167: ひゅうが :2018/01/22(月) 11:01:10

 神崎島ネタSS――「たぶんむっちゃん(実験台)は泣いていい」




この頃、1930年代に至っても世界各国の海上を支配していたのは古式ゆかしく火薬と重力加速度だった。
簡単にいえば、火砲を搭載した艦船と装甲こそがあらゆるものの頂点であるとみなされていたのである。
戦艦。巨大な火砲を多数搭載し、かつ自らのそれ以外では貫くことが不可能な装甲板で身を覆った軍艦は、考えるまでもなく同じ戦艦以外では対抗することすら難しい海の女王であった。
ただし注意すべきであるのは、それ単体で海の上の一切を取り仕切ることはもうできなくなりつつあったことである。
6万トンに達する巨大戦艦ですらも、30隻の2000トン級駆逐艦に襲い掛かられれば大量の魚雷に射すくめられて横転沈没するだろう。
これを、60隻の潜水艦に置き換えてみてもいい。
だがこれを行う手間と費用をほかの何に使えるか、という点のみが戦艦という種族をその座に押しとどめていたのだ。
20世紀中盤以降の科学技術の発達、ことに誘導ロケット兵器や1発でTNT火薬数万トン分の破壊力を持つ核兵器の登場でついにその存在意義は新たな建造の予算と時間以上の価値ではなくなり(あるいはそう考えられて)この種の艦艇は海上から絶滅することになるのであるが、それはまだこの時点では先の話でしかない。

とまれ、この1930年代においては海上において戦艦、そしてそれを中心とした海上艦隊を阻む術はなく、列強と呼ばれた諸国はその戦力向上に余念がなかった。
世界第3位の海軍力を手にしていた極東の弧状列島はその筆頭といえただろう。

こことは異なる歴史を歩んだ場合においても、この国は10隻の戦艦を原型がわからなくなるほどにいじり倒した上で人類史上2度目の大戦を迎えていたのだから、もはや筋金入りである。
卑近な言葉でいえば「魔改造」。あえていえば貧乏性ゆえに、彼らは結果的には「仮想敵国の海軍を相手にするならば」最良の戦力を手にすることができていた。

だが――1937年。
彼等の概ね満足すべき整備計画は重大な問題に直面する。
歴史のカンニング。どこからともなく出現してしまった超自然的な存在とそれらがよってたつどう見ても一日二日でできたわけでもない大島がもたらしたのは、彼ら大日本帝国海軍にとってその存在意義にも関わる重大な衝撃であったのだ。
それはそうだろう。
3年8か月あまりの死闘、そしてその結果ならまだしも、その戦訓すら軽く覆すに足る「無限の補給・運用下での純粋な戦争」という悪夢のような現実を生き延びた大艦隊は二重に帝国海軍を懊悩させた。

この当時の帝国海軍には、上で長々と述べたような戦艦中心の戦備を推す主流派と、航空機の発達により仮想敵国に対する数的不足を補おうという少数派の2つの流れが存在した。
前者はまず最初にプライドをへし折られた。
いわゆる「史実」では、彼らはほとんど役立たずだった。これほどの屈辱はないだろう。
そして後者もすぐさま叩き潰される。いくら海上における航空戦力を用意したとしても、化け物のような巨大戦艦に対しては航空機による波状攻撃を行うには戦力がいくらあっても足りず、さらには自分達以上に敵の航空機投入能力の方が基本的には高いのである。
要するに、戦艦のような水上戦闘艦隊を役立たずの無駄飯ぐらい呼ばわりした一派のいう通りにすればさっさと仮想敵国に戦力をすりつぶされるというこれまた増強目的からすれば本末転倒の結果をもたらすことがわかったのである。
ここで潜水艦や機雷などにも注目が集まったが、彼らも彼らとして費用対効果に疑問符がつけられた。
要するに、もう国力的に勝る仮想敵国相手に単独兵科では何をしても無駄だ、という救いようもない現実が突き付けられただけだったのだった。

ここで、その国の海軍行政を担当する海軍省とそのユーザーである軍令部や連合艦隊はプライドを捨てた。
控えめな態度でそうした現実を突きつけたかの「島」の実戦経験豊かな将兵に頭を下げて教えを乞うたのだ。

