920: ひゅうが :2017/07/04(火) 23:24:41

 艦こ○ 神崎島ネタ――「シャングリラ(理想郷)」



――1937(昭和12)年9月30日 神崎島 某所 地下120メートル


「感謝いたします提督。」

「感謝は本物なのは理解しているよ博士。」

神崎博之提督は、完全な呆れ顔でアルバート・アインシュタイン博士に向かって言った。

「それが打算の産物であることもね。」

「提督は、研究者の欲望を見誤っておられましたね。」

ほくほく顔のアインシュタインは、見どころのある学生に向けて教えるようにゆっくり言葉を紡ぎ始める。

「提督は、歴史上の私たちがなぜ『あんなこと』をしたか御存知ですか?」

「さぁ?どうせろくでもないことだと理解しているが。」

「まさにその通り。」

新設されたばかりの「研究所」の「制御室」においてアインシュタインはばっと両手を広げる。
その後方では、ファインマンという名の学生が液晶パネルをいじっており、さらにその隣では、来訪したばかりのスプラマニアン・チャンドラセカールという名の天文学者が細かな指示を出し続けている。
それに混じっているのは、湯川秀樹、仁科芳雄ら、日本物理学にその名を残すことになる有名科学者たちである。

「我々は、知りたいのです。誰よりも早く。そのためならば誰にでも魂を売り渡します。」

「それが研究者、か?
度し難いといいたいところだが、自分の欲望に正直なのはよくわかった。」

「少し違います。我々は真摯なのです。」

「何に対して?」

「真理に対して。」

100人が100人口をそろえるであろうところのドヤ顔でアインシュタインは、ちろっと舌を出した。
この人は…と神崎は内心苦々しくも舌をまいた。

この稀代の天才科学者は、この島へ押し掛けたところに、内地の官僚たちがいうところの「映像の世紀の刑」を受けた。
だがそこでへこたれることはなかったのだ。
あのオルゴールの前に36時間後に再び姿を現したアインシュタインはいった。
「すばらしい。ここで研究をさせてほしい」と。

「あ…ありのままに今目の前で起こったことを話すわ!
『提督が博士の前で悪夢の未来を見せた、と思ったらいつの間にかさらに先に進む話をされていた。』
な…何を言っているのかわからねーと思うけど
私も何をいっているのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…
光速度の不変性だとか空間の歪曲だとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてない
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

以上、徹夜勤務明けの駆逐艦秋雲の言葉である。

しかもたちの悪いことに、この天才科学者は鎮守府だけではなく日本政府にとっても極めて大きなメリットのある提案をしてきた。

「私が世界中の有名どころの科学者に手紙を出しましょう。
なに。
この島では研究施設も『生えてくる』レベルで作れるのでしょう?
それにマンハッタン計画と同等の環境を用意できる。
これに乗ってこない研究者などいませんよ。」

922: ひゅうが :2017/07/04(火) 23:25:14

彼はいったのだ。
マンハッタン計画を阻止できるけど、どうする?と。
そうでなくとも、後世に名を残す科学者たちは、この時代様々な理由で不遇を囲っていることが多い。
そんな彼らは、史実の第2次世界大戦時にアメリカへ亡命し、そして潤沢な研究資金と自由な環境で好き放題にやった結果、核物理学の時計を四半世紀は速めている。
ならば、それ以上の環境が用意されるのであれば…

手始めとばかりに英国から呼び寄せられたチャンドラセカール博士は、後世においてブラックホールの父と呼ばれる人物である。
だが、英国天文界のトップの妨害によってその発見が闇に葬られたことを「アインシュタインは」知ってしまった。
この神崎島の映像ライブラリーには現在も映像データや文書データが「どこからか」蓄積され続けており、それらを参照すれば彼にとってそれは朝飯前の仕事であったのだ。

そして、チャンドラセカールもそれにとびついた。
神崎島の主峰 天叡山山頂に建設された口径25メートルに達する巨大反射望遠鏡という餌をぶら下げられては、それもむべなるかな。

そしてアインシュタインは「ささやかな」要求を提督に行った。


「ゆえに、真理の究明への一助を下さった提督には、真摯に感謝をいたします。
私たちは、さらに先に進める。」


国際リニアコライダー
大型ハドロン衝突型加速器
PFリング
Spring8
ITER(国際核融合実験炉)
第四世代実験炉(溶融塩炉・加速器駆動未臨界炉)

そして、「京」

西暦2020年代における世界最先端の実験施設群、そしてそれらを支える最先端のコンピューター群、それが「彼ら」の要求であった。
呆れたことに、それを可能にするだけの技術も、資本も、この島には存在していた。
でなければオーバーテクノロジーの塊である「艤装」なんて作れはしないとは、「妖精さん」状態の工廠妖精さんの言である。


「博士は、御存知ですか?私は少なくとも20世紀末から21世紀にかけての記憶があるのですが…」

神崎はせめてもの反撃とばかりに口を開いた。

「真理、というものを掲げて世界最終戦争を起こそうとしたような連中もいるのですよ。
それを努々お忘れなく。」

「その言葉、確かに。」

アインシュタインは厳粛な表情で頷く。

「世界の科学は私が目の黒いうちには、あの方向には向かわせません。
我々はそれほど『弱くない』。」

彼の瞳には、やはり隠しきれない憂いがあらわれていた。

「はじめます博士!」

少年のような瞳で、湯川秀樹が叫ぶ。

史実では70年も後にはるかスイスの欧州原子核研究機構(CERN)で建造されたはずの人類史上最大の粒子加速器は、今まさにその産声を上げようとしていた…

923: ひゅうが :2017/07/04(火) 23:25:49
【あとがき】――お待たせしました。とりあえず一本。相変わらず陰謀しかやってないなぁ…

927: ひゅうが :2017/07/04(火) 23:32:08
922
修正
×「 史実では70年も後にはるかスイスの欧州原子核研究機構(CERN)で産声を上げたはずの」

○「 史実では70年も後にはるかスイスの欧州原子核研究機構(CERN)に建造されたはずの」

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最終更新:2023年12月10日 18:17