待ち合わせ2





まだ17時過ぎか

家の柱に立て掛けられている大きな柱時計。短針は5を過ぎたところを指し示し、長針は3を指し示していた

さてどうしようか?

うーむ

縁側へ続くガラス戸。季節が冬であるためにと付け替えられていた暖色系のカーテンを、少しだけ開いてみる

これは寒そうだなぁ

外の様子を伺えば庭の木々がさわめきしなる様が見てとれた。強い寒気が降りてきているのは知っていたが、どうやら天気予報の予想よりも早い足で、冬の将軍閣下はお越しになられているようだ

『早めに終わればとりあえず帰宅するようにね』

今朝がた出勤前の彼女には言い含めておいた待ち合わせ時間の問題だ。歩いて行ける距離ながら、もし彼女の公務時間に何かしらの変動が出ていれば生真面目な彼女のこと。早く終わろうと関係なく待ち合わせ場所へと向かうこと必至だからね
この寒いなかを女性に待たせるのは男として恥ずかしい。たとえ俺が齢六十で人生折り返しの近付いた年代で、彼女が俺より四十ほども年下の若者で仕事柄体力が有り余っている人であってもね

しかし連絡がない。予定通りまだお仕事中なのかな?

基本決まった時間に彼女の公務は終わる
公館が、大使館がそうそう閉鎖時間に変動があってはたまらない
ブリタニア大使館にて大使館付き駐在官、まあわかりやすく言うと駐在武官に着いている彼女モニカ・クルシェフスキーは真面目な女性だ
真面目で珍しいくらいに正義漢溢れるそんな女性だ

正義とはそれぞれ立場によって異なるもの

我が大日本には大日本の
彼女の祖国ブリタニアにはブリタニアの
日本勢力圏に隣接する四国。中華・ユーロピア・清・高麗にもそれぞれの
長年のあいだ日ブ勢力圏と対峙しているオセアニアにはオセアニアの
それぞれの正義がある

彼女モニカさんの変わっているところ。特徴的な考え方は。そんなあらゆる国々に住まうすべての人々に対し、正義は等しく降り注がれなければならないといった考えを持つところだろうか?

困っている人、理不尽にさらされている人を彼女は見捨てることができない

彼女の故郷ブリタニアの西海岸に広がるクルシェフスキー侯爵領の領民

ブリタニア帝国臣民

いずれは環太平洋の連合国家を目指して仲を深め会う大日本帝国の臣民

両国の勢力圏の人々

中立国や敵国の人々

無論すべてがすべて一般人が対象なんだろうけどね

まるでアニメで見た正義の味方を志す少年のようだ

弱肉強食を国是とし、その頂点に君臨するブリタニア皇帝シャルルさん直属の同国最強騎士ナイトオブラウンズの12席次とは思えない

まあそんなブリタニアにもしっかりと救済措置はあるし日本と同様に国民皆保険制度や、社会福祉制度は太平洋戦争以後少しずつ形を整え整備されてきていたが

貴族と平民の関係も至って良好で、モニカさんがたまに口にする

『貴族とは平民を領民を臣民を守る剣であり盾であらねばならないのです』

この言葉、貴族としての在り方を、真っ当な貴族は熟知し実践している
言葉だけのお題目ではなく、現実にそうしている
それ故に絶対君主・貴族制にありながら、ブリタニアは2000年もの長きにわたり国が続いてきた
君主や貴族は臣民を助け、臣民は君主や貴族を支える理想の関係だ

それに引き換え、我が日本とは形態こそ違えども同じ民主主義国であるユーロピアのなんと情けないことか

会合で話題に上るユーロピアの情勢を耳にするたびに全員が『民主主義国に面汚しだ』と吐き捨てていた

汚職蔓延る衆愚政治、誰も正すことなく喪われてしまった民主主義としての自浄作用、中央と地方間・人種間に横たわる無用な差別意識。もはや末期も末期。死に体としか言えない
なんでもユーロピアを"もともと知っていた人たち"いわく、あの国は何も変わってないそうだ

はぁ、まあそんなユーロピアをモニカさんもよく見知っている。貴族であり騎士であり軍人なのだ。仮想敵国の内情を調べあげるのも当然だろう

すべての人々に正義を

なんて甘さもある彼女だが、それでもニュースや情報に伝え聞くユーロピアの現状や、痩せ細っていくユーロピアの事実上の植民地アフリカ大陸の情勢などといった現実も見据えていた
救えない命もあり、救えない人間もいることをきちんと理解していた
それは、ね。彼女も大人だ。割り切る強さもあわせ持っている