168: ひゅうが :2018/01/22(月) 11:01:50

「あっはっは。当たり前じゃないですか。じゃんけんにパーやチョキだけで挑むバカがいますか?」

返ってきた答えは、何よりも帝国海軍にとっては屈辱的なものだった。
つまりは彼らはそんな単純な事実にすら気づけなかったのだから。

「それよりも、あるものは有効活用した方がいいですよ。いいところがいっぱいあるのに勿体ないじゃないですか。」

「私たちのところでも、物理的に無理って条件付けされたところ以外だと基本的には水上戦闘艦と機動部隊に潜水艦隊は織り交ぜて使ってたぜー」

「得意なところが決まっているのに、たとえば海防艦の役割以上のことを期待されても困ります!」

重巡洋艦古鷹と駆逐艦長波、海防艦択捉といった歴戦の軍艦の頭脳からの返答に、海軍の各派閥は感情でなく理性によって行動することにした。



――1937(昭和12)年12月1日 土佐湾沖 「演習海域」


「教練左砲戦」

艦橋からの命令が伝えられるとともに、艦橋トップに設けられている測距儀が旋回する。
その間も航海用の水上捜索レーダーは回転を続けていた。
「平成」と呼ばれる時代の主流となる白く塗装された回転式のレーダーアンテナは、ここでは航海用であるだけでなく捜索索敵用にも用いられている。
後部マストに設置された同型機とともに、この時代からすればその性能は諸外国のそれとは隔絶していた。

「目標捕捉。距離2万7千とんで14 的速鉛直方向へ22ノット。増減認めず」

「照準あわせ」

「高高度観測機より入電。高度1万における風速係数 温度気圧補正係数受信を確認。」

「揺動係数との同調完了」

「方位盤による平行計算異常なし。擾乱3%未満です」

「砲歴補正入力完了。艦長。いつでも撃てます。」

「よろしい。」

戦艦「陸奥」艦長 後藤英次大佐はごくり、と唾をのんだ。
乗組員には、通常は報告されないようなこまごまとした手順までを報告させている。
このはじめての試みにあたってはそれくらいの慎重さが要求されているということを彼のような帝国海軍最新の戦艦の艦長はよく心得ていた。

169: ひゅうが :2018/01/22(月) 11:02:29

「撃ち方はじめ!」

「撃てぇっ!」

陸奥の3年式41センチ砲改――薬室を改良し大重量徹甲弾の運用を可能とした新たな主砲が吼える。
艦内各所に設けられたジャイロを用いた動揺計を用いて自動的に角度を感知する。
と同時に照準「補助」用として神崎島から導入された神廠式56号砲射撃管制装置からのデータと、艦橋トップにある換装されたばかりの光学レンズとレーダーからの情報を受け取った「試製方位盤」が最終的な照準値を確定し、動揺計の数値を受けて自動的に許容公算誤差を確定。
この範囲内に艦の傾斜や砲の位置関係があることを確認し、発砲信号を発した。
この間、コンマ程度の差がある。

だが、試製方位盤の圧倒的な計算能力はそれを補って余りある。
なにしろ、その中枢は21世紀における「タフブック」と呼ばれる超高性能な携帯型パーソナルコンピューターなのだ。
さらに艦の前後に後付された56号砲射撃管制装置はその実、史実第2次世界大戦最末期に導入されたアメリカ海軍のMk.56射撃指揮装置でその計算およびレーダーアンテナ装置を21世紀型に換装した代物である。
これに、測距儀に接続された21世紀においては民生用となる航海レーダーと、この時代のドイツ製すら上回る精度を実現した光学レンズが加わったことから結果はおそるべきものとなった。

極端な話、自艦の砲の状態や目標との相対位置をほぼ正確に把握し照準するという射撃の基本を人間業では不可能な単位で精度向上させることができるのだ。
しかも、扱うべき情報量にはまだ余裕がある。
そのため、砲弾が通過することになる上空における大気の状態も観測機が同時把握することで日本海軍はさらなる精度の向上を実現しようと考えていた。
砲弾はその速度が最低となる弾道の最高点における大気の影響を極めて大きく受けるからである。
さらに今回発射されたのは、形状変更と重量増大が行われた新型の96式徹甲弾である。
となれば――


