我が輩に秘策有り




「はっはっはっは これで我が輩もグロースター持ちになれるというものだねぇ」

とても濃い髭を蓄えたスズキ・ルイ・106世は大笑いをしていた。

「まあ確かにグロースター持ちですねえスズキさん」

そこへやってきたのはひとりの日系人。

「おおっこれはこれはシマダ閣下 このたびはクルシェフスキー侯爵閣下へのお口添えをしていただきましてありがとうございました」

「いえいえ私はただ全機種のヴィンセント導入にあたり 南ブリタニアの衛星国家に払い下げる予定のクルシェフスキー騎士団のグロースターを一騎ほど欲しいと妻に伝えただけのことですので」

シマダ大日本帝国伯爵は謙遜気味に返答しながら手を振った。
日系のスズキ子爵と話してるのだから日本人同士が会話しているようにしか見えない二人だが シマダ伯爵は暦とした日本人だ。
結婚した相手がブリタニアのクルシェフスキー領領主モニカ・クルシェフスキーだったというだけにすぎない。
だから口添ができたのと スズキ子爵が昔の自分の世界にいた芸人と瓜二つだから余計に気になりお近付きになっただけのことなのだ。

「しかし私がいうのもなんですがヤグチ男爵を通さずにグロースターの購入などされて大丈夫なのですか?」

シマダが心配しているのはスズキ家の全般を取り仕切っているヤグチというスズキ子爵の執事のこと。
前より子爵のグロースター導入計画に大反対してきた人物で武術の達人でもある。
ヤグチカッターと呼称される技はなんでも手刀で丸太を切り裂けるとか。

「はっはっはっは いやあもう買ってしまえばこちらのものですよ閣下 ナイトオブトゥエルブでもあらせられるクルシェフスキー侯爵に一度買った物を返品するなど無礼なことはできませんからねえ もう勝ったも同然ですよはっはっはっはっは」

大笑いの子爵。
もう買ったともう勝ったを掛け合わせたギャグまで披露する。

「モニカ・・・・クルシェフスキー侯爵の了承がまだ出ていないのが私としては妙な気もしますが」

「侯爵閣下もお忙しいのでしょう わたくしめ如きの雑事は後回しが当然であります故に それに我が輩 この度は秘策を用いておりますので万に一つも失敗などございません」

「秘策とは?」

「ふっふっふ 同時進行っ! これこそが秘策です クルシェフスキー侯爵閣下より一騎払い下げいただく他にも アッシュフォード公爵閣下 シュタットフェルト辺境伯閣下 ソレイシィ辺境伯閣下 ヴェルガモン伯爵閣下 それぞれに一騎ずつ払い下げを願い出ておりましてですねえ 名付けて【一騎ずつ購入願い出ればバレナイヨ作戦】を実行しておる次第なのですよ はっはっはっはっは ま~さ~に ルネッサ~ンス!!なひらめきでしょう?」

(秘策ねえ・・・・・モニカの反応を観る限りヤグチ卿が手を回していそうな気がするんだが・・・・・)

手にした大きなワイングラスを高々と持ち上げて叫ぶスズキの姿は 勝利を確信して最後は処刑されたナポレオンを思い起こさせた。


現在大諸侯の騎士団はヴィンセントやヴィンセントカスタム仕様といった第七 第八世代機へとKMFの更新をしていた。
というかもう更新しきっていた となればもう中古機のグロースターに用は無い といって持っていても仕方がないので帝国政府を通じて南ブリタニア諸国に払い下げをしているところなのだ。
これは盟邦大日本帝国も同じ 衛星国の東南アジアに 独自で友好関係を築けたペルシャ インド 遠くは日武より唯一最恵国待遇を与えられているシーランドにまで払い下げている。
欧州に帰った諸王国は日武に学びながらも独自開発をしているためにヴィンセント以上の機体を開発中なので除かれる。
とくにハイランド大公とヒトラー欧州宰相が いずれは失ったままのロシアと南アフリカをも取り戻さなければならないとしてKMFのみだけに止まらずあらゆる分野で開発を推し進めていた。