救いたい、弱者を救済したい、実家の事情やお国柄もあるだろうが、結果として弱き人々を守るために騎士となった彼女にとりその上手く行かない現実はもどかしいものだと思う
ましてや相手は自国でもない仮想敵国。彼女にはどうすることもできまい

衆愚政治の温床と化したディストピアな欧州とアフリカ。これらの解放を目指す欧州の元王侯貴族ユーロブリタニア

いまは国ではなく日ブへの亡命政府扱いとなってしまっているこの組織に、もしもモニカさんが欧州系貴族なら参加していたこと間違いなしだろうな

吹き荒ぶ冷気纏う風にざわめく木々を見つめながら、俺は一人そんな彼女のことを考えていた


ふと、柱時計を見る。短針は5と6のはざま、長針は6をぴたりと指している


…出るか


まだ早い。待ち合わせにはまだ一時間以上の時間がある
しかしそれでも俺は家を出ることにした
なに、彼女の性格やあり方などを思い返して、真面目な彼女がもし三十分前に待ち合わせ場所へと着いていたら格好がつかないと、そう思っただけさ
彼女が遅れるぶんには問題ない。男たる俺が遅れることが問題なのだ
時間に遅れるという意味じゃなく、女性より遅く到着するということがな




門を出る、守衛に出掛けの挨拶をする、そして必要のないと小市民感覚の俺が思うダークスーツに身を包んだ屈強な男性たちが付いてくる

別に対した距離でも無し、大袈裟なことこのうえない

しかしこれも彼らの仕事なのだ。俺が勝手に拒否するわけにもいかないから困りもの
どうせ見えない場所にも黒服さんは張り込んでいるのだろう。救国の大宰相たなんだと喚ばれようとも未だ抜けきらない神崎くんな俺の感覚が、自然と自分自身に気を張らせてしまって落ち着かない

と。

針の寧ろならぬ、担ぎ上げられた神輿の上に立つ気分に浸らされていた俺の周囲から、一人二人と離れていく黒服さん
なんだろうか? まさかこのタイミングでお手洗い・・・なわけないよなぁ

待ち合わせ場所に近づくにしたがい人が増えてきたから目立たぬように遠くよりの護衛に切り替え、交代要員として私服の護衛が来るのかと思えば、そうでもない。

恋人はサーンタ
生真面目なサンタさーん

どこかで耳にしたような曲の流れるなか、人混み。恋人混み?

それら人だかりを抜けていくと

そこだけが一際輝いて見える、街灯や店頭の灯りに照らされ煌めく金色の真っ直ぐな髪の女性が見えた

腰の下まで流れる長く真っ直ぐな髪は寒気のもたらす強い風を受けて靡き、靡く髪を押さえながらその女性は一人そこに立っていた

上下共に白い衣服。下はタイトなスカートで腰部までのスリットが入っているために寒いだろう。黒いロングブーツは膝まで、膝からスカートの間は素肌をさらしたままなので余計に寒そうに見える
寒さを凌げるのはそんな彼女が身に纏っていた足首までを覆う表地が明るい緑色、裏地が紫色のマントが風を防いでいるからかもしれない

俺が軽く手を挙げると、彼女も気付いていたのだろう。黒いグローブに包まれた手を大きく振っている

「嶋田さ~ん!」

う、ちょっと声が大きい。僅かばかりの幼さやあどけなさを残しす彼女の容貌は控えめに見ても美女としか形容できない
だから注目を浴びること必至で、目立ちたくない俺としては少々困りものだ

さっさと合流してしまおう

足早に駆け寄る俺は、定番の待ち合わせ言葉とでもいうべきひとことを投げ掛けた


「やあ、待った?」

しかし疑問もあるのでそのまま続けて聞いてみた

「というかさ、俺、今朝君が出勤するときに伝えていただろう。早く終わったなら直帰してほしいってさ」

いや、それはそうだろ。まだ待ち合わせ一時間以上前なんだから。早く仕事が終わったのなら家に帰ってくるよう伝えていたのになんで?
なにもこんな寒いなかをひとりで待たなくても

