞とは裏腹に口調はとても楽しげだった。
その男は映画が色々な意味で好きだったから。

映画館を出た後、男は立ち寄ったカフェでエスプレッソを啜りながら愚にも付かない考えを楽しむ。
まあ、極東危機が終わった後、かの危機を題材に本当に数々の映画が作られた訳だが、アメリカ人としていい気分になりたかったら、うん、ランボー4 怒りのマンチュリアが一番かな。
まさか、もう終わった俳優のシルベスター・スタローンがあれでアカデミー賞を取るとまでは思わなかったが。

「そろそろロバート・ケネディ御大を全面に出した作品を後押しすべきだろうか……」
いつもどこか愉快気な男がその名前を口に出した時は些か厳粛な面持ちになった。この男にとってもやはり偉大な英雄は偉大な英雄だった。
それも一瞬で元に戻ったが。

「だが、こけたら大惨事だからな。まだ、やめとこう」

大惨事になった時の事を想像して、更に楽しげな表情になった男はそう呟いた。

極東危機収拾後、民主党の方針はとことん一貫していた。

支持率の短期間での回復は不可能。ならば、クリントン夫妻のせいに出来る物は全部クリントン夫妻にして徹底的に貶める一方で、誠実に謝りながら冬の時代を耐えるしかない。

そうした暗黙の党方針の下、男はここ数年程、アメリカ映画産業経由で極東危機に由来する民主党に対する反感を分断、緩和、回避する仕事に従事していた。

民主党にとって有益な映画企画の中で有望な物を見極めて、何重、何箇所も迂回して資金を提供する。

男の見立てに今の所外れは無く、投資した作品はどれも一定以上のヒット作品になっていた。

だが……

「やはりロバート御大を主題にした作品を作るべきだな。あのRFKのプランに金を出そう!」

成功ばかりなのに飽きたせいか、そんな大博打に出る衝動を打ち消し切れない。
男は普通に名作、良作が大好きだが、大駄作になってしまった超大作も大好きだったから。


以上で投下終了。wikiへの掲載はご自由に。

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最終更新:2017年03月27日 09:34