待ち合わせ



寒いな


ブリタニアのペンドラゴンやニューヨークと比較しても甲乙着けがたい巨大都市。大日本帝国帝都 東京

その耐震ブロック構造と林立するビルディング群のはざまでぽっかりと穴の空いたような広場に俺は立っていた


氷点下に近いが、季節がら都心で氷点下は珍しくはないか?
天気予報では強めの寒気が降りてきていると言っていた
この分だと明日は雪だろうか

この寒さの中で俺は何故に待ち合わせスポットであるこの広場に立っているのか?

挙げれば簡単。理由もなにも、待ち合わせスポットに立っていることが理由。そうだよ、俺は人を待っている

歩いては来ないだろう
この場所に程近い道路に車が横付けされるだろう
俺は雰囲気を大切に歩いてきたが、特別必要とは思えない私服の人たちが張り付いていた。無論少し離れた位置で
それでさえ渋られたくらいだが
表舞台に置いては引退選手の俺でもこれだ。彼女ならこれでは済まないだろう

いつも俺の家……と言えるのか? うんまあそうだな。屋敷とそう呼ぶべきかもしれない俺の家へ来訪するときも黒塗りのリムジンや公用車で乗り付けてそのまま家へ、といった体制なんだ、仕方無いと言えね

ああ、そんなことを考えているとほら

彼女がやってきた

渋滞に引っ掛かることなく来れたようだ
ま、都内な上に都心に構えられたブリタニア大使館から直行となれば渋滞とはそも無縁か

桃色の金髪? 普通にあり得ないがこの世界では普通である桃色の長い髪を風に揺らせながら彼女は駆けてくる

「ハァ、ハァ、お待たせしましたシゲタロウ」

走ってきたからだろう、息があがっている。それでも十代後半の彼女の息はすぐに整う。若さとは羨ましいものだ

「わざわざ走って来なくても俺は逃げないよ。待ち合わせ時間までまだあることだしな」

ユーフェミア、ユーフェミア・リ・ブリタニア
我が大日本の親邦たる神聖ブリタニア帝国の第3皇女たる彼女の名だ

そして、この寒い冬でさえも暖かい春へと季節を変えてしまいそうな笑顔が印象的な少女。齢六十となる俺の、年の離れすぎた婚約者の名だ
それが彼女。俺の待ち人

「だって、早く会いたかったんですもの」

「早くって、な。ユフィとはかなりの頻度で会ってるじゃないか。それこそ昼寝をしているときにも遠慮なく勝手に上がり込んで」

「あら? でもそれは当然です。だって私はシゲタロウの妻ですもの」

悪びれもせず良く言うなぁ。強情で強引なのは他ならぬ俺が一番よく知ってはいるけど参ったものだ

「うちの家政婦や守衛もユーフェミア第3皇女様だけはチェック無しの素通りをさせるものだから困りものだよ。自分の寝顔なんてあまり人には見せたくないものなんだぞ?」

「ウフフ、ですから私は妻ですもの。見ても別に問題無しだと思われますわ」

強引に行く

以前宣言した通り、婚約してからの、ああ婚約前からだったか? ともあれこの皇女様はぐいぐいと心の中まで踏み込んできて、はぁ
だがまあ悪くはないな。そういう女性と相思相愛となったのだから。これも一つのスキンシップか?

「さて、それでは皇女殿下。今宵はわたくしめがエスコートさせて頂きましょう」

宜しいですか?

右手を差し出す

「まあ、なんて素敵な殿方でしょう。私も、是非とも今宵はあなた様と共に楽しみたいと存じます」

差し出す右手へユフィのたおやかな手が静かに重ねられる

「メリークリスマス。ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下」

「メリークリスマス。シゲタロウ・シマダ伯爵様」

手を取り合った俺とユフィは、ただ二人そっと引き合い互いの背を腰を抱き寄せ る

「ん」

小さな声が白い息と共に漏れでる

こうして静かな口付けを交わしながら、俺たちはこの聖夜の逢瀬の始まりを告げた







離れた場所に日ブの黒服さんたちがいるのは、ね。ま、ご愛敬だろう

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最終更新:2018年03月24日 08:29