「ちゃんと聞いておりましたよ? ですが嶋田さん、今日は聖なる夜です。家に帰ってから顔合わせなんて、なんだか寂しくありませんか?」

あどけなさの残る可愛らしい微笑みを浮かべながら、彼女モニカさん、ナイトオブラウンズのナイトオブトゥエルブの称号を持つ麗しい女性は、俺の前に片ひざを立てて仰ぎ見てきた

「騎士モニカ・クルシェフスキー、今宵は我が主君嶋田繁太郎様のエスコートをさせて頂きたく馳せ参じてございます。今宵、この身この名は主君を守護せし剣となり盾となる所存。いかなる輩の刃も銃弾も通さぬことをお誓い申し上げます」

ナイトオブトゥエルブじゃなくて、騎士モニカ・クルシェフスキーとしての名乗りと宣誓

「お、おう?」

た、確かにモニカさんは俺のためにひとりの騎士として剣となる誓いを立ててくれていたが、こ、これは恥ずかしい

早く立ってもらわないと、羞恥プレイか!?

「き、君の忠誠のほどはとくと理解したよ我が騎士モニカ。と、とりあえず立ってほしい」

「はっ!」

促してあげるとおとなしく立ち上がってくれたので助かった~
しかしなんだ、彼女は恥ずかしくないのかな?

「あの、さ。こういうこと訊かれるのは嫌かもしれないけれどさ、恥ずかしくないのかい?」

「恥ずかしい? いいえ、恥ずかしくなんてありませんよ。騎士としてごく普通のことですので」

とか言いつつ体の前に流した二房の髪の片方を弄りながら、もう片方の手では頬を掻いている

「恥ずかしくはないのですが・・・その」

ごにょごにょと小さな声で聴こえない。うん、本当に聴こえないぞ?

「あ、ああ良いんだ。君が気にしていないなら俺も気にしないからな」

モニカさんが気にしていないならまあ良いか。俺はちょっとした羞恥プレイに感じてしまったがまあ文化の違いだよ文化の違い

「ん? あれ、それじゃ公務が早く終わったのに家に帰らず待ち合わせ場所にいたのはもしかして」

「はい。臣下が主君よりも後に来るなんてあり得ませんから、それで絶対に嶋田さんよりも早く来てお待ちしていようと」

うん合点がいった。確かに主君よりも後に向かう臣下は無いな
だけどさ、そもそも

「俺とモニカさんは主君と臣下じゃないよ。主君と剣だ。モニカさんは俺なんかには勿体ないほど美しく輝く宝物、謂わば宝剣なんだから、たとえ主君と臣下の間柄であろうと俺と君は対等の立場なんだよ」

ナイトオブラウンズとしてシャルルさんに支えるナイトオブトゥエルブじゃない
モニカは俺のナイトだ。男と女の立場が逆転してるがそこはねぇ、まあ、モニカさん滅茶苦茶強いし
体術も剣術も騎士として最高峰の高みに到ったひとりだから。年を取ったいまの俺は当然として、現役の帝国海軍軍人時代だった俺でもかすり傷ひとつ負わせられずに敗北するだろう

「君は強い、世界最強の騎士のひとりなんだ当たり前だね。でもなぁモニカさん。今夜は俺の騎士としてであっても、ひとりの女性として傍に居てくれないか? なにかあったら俺が君を守る! そう言わせてもらいたい、こちらはまあひとりの男としてのお願いだ」

実際に某かのことがあればモニカさんに任せるべきだろう。俺じゃ彼女の足手まといだからな
ただ、今日くらいは格好をつけさせてほしい

「し、嶋田さん」

髪を弄る指が止まらない。俺は静かにその指に手を伸ばして絡めてみた

「ああ、このリボン」

「え? あ……やっと、気づいてもらえました?」

体の前に流された彼女の横髪を纏めてできた二つの髪の毛の房。それを形作った青いリボン。それは以前俺が彼女に贈ったプレゼント

「似合ってるよ。とても」

指を絡めてみた右手はそのままに、うん、や、少し強めに握りしめて
余る左手を右の房に伸ばし

「あっ・・・」

そーっと房を掴み、右の房そのものをマントの留め具の上より外に出しては指を差し入れながら撫で下ろしていく

「嶋田・・・さ、ん」

手入れの行き届いた金色の房の中を泳がせる指にはたださらりとした触感だけが伝わり、髪の毛そのものが指を止めることはない
房に巻き付けられた青いリボンだけが、指の行く手を阻むように触れてくる
それも僅かな抵抗のみで、巻き付けられたリボンの方がほどけていく

