12: ひゅうが :2017/11/27(月) 12:28:16

神崎島ネタSS――「主従問答」



――1937(昭和12)年10月12日 日本帝国 帝都東京 宮城


「激流に落ちた幼い子とその親はどうすると思う?」

「それはもちろん、子を何としても守ろうとしましょう。」

「その通り。だが、禽獣の類は別だそうだよ。」

「『島』からの知恵でございましょうか。しかしそうなると、親はどうするのでしょう?」

「獣の親は、子を足蹴にしてまで自ら助かろうとするそうだよ。」

「あさましい、と申し上げるべきでしょうか?」

内閣総理大臣 廣田弘毅は、目の前で曖昧な表情をするこの帝国の主をみて頭を回転させた。
そして思わず目を見開く。

「わが帝国がかの島に期待するところは、左様なこと、との思し召しでありましたか。」

「そうみられても仕方がない、とは思う。」

当今の帝、歴史上は昭和天皇と諡号されることになる人物は言葉を選びながらいった。

「仕方のないことではあるが、かの島の艦艇を大本営の直率する戦力となすべきであるという意見を彼らはどう思う?
まずもって、かの艦艇は人間そのものとしての性質も持つ。
ある意味で他国に自らの子を兵として徴すべしと命じられては愉快ならざることであろう」

「それは理解しますが、兵役の義務は皇国の国民の権利にして義務。
まして外地にして御料となっているとはいえ――」

「わからぬか?
かの島の動きをみて。」

廣田は、きた、と思った。
原則論を述べつつ思考を巡らせるのは、外交官たる廣田の癖である。
すでに彼は思考をまとめていた。

資源の破格の供給、技術や資金、さらにはある敗北の詳細な記録の提供。
これにより帝国の戦略環境は激変。
短期的にはどこかの国家、たとえば支那との開戦の必要などはなくなっている。

このできた余裕にあって、いかなる方向へ国家を導くべきかという議論は日夜尽きぬ。
そしてそこに帝国陸海軍だけでなく、それに匹敵する規模の大艦隊をおさえとして用いることはできまいかという言説も非公式ながら出始めていた。
これを受けて陛下はおっしゃられたのだ。
帝国は禽獣なるや?と。

「彼らの動きは、すべてがかの艦艇を人同士の戦争に繰り出さぬために組まれている、そう仰りたいのですね?」

業腹、と思うものもいるかもしれない。と廣田は思った。
帝国陸海軍は、存在することにより周囲を掣肘するという認識がやや弱まってしまっている。
まずもって戦闘的で、使って便利な道具として自他を見がちなのがこれまでの軍隊であった。
それは黒船以来の強迫観念の産物であるのかもしれないし、韓国併合以来実質的な大陸国家ともなってしまったこの帝国の戦略環境がもたらす大陸的な血の気の多さであったのかもしれない。
英仏百年戦争をみるがいい。
大陸領土を守らんとしたアンジュー朝イングランドは泥沼のような戦いに国力を疲弊させてしまったではないか。
百年戦争を戦い抜いたフランスは絶対王政を確立し、対してイングランドは王権が弱いがゆえの議会政治とその後の産業革命への道を驀進した。
ひるがえって現代のわが帝国は?
この英明なる主に絶対王政のごとき、かのヒットラ総統のごとき絶対君主制を率いさせるがごとき不忠を遂げるのは廣田はもとより政府文官の本意ではない。
必然的に、英国型の政治統制こそが現状の大日本帝国には必要となろう。

13: ひゅうが :2017/11/27(月) 12:29:08

そうか、と廣田は再び気が付く。

「かの島は、試しているのですな。帝国政府を。武器を握って振るわずにいられるか否か。」

ぞくり、とする微笑を、昭和帝は浮かべられた。
言外にかの帝はいっているのだ。
まだ帝国政府は、禽獣のごとく本能から脱しきっていないと。

陸海軍はすでに敗北の記録という特大の冷水に揉まれて変質を遂げつつある。
だがそれを振るうべき彼ら帝国政府は?


「大本営常設化の晴れの日に、特大の宿題を下さいましたな。陛下。」

「期待しているよ。」

廣田は、深々と頭を下げ、しかるのちに市ヶ谷へと昭和帝を案内すべく席を立った。
これから第一回の大本営御前会合が待っている。
いわゆる「史実」とは違い、勅令により内閣総理大臣が輔弼主宰すると明記されたこの大本営は、実質的な統合幕僚本部的な性格を持っていた。
ならば、帝国政府による軍の完全な文民統制が確立されることになるこの日に浮足立つ文官どもに特大の雷を落とさねばならない。

よろしい。まさに本懐である。
そんなことを考えつつ廣田は微笑した。

14: ひゅうが :2017/11/27(月) 12:30:10
【あとがき】――長くお待たせしました。とりあえず帝国サイドのお話です。
相変わらず島側が出てきません(土下座)

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最終更新:2023年12月10日 18:18