とある新伯爵領開拓の一幕
ゴゴゴ、ガコン、ガガガガ
鳴り響く重機の音
ガチン。キュイイイイー
続いて鳴り響いたのは甲高いモーター音
ここは神聖ブリタニア帝国領カンザスにある辺境の未開地
中心部は未開地ではなく新たに封ぜられた中央官僚の子爵、現在は下位の伯爵となった人物が領主となって治めている
この新伯爵領は以前に中心地のみを領地として治めていたとある男爵家の当主が無能なばかりか馬鹿の極みであった
馬鹿の男爵家当主はあろうことかクルシェフスキー侯爵家の次代当主にして現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの騎士が一人
ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー
続きヴェルガモン上位伯爵家次代当主リーライナ・ヴェルガモン
以上二人をそうとは知らずに罵声を浴びせて公然の場にて不敬を働いたのだ
ブリタニアという国は絶対なる階級社会
当然主家を侮辱されたと受けとる西海岸諸侯と五大湖諸侯からの経済制裁を受け、男爵家は財政破綻の憂き目に合う
男爵家は先代当主が爵位の返上と謝罪行脚に回る日々を送る事となってしまった
だが土地には家臣がおり領民もいる
天領として召し上げる事も考えた時の皇帝シャルルはしかし、中央省庁に勤めるある有能な子爵に目をつけて、子爵を下位の伯爵とし、旧男爵家領と周囲の天領の計約100平方キロメートルほどの地を下賜し治めるようにと命じたのだ
ゆえに周囲の天領を含む地を領主として下賜された新たな伯爵領主はまず旧男爵家領地域の建て直しに奔走する事となり、辺境ゆえの人手不足もあって自領となった旧天領にまで手が回らない状況に置かれていた
旧天領であった土地には手付かずの場所もある
そのために切り開くべき土地は切り開かなければならない
しかし伯爵領としてはまだ発足したばかりで正確には伯爵はまだ代官の身であった
人は足りない、物は足りない、旧男爵家の一族への対処に、旧男爵家当主の残した負の遺産の処置
また旧男爵家と敵対関係となったクルシェフスキー侯爵家と西海岸諸侯への対処
ヴェルガモン伯爵家と五大湖諸侯への対処
シュタットフェルト辺境伯家とソレイシィ辺境伯家への対処等々で伯爵はいっぱいいっぱい
そこへ中央省庁時代の上司でもあり後見人でもあったとある男性と女性が第0次、非公式の開拓団として自身の家臣を率いて開拓に来てくれたのだ
それが
「ふぅ、こんな大型ユンボを動かすなんて久しぶりだから楽しいね」
この顎髭を蓄えた暢気で明るい笑顔が印象に残る美丈夫と
「わたくしも作業用とはいえ久方ぶりとなるKMFの騎乗と操縦はなかなかに楽しいものがあると思います」
この少しとうの立つ三十路ほどの妖艶な美女であった
「しかしなんだねー。彼もいきなりの任命には慌てた事だろうねぇ。父上の無茶振りは昔からの事だけど、領地経営をした経験のない法衣貴族の彼を領主とするだなんて」
「わたくしも優秀な部下である彼を勝手に引き抜かれて少々腹立たしく、先日より父上とは顔も会わせておりませぬ。無論口など聞いてもおりませんわ」
「あっはは、君まだ根に持っていたもんねえ父上に婚約を破談に持ち込まれたこと。おかげで未だ行きおく」
「そこから先をお言葉になされますと如何な兄上と言えどもわたくしの作業用KMFローズでユンボの操縦席を叩き潰しますよ?」
「あ、ああごめん、ごめんよ"ギネヴィア"悪かったよ・・・ しかしねぇ君、無骨なスタイルのKMFにローズって名前は合わないんじゃないかなぁ」
「使っている間に愛着がわいてきましたのでこれは以後ローズと呼ぶことにいたしました」
ギネヴィアと呼ばれた作業用KMFを操縦する女性は、常日頃冷たい美女だのお局様だの説教皇女だのと呼ばれるブリタニア帝国第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアであった
そして
「それよりも早くお手を動かしてくださいませんか? 残業などしてしまうと我々の家臣も我々に気を使い心労が貯まってしまいますよ"オデュッセウスお兄様"」
そんな彼女が兄と呼ぶユンボを操縦する美丈夫こそブリタニア帝国皇太子にして第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアであった
丁度長期休暇を与えられていた彼等は、自分たちにとり直臣でもある新伯爵が領地開拓やら事後処理やらに追われているだろうと思い、休暇を利用して手伝いに来ていたのだ
私人としての身分であるランペルージグループの社長一族の身分を使った
オデュッセウス・ランペルージ
ギネヴィア・ランペルージ
として
そこはとある新伯爵領
手付かずの土地の開墾に度々皇族が訪れる不可思議な地域であった
とある新伯爵
ああもう来てくださるのはありがたいし、助かるけど、殿下方にお怪我でもされたら大変なのに
あの方々にも頭が痛い
それにせっかくならギネヴィア殿下には事務関係をお願いしたいのになんで慣れない現場作業を率先してやってるんだろ
中央から辺境に来て早速の仕事がたまりにたまった書類整理とはたまらないよ
やってること中央省庁勤めのときと変わらないじゃないか・・・
これから測量もしなきゃならないし
領民の意見も聞かなければならないし
西海岸諸侯と五大湖諸侯との協議もあるし
幸いにも中央時代からモニカ・クルシェフスキー卿にリーライナ・ヴェルガモン卿とはパイプがあるからそこからなんとか捩じ込んで
移民や開拓民もたくさん来てもらいたいし
人手不足にもほどがあるし
なんだよこれ、問題抱えすぎだろうロズベルト男爵め
と考えていたかどうかは本人のみぞ知ることであった
最終更新:2018年03月24日 09:49