「いつものようにさらさらしてるね。金色に煌めいてとても綺麗だよ」

巻き付くリボンはほどけても、大元は肩の辺りでしっかり結び縛っているために、房がばらけることはない

「でも、冷たいね。とても冷たい・・・」

房の中で髪に絡ませながらすべり下ろしていく指は、やがてその冷たい金色の川の中より外へと出ていく。後ろ髪は腰より下まで更に伸びて金色の流れは楽しめるだろう。でも横髪の房の先端は腰の辺りまで。ここで流れより抜け出ることになる
金色の清流より抜け出た指を、手を、更に伸ばしたのはマントの外側
位置は変わらずの腰の辺りだ

「髪がこんなに冷たくなるなるほど、ここで待っていてくれたのかな」

川の水、は言い過ぎでも。ひんやりとした冷たい髪の毛はそれだけのあいだ冷気の風にさらされていたことを証していた

さて伸ばしたこの手をどこへ?

決まってるさ、このまま彼女の腰に回し、マント越しに彼女の腰をぐっと引き寄せる

「わ、たしは、嶋田さんの、騎士です、から」

彼女の白い頬が紅く色づいた。言葉がたどたどしく絡まる
右手は彼女の腰に回し、左手は彼女と手のひらを付け合わせたままに肩まで掲げ挙げながら双方の指の間に指を握り混ませて

静かに自然のままに口づけた

「ん、う」

重なりあう唇。大きく手を開かれた彼女の瞳。澄みきった深い碧がとても、とても、綺麗だ

その碧い瞳が、目が、まなじりが、静かに下がっていく

「うっ・・・ん・・・」

合わせて俺の目も閉じていき

「…………」

二人同時か? 丁度目が閉じきったころ。重なる唇もより強く

そうでありつつも優しく

俺はモニカさんを
モニカさんは俺を

ただ、求めあっていた

それからどのくらい経ったころか? 触れ合わせていた唇を離したときにすっと開いた視界は彼女の白から紅へと色を染め替えた頬と潤んだ碧い瞳をとらえていた

「唇も冷たかったよ我が騎士モニカ。なによりも大切な宝物である君がこんなに冷たいなんて、俺はその方が嫌だな」

大切な。そうだ、大切な宝物なんだ彼女は。俺にとってけして代わりなどいない、この世でただひとりの大切な
いつ頃からかはわからない。意識もしていなかったに違いない。ただ気がついたときには自然に大切な宝物となっていたんだ

「し、嶋田、さん」

「なにかな?」

「そっ、そそ、その、わ、わた、わた、私、恥ずかし、です」

…あっ

や、やってしまった。空気に飲まれて、流されるままに

モニカさんに指摘されて正気に戻ると自分がいかに恥ずかしい行為に及んでいたのかに気がついた

気づけよ神崎くんっ!
て俺だそれ!

ちらっ

周りを見る

それなりに人の目が集まっていた。しかしそれは批難する感情からのものではない歓迎ムード
よく考えるとここは待ち合わせスポットで今日は聖なる夜。ここにいるのは所謂リア充ばかりで、つまりカップルだらけ

うう、いかん、これは、これは駄目だ、羞恥プレイかってほざいていた俺が羞恥プレイだぞ

だが俺とモニカさんの空気に充てられたのか。すぐ後にはそこかしこで口づけを始めるあたりリア充の適応力は凄いなー

そんな中、俺の襟元をくっ、くっ、と引っ張る力が働いた
目の上あたりで切り揃えられた前髪の下から覗く上目遣いの碧い瞳

「そ、そろそろ、移動なさいませんか?」

モニカさんはそわそわしている。周りの雰囲気のせいだろうたぶん、おそらく

「そ、そうだね、あんまりここに居ても、ね」

こちらも年甲斐もなくそわそわしてきた。周りの雰囲気のせいだろうたぶん、おそらく

「と、その前に、いいかな?」

訪ねておきながら返事を待たずに始めたのは、ついいまさきほどに俺がほどいたモニカさんの髪の毛。その左の房のリボンの手直し
自分でやったのだからこれは自分直さなきゃならないだろ

「こ、これを、ああええっと、髪に巻き付けていくだけでよかった?」

女性の髪というのはいざ意識して触ると扱いにくいものだな
触り心地は良いんだが、ただ繊細さも求められる。乱雑に扱うなどもってのほか
俺はできる限り丁寧に彼女の髪の房を扱いながら、ゆっくりゆっくりとリボンを巻き付けてみる

