16: ひゅうが :2017/11/27(月) 14:37:47
12-13に追加

――「余談、あるいは戦略的打撃力の所在について」



――同 神崎島鎮守府本庁舎

「そうだ。クルーズに行こう。」

「馬鹿いってないで仕事しましょう提督。市民の皆さんからの陳情にはきちんと回答しようっていっていたじゃないですか。」

頭が茹ってくると、唐突な発言が目立ち始める。
だいたい徹夜二日目夕方四時ぐらいの特徴である。
すでに昼のお茶請けは消費し尽くされ、業務を再開して三十分たってもまだ本調子に戻らない絶望感が漂い始める。
そうした焦りが諦めに変わる前の、脳の精一杯の足掻きであるのかもしれなかった。
こうした取り留めもない言葉を交わせるか交わせないかでよい職場か否かは決まるのであって、この鎮守府は少なくともよい職場の部類に入るのであろう。
大淀という常設秘書官(艦)とこのように親しく言葉を交わすことができるし、彼が休憩すると宣言すればこの執務も切り上げられるのである。
それをわかっていてやっているあたり、この神崎博之提督という人物はのろけているのかもしれなかった。

「面白そうですな。どちらへ行かれるので?」

だがここで、トラのような顔をしたカーキ色の男がソファーからむっくりと起き上がった。
神崎島駐在高等弁務官 山下奉文中将。
平行世界にてマレーの虎と呼ばれるこの男が執務室に「遊びに」きていたことから今回の話ははじまる。

「そうですね。せっかく近場にあることですし小笠原…いや八丈島とかもいいですねぇ。
うちにも客船はありますがほとんど使っていませんから。」

「そういって豪華客船まで作ったあとで日本郵船に譲渡したばかりじゃないですか。」

「甘いぞ淀さん。船旅というのは優雅なだけじゃない。マットを敷いたフェリーに雑魚寝でわいわいやるのも修学旅行じみていい。」

「どこかで頭を打ちました?」

ひどい…とのの字を書く提督に、大淀は「あ、これはダメなパターンだわ」と確信した。
この普段はいかにも大人物じみた海軍提督は、時折こうして子供っぽくなることがある。
いわゆる「イベント戦」。
数か月に一遍発生していた「異界」の拡大とそれに伴う深海勢力の大拡張の中では特にそういうことが目立つことがあった。
共に初期秘書官をつとめた吹雪いわく、本当に限界を迎えそうになったときはもっと恐ろしいものをみることになるらしいが…

まぁそんなことはどうでもよかった。
大淀は、興味深そうに提督の話に聞き入る山下に、適度な休暇を入れるいい口実を作ってくれたと感謝すべきかしばし考え、決断し、口を開いた。

「はぁ…しかたがありませんね。全員連れていきましょう。ここのところ働き詰めでしたからね。」


余談ながら、この神崎島鎮守府側の決断は日本本土の陸海軍や帝国政府に文字通りの爆弾のような作用をもたらした。
西太平洋で存在するだけで各国の軍事行動を掣肘する大艦隊が丸ごと動くのである。
その影響を測ろうとした政府文官と、その穴を埋めるためにどうするべきか悩む武官たちは数日間喧々諤々の議論を戦わせ、何人かが病院送りになったところで崩れ落ちた。

「八丈島と小笠原の旅3泊4日の旅」はその頃にはもう終わっており、何事かと慌てた在比米軍が駐在武官経由で問い合わせたときにはすでに鎮守府の主力艦艇は再配置が完了していたのである。
(余談ながら、この間山下中将は駐在武官の義務と称してクルーズに同行していた)

――なお、その間を基地航空隊の冷戦期の戦略爆撃隊の水爆パトロールよろしく常時空中待機しており、それに気が付いた陸海軍が絶句するのはこのすぐあとである。

17: ひゅうが :2017/11/27(月) 14:39:49
【あとがき】――「八丈島と小笠原3泊4日の旅」に修正で…
上だけだと堅苦しいのと久しぶりに大淀さん書いてみたかったのでちょっと追加しました。

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最終更新:2023年12月10日 18:18