「だんちゃーく、今!」

この日、標的艦「摂津」が曳航する標的を対象として行われた砲撃実験における「陸奥」の砲撃命中精度は、これまでの3倍に達したと記録されている。
これを受けて日本海軍は「補助」用にこれらの新射撃指揮システムの採用を決定した。



「さて…廉価版でもよいからこれが可能な射撃指揮系を作らねばな」

予算が10倍に増やされながらもお通夜ムードの海軍技術研究本部の溜息を副産物として。

「閃いた!さらに射撃指揮装置を増やそう!これで同時目標への照準能力を――」

「総長。イージスシステムには30年早いわ!ただでさえ米軍のシステムを日本システムに統合したキメラをさらに怪物にする気なの?!」

「作ればいいじゃないか!明石!」

「ホント 技術戦争は地獄だぜ!フゥハハハーハァー!」

「黙れバリィ!」

訂正。
マッドの哄笑もあった。
どっとはらい。

171: ひゅうが :2018/01/22(月) 11:06:47
【あとがき】――お待たせ! 日本の射撃システムにMk.56砲射撃指揮装置(やまぐも型護衛艦にも装備)複数によるアシストと自動追尾機能を追加、
あと現代性能の民生用レーダーによる砲戦距離以内での距離の精密測定、赤外線感知機能もオプション装備しつつ現代の日本のカメラレンズ技術も追加して、
これらのデータ処理に民生用ノーパソを組み込んでみたんだ。
レーダーもテレビと一緒で、一度解像度のいいものをみたらほかを使えなくなるらしいよね!(ゲス顔)


188: ひゅうが :2018/01/22(月) 18:51:26
実際に機密機器には自爆機構とかが備えられていますからねw
暗号装置とかその類。

で、補足しとくと今回の追加では――

  • 当時の日本海軍の艦砲の射撃システムはある種の完成系。レーダー射撃自体の精度もレイテ沖海戦時には米軍とほぼ同等にまで高まっているから基本構成からいじりなおす必要はなし
  • そのため、大和型戦艦で行われた個々の部品を高性能化し、さらに計算速度をさらに向上させるという単純な方針がよい。
  • このため、歯車のお化けのような方位盤の機能を思い切って電子化し三重化する。計算速度や追随能力については民生品の転用によって低電力化とともにこれを維持する
  • 距離測定用のレーダーシステムについては上記のように米軍のそれ以上のものがWW2当時はないため、21世紀当時の民生用レーダーを用いた三角測定という古典的手法による
  • 米軍の強みとなった中小口径用の射撃指揮装置としてMk.56を採用。上記同様に電子化し駆動電力を低減、各所に追加配備し補助測定に用いる。これにより第3次ソロモン海戦のように夜間でも多目標の捜索追尾を可能とする
  • これらのデータを統合処理し、かつ無線リンクした観測機からの大気情報や砲歴簿から得られる補正係数を自動処理しても、現代の計算技術は十分これに対応できる。

つまり、目が複数あり、従来の方位盤の数百倍の計算速度によって自動追尾とリアルタイムでの照準補正が可能となっています。
砲塔取り換えしていないから射撃を行う側が追随できないだけで…
実際の配備にあたってはさらなる艦の発電能力向上が必要になりそうです。でないと現代技術による装備はともかく、その予備系となるWW2装備への電力供給が間に合わんw

189: 名無しさん :2018/01/22(月) 18:53:29
そういや、これ摂津が沈んでしまうんじゃ?
いかに装甲した標的艦とはいえ演習弾でも戦艦の主砲弾喰らったら沈むよ
だから、標的艦から筏を曳航して、筏を目標に砲撃訓練してたはず

190: ひゅうが :2018/01/22(月) 18:56:36
189
あれ?書いて…
なかったですね。「摂津が曳航する標的」と修正…しといてください(泣)

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最終更新:2023年12月10日 18:21