「は、はい。リボンの余り紐を左右交互にして房に巻き付けて、」

螺旋状に巻いていく簡単なお仕事か。しかしなんだな俺も、よくもまあこんな平然と女性の髪の毛を触れるものだな人前で
キスまでしてて今更感ありありだが

「こ、う……かな? 右を巻き付けて、左を巻き付けて、順番に、と」

「そう、です」

「そ、それにしてもこんな寒いのにどうしてこのリボンを?」

房にリボンを巻き付けながら聞いてみた
普段の彼女は元々持っている暖色系である赤色のリボンを今のように横髪を体の前に流して纏めている。ツインテールやポニーテールにしているときもある。後はそうだな、編み込みにしてセ○バーみたいな髪型にしているときもあった
その際に使うリボンの色は青のときもあるにはある。だが青いリボンは家のモニカさんの部屋にある彼女の机の引き出しに宝物のようにして大切に仕舞ってあることが多い

つまりモニカさんが常時髪に使用しているのは暖色系の赤色のリボンだ。そして今日はというと吐く息も白くなる。水が凍りそうなほどに寒いのに青いリボン
寒いのに青だと余計寒く感じるものではなかろうか。まあ似合ってるけど

するとリボンを綺麗に巻き付け終えるのを待っていたかのように、モニカさんははにかみながら俺の唇に右手の人差し指を押し当て

「ふふ、だって嶋田サンタがやってくる日は今夜のはずですので」

「・・・!」


さぁーー

冷たい風が吹き抜ける。恥ずかしそうに微笑む俺だけの騎士モニカ・クルシェフスキーの明るい緑色のマントが翻り、その長い金色の髪が風にたなびく

金色の髪と、表地のライトグリーンに裏地が紫色のマントが描き出すコントラスト

それに合わさる騎士服の白色

「綺麗だよ、モニカさん・・・本当に綺麗だ」

反射的に引き寄せていた。その輝きを放つ宝石を。真珠もダイヤモンドも色褪せてしまう美しい宝石を

今度は彼女も俺を抱き締めてくれた


きっと目立つだろう
きっと注視されるだろう
普通の日のこの場所ならば

だがしかし。今日はイブの夜
周りも皆同じ様に抱き合う恋人たちばかり
年は離れていようと紛れてしまえばそれほどでもない、はずだよな?
そうは言ってもモニカさんは美人だからなにもしなくても目を集めてしまうが
しかもいまは騎士服にマントだから

まあとはいえ東京、特に都内でブリタニアの騎士を見かける機会は多いのそう珍しくないから大丈夫か

「騎士モニカ」

「はっ」

「少しの間、こうして暖め合わないかい? 君が、君の体が冷たいのは主君としてとても苦しく辛い」

「嶋田さ、ん」

感極まったように嬉しさのにじみ出た表情で彼女に見つめられた
なかなか、こそばゆいな

「はっ、我が君がお望みとあらば」

どうやら受け入れてくれたようだ。嬉しいね

「じゃあ俺は個人としてのモニカ・クルシェフスキーが望むなら、にしておこうか」

「もちろん私は、そのお言葉に甘えますよ?」

「じゃあ好きなだけ甘えてくれ」

「はいっ!」

俺は両手でモニカさんを抱きしめ、モニカさんが両手で俺をかき抱く

強く、強く、思うがままに強く
頬をすり合わせ、体を暖め合う

こうして始まったのは俺と、大切な宝物騎士モニカさんとの、二人だけの夜

俺たちのイブはまだこれからだ










ああ、そういえばいつの間にか消えていた黒服な人たちはこの意味を理解しているのだろう
離れた場所から警護しているとも考えられるけど、この麗しい女性が俺個人に宛がわれている警護要員を全員合わせた戦力よりも強い最強の警護員だということを

どうしてかって、それはまあ。モニカさんが俺と一緒に居るときはいつも黒服さんが居ないから

実際上、黒服さんの警護よりモニカさんひとりに守られてる方が安全が保証されてるわけだ。まあ知らないはずもない。彼女はナイトオブトゥエルブとして有名だからな

いやまあ、でもねそれは別として感謝してるぞ。いつもありがとう黒服さんたち。ただ今夜はもうゆっくりしていてくれ。たぶんこの後も俺はモニカさんと、ずっと一緒なので

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最終更新:2018年03月24日 08:37