ではブリタニア国内はどうか? 中規模の貴族ならヴィンセントやグロースターを導入しているところはある。

しかし弱小貴族となると話は変わり金食い虫のKMFより 使い勝手のいいグラスゴーや無頼で充分としてそれほど必要とはされていなかった。

弱小オブ弱小のカンザスの端の端の超田舎貴族ロズベルト男爵家 通称馬鹿男爵家など一騎だけグラスゴーを所有しつ
【グラスゴー持ちの大貴族】と自称しているらしいが 手の施しようのない馬鹿なので領民にも相手にされていないらしい。
それも馬鹿男爵はモニカ リーライナへのかつての侮辱から両家傘下の諸侯より経済制裁を喰らっているためブリタニア国内で完全に孤立 昔は千人以上いた領民数は現在たったの百人ほどだとか。
頼みの綱だった日本の米内にまで見捨てられて邸の中でぶつぶつと独り言を喋っているとか 気味の悪い噂まで立てられている有り様だった。

まあ馬鹿の話はどうでもいいとして髭子爵はそれでも一万超の領民を抱えている貴族。
弱小には違いなくとも領民を守るために そして我が輩が欲しいという理由もあるためにどうしてもKMFが必要だったのだ。

「はっはっはっはっはっはっはっは」

(失敗しそうだとは言わん方がいいか 束の間でも喜べるのなら)

シマダは高々と掲げられたワイングラスの赤を見ながら優しく見守っていた。


◇◆◇




「おかあさま~ ヤグチというおひとからおでんわですよ~」

小さな子供が舌っ足らずで知らせる相手はモニカ・クルシェフスキーそのひと。
その子供は女の子で 異様なほどモニカとそっくりな容姿をしている
髪も同じ髪型 身体の前に流した金色の髪にリボンをくるくるまきつけている。

「ありがとうございますサクラ」

内線で繋いでみるモニカ 受話器を取ると予想通りの声が聞こえてきた。

『これはこれは侯爵閣下 ご機嫌麗しゅう存じ上げます』

「ごきげんようヤグチ卿 もう話の予想は付いておりますのでこちらで差し止めておきましたよ」

『お手数をお掛け致します 子爵さまにも困った物ですよ まさか私の目を盗んでシマダ閣下を通されてグロースターの導入を図ろうなどとは』

「夫もひとが良いので私にスズキ卿の口添をして差し上げたのでしょうが グロースターなど購入なされても」

『ええ 我がスズキ家には分不相応にして金食い虫となってしまいます故に私めを始め家臣一同と致しましても導入については大反対です 先頃よりリーライナ・ヴェルガモン伯爵様の方にも注意をお願いしているところなのですが本当に困ったおひとです』

「スズキ卿も諦めの悪い方のようですからね ルーベン・アッシュフォード公爵閣下にカレン・シュタットフェルト辺境伯やマリーカ・ソレイシィ辺境伯にまで一騎ずつ打診なされているようなのでお気を付け下さい とにかく社交界では話題になっておりますからねあの方のKMFオタクぶりは」

『注意喚起までしていただきまことにありがとうございますクルシェフスキー侯爵閣下 無論各々様方にもすでに先回りして手を打っております スズキ子爵様よりグロースターの購入話を持ち掛けられても一切お断り下さいと』

「さすがのお手並みですね」

『かっこいいものスペックが高いもの とにかく昔からそういう良い物を欲しがる子供のような悪い癖がございますので 家臣一同が勝手知ったるという状況となっておりましてお恥ずかしい限りでございます』

髭子爵の秘策など ヤグチ男爵以下スズキ家家臣団にはとっくに見抜かれているのであった






あとがき

髭子爵の名前ってスズキ・ルイ・106世であってたよね?



そしてふと思った。
欧州解放戦争にオセアニア率いる南側が介入してきたらユーロブリタニアは確実に負けてしまうと。
それともオセアニアがEUに直接的な援軍でも送ったときには日本やブリも黙ってない事になるのかな?

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年04月02